IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さてさて、今度は少年サイドの心境が語れますが、最大のポイントは陽太のバカさ加減。お前にシャルロッ党の資格はない!!(断言




ちょっと強引だったかな?




ヨウタの気持ち

 

 

 

 

 昼休みの後、突然姿を消してシャルを散々心配させた陽太は、授業終了のチャイムが鳴ると同時に、顎に絆創膏した状態でフラッと教室に入ってくる。その姿を見た瞬間にシャルは席を立ち上がり、心配そうな表情で陽太に近寄ってくる。

 

「どうしたの、その傷!? 大丈夫? 痛くない?」

「………大丈夫だ」

 

 チラッと、教室を出て行こうとしている千冬を睨みながら、ジト目で一言。

 

「痛くも痒くもねぇーし、むしろ軽すぎて逆に失神しかけちまったぐらいだ」

「ホウッ?」

「????」

 

 入り口で振り返りながらこちらを見てくる千冬と睨みあう陽太の二人のやり取りが理解できないシャルはしきりに首を傾げる。

 そして一通り睨み合う両者であったが、陽太はため息を一回だけついてシャルの方を向き直ると、今度は彼女を黙って見つめだす。

 

「えっ? ヨ、ヨウタ?」

「……………」

「ど、どうしたの? そ、そそんな見つめなくて………も」

「……………」

 

 真摯な瞳で自分を見つめてくる陽太に、シャルは頬を染めながら髪の毛の先を弄りながら思わず視線を逸らしてしまう。その様子にクラスの女子から、『どうやら旦那様が奥様に見惚れておいでですわ』『新妻ですもの』『これから愛の言葉が囁かれるのですわよ』などの茶化す声が上がり、シャルは顔を真っ赤になりながらそんな新しい友人達に抗議の声を上げる。

 

「もう! 私とヨウタはそんなのじゃないって言ってるでしょう!?」

 

 だがそんな声も花の乙女達には通じず、『また照れてる!』『もう白状しちゃいなさいよ!』などの声が上がり、それがよりシャルの頬を紅潮させる結果になるのだ。

 

 クラスメート達と言い合う、そんなシャルの姿を見つめる陽太は、自分がいない間に、こんなにもクラスメートと打ち解けあっているシャルの姿に内心で感銘を受ける………相変わらず、誰にも好かれる空気を持つこの幼馴染への温かな想いを、だけどそれでも無理やり押し殺して、陽太は厳しい表情を作り彼女に問いかけた。

 

「………シャル」

「!! ど、どうしたの?」

「…………ずばり言っておく。俺は君が部隊に編入するのは反対だ。今すぐにフランスに帰ってほしい」

 

 単刀直入過ぎる物言いに、ギャラリー達が一斉に沸き立つ。特に昼間から陽太に対して反感を覚えている一夏は一気に頭に血が昇って席を立ち上がり、千冬は『またコイツは………』と頭を抱えて、根本的に反省してない陽太の物言いに頭痛を感じてしまうのだった。

 だが、言われたシャルの方はというと、表情を一瞬だけ固い物にしたがすぐさま温和な笑みを浮かべると………。

 

「………ヤダ」

「!!」

 

 笑顔で陽太の意見を却下してみせた。その言葉を聴いた瞬間、陽太の繭がつり上がるが、シャルは笑顔のままで、だがしっかりと力強い言葉で陽太を説得しにかかる。

 

「一方的だよ。私の話も聞かずに帰れ、だなんてあんまりにも一方的じゃない?」

「だから………それは…」

「それは?」

 

 ここで一言『君が危ない目にあわないか心配だ』と言えれば解決………とまでは言わないが、シャルにも周囲にも誤解を受けずに済んだかもしれないが、ここで陽太は大いに彼自身が反省するべき口下手さが更に事態を混迷させてしまう。

 

「………まだ」

「えっ?」

「………邪魔だ……そう言ってるんだ」

 

