王下七武海総監督物語   作:グランド・オブ・ミル

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第13話

 

 

 

 

 

「クゥ~ン……。」

 

「そう…、コロ助は最後まで戦ってくれたのね。」

 

見事インペルダウンからの脱獄に成功したルフィ達は現在軍艦で世界政府専用航路"タライ海流"に乗って航行中だ。"タライ海流"とは、「エニエス・ロビー」、「インペルダウン」、「海軍本部」の政府三大機関の正面に設置された三つの正義の門が生み出す海流だ。この海流に乗るとどこかの正義の門から出るまでぐるぐると回り続けることになる。

 

レイは今その軍艦の後方の隅でルフィがコロ助から託された子どものウルフと話していた。聞けばこのウルフは最近産まれたばかりの群れの末っ子で、まるで妹のように可愛がられていたという。そんな子を戦死させてはならない、そしてりっぱな狼に育ってほしいとの思いを込めてこうしてレイに託されたのだ。いわばこの子どもウルフは生きるコロ助達軍隊ウルフの意思だ。

 

「ありがとう。私達がこうして脱獄できたのは軍隊ウルフ達のおかげ。本当にありがとう。」

 

「クゥ~ン…。」

 

レイは子どもウルフの小さな体を抱き締めてお礼を言う。そんなレイに子どもウルフは今にも泣き出しそうだ。

 

「…チコ。」

 

「?」

 

子どもウルフを抱き締めながらふとレイがそう呟いた。

 

「あなたの名前、"チコ"っていうのはどう?"コロ助の意思を継ぐ小さなウルフ"という意味を込めたの。」

 

「キャンッ♪キャンッ♪」

 

レイが名前を呼ぶとチコは嬉しそうに鳴いてレイの周りを走り回る。しっぽもブンブンと振られているので余程気に入ったようだ。

 

「良かったねチコ!私はミク!レイさんの娘だよ!よろしくね!」

 

「キャンッ♪キャンッ♪キャンッ♪」

 

ミクもレイの肩から降りて人間に戻り、チコと一緒にレイの周りを走り回る。

 

「ふふ、さ、二人とも。そろそろみんなの所へ行こう。」

 

「は~い!」

 

「キャンキャンッ!」

 

そんなミク達を見てレイは優しく微笑み、ミクの手を引いてルフィ達がバカ騒ぎする艦の中心へ歩いていく。二人についていくチコはとても幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら海軍本部。』

 

「あ、俺ルフィ。」

 

「「「名乗るな!!海賊が!!」」」

 

しばらくルフィ達が軍艦で進んでいると、軍艦のメインマストの柱からプルプルプルと電伝虫が鳴った。柱には小さな扉が取り付けてあり、そこを開くと海軍専用の電伝虫がいた。本来ならばこちらは脱獄囚なので居留守を使うなりするのが普通なのだが、ルフィは何の迷いもなく受話器を手にして自分の名前を言ってしまった。その瞬間囚人達から総ツッコミが来たが、この辺の所がルフィのルフィたる由縁なのだろう。

 

とはいえ、ルフィ達の乗る軍艦が乗っ取られたものであることはインペルダウン護衛艦隊よりもう海軍にはバレてしまっているらしい。海軍側の仕事は早く、この短時間でインペルダウンからの映像などといったわずかな資料で今回の事件の主犯を割り出した。その主犯とは…

 

『海賊"麦わらのルフィ"、そして同じく海賊"道化のバギー"。』

 

この二人だった。電伝虫から聞こえる海兵の言葉に軍艦の囚人達は大騒ぎだ。ルフィはまあ当然だろう。歴史的に見ても唯一のインペルダウン侵入者だ。主犯として名を上げられても不思議ではない。不思議なのはバギーだ。海賊としても懸賞金は1500万ベリーの小物であるバギーがなぜ主犯に?レイやクロコダイル、ジンベエだって充分その枠に入れるはずなのに。その訳は海兵の口からゆっくりと語られた。

 

『名もない一海賊と甘く見ていたが、"道化のバギー"、貴様が七武海総監督インフィニティ・D・レイと共に海賊王ゴールド・ロジャーの船の元クルーだったとはな。』

 

「!な、なぜバレた!?レイ!てめぇがバラしたのか!?」

 

「知らない。」

 

「「「えぇぇぇ!!!あのオーロ・ジャクソン号の!!?」」」

 

海兵の口から語られた衝撃の事実に囚人達は顎がはずれる程大きく口を開けて驚く。

 

「レイ!!お前海賊王の船にいたのか!!?」

 

「三年だけね。」

 

「それでもすごいよレイさん!!」

 

「キャンキャンッ!」

 

