王下七武海総監督物語   作:グランド・オブ・ミル

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第14話

 

 

 

 

 

「な、何が起きたんだぁ!?」

 

「俺達何でこんなとこにいるんだ!?」

 

ルフィ達の軍艦は順調にマリンフォードに向けて航海していた。しかし、軍艦は突如大波にさらわれそのまま海面が凍ってしまい、波の最上部で立ち往生していた。これは白ひげが起こした地震と青キジの能力のせいなのだが、ルフィ達は分からない。

 

「下を見て。答えが分かる。」

 

レイに言われ下を見ればすでに戦争が始まっていた。海軍と白ひげ海賊団が激しく抗争している。

 

「お前ら聞け!俺の作戦でこれを乗り切る!!」

 

とにかくこのままでは何もできない。ルフィが打開策を提案した。その打開策とは軍艦を氷から外し、凍った波を軍艦で滑り降りるというものだった。当然無茶だという声が多数あがるが、実際それくらいしか手がないのも事実だ。

 

『プルルルルル……ガチャ、全艦全兵に連絡!』

 

そんな時、電伝虫に着信が入る。海軍の作戦連絡のようだ。

 

『目標はTOTTZ。陣形を変え、通常作戦三番へ移行。準備ぬかりなく進めよ。整い次第予定を早め、エースの処刑を執行する。』

 

「え!?」

 

その連絡はほとんど暗号でルフィ達には理解できなかったが、エースの処刑を早めるということだけは分かった。

 

「やべぇ!!お前ら!急ぐぞ!!」

 

そのことを知ったルフィは慌てて軍艦を氷から外そうとする。レイ、バギー、ジンベエ、クロコダイル、イワンコフといった面々も軍艦を氷から外そうと躍起になる。しかし、これだけ多くの面々が氷を攻撃したことが悲劇を生んでしまう。

 

「「「わあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

氷の耐久度が限界を越え、軍艦がそのまま落下してしまった。ルフィ達は海軍本部の倍は優に越す高さの高波から垂直に自由落下してしまうことになる。

 

「やべぇ!!死ぬぞ!!何か知らねぇけど下に氷はってる!!」

 

しかも悪いことにルフィが落下する海は氷がはってしまっていた。これは戦争中に青キジが白ひげ海賊団の船の動きを止めるために仕掛けたものだ。

 

「あああああ………!!あ!俺ゴムだから大丈夫だ!!」

 

「貴様一人で助かる気カネ!!何とかするガネ~!!」

 

「ミク、チコ。しっかり私に掴まって。」

 

「うん!」

 

「レイ!てめぇ飛べるからって汚ねぇぞ!俺も助けろ!!」

 

「こんな死に方ヤダッチャブル!!誰か止めて~~~ンナ!!」

 

騒いでも重力には逆らえない。ルフィ達は為す術もなく氷に叩きつけられ………なかった。

 

ドッパァンと大きな水音を立て、軍艦が海に着水した。氷に閉ざされたはずの湾内に一ヶ所だけ空いている所があった。そこは白ひげ海賊団三番隊隊長"ダイヤモンド・ジョズ"が海軍への先制攻撃として氷を切り出し、投げつけるために開けた穴だった。ルフィ達は奇跡的にそこに着水したのだ。

 

「ハァ…ハァ…、いた!」

 

海に叩きつけられ、中心から見事に折れてしまった軍艦。その船首部分によじ登ったルフィは目を凝らし、エースを見つける。

 

「エ~~~ス~~~!!!やっと会えた!!!」

 

「ルフィィィィ!!!」

 

エースを見つけるとルフィは嬉しそうに叫んだ。

海軍側は困惑の色を隠せない。なぜ脱獄囚達がここにいるのか。どうやって正義の門をくぐりぬけたのか。よく分からないがこの戦争に第三勢力が加わったことだけは理解できる。その第三勢力もジンベエ、レイ、クロコダイルと強者ばかりだ。

 

「それが貴様らの答えだな!!ジンベエ!レイ!」

 

