◇
「・・・へぇ、そんなことがあったのね・・・。」
スリラーバーク内の食堂で麦わらの一味とモリアの被害者の海賊達が宴をしている。食堂は戦いでボロボロになっているが、サンジ特製の超絶品料理に舌鼓を打つ彼らの中に気にする者はいない。
そんな宴の最中、レイ、ロビン、ナミ、ゾロは集まってロビンとレイの過去の話をしていた。ルフィはルフィでウソップ、チョッパー、フランキーなどを集めてレイの話で盛り上がっている。
「ええ、姉さんには本当にお世話になったわ。」
「そんな大層なことはしてない。ロビンのやりたいことを少し手伝っただけ。」
「素敵なお姉さんね。」
「・・・照れる。」
ナミの褒め言葉にレイは顔を逸らしてほっぺたを人差し指で掻く。表情からは読み取りづらいが照れているようだ。
「じゃあ俺達を襲ってきたのは俺達を試したってことでいいのか?」
「ん。ごめんなさい。エニエス・ロビーの一件であなた達がロビンのことを本当に大切に思ってくれてるのは分かってたけど、自分の目で確かめたくて。それにしても・・・」
「?何だよ。」
「あなた顔恐い。」
「うるせぇ!!放っとけ!!」
レイの正直な感想にゾロが突っ込む。
「・・・結構はっきり言う人なのね。」
「ふふふ♪」
そんなレイにナミは呆れ顔だ。ロビンは何年たっても変わらない姉の姿に楽しそうな笑みをこぼす。
「へぇ~、じゃあレイはルフィの母ちゃん兼師匠みたいなもんなのか!!」
「おう!俺やエースに戦い方を教えてくれたのはレイだからな!!」
「道理で強ぇんだな~!」
ルフィ達の方も話は終わったみたいだ。ルフィからレイの凄さを聞いたからかチョッパーが目をキラキラさせてレイに飛びついてくる。レイはそんなチョッパーを優しく抱き止めて、膝の上に乗せて頭を撫でて可愛がる。とても絵になる光景だ。
「んレイさ~~ん♥お茶です♥」
今度はサンジがくるくると回りながらレイにお茶を差し出す。最初はレイのことを警戒していたサンジだが、今はこの通りすっかり平常運転である。
「ん、おいしい。ありがとう。」
「ど~ういたしまして~~♥」
レイから好評価をもらったサンジは体をクネクネさせる謎の求愛ダンスを踊りながら厨房へ戻っていった。一体どうすればあんな動きができるのかレイは心底疑問だった。
「ルフィ、私が教えたこと覚えてる?」
「おう!もちろんだ!『やりたいことをやるのが海賊』だろ?」
「ん、ちゃんと覚えててくれて嬉しい。」
「しししっ!!」
レイは肉を口にこれでもかと詰めたルフィと話す。昔から食べ物のドカ食いは体に良くないと言ってきたのだが、どうしてもルフィはこのスタイルになってしまう。
「まったくもう・・・。」
「ん・・・ありがとな!」
そんな息子の口の周りについた食べカスを拭いて、まあこれがルフィらしいかと思うレイなのだった。
◆
宴も中盤に差し掛かった頃、ブルックが部屋の隅にあるピアノで「ビンクスの酒」を弾き始めた。ピアノの上にはルフィが乗り、横にはレイが寄りかかっている。
「お前さ、俺の仲間になるんだろ?な!!」
「・・・・・・」
「影帰ってきたもんな!日が当たっても航海できるだろ!」
どうやらルフィはブルックを仲間にしたいようだ。
「・・・それなんですが、私一つ言ってなかったことが・・・。」
「何だ?」
しかしブルックは遠回しにルフィの誘いを断ろうとする。
「ブルックは"仲間"との約束があるんだって。」
「ええ、まずそれを果たさなければ私、男が立ちません!」
ブルックは"ラブーン"というクジラとある約束をしていた。それはブルックも所属していた「ルンバー海賊団」は世界を一周し、双子岬で待つラブーンを迎えに行くというものだった。しかし、"魔の三角地帯"で出会った海賊によってルンバー海賊団は全滅してしまい、「ヨミヨミの実」の能力で蘇ったブルックだけが生き残る結果になった。だからこそ、ラブーンにもう一度会うまでルフィの仲間にはなれない、そういう意味を込めて言ったのだがルフィから帰ってきた言葉にブルックは驚くことになる。
「ああ、ラブーンのことだろ?知ってるよ。俺達双子岬でラブーンに会ってんだ。」
「・・・え?」
ブルックは驚いてピアノのテンポを落としてしまう。
「本当?ルフィ。」
「ああ!だから驚いたよ!あいつの待ち続けてる海賊達の生き残りがブルックだって分かった時は!これ知ったらラブーン喜ぶだろうな!しししっ!!」
レイがルフィに確かめるもどうやら嘘ではないらしい。近くにいたサンジとウソップも証人として名乗りをあげる。
「・・・!元気でしたか?」
「元気だった。」
「大きく・・・なってるんでしょうね。」
「山みてぇだったよ。」