海兵から語られた事実に驚いたのはルフィも同じだった。それはバギーのことではなく、自身の育て親であるレイも海賊王の船の元クルーであることが分かったからだ。その事実にミクとチコも嬉しそうに跳びはねる。

 

実はこの事実がレイが「七武海総監督」などという地位に着けた理由の一つなのだが、ルフィ達は知る由もない。

 

『さらには四皇"赤髪のシャンクス"の兄弟分である事も調べはついている。』

 

「「「ん何だってぇぇ~~~!!!?」」」

 

さらに海兵から飛び出した事実にまたしても囚人達は飛び上がって驚く。だが、これで合点がいった。確かにこれ程の経歴を持つ男ならば凄い海賊だと認識されても無理はない。だから海軍はバギーをルフィと並べて主犯に数えたのだろう。本人の腕はからっきし弱いのに。

 

まあそれはいい。バギーにとってこれはまんざらではなかった。海軍の良い勘違いだ。何一つ嘘ではない。海賊王の船で雑用をしていたのは事実だし、シャンクスと同時期に雑用をしていたのも事実だ。海軍の勝手な思い込みでバギーの株価はうなぎ昇りだ。気づけば一緒に脱獄してきた囚人達もバギーを崇めはじめている。

 

「静まれ!ハデバカ野郎共ぉ!!」

 

こうしてバギーは囚人達を従えることに成功するのだった。

 

「へぇ、坊やにもこういう才能があったとは。」

 

それをレイは感心するように見ていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

正午 処刑三時間前

 

ここはマリンフォード海軍本部。三日月型の湾頭及び島全体を50隻の軍艦が取り囲み、湾岸には無数の重砲が立ち並ぶ。

 

港から見える軍隊の最前列には戦局のカギを握る五名の曲者達「王下七武海」が構える。総監督のレイを失った彼らが一丸となって戦うことは、まず考えられない。

 

軍の最後尾に高くそびえる処刑台。そこでエースは海楼石の手錠をはめられ、運命の時を待つ。その処刑台を堅く守るのは海軍の最高戦力、三人の「海軍大将」。

 

考え得る全ての正義がエース奪還を阻止すべく、白ひげ海賊団を待ち構えていた。

 

「……いいなガープ。全てを伝える。」

 

「勝手にせい。わしゃ下におるぞ。」

 

そんな時、海軍元帥のセンゴクが電伝虫を持って処刑台に上り、エースの隣に立った。そしてポツリポツリと話し始めた。

 

「諸君らに話しておくことがある。ポートガス・D・エース、この男が今日ここで死ぬ事の大きな意味についてだ。」

 

電伝虫に話しかけられたセンゴクの声はマリンフォード中に設置されたスピーカーから響く。

 

「エース、お前の父親の名を言ってみろ!」

 

「………俺の親父は"白ひげ"だ。」

 

そのエースの答えをセンゴクは「違う!!」と一蹴する。しかし、エースも「白ひげだけだ!他にはいねぇ!!」と反抗した。それを聞いている海兵達はざわざわとざわめいていた。これから世界最強の海賊との戦争が始まるかもしれないのだ。処刑人の親父の話などどうでもいい。しかし、センゴクから語られた真実がその考えを打ち砕く。

 

「当時、我々は目を皿にして必死に探したのだ。ある島に"あの男"の子供がいるかもしれない。"CP(サイファーポール)"の微かな情報と可能性だけを頼りに生まれたての子供、生まれてくる子供、そして母親達を隈無く調べたが見つからない。」

 

海軍の中で古株にあたる海兵はセンゴクが何の話をしているのか分かるようだが、比較的新参者の海兵は何の事だか分からない。

 

「それもそのはず、お前の出生には母親が命をかけた母の意地ともいえるトリックがあったのだ。母親の名は"ポートガス・D・ルージュ"。女は我々の常識を遥かに越えた。七武海総監督インフィニティ・D・レイの能力を知っているだろう。女は当時超新星(スーパールーキー)だったレイの飛行能力で今は廃墟となり、記録(ログ)もとれない空島へ向かい、そこで決死の出産をしたのだ。青海人が空島で出産するなど体への負担が大きすぎる。女はお前を産むと同時に力尽き、命を落とした。」

 

察しのいい者は気がついたようだ。エースの本当の父親が誰なのか。

 

「お前の父親は!!"海賊王"ゴールド・ロジャーだ!!」

 

その公表は全世界を震撼させた。その場にいた海兵達はもちらん、処刑の様子をマリンフォードから程近い島"シャボンディ諸島"から見ていた取材陣、マスコミも思わずペンを落としてしまう程の衝撃。海賊王の血はまだ生きていたのだ。当時ロジャーに関わるあらゆる人間が刑を受けた。それが衝撃に拍車をかけていた。

 