「そうじゃ!わしゃあ七武海をやめる!!」

 

「残念ながらそういうことです。」

 

ジンベエとレイに叫ぶセンゴク。それに答えるジンベエとレイ。二人はこの瞬間から七武海を脱退した。

 

「…何にせよあのチームはおかしいぞ。到底まとまった目的があるとは思えん。」

 

ガープの考えを肯定するかのようにまずクロコダイルが動いた。クロコダイルは真っ先にモビーディック号の白ひげの元に向かった。そしてそのまま白ひげを左手のフックで攻撃………

 

しようとした所でルフィがそれを阻止する。"ギア2"の超スピードでクロコダイルのフックを弾き、白ひげを守るように対峙する。

 

「…俺とお前との協定は達成された。なぜお前が白ひげをかばう。」

 

「やっぱりこのおっさんが白ひげか。じゃあ手ぇ出すな!エースはこのおっさんを気に入ってんだ!!」

 

クロコダイルはすぐさま白ひげの部下達に取り押さえられた。ルフィの様子を見ていた白ひげはルフィの背中で揺れる麦わら帽子に気づく。

 

「小僧、その麦わら帽子…、昔"赤髪"が被ってたやつによく似てるな…。」

 

「おっさん、シャンクス知ってんのか!これ預かってんだ。シャンクスから。」

 

白ひげは先日、シャンクスと面会した時のことを思い出していた。久しぶりに会ったシャンクスはトレードマークの麦わら帽子と左腕を失っていた。わけを聞くと「新しい時代に懸けてきた」のだという。すると麦わら帽子を託された目の前の少年がシャンクスの懸けた"次世代の申し子"ということだ。

 

「兄貴を助けに来たのか…?」

 

「そうだ!!」

 

「おめぇごときじゃ命はねぇぞ!!」

 

「うるせぇ!!お前がそんな事決めんな!!俺は知ってんだぞ!お前!海賊王になりてぇんだろ!!海賊王になるのは俺だ!!!」

 

ルフィは言い切った。世界最強の海賊を前に微塵も臆することなく。そんなルフィの度胸に白ひげはニヤリと笑う。

 

「…クソ生意気な。足引っ張りやがったら承知しねぇぞハナッタレ!!」

 

「俺は俺のやりてぇようにやる!エースは俺が助ける!!」

 

白ひげに啖呵を切ったルフィは直ぐ様戦場へと降り立ち、海兵達と戦い始めた。

 

「エドさん。」

 

「…レイか。」

 

今度はレイが白ひげの隣にやって来た。身長差を合わせるためにレイは宙に浮いている状態だ。

 

「あの小僧もおめぇの息子か?」

 

「そうです。なかなか元気がいい子でしょう?」

 

「グラララララ!威勢のいい小僧だ。まったくおめぇがエースの育て親だって聞いた時はガラにもなく驚いたもんだ。」

 

「……そういえば、先程海軍の通信連絡でエースの処刑を早めるとの情報を入手しました。」

 

「!……確かにそう言ったのか?」

 

「はい、しかし焦る必要はありません。恐らくこれもセンゴクさんの作戦の内です。」

 

「だろうな…。うっかり作戦を聞かれるなんてヘマ、あいつはやらねぇ。」

 

「とりあえず情報の提供はしました。あとはそちらで上手くやって下さい。私はルフィのサポートをしなければなりません。」

 

見ればルフィは海軍大将"黄猿"ことボルサリーノに襲われていた。

 

「ミク。」

 

「何?レイさん。」

 

「あなたは猫になってチコと一緒に島の反対側に行ってなさい。あなたにこの戦場は余りにも危険すぎる。」

 

「……うん、分かったよ。レイさん、絶対に死なないでね?」

 

「クゥ~~ン…。」

 

レイに抱きつき、顔をレイのお腹にうずめるミク。レイの足にすり寄って鳴くチコ。そんな二人の頭をレイは優しく撫でる。

 