 視線を外して表情を歪ませながら言葉を搾り出す陽太と、その言葉を揺れる瞳で受け止めるシャル。だが、そんな二人の間に割って入ったのは、怒りに燃えた瞳で陽太を睨み付ける一夏であった。

 

「ふざけんなっ! お前のこと心配して、フランスか来た人間を何だと思ってんだよ!?」

「なんだ………? テメェには関係ねぇーだろうが………」

 

 すでに仲間であり友人としての意識が芽生え始めている一夏が怒りに燃える瞳で陽太を睨みつける。昼間の時点でだいぶ彼への不満を溜め込んでいたために、シャルの気持ちを一考だにしていない陽太の発言に我慢の限界を超えてしまったのだった。

 

「今すぐシャルに謝れよ!」

「ああ゛っ?」

 

 だが陽太にしてみれば、いきなり出てきて自分とシャルとのことをとやかく言ってくる一夏がうっとおしいことこの上ない。当然のように邪険にあしらう陽太は一夏を真っ向から睨み返す。

 

「ふ、二人とも、やめよ! ねっ! 落ち着いて!!」

 

 そんな二人の間に立って、仲を取り持とうとしたのは他でもないシャルであった。

 自分が原因でせっかくこの一月の間で築かれたハズの仲に亀裂が入っては大変だと思い、二人の間に入ったのだが、どうやら今回は一夏の方が熱くなっていたようだ。

 

 陽太の襟首を掴んで彼は尚も食って掛かる。

 

「一夏っ!」

「シャルに謝れ!!」

「………今すぐこの手を離せよ。ブチのめすぞ?」

「シャルに謝るって言うまで離さん!」

「そうかよ………フウ…」

 

 大きく息を吐いた陽太は、瞳を大きく開き、襟首を掴んでいる状態の一夏に向かって………。

 

「フンッ!」

 

 裏拳で彼の頬を強打して無理やり引き剥がしたのだ。口の端を切って血を流しながら後ずさる一夏と、呆然とするシャルの姿を見て、教室内の一時騒然となってしまった。

 

「一夏っ!」

「火鳥ッ!!」

 

 流石に事態を静観するレベルではなくなったと判断した箒とラウラが割って入ろうとするが、それよりも早く、唇を切った一夏が拭うと同時に両手を交差させながら陽太目掛けてタックルを仕掛ける。

 

「!!」

「ヨウタッ!? 一夏ッ!?」

 

 教室内であることと隣にシャルがいたことで初動が遅れた陽太は、そのタックルを受けて教室の床を二人して派手に転がり、教室内で女子生徒達から悲鳴が上がる。他所の教室からも何事かと生徒達が続々と集まる中、自分の上に覆いかぶさる一夏に、陽太もブチ切れ、拳を握り締め、男子二人が殴り合いを展開しようとするが、そこを怒号が二人と周囲のギャラリーの時間を停止させてしまうのだった。

 

「やめんか、バカ共がッ!!!!」

 

 無論、声を上げた主は、学園の守護神こと水の入ったバケツを手に持った織斑千冬であった。

 ツカツカと歩み寄り、殴りあうとしているバカ二人に近寄ると、二人の襟首を掴んで無理やり引き剥がし、それぞれの脳天にゲンコツ(鉄拳)を炸裂させる千冬。

 

「グオッ!?」

「痛テェッ!?」

 

 あまりの威力に悶絶する二人を見下ろしながら、彼女は二人目掛けてバケツの水をブッカける。

 冷たい水の温度に悲鳴を上げそうになるが、千冬はそんな二人を冷たく見下ろしながら、一言声をかける。

 

「………頭は冷えたか?」

「!!」

「!!」

「………あんっ?」

 

 陽太と一夏が同時に千冬を無言で睨みつけるが、そこは年季の違いが、それとも潜って来た修羅場の差か、彼女の迸る怒気と殺気と闘気が篭った瞳で睨み返され、若干ビビリながら視線を外してしまう。

