IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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予想以上に長くなって、二部構成になっちゃった。

まずは前半戦、セシリア&ラウラの英独コンビ対竜騎兵四人衆だ!



激突

 

 

 

 

 

 事の起こりは二人がたまたま授業に使う資料を持ってくるように千冬に言われたことから始まった。

 手に資料の束を持って歩く金髪のセシリアと銀髪のラウラという、非常に目立つカラーリングの二人であったが、二人の間に漂う空気の重さとギスギス加減は、二人の髪の色以上に目立っていた。

 

「………少しよろしくて、ドイツの方?」

「黙っていろ英国。私は貴様と馴れ合うつもりはない」

 

 ツカツカと先を歩くラウラの背中を射殺す勢いで凝視するセシリアと、そんなセシリアの視線に気づきながらも、だからなんだと言わんばかりに鼻で笑い飛ばしながら前を歩くラウラ。いくら代表候補生同士というライバル関係にあったとしても、二人の生来の気性故にか、とにかく互いに歩み寄ろうとか妥協しようとか、そういう空気が全くないのだ。

 

「まあ! 貴女! この未来の英国代表のセシリア・」

「お前が何であろうと私の興味の対象になることはない。黙って教官に言われた指示に従え、愚図」

「グッ!………ググググググググググ愚図ですってぇぇぇぇぇっ!」

 

 ほほをピクピクと引き攣らせ、見事にカールした髪を逆撫でさせブチギレ寸前となったセシリアが、ISの武装を呼び出して背後から零距離発射してやろうか、本気で考え込んだときであった。

 

 校舎と校舎の間にある渡り廊下の近くにある茂み。そこからコソコソと何かを話す四人の声が聞こえてきたのは………。

 

「もう~~~………フリちん、無計画過ぎるよ~~」

「む、無計画なわけじゃないわ! 私には完璧な計画が………」

「フリューゲルもスピアーも基本はバカなんですから、こういうことは事前に私に話してもらわないと………ハァ、つくづく私って不幸……」

「なにか言ったかリューリュク?」

「そこの犬に劣る脳みそと同列に扱わないでくれない? この無個性メガネ」

「イダイイダイイダイイダイッ! 耳! 耳が千切れる~~!!」

「誰が犬に劣るだ! 私が犬以下なら、貴様は鳥以下だろうが!」

「私が鳥以下? なに? アメーバ未満の単細胞生物が面白いこと言ってくれるじゃない………」

「あ! フリちん!! これ私が頼んだ〇ーソンのからあげ君・柚子胡椒味じゃないよ! これ普通のレッドだよ!!」

「イダイイダイイダイイダイッ!! 耳がほんとに千切れる~~!!!」

「今日という今日は『胃袋の緒が切れた』ぞ! このエグレ胸!!」

「それを言うなら堪忍袋の緒よ………その話をするなって、何度言ったら理解できるのかしら? 100%筋肉胸?」

「フル〇んが! 間違えたぁっ!! びぇぇ~んッ!! フル〇んが! フル〇んが! フル〇んが!!!」

「だからその言い方やめろって言ってのよぉっ! この食欲バカ!! 女としての慎み持て!」

「フッ………女としての慎み? お前のどこにそんな物が存在してるというのだ、フリューゲル?」

「アンタにだけは言われたくないわ、スピアー?」

「私、バカじゃないもん………おっぱい大きくて柔らくて抱き心地良いって、親方様褒めてくれたもん………」

「耳が! 耳がぁぁぁーーー!!!」

 

『それは私に対する嫌味かぁー! フォルゴーレェェェッ!!』

 

 茂みから竜騎兵のフリューゲルとスピアーが、リューリュクの両耳をひっぱりながら上半身を見せる。

 

『あっ』

 

 それを偶然か、必然か、目が点になったセシリアとラウラと視線が絡み合う。暫し、呆然となる両陣営であったが、フォルゴーレがその間に首を出して二人にご丁寧に挨拶しだす。

 

「あ! この間の子達!! こんにちは!!」

 

 その言葉に我を取り戻した二人は、手元の資料を放り出すと互いに自身の待機状態のISを手に持つと、厳しい目線で四人を睨み付けながら、何をしにきたのか問い質し始める。

 

「貴女達は………この間の賊!」

「確か、亡国機業(ファントム・タスク)!!」

 