「大丈夫。私は死なないから。さ、早く行きなさい。」

 

「うん。」

 

ミクは猫状態となり、モビーディック号から飛び降りてチコと共にマリンフォードの街へと消えていった。

 

「さて、行こう。」

 

レイは6対12枚の翼を生やし、頭上に天使の輪を浮かべて"人獣型"になる。そして高速で飛行して交戦する黄猿とルフィの間に入った。

 

「レイ!!」

 

「ルフィ、早く行きなさい。ここは私が引き受ける。」

 

「悪ぃ!ありがとう!!」

 

レイの登場で生まれた黄猿の一瞬のスキを見てルフィはその場を離れる。

 

「まさかお前さんが敵対するとはねぇ~。インフィニティ・D・レイぃ~。」

 

黄猿はレイに対し、独特の間延びした口調で話す。実はレイは黄猿とも面識があった。「どっちつかずの正義」を掲げる黄猿はマイペースなレイと気が合うのか、休日に一緒に出掛けたり、時に任務を一緒にこなしたこともある。

 

「…"戸惑いこそが人生"って言葉、聞いたことない?ボルサリーノ。」

 

「"冥王"レイリーがそんなこと言ってたねぇ~。」

 

"戸惑いこそが人生"。それは黄猿がルフィ達を捕まえる任務でシャボンディ諸島を訪れた時に出くわしたロジャー海賊団副船長シルバーズ・レイリーから聞いた言葉だ。レイはロジャー海賊団にいた頃、よくこの言葉をレイリーから聞かされていた。

 

「"天叢雲剣"!!」

 

「"ベルトアーム"。」

 

まもなく黄猿は『ピカピカの実』の能力で光の剣を作り出し、レイは6対12枚の翼で戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイに救われたルフィはエースを目指し、一直線に走り続けていた。だが忘れてはいけない。ここは"頂上戦争"。この世界の頂点の戦いだ。海軍の精鋭も選りすぐりの海兵ばかりだ。一人一人が今まで戦ってきた海兵とは一味違う海兵達にルフィは思うように前に進めずにいた。

 

「来るな!!ルフィ!!!」

 

そんな時、エースが叫んだ。ルフィに来るなと。お前に助けられる筋はないと叫んだのだ。それはエースがルフィを思ってのことだった。自分のために道連れになってほしくなかったのだ。

 

「俺は弟だ!!!」

 

しかしルフィは引かなかった。自分は弟だ。だから兄を助けるのだと叫び返す。

 

「今確かに弟って……!?」

 

「じゃあいつもロジャーの!?」

 

ルフィとエースの会話を聞いていた海兵達がどよめく。それによりスキが生まれ、海兵達はルフィに吹き飛ばされてしまう。

 

『何をしてる!たかだかルーキー一人に戦況を左右されるな!!』

 

それを見かね、センゴクが電伝虫で通信を入れる。疑問を持ったままでは戦闘に支障をきたすと判断したのだ。

 

『その男もまた未来の"有害因子"!幼い頃、エースと共にレイによって育てられた義兄弟であり、その血筋は革命家ドラゴンの実の息子だ!!』

 

センゴクから語られた事実に戦場中が驚愕する。世界最悪の犯罪者モンキー・D・ドラゴン。その息子であることが分かったのだから当然だろう。

 

しかし、そんなことはルフィの耳には入っていなかった。ルフィには今、エースを救うことしか頭にないのだ。海軍の巨人兵の一人を殴り飛ばしたルフィは再びエースに叫ぶ。

 

「好きなだけ何とでも言えぇ!!俺は死んでも助けるぞぉ!!!」

 

その姿を見た白ひげは笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…。やっぱり強いな。ボルサリーノは…。」

 

黄猿と戦っていたレイはルフィが無事遠くへ離れたことを確認するとスキを見て黄猿を撒いた。七武海の総監督を勤めていたレイだが、決して最強というわけではない。海軍の最高戦力に勝てるとは思っていなかった。

 

「レイ!」

 

「…ハンコック。」

 