 

「ヨウタッ!」

 

 たった今、酷い言葉を言ってしまったにも関わらず、心配そうな表情で水滴で濡れた髪を自分のハンカチで拭ってくるシャルの姿に、心の中で鋭い痛みを覚えながら、陽太は彼女に背を向ける。

 

「ヨウタ………」

 

 彼女が自分の名を呼ぶたびに、固めた筈の意思が揺るぎそうになる。だからだろうか、シャルを真っ直ぐに見ることができないでいるのは………。

 

「………シャル」

 

 彼が自分に背を向けるたびに、固めた筈の意思が揺るぎそうになる。自分は本当に彼には邪魔な存在なのだろうか? 本当に必要とされていないのだろうか? 嫌な気持ちが心の中を覆い尽くそうとなるのを必死に振り払う。

 

「………どうしても帰らないのか?」

「帰らない! 私はヨウタの力になれる!」

 

 どこまでも健気にそう主張するシャルの言葉に、教室内では彼女への親愛の感情と同情心が芽生え始める。

 

「………そうか」

 

 短く呼吸を整えた陽太は、意を決して千冬の方に振り向くと、彼女に確認を取るように問いかけた。

 

「対オーガコア部隊のメンバー構成は俺に一任する………そうだったな?」

「ああ。推薦はするが、最終決定権はお前に預けている」

「なら………俺がシャルをテストする」

 

 その言葉を聴いた瞬間、再び教室内が騒然となり始める。

 

「ちょっと待てよ陽太ッ! お前がテストって………」

 

 一夏が再び陽太に食って掛かろうとするが、それを千冬が彼の肩を持つことで静止する。

 

「テスト………つまりはISを用いた一対一(ワンオアワン)の模擬戦ということか?」

「これ以上の妥協はしない………口で言ってもわからないのなら………実力でわからせるだけだ」

 

 ここまで頑固な態度を取ってでも、シャルをフランスに追い返そうとする陽太に対して、ついにクラスの女子からも反感の声が上がり始める。

 

「ちょっと、火鳥君って酷すぎない?」

「そうだよ。デュノアさんがこんなに心配してるのに………」

「結局、人の気持ちわからない人だったの? 幻滅したかも………」

 

 そんな声が教室のあちら此方から聞こえ始め、陽太には随分と懐かしく感じる排他的な視線が向けられ、シャルはその外からまるで自分が陽太を追い込んでしまったかのような気持ちになり、なんとかそれは誤解だと周囲に叫ぼうとする。

 

「………どうする?」

 

 だが、陽太はそんなシャルの気遣いすらも無視して彼女に決断を迫る。まるで今はそれどころではないと言わんばかりに………。

 

「………わかったやるよ」

 

 静かに頷くシャル。陽太は彼女の意思を確認した後、千冬に了解を得ようとする。

 

「当人同士の意思は確認された。文句無いな?」

「ああ………だが今はアリーナはどこも補修中だ。それにお前達を特別扱いして、授業や訓練に勤しむ者を蔑ろにする訳にはいかん」

「………一番早くのは何処でいつだ?」

「第三アリーナが、明後日の放課後に空きがあった筈だが…」

「じゃあ、決まりだな」

 

 明後日の放課後、第三アリーナで陽太と戦う………改めて聞かされると、シャルには気分が重たい事この上ない内容である。彼の力に成りに来たというのに、その為にこの一ヶ月の間猛訓練を積んだというのに、最初にそれを披露することになる相手が陽太になろうとは………。

 シャルが了解したのを確認した陽太は、濡れた制服を拭うこともせず、自分に敵意に近い嫌悪の視線を向けてくる女生徒の中を掻い潜って教室から出て行く。

 