 いつでも戦闘を始められるよう相手との距離を取りつつ二人はISを展開する。そんな中でラウラはフリューゲル達に気が付かれないようにISの通信回線を開き、千冬と連携して目の前の賊を捕縛しようとする。これは先日の戦闘の後、不測の事態で敵に遭遇したときに必ず守れと千冬から言明されていた事柄であった。

 

「(教官と挟み撃ちにして、この間の屈辱、倍にして返してやるぞ!)」

 

 勝利を確信してそれが顔に出るラウラ。だがその攻撃的な振る舞いで気が付いたのか、それともそれまでの戦闘経験からのものなのか、瞬時にフリューゲルは自身のISを展開しながら上空に跳躍し、その能力を発揮したのだった。

 

「!?」

「残念ね、黒ウサギ………フリューゲルが司るのは『翼』と『旋律』なのよ!」

 

 真紅のバイザーを着け、蝙蝠を思わせる黒い翼を拡げながらその右手に自身の身長よりも長い柄の鎌を持つフリューゲル。同じ黒い装甲ながらも、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンよりもかなり軽装で、身軽さと機動力の高さを印象づけ、左腕には防御用の大型ガントレットを装備し、鋭角的(シャープ)さが目立つ。

 亡国機業(ファントム・タスク)が独自開発したIS、竜騎兵(ドラグナー)シリーズ四号機、『ドラグナー・フリューゲル』は上空で翼を羽ばたかせると、その長大な獲物を持ち替え口元に近づけた。柄の部分が開閉すると同時にいくつかのボタンが現れ、大鎌(サイズ)そのものがまるで一つの吹奏楽器(フルート)のように、特殊な音波を奏で始める。同時に、蝙蝠を思わせる黒い翼からも特殊な電磁波が放出され、それが瞬く間に学園中に広がっていくのだった。

 

 最初は相手の行動が解らず困惑するラウラであったが、すぐさまそれが何を意味していたのか理解した。ひび割れた雑音(ノイズ)が聴覚を揺さぶった時、フリューゲルが通信回線を恒久的か一時的かわからないが、遮断してしまったことに気がついたのだ。

 

「クッ!」

「油断大敵………ハエに何匹集られても怖くないけど、うっとおしいことには違いないから予防線張らせてもらったわよ」

「………ならば仕方ない!」

 

 両腕からプラズマブレードの刃を形成し、突撃するために前屈みになるラウラ。元々いくら千冬の命令とはいえ、この学園の教員や生徒達と連携する気などは端からない。むしろこうやって単独で撃破するための状況を敵の方から作ってくれたことに感謝したいぐらいなのだ。

 

「どこに目がいっておられるのかしら? 貴方達のお相手はそこの方一人ではなくてよ!」

 

 そこへセシリアのブルーティアーズが、四基のビットを射出してフリューゲルの周囲を取り囲み、彼女を蜂の巣にするために浮遊していた。

 

「貴方にも味合わせてあげますわ! この輪舞曲(ロンド)を!」

「イヤよ、下手クソ」

 

 周囲を取り囲まれるという状況にあっても、フリューゲルの余裕は何一つ崩れない。彼女はいたって冷静に次なる曲を奏で始めた。先程とは違う不快な低周波がフリューゲルを中心に発生する。

 今度はその効果は目に見えて現れる。彼女を取り囲んでいた四基のビットの動きが急激に鈍くなり、いつでもレーザーを放てるように銃口を向けていたにも関わらず、上下左右に激しく揺れ始めた。

 

「ブルーティアーズ!?」

 

 思わぬ敵の能力を前に、必死にビットの挙動を元に戻そうとするセシリアであったが、肝心のビット達の動きは止まらない。敵に制御されている様子は無いが、明らかにこちらの制御も受け付けてはいないのだ。

 そこへ自らの大鎌を翻したフリューゲルは、ビームの刃を形成すると周囲を取り囲んでいるビット達を切り裂くように横に一回転薙ぎ払う。

 

 セシリアの目の前で、あっさりと切り裂かれて地面に落ちていく自身の最大の武器。だがセシリアの方を向き直したフリューゲルの嘲笑が、皮肉にもセシリアの意識を現実へと引き戻してしまう。

 

「脆い。話にもならないわ!」

「!?」

 

 ビットを切り裂いた勢いそのままでセシリアに向かって飛翔するフリューゲル。とっさにセシリアは上昇してやり過ごそうとするが、相手の速度はセシリアの想像を遥かに凌駕していた。上昇したセシリアの後を追うようにフリューゲルも上昇したかと思えば、一瞬で彼女の眼前に躍り出て、ビームサイズを振り抜く構えを見せたフリューゲル。