黄猿との戦闘で負った傷を癒しながら飛んでいるとレイ呼ぶ声が聞こえた。見るとハンコックがレイを呼んでいた。

 

「良かった。ルフィに無事会えたようじゃな!」

 

「ん、ありがとうハンコック。ルフィがお世話になったみたいで。」

 

「良いのじゃ。気にするでない。あとこれを持っていくが良い。そなたの息子の手錠の鍵じゃ!」

 

ハンコックは懐からカモメのシンボルが描かれた鍵を取り出す。エースの手錠の鍵をこっそり盗んでいたようだ。レイはそれを受けとるとハンコックの手をとってお礼を言う。

 

「本当にありがとうハンコック。」

 

「!よ、良いのじゃ良いのじゃ!早く行ってやるのじゃレイ!」

 

微笑みながらお礼を言われたハンコックは顔を赤くしてレイに先を急ぐように言う。ハンコックは今、自分でも分からない症状に襲われていた。顔は熱く上気して心臓の鼓動もやたら早い。それらの症状はレイを見れば見る程ひどくなり、レイの瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

 

そしてレイが次にした行動がハンコックに止めを刺した。

 

ちゅっ

 

「へっ………?」

 

目を閉じてハンコックの唇に自身の唇を優しく当てる。同時に鼻孔をくすぐる甘い香りと口から伝わってくるレイの甘い味にハンコックは膝をついてしまう。レイはお礼の意味を込めてやったことなのだが、想像以上の威力にハンコックは撃沈してしまった。レイが飛び去ったあともしばらくハンコックは動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンコックから鍵を受け取ったレイはルフィと合流するために飛んでいた。この戦争でのレイの役目はエースを助けることはもちろん、ルフィも死なせないようにしなければならないのでなかなかハードだ。

 

「!っ………。」

 

不意にレイの第六感が危険信号を告げ、レイはとっさに後ろに飛ぶ。すると先程までレイがいた場所から直線上にある壁がスパッと切り裂かれた。斬撃が飛んで来たらしい。

 

「フフフフフ!よく避けたなレイ。」

 

「……ドフラミンゴ。」

 

見ればドフラミンゴがレイに向かって右腕を伸ばしていた。先程の斬撃はドフラミンゴの仕業らしい。

 

「お前ついに七武海をやめたな。俺の監視はもういいのか?そのために憎い政府に媚びてまで七武海になったんだろ?」

 

「……もうあなたの監視は必要ない。ローはもう私のサポートがなくても大丈夫。」

 

レイはドフラミンゴと話ながらゆっくりと高度を下げていく。そしてドフラミンゴと頭の位置が同じになった辺りでドフラミンゴが右手の人指し指をくいっと動かした。

 

「っ………。」

 

するとレイの体が切り裂かれ、上半身と下半身が真っ二つに別れてしまった。上半身は浮き続けているが下半身は地面に落ちる。切り口からは赤い血がダラダラと流れている。

 

しかし、その赤い血はすぐにオレンジ色のL.C.Lに変わり、ぐちゅぐちゅと気持ち悪い音を立てて下半身を再生していく。そしてわずか数秒でレイの下半身は完全に再生された。

 

「フッフッフ!"生命姫"インフィニティ・D・レイ…。お前にはもう一つ呼び名があったっけなぁ…。」

 

「……………」

 

「"不死身のレイ(アンデッド・レイ)"。」

 

ドフラミンゴがその言葉を口にした瞬間、レイの眉がピクッと動く。

 

「この世のどこかにあるお前の"コア"を破壊しない限り決して死ぬことはない。フフフ!羨ましい力だぜ!」

 

「……ドフラミンゴ、私は急いでいるの。あなたと話している時間はない。」

 

「おぉ、そうか。フフフ!じゃあさっさと始めるとするか。」

 

そう言った瞬間ドフラミンゴは右足でレイの顔目掛けて蹴りを繰り出し、レイはそれを左腕で防ぐ。そして弾かれるように互いに距離をとって戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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