 後に残されたシャルに、女生徒や一夏が『あんな奴の事を気にするな』『がんばってぶっ飛ばせ』などの声が上がるが、皆はまだこの時気がついていなかった。

 

 陽太が何を守りたくて、意固地になっているのかという事に………。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「うむ?」

 

 職員室で雑務を済ませた保健医のカールが、自分の城である保健室に入ろうとした時、鍵を閉めていたはずの保健室に、先客がいることに気がつく………と言っても、廊下から続く水滴はともかく、扉の鍵をぶち壊して保健室に入ってくるような人間は、この学園には一人しかいないが。

 他の教員なら血相を変えて怒鳴り込む所なのだが、そこは並みの器量ではないカール、特に慌てる様子もなく扉を開いて中に入ると、一目散にコーヒーメーカーのスイッチを入れ、水滴が続くベッドにタオルを一枚持って近寄っていく。

 仕切りになっているカーテンを開くと、そこには案の定、ずぶ濡れになりながらベッドに寝転がる陽太の姿があった。

 

「とりあえずこれで頭を拭きなさい。もう少しすればコーヒーが入る」

「……………」

「後で濡れたシーツは交換してくれよ」

 

 タオルを背を向けて寝転がる陽太の頭にかけると、カールはそれ以上声をかけず、自分の診察台に座ると、机の上においてある書類にペンを走らせる。

 静かな保健室に、コーヒーメーカーとペンの音だけが響く中、おもむろに寝転がっていた陽太が重い、重い口を開く。

 

「………シャルを追い返そうとした」

「ほう………」

 

予想通りの行動だと、内心思いながらも、カールはそれを口にも表情にも出さずに陽太の話を穏やかな口調で聞き続ける。

 

「…………アイツの話を聞けって言われたけど、やっぱり無理だ」

「何故だい?」

「………決めたからだ」

 

じっと、己が手を眺めながら、陽太は珍しく他人に胸の内を曝けだすのだった。

 

「フランスで、アイツが握ってくれた手を振りほどいた時、決めたんだ………俺は戦う。もう二度とシャルの手は握らない………そう決めたんだ」

「…………」

「…………アイツの手は………あの暖かい手は、もっと違うモノを握る手だ。銃を握るんでも、誰かを傷付けるんでもない。そんな事の為の手じゃないんだ………」

 

 ―――オーガコアと戦う己の手と、その手を握ったシャルの手。炎を操るハズなのに、どこか冷めていく温度と、いつだって暖かだった温度―――

 

「………だから戦わせたくないのかい? でも、それは一方的だね。彼女の意思を無視して、君の意見を押し付けている。千冬にも言われたろ?」

 

 振り向かず、けれども芯の篭った声でカールは陽太の考えを否定する。その言葉を聴いた瞬間、上半身を起こしてカールの方を睨み付けながら、心の奥底で溜まった鬱憤を言葉に乗せてカールにぶつけた。

 

「…………じゃあ、どうすりゃいいんだ!? アイツの言うこと聞いて、アイツが戦って、誰かを傷付けて…………アイツが死ぬほど、それを後悔するのを見てりゃいいのかよ!」

 

 今にもカールに飛び掛りそうな形相になる陽太であったが、当のカールは立ち上がるとコーヒーメーカーの元に行くと、振り返ることなく陽太に出来立てのコーヒーを飲むか聞いていくる。

 

「どうだい、一杯?」

「ふざけんなっ!?」

「別にふざけてやないさ………いや、君を少し見くびっていたと反省しているぐらいだ」

「???」

「どうやら、君は段階をすっ飛ばして理解してしまっているんだね」

 

 何を言いたいのか理解できないために首を傾げる陽太にカールは、理解と好感と若干の哀れみを覚える。

 ずっと真っ直ぐに少女を想える気持ち、それゆえの不器用極まる言葉、そしてその根源にある『戦いの持つ負の側面』を知っている発言………15歳の少年が持つ年相応さと不相応さが見え隠れし、彼の心になんとも言いがたい想いを抱かせるのだった。