 

「それに遅い! そんなものでよく専用機だなんてほざけるわね!?」

「クッ!………インターセプト!」

 

 左手に唯一の近接兵装である実剣のナイフを構築し、フリューゲルが放った大鎌の斬撃を受け止めたセシリアであったが、激しいスパークが起こる中、敵の激しい追撃を受けてしまう。

 

「ホラホラホラホラホラホラッ!!」

「くぅぅぅっ!」

 

 明らかに大鎌の扱いに慣れたフリューゲルの一撃一撃は異常に重く、インターセプトから嫌な音が響いていくる。上下左右斜めからの連撃を後退しながらしのぐセシリアであったが、フェイント気味に離れた柄での突きを腹部に受けて、仰け反りながら吹き飛んでしまう。

 

「グフッ!」

「そろそろイッちゃってくれない!?」

 

 吹き飛ぶセシリアに追いつく尋常ならざるフリューゲルのスピードに戦慄する暇もなく、彼女のビームサイズがセシリアに迫る。

 先程の一撃でシールドエネルギーは50ほどの減少ですんだが、あの一撃をまともに受ければ絶対防御が発動し、自分は成す術無く上空から地面に叩き落されてしまう。

 腹部に受けた一撃で呼吸ができないでいた遠退く意識の中、セシリアがフリューゲルの一撃を受け止めようとした時………突如、敵の動きが『静止』する。

 

「!?」

 

 空中で体勢を立て直したセシリアは、ようやく敵が動きを止めた理由を理解する。

 セシリアに止めを刺すために大鎌を振るおうとしたフリューゲルであったが、横合いから瞬時加速(イグニション・ブースト)で突撃してきたラウラに動きを封じられたのだ。

 右手を前に差し出した状態、ただそれだけでフリューゲルの表情が屈辱に歪むほどに容易く動きを封じ込めたラウラのISの能力。

 

「これは!………まさか、AIC(慣性停止能力)!?」

「ほぅ?………盗人組織なだけあって、この手の情報には詳しいのか?」

 

 AIC(慣性停止能力)。ISの、特に空中における挙動の全てを司るPICを発展させ、任意の空間における物体の運動慣性を停止させる能力であり、これを実戦レベルで実装した世界初の機体が、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンなのだ。

 この能力があるゆえに、こと近接状態での格闘戦ならば自身に敵う者など、かつての織斑千冬以外は存在しない。そう自負するラウラは、ゆっくりと左腕のプラズマソードの切っ先をフリューゲルへと向ける。

 

「貴様等にはゆっくりと組織の情報を吐いてもらうぞ………だが、まずは先日の一撃の借り、この場で返させてもらう!」

「チッ! 雑魚の分際で………」

 

 強がるフリューゲルであったが、どれほど力を入れようとも身動き一つ取ることができない。勝利を確信した笑みを浮かべながら、プラズマソードでの突きを放とうとするラウラ。

 

 だがそこへ、巨大な銀色のランスが割って入り、思わずAICを解除して後退してしまうラウラ。

 

「スピアー!?」

「フンッ! 調子にのって遊んでいるから、そんな無様な姿を晒すことになるのだ!」

 

 割って入ってきた黒い影………その名が示す通り、巨大な固定型ランスを右手に装着したスピアーであった。フリューゲルのISと同型でありながら、細部は別物かと思うほどに違う形状をしている。先ずは全身の8割を分厚い装甲で覆い、左右非対称の肩のパーツをしており、左肩には二連装のロケット弾を装備しており、背中には直線での爆発的な加速を実現するための高出力スラスターと姿勢制御用のスタビライザーが設置されており、唯一バイザーとヘッドパーツの形状がフリューゲルと同型機であることを示すように同じ物を被っていた。

 そしてスピアーを象徴するように右手に半ば肯定されている、自身の半分ほどの大きさと全長ほどの長さをした巨大なヘヴィーランス。ドリルのような形状とリボルバーのようなカートリッジを装着した武装。

 竜騎兵(ドラグナー)シリーズ二号機、『ドラグナー・スピアー』は、その矛先をラウラに向けると再び突撃を仕掛ける。

 背中から爆発したようなスラスターの火花を見せながらの、全力突撃(フル・チャージ)。

 その攻撃をラウラは余裕を持って受け止める筈だった。何故なら如何に巨大な質量を持った突撃であろうと、慣性を殺されては一ミリも動くことはできない。それが物理というものなのだから………。

 