かくいう海軍もエースが二年程前に"ポートガス"を名乗って海賊として名を上げていた時にようやく気がついたことだ。だが、それが分かった今、海軍はこの処刑を必ず成功させなければならない。例え白ひげとの全面戦争になろうとも。それほど海賊王の血というのは恐ろしいのだ。

 

「!来たぞぉーー!!!」

 

海兵の一人が叫んだ。その海兵が指差す先を見ると海を埋め尽くす程の数の海賊船があった。その姿はまさに大艦隊といっても過言ではない。それは白ひげの傘下の海賊達だった。"遊騎士ドーマ"、"雷卿マクガイ"、ディカルバン兄弟"、"大渦蜘蛛スクアード"などなど…。総勢43隻、いずれも"偉大なる航路(グランドライン)"後半の海"新世界"に名を轟かせる船長ばかりだ。しかし、白ひげと14人の隊長達の姿はどこにもない。

 

「白ひげは必ず近くにいる!何かを狙っているはずだ!海上に目を配れ!!」

 

センゴクはすぐに傘下の海賊達を攻撃しようとしてやめた。白ひげがまだ姿を現さないということはどこからか奇襲を狙っているはず。それに備え、布陣を崩すべきではないと判断したのだ。しかし、センゴクの思惑をはずれ、白ひげは想像できない行動をとる。

 

ゴポッ…と水の音がした。普通なら聞き逃すであろう小さな音だ。しかし、戦争で神経を研ぎ澄ましていたセンゴクはその音をしっかりと捉えた。やがてその音は大きくなり、三日月型のマリンフォードの湾内に影が見えてきた。そこは傷ついた軍艦の逃げ場として唯一開けていた場所だ。

 

「!まさか………!!!」

 

ここまでくるとセンゴクも白ひげの狙いが読めたようだ。そしてその読みは的中することになる。

 

「「「"モビーディック号"が来たぁーー!!」」」

 

ザパァァンッと大きな波をもたらしながら白い巨大なクジラが海底から現れる。船首に白鯨を象った白ひげ海賊団の船"モビーディック号"だ。次いでモビーディック号の子分船のような船が三隻海底から現れる。

 

白ひげ海賊団は"コーティング船"で海底を進んできたようだ。コーティング船とはシャボンディ諸島の船で海底を進むための技術であり、シャボンでコーティングされた船は例え海底一万メートルでも水圧に潰されることなく進むことができるのだ。

 

マリンフォード湾内に侵入したモビーディック号には白ひげはもちろん、14人の隊長達の姿も見える。やがて白ひげはゆっくりとモビーディック号の船首に上り、遥か遠くの処刑台に見えるエースとセンゴクに悠然と立ち構える。そして大地を揺るがすような声と威圧でしゃべりだした。

 

「俺の愛する息子は無事なんだろうな……!!ちょっと待ってな、エース!!!」

 

「!………親父ぃ~~~!!!!」

 

白ひげの呼び掛ける声にエースはただ叫び返すことしかできなかった。そんなエースに白ひげは王者の微笑みを見せる。レイが時折見せる微笑みとはまた違う、圧倒的な強者の威圧の中に確かな愛を含んだ微笑みだ。

 

そして白ひげは両腕を体の内側にしまうように構え、そして勢い良く外側に開き、空間を殴りつけた。すると白ひげが殴った大気にヒビが入り、マリンフォード沖の海が爆発した。

 

「勢力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かもしれんのだ!!あの男は……"世界を滅ぼす力"を持っているんだ!!!」

 

『グラグラの実』の地震人間。それが"白ひげ"エドワード・ニューゲートの持つ能力だ。センゴクの言う通り、思うがままに地震を起こすことのできるその能力は数ある超人系(パラミシア)の中でも最強とされ、その破壊力は"世界を滅ぼす力"とまで称される。

 

ゴゴゴゴとマリンフォード中に地鳴りが鳴り響く。何事かと騒いでいると一人の海兵が空を指差した。それにつられて空を見ると海兵達は言葉を失った。

 

海軍本部の倍は優に越す高さの津波が両側から押し寄せてきていたのだ。先ほどの白ひげの地震がこの巨大津波を引き起こしたようだ。

 

「"氷河時代(アイスエイジ)"!!」

 

海兵達が恐怖に怯える中、いち早く動いたのは青キジ、クザンだ。クザンは両手の掌から冷気の塊を噴出し、巨大津波を一瞬にして凍らせる。

 

「青キジぃ……!若僧が!!」

 

それを見た白ひげはニヤリと笑っていた。

 

 

 

 

攻めいるは、「白ひげ」率いる新世界47隻の海賊艦隊。

 

迎え撃つは、政府の二大勢力「海軍本部」、「王下七武海」。

 

誰が勝ち、誰が負けても、時代が変わる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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