 

『この水滴ッ!?』

 

 廊下で聞き慣れない女生徒の声が聞こえる。と同時に窓が開いた音がしたのでそちらの方を振り返ると、空になったベッドと、開けっ放しの窓という情景に、どうやら約束を守らずにシーツを濡らしっ放しで出て行ったのだと呆れながらコーヒーのカップを棚から出し始める。

 

「すみません! 失礼します!!」

「ああ、いいよ」

 

 キチンと礼儀正しくお辞儀しながら入ってきた金髪をピンクのリボンで結んだ少女、シャルロット・デュノアを笑顔で出迎えるカールは、キョロキョロと保健室内を見回す少女が何者で目的が何なのかを察して声をかける。

 

「陽太君なら、君の声を聞いた途端、窓から飛んで逃げてしまったよ。大した逃げ足の速さだ」

「えっ!?」

「相も変わらずの動物的感性で気が付いたのかな? 女性の扱いもこれくらい早く気が付いてくれれば頼もしいんだがね」

 

 すぐさま後を追いかけようとするシャルであったが、それをカールが笑顔で静止する。

 

「待ちたまえ、シャルロット・デュノア君?」

「あ、すみません! わ、私!?」

「こういう時は一杯飲んで落ち着くものさ。ほかの子もどうだい?」

 

 無論断ろうとするシャルであったが、カールはそんな彼女の興味を抱く一言を口にして引きとめたのだった。

 

「君の話も聞いておきたいんだ。でないと、彼、このままだと一方的に悪者になってしまうからね」

 

 

 

「………なるほど、そういうことだったのか…」

 

 全員が各自ベッドやイスに座りながら、カールに手渡されたコーヒーを手に、そもそもの発端となっている自分と陽太の関係を含めたフランスでの一件をシャルは皆に語ったのだった。

 

「私は………ヨウタに助けてもらった。だから、今度は私の番だと思って、この学園に来ました」

「………………」

 

 健気にヨウタの身を案じ、彼のために努力してここまで来たシャルの想いと覚悟に深い感銘を受けるカール。本当にこの少女は真っ直ぐにあの少年を想っているのだと、年下あいてに深い感銘すら抱いてしまう。

 

 だが、そんな中で、シャルだけは浮かない顔をしながら、手元にあるコーヒカップの水面に映る自分自身を見つめながら、落ち込んだ声で話を続ける。

 

「でも………あの時も、最後は結局騙し打ちみたいに別れて………今も、邪魔だから帰れって言われて………何も教えてくれなくて……私、本当に来ない方が良かったのかなって……」

 

 未だに自分にはっきりと何も伝えてくれないのは、本当に自分が邪魔にしかなっていないからではないのか?

 陽太が自分に何も話してくれないことを、そう考えそうになるシャルに、カールは違った意見を彼女に口にするのだった。

 

「その必要がなかったんだろ?」

 

 シャルが驚いた表情でカールの方を見る。

 

「シャルロット君になら、言わなくても、いつか解ってくれると思ったんだよ、彼」

「………言葉にしてくれなきゃ、わからない事もあります」

 

 浮かない顔でそう切り替えされたカールは、困ったような笑顔を浮かべ、愛用している眼鏡を外して、ハンカチで眼鏡を拭きながら苦笑して話を続ける。

 

「そう言われると………しょーがないよな、男って生き物は…」

 

 苦笑しながら眼鏡をかけ直すカールの仕草の一つ一つに、何か深い大人の仕草が漂い、陽太や一夏からは感じたことない包まれるような安心感をシャルは感じ取った。

 

「男は、言葉よりも行動で語りたがる生き物だから………それが苦しい事や辛い事なら、なるべくなら自分以外の人間に背負わせたくない。心配もかけたくない………だから、何も言わない」