「貴様もこのシュヴァルツェア・レーゲンの前では有象無象の一つに過ぎん!」

「馬鹿め!」

 

 互いに攻撃的な笑みを浮かばせながらの交差。ラウラのAICはスピアーの動きを捕え、フリューゲルのように木偶の様に空中に張り付かせる………ことができずにいた。

 

「何ぃっ!」

「フンッ!」

「(まさか!………フィールド中和機能!?)」

 

 セシリアの目の前で交差するスピアーの矛とラウラの右手。AICは確かにスピアーの動きを一瞬だけ捕えたかのように見えたが、ヘヴィーランスに内蔵されているリボルバー状の薬莢(カートリッジ)が一つ炸裂すると、全身そのものから不可思議な振動が起こり、ランスの先端がドリルよろしく高速で回転し始めたのだ。

 そしてその現象によって、一瞬で動きを取り戻したスピアーが、とっさに体を反転させ串刺しを避けたラウラの左肩の装甲をガラス細工のように吹き飛ばした時、セシリアは敵のISが行った行動を解明する。

 

「まさか………フィールド中和機能を搭載している!?」

「そうだ!! 私のランスはあらゆる物を貫く! それが如何なる強固な装甲であろうと、如何なる強力なバリアーであろうとも!!」

 

 もしそれが本当ならば、半ばAICは役に立たない。武装の一部ではなく、全身に及ぶフィールド中和ではさしものAICも止めようが無いのだ。

 だが、自身の最大の武器を封じられたラウラであったが、その戦う意志は聊かの衰えも見せない。いや、逆に受けたダメージが彼女の怒りに火を付けたのか、リアアーマーから6本のワイヤーブレードを射出する。

 

「貴様等っ!!」

 

 複雑な三次元軌道で迫る六つの刃相手に、スピアーがランスで打ち落とそうとするが、巨大すぎる獲物のためか、それとも元々の狙いが雑なためか、ワイヤーブレードには掠りもしない。

 

「チッ! うっとおしいハエのような攻撃でぇ!」

 

 同じ格闘機でも、『強襲』を主にするスピアーのISの装甲強度は、『奇襲』を主にするフリューゲルのISとは比べ物にならないほど高い。火花を飛ばしながらワイヤーブレードに刻まれていくスピアーであったが、薄皮一枚程度の損傷しか与えられず、しばしの拮抗状態を生み出す。

 

「もう………アンタ、本当に大雑把ね」

「フリューゲル!?」

 

 そんな状況に焦れたのか、ビームサイズを華麗に振り回すフリューゲルがスピアーの隣に立つと、複数のワイヤーブレードの攻撃を防ぎ逸らし、そして一閃して二基ほど切り裂いて叩き落してみせる。

 

「勘違いしないでよ。これで貸し借り無しだからね?」

「何を勘違いするものか!? 貴様への貸しなど山のように………!?」

 

 フリューゲルの死角から飛んできたワイヤーブレードの攻撃を、自分のランスを盾にして弾くスピアー。その動きを忌々しそうに見ながらも、弾かれたワイヤーブレードを切り裂くフリューゲル。一見仲が悪そうに互いに罵り合いながらも、それぞれの特性を生かした連携が取れることが両者の良い所でもあるのだ。

 

 逆に敵に攻撃を凌がれ劣勢に立たされて焦るラウラを、ようやく援護する気になったセシリアが、スターライトの銃口をフリューゲルとスピアーに向けようとした時、警告(アラーム)が鳴るよりも早く、実弾がセシリアの左脚を貫く。衝撃と痛みに悶どりながら落下していくセシリア………。

 

「きゃあああああっ!」

 

 地上の方から飛んできた一撃に、悶絶しながらも見つめた時、そこにはグレネードランチャー一体型のアサルトライフルを構えたリューリュクがISを展開しながら、呆れ顔で通常機にてこずる二人に向かって飛翔してきた。

 

「もう………少しは周囲に気を配ってよ二人とも~~……特にフリューゲルは防御力無いんだから」

「う、うるさい! リューリュクのクセに」

 

 やはり同型機らしい共通の真紅のバイザーとヘッドパーツをしながら、装甲の量はちょうどフリューゲルとスピアーの中間ほどで、背中にシャープな航空主翼とその下に補助翼を設置された高出力スラスターを持ち、両腰に小型のミサイルと手持ち式のレーザーソードを内蔵したスタビライザーを装備しており、右手のアサルトライフルと、左腕に大型の実楯を持った、竜騎兵(ドラグナー)シリーズ中、もっとも汎用性に長けたシリーズ三号機、『ドラグナー・リューリュク』は、突撃思考の二人に彼女の中ではもはやいつものことになったフォローを入れる。