「ヨホホ、見てみたい・・・。私達が別れた時なんかね、まだ小舟程の大きさで可愛かった。ちょっと聞き分け悪かったけど音楽好きでいい子でねぇ・・・今でもまぶたを閉じるとその姿が・・・あ、私まぶたなかった。頭にね、浮かぶんです。」
突然ブルックはジャァァァン!!とピアノを大きく鳴らす。そしてその骨だけとなった両手で顔を覆い泣き始めた。
「そうですか・・・!!彼は元気ですか・・・!!こんなに・・・嬉しい日はない・・・!!」
「・・・ブルック・・・。」
レイは号泣するブルックに静かにハンカチを渡した。
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しばらく昔を思い出しながらピアノを弾いていたブルックは静かに演奏をやめる。そして一つの"音貝(トーンダイアル)"を取り出した。それには生前のルンバー海賊団の"唄"が録音されているという。
「我々は明るく楽しく旅を終えたというラブーンへのメッセージ、今かけても構いませんか?」
「おー!聴きてぇ!そりゃラブーン喜ぶだろうな!!」
「では。」
そしてブルックは"音貝(トーンダイアル)"のスイッチを押した。軽快な前奏の後、ルンバー海賊団の大合唱が聞こえてくる。その唄に合わせて宴をしていた海賊達も歌い始めた。
「ビンクス~の酒を~♪」
「届け~にゆくよ♪」
「「海風気~まかっせ♪」」
「「波まっかせ~♪」」
『『潮の向こうで♪』』
『『ゆ~う日~も騒ぐっ♪』』
『『空にゃ♪輪をかく♪』』
「鳥の唄~♪」
それはまさに一世一代の大合唱だった。"音貝(トーンダイアル)"から聞こえてくるルンバー海賊団の歌声はもちろん、レイをはじめ、その場にいる海賊達も加わった大合唱はこれぞ海賊という楽しい空間を作りだしていた。
ブルックはそんな大合唱の最中、ある決心を固めていた。
「(ラブーン・・・お前が50年もの間そこで待っていてくれたのなら、あと1、2年だけ辛抱してくれませんか?私にも海賊としての意地がある!壁に向かって待つお前とは約束通り"正面"から再会したい!!)」
「・・・ふふっ。」
決心を固め、目の色が変わったブルックを見てレイは微笑んだ。
▽
それから2日後、ブルックはウソップとフランキーに建ててもらったルンバー海賊団の墓の前でバイオリンを弾いていた。ブルック以外のメンバーは先にサニー号に乗っている。ゾロも先程死んだ刀"雪走"の供養を終えて船に戻っていった。
「ブルック。」
「おや、レイさん。」
そこへレイがやって来た。その手にはどこかで摘んできたであろう花が握られている。
「ここに建ててもらったの?」
「ええ、このスリラーバークは我々の故郷"西の海(ウエストブルー)"からやってきた島ですから。ふるさとの土ならば少しはゆっくり眠れるかと思いまして・・・。」
「そう。」
レイは墓に花を供え、ブルックの隣に座る。そして目を閉じ、手を合わせて拝んだ。
「・・・レイさん、ありがとうございました。」
「?どうしたの?」
「私が今日まで生きてこれたのはレイさん、あなたが時々私に会いに来てくれたおかげです。暗い海を50年、もしあなたがいなければ私は生きようとは思わなかったかもしれません。」
「私はただ友人とお茶したり、魚を釣ったり、歌を歌ったりしただけ。お礼を言われることはしていないでしょう。」
レイとブルックが出会ったきっかけはほんのささいなことだった。たまたま任務で疲れたレイが休憩場所としてブルックの船に降り立ったのがはじまりだ。それから二人は時々会って一緒に過ごすようになったのだ。ちなみにブルックの持ちネタである「角度芸」はレイの考案だったりする。
レイは本当はブルックの影を取り返してあげたかったのだが、七武海同士の衝突は色々と面倒な問題が起こるので、できなかった。
「ヨホホ、それでもですよ。ありがとうございました、レイさん。あ、そうだ。私、麦わらの一味に入れて貰いました。」
「それは大変。ルフィには手を焼くよ。」
「ヨホホ!そうですか。ゾロさんにも似たようなことを言われましたよ。聞けばルフィさんはあなたの息子さんだそうで。」
「知り合いに頼まれて育てただけで、実際に血が繋がってるわけじゃない。元気にすくすく育ってくれた。」
「そうですか。」
ブルックとの会話を終えたレイはおもむろに立ち上がる。
「もう行かれるのですか?」
「ん。ルフィやロビン、ブルックの顔も見たし、あまり遅くなると政府に怪しまれる。」
「そうですか。お気をつけて。」
「ブルックも、頑張ってね。」
そう言ってレイはスリラーバークから飛び立っていった。
余談だが、レイがルフィ達を逃がしたことを報告されたセンゴクは5、6粒程胃腸薬を口に放り込んだという。
技解説
『生命の奇跡』
魂と魂が引き合う程強い絆で結ばれた相手とのみ使える技。何が起きるのかはまだ謎に包まれている。