「…………」

「それでも、彼が弱音を吐いてしまったら、どうか出来るだけ受け止めてやってほしい」

 

 カールの視線と笑顔がシャルに向けられ、花の乙女の頬が若干赤らむ。

 

「カール………先生」

 

 そして『最後のはボクの我侭だけどね』と付け加えるカールの姿に、頼もしい年の離れた兄ができたような嬉しさがこみ上げて、笑顔を取り戻すシャルロットだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 それから数十分後、コーヒーを飲み終えたシャルロット達は、カールに深々とお礼を言い残し、保健室を後にする。

 

『彼自身が君にどう接すればいいのか踏ん切りがついていないんだ。できるなら彼の心の整理が付くまで少し待ってやってはどうかね?』

 

 カールのそのアドバイスを聞いた瞬間、自分が陽太に解答ばかりを求めていたことを反省し、シャルはとりあえずアドバイスを聞き入れることにし、一旦、陽太の捜索を諦めてラウラ達と訓練を行う為に、本日使える唯一の第三アリーナに赴く。

 

「よく来たわね! 早速、あの馬鹿ブッ倒すための作戦練るわよ!」

 

 が、そこで待っていたISを装着状態で仁王立ちする鈴を見たシャルは、目が点になりながら、隣で溜め息をつきながら呆れ顔になっていたラウラに問いかけた。

 

「………何、アレ?」

「………さあな?」

 

 出走前のサラブレットの如き荒い鼻息で出迎えてきた鈴の気合が理解できないシャルであったが、そんなときに遅れてやってきた一夏とセシリアの一言で彼女等の真意が理解できた。

 

「何って………陽太の馬鹿野郎をぶっ飛ばす作戦だよ!」

「一夏?」

「今回ばかりは、このセシリア・オルコット、陽太さんにお灸を据えることには賛成ですわ!」

「セシリア!?」

 

 未だに赤くなっている頬のまま現れた一夏を見たシャルは、未だにヨウタに対して敵意むき出しになっている一夏と鈴とセシリアを宥め様と、まずは落ち着けと言い聞かせ始めるのだった。

 

「あのね一夏、鈴、セシリア………ちょっと待って。私はね………」

「アイツは私と同じ高機動型よ。しかも悔しいけど、反応速度ははっきり言って桁違いに速いわ!」

「中距離(ミドルレンジ)からの射撃精度はセシリアよりも高い上に、あの早撃ちとプラズマ火炎攻撃はやっかいだな」

「中距離(ミドルレンジ)だろうとも、わたくしの方が上ですわ! ただ確かにスピード関連に関しては、ずば抜けたセンスをお持ちなのは確かですわね」

「だけど付け入る隙は必ずあるさ! あ、シャルのISはどんなヤツなんだ?」

 

更にラウラまで加わって陽太攻略の話を進めだす始末に、シャルは顔色を変えながら皆に聞き返す。

 

「ちょっと待ってよ皆! 本気でヨウタを倒そうなんて考えてるの!?」

「当たり前だろう!」

「あ、当たり前!?」

 

 間髪入れずにそう言ってくる一夏の方を睨み返しそうになるシャルであったが、すぐさま勝負自体を陽太が持ちかけたこと、そしてその勝負に負ければ自分はこの学園にいられなくなること、そして皆がそれを阻止しようとしていることを思い出し、思わず頭を抱えてうずくまってしまう。

 

「(どうしよう! これって凄くピンチな状況なの!? カール先生に相談した方がいいのかな!?)」

 

 いますぐ保健室に駆け込みたい気分になるシャルであったが、その時、真剣な表情をした一夏がシャルの前に立つと、彼女の真意を問いかけてきた。

 

「シャル………お前がいくら陽太と戦いたくないっていっても、アイツはお前に戦う以外の選択肢を与えなかった。それ以前に、シャルがどんなに問いかけても、そっぽを向いたのはアイツの方なんだぜ?」