 

「チッ! 新手・」

 

 落ちるセシリアを庇うつもりなど無いが、新たなに現れた敵兵にすぐさま右肩のレールカノンの照準を合わせて撃ち落してやろうとするが、そこにISから警告(アラーム)が鳴り響き、ほぼその直後、ラウラに向かって自身のレールカノンを上回る口径の砲弾が超音速で迫ってきた。

 

「チッ!」

 

 間一髪でその攻撃を回避するラウラであったが、かなりギリギリな体勢で回避したため、すかさず迫ってきたリューリュクのタックルを回避しきれなかった。

 左腕のシールドを掲げて猛スピードで飛来してくるリューリュクのタックルを回避しきれずに跳ね飛ばされるラウラ。痛みで表情が歪むが、更に後方からワイヤーブレードの間隙を抜いて接近してきたフリューゲルの大鎌が迫る。寸でのところで左腕のプラズマソードを展開して受け止めるが、そこに駄目押しをしにくるように、スラスターを全開にしてラウラに向かってスピアーがヘヴィランスでの突進攻撃(チャージアタック)をしてくる。

 とっさに残った右手でAICを使いスピアーを止めようとするが、すぐさまAICがスピアーにあっさり貫かれ、彼女の右肩のレールカノンごと装甲を貫かれてしまい、シールドエネルギーがごっそり持っていかれてしまった。

 

「がはっ!!」

 

 地上で脚を貫かれた衝撃から立ち直ったセシリアであったが、空中でいい様に嬲られて落下してくるラウラの姿に、少しばかりの動揺と怒りを覚え、レーザーライフルの銃口を空の三機に向けようとする。

 

「ドイツの方!………こっのぉー!!」

 

 だが怒りで視野が狭まったためか、ISが発した警告(アラーム)の存在に気がつくのがワンテンポ遅れ、驚愕しながら振り返った瞬間、手前の地面が強烈な砲撃で爆発し、セシリアはその衝撃で5、6mほど吹き飛ばされてしまった。

 

「くぁあああっ!」

 

 その攻撃があえて『直撃を避けたもの』であることに気がつかないまま、地面に叩きつけられうつ伏せで寝転がるセシリアに、彼女に向かって砲撃を放った者がわりと心配している声で話しかけてくる。

 

「あ、あの~……ごめんなさい! 直撃させないように撃ったんだけど、私、精密砲撃ヘタだから………どこか痛くない?」

 

 砲撃をぶちかましておいて『痛くない?』も無いと思うのだが、先ほどのラウラやセシリア相手に砲撃を放ったのは、四機中最大火力を持った機体であり、共通の真紅のバイザーとヘッドパーツをしながらも、その全容は単に『歩く火薬庫』とも言えるものであった。

 まず、最大の武器である背中に二本背負った、陸上戦車の主砲かと思える巨大なロングレンジバスターキャノンを二門装備し、キャノンの下には小型のスラスターと地上での砲撃時に衝撃を抑えるアブソーバーが見られる。両肩には四角い金属の箱に内臓された8連装ミサイルをそれぞれ備え、脚部の脛には展開式のガトリングガンを両脚に埋め込み、右手にはリボルバー形式の大口径のハンドキャノンを持っていた。装甲強度こそフリューゲル並みの低さだが、初めから防御力よりも攻撃力を最優先にした大胆な設計思想が垣間見える歪なIS………。

 温厚な操縦者とは裏腹な過剰な火力を搭載した、竜騎兵(ドラグナー)シリーズ一号機『ドラグナー・フォルゴーレ』は、セシリアに過剰なダメージを与えてしまったのではないかと心配しながら駆け寄ってくる。

 だがそこへ上空から飛来したフリューゲルが、ビームサイズをフォルゴーレの前に突き出し、まるで「敵に情けを与えるな」と無言の叱責を飛ばすような目で彼女を睨み付ける。その剣幕にあたふたしながら下がってしまうフォルゴーレ。

 そしてフリューゲルは、後を追うように地上に降り立った二人を背後にし、竜騎兵(ドラグナー)を代表するように、セシリアと彼女の後ろに倒れこむラウラに向かって言い放つ。

 

「私達の要求はただ一つ………この場に、親方様の御体に傷を与えた火鳥陽太を連れてくることよ。理解したならさっさと行きなさい」

「なん………ですって…」

 