「それは………そうだけど………でも!」

「それにだ。アイツは隊長のクセに、周りのこと頼ろうとしないんだ! 自分から率先してチームワークを乱しやがる。自分が強いからって、それだけで何でも思い通りになるって考えてるんだ!」

 

 頭にきているためか、若干思い込んでいる発言が目立つ一夏。シャルへの対応を起爆剤に、普段から陽太が行っている頭ごなしの行動に対する鬱憤が爆発してしまうのだった。

 

「そうよ! 隊長が率先してチームワークを取らないなんて信じられないわよ!」

「この間のことを既に忘れているかのような発言は問題だぞ鈴………だが、火鳥は高すぎる能力を鼻にかけている節があるのも事実。教官がなぜチームを編成するよう指示したのかも理解していないのだろう」

「どれほどの強敵が現れようとも、一致団結して敵に立ち向かうことができると、陽太さんにもご理解していただきましょう!」

「ああ、その意気だぜセシリア!!」

 

 チームが一致団結して最初に行う行為が、チームの隊長(リーダー)をボコボコにするための作戦会議でいいのだろうか? 心の中でそうつぶやくシャルであったが、だが、陽太に自分の気持ちの強さと、一緒に戦えるんだという事を知って貰いたいという願いがあるのも事実であり、シャルを悩ませる。

 

「わ、私………」

 

 相反するこの状況の中、もしこの勝負を蹴ったら、この学園にいられないだけではない。この学園に来るまでの間、尽力してくれたデュノア社の皆や、義母になんと言えばいいのだろうか?

 

「勝負はする………するけど、皆、聞いて!」

「シャル?」

「私は、ヨウタに理解してほしい。私はもうヨウタに守ってもらってるだけじゃないんだって………」

「……………」

 

 深い溜息を一度だけついたシャルは、首元のチョーカーに触れながら、はっきりと宣言する。

 

「ヨウタと共に戦う仲間として、私も戦う。この『ラファール・ヴィエルジェ』と共に!」

 

 ―――オレンジに輝く閃光と共に現れる、シャルが纏うべきIS(鎧)―――

 

 ―――四本のアンテナと白いヘルメットに、深い蒼色のバイザー―――

 

 ―――全体的に白とオレンジを強調としたカラーリングと、胸に収められている赤い宝石―――

 

 ―――右手に持った複合型65口径アサルトカノン『ハウリング』と、左腕にEシールド内蔵型マルチシールド―――

 

 ―――そして何よりも目を引く、腰部に接続された大型のフライトユニットのようなリア・アーマー―――

 

 かの『欧州連合の統合防衛計画(イグニションプラン)』において、後れを取っていたデュノア社を一気にセレクション最有力馬に押し上げ、技術者たちが絶賛した『第三世代最高傑作機』との噂もあり、織斑千冬も認める高性能ISを纏ったシャルは、その瞳に揺るがない決意を込めて、仲間達に宣言する。

 

「私は………ヨウタに勝つ」

 

 陽太を助け、彼の力になれるように………どこまでもそう真っ直ぐに思うシャルも、その彼女の覚悟を受け止めた仲間達も、その戦いを見守ろうとしている千冬も………そして陽太すらも、この時はまだ気がついていなかった。

 

 二日後の戦いが、彼らの運命を大きく動かすことになろうとは………。

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで、色々とこじれにこじれて、始まってしまう主人公とヒロインの一騎打ち。

そして次回こそついに語られる、シャルさんのISの性能!
ブレイズブレードが第三世代「最強」機なのであれば、ラファール・ヴィエルジェは第三世代『最良』機ともいえる性能を見せ付けます。


そして………

陽太は次回、最大の『失敗』を犯します。そしてそれこそが、この対オーガコア部隊の仲間たちにも激震を走らせる結果になりますので、次回はこうご期待ください!

それでは、ノシ

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