 痛む体に無理やり動かし、ライフルを杖代わりに立ち上がろうとするセシリア。みればラウラも同様に気合を入れて自分の体に鞭打って立ち上がり、右手のプラズマソードを展開していた。

 

「あら? まだやる気かしら……………そういうの、うとおっしいのよ雑魚共!」

 

 自分達の言うことに従う気が無さそうな二人のその姿に、苛立ちを覚えながら大鎌の切っ先を向けたフリューゲル。彼女にしてもこれ以上格下相手に時間を食いたくは無いというのが本音なのだ。

 それは別に時間が迫っているとかそういうことではない。一刻も早く火鳥陽太の首を刈り取り、彼女の愛おしいアレキサンドラ・リキュールにこのように報告したいだけなのだ。

 

『フリューゲル、これは?』

『火鳥陽太の生首ですわ。こんな雑魚は親方様の眼中に入れる必要もありません!』

『なるほど、私の考え違いだった。やはりお前は最高だなフリューゲル』

『そんな……私なんて、親方様に比べればまだまだです』

『いや、そんなことはない………お前こそが最高の私のパートナーだ』

『親方様………』

『フリューゲル………二人の初夜を始めよう……』

 

「(あ、ダメェ! 親方様ぁ~~!! そんなに激しく責められたら、わ、私、壊れちゃうううぅぅぅっ!!)」

 

 フリューゲル………クールな外面に反して、内心は激しく『取らぬ狸の皮算用』中である。案の定、背後で他の三人が『また一人だけ出し抜こうとしてる』と見抜かれていた。

 

 もっとも、そんな敵の事情など蟻の顎ほども知らないラウラとセシリアは、彼女達の目的を知り、その闘志を折られること無く、むしろ前以上に湧き上がらせながら、各自の武装を握り締める。

 

「(狙いはあの方だなんて………許せませんわ!)」

 

 セシリアは自身でも気がつかない、仄かに咲いた心の中にある暖かな感情のために。

 

「(敵の狙いが火鳥陽太!? 私の存在を前座扱いにして、よりにもよってあの男だと!?)」

 

 ラウラは自身の存在意義と培ったプライドに賭けて、目の前の四人を許すわけにはいかないのだ。

 

 そしてボロボロのブルーティアーズを纏い、頭部から出血するセシリアは、目の前にいる金髪の少女を睨み付けつつ、隣で同じように装甲を中破させつつ、プラズマブレードを構えるラウラに目をやる。

 

「邪魔だ英国………お前は早く教員たちに、コイツ等のこと伝えろ」

「それには及びませんわドイツの方………貴方の方こそ、早くこのことを織斑先生達にお伝えくださいませんこと?」

 

 時間にしてわずか15分ほど………それほどの短い時間で、代表候補生二人を劣勢の極みにまで追い込んだ『四人組』を代表するように、獲物であるビームサイズを大仰に振りましている少女………。

 

 アレキサンドラ・リキュールの『翼』、竜騎兵(ドラグナー)のフリューゲルは、他の三人よりも一歩前に出ると、地面に蹲る二人に吐き捨てるように言い放つ。

 

「何度も言わせないで。お前達みたいな雑魚に用はないから、今すぐ私達の目の前に火鳥陽太を連れて来いって言ってんのよ!」

 

 高々に言い放つフリューゲルであったが、そこへ彼女達の頭上から、『男』の声が聞こえてくる。

 

「リクエストするぐらいなら、『さん』づけぐらいしろよ。失礼な奴等だな………」

『!!??』

 

 全員が驚いて声がした方を見上げると、そこにはブレイズブレードを展開し、右手に持った銃剣付きアサルトライフルの銃口をフリューゲル達に突きつける陽太の姿があった。

 

 すぐさま各自の武装を構える竜騎兵(ドラグナー)達に、陽太はバイザーとマスクの中で余裕の笑みを浮かべながら、挑発するように言い放つ。

 

「俺の学園(庭)で好きかって暴れたんだ………フルボッコにされて泣かされようとも言い訳できんぞ、お嬢様方(レディーズ)?」

 

 

 

 

 

 

 

 





 前書きにも書きました、予想以上に長くなったためキリのいいところで次回に持ち越します。


 そして次回は、ついに語られる、天災(束)と最強(千冬)と最凶(親方)が認める『戦いの天才(陽太)』の実力!
 そして謎の青年の正体とは!?


次回をご期待ください

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