緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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クリスマス特別編 雪降る聖夜のサンタクロース

星が瞬く夜空にひらひらと白い結晶が舞い落ちる、クリスマスイブのIS学園。

その一角に建設された体育館には今、学園の生徒たちがほとんど集まっている。

普段は体育の授業や全校集会が行われる体育館だけど、今日この日はまるで別の場所みたいに飾り付けが施されている。

キラキラ光る電球のイルミネーションや雪を連想させる白い綿、大小さまざまな飾り。そして、体育館の真ん中に設置された大きなモミの木のツリー。

集まった生徒たちは、みんなグラスを片手に今か今かと、その時を待ち構えている。

それらを眺めながら、壇上に上がった私は息を軽く吸い、

 

「それではIS学園のクリスマスパーティを開催します!Merry Christmas!」

 

「「「「「「「「「「Merry Christmas!」」」」」」」」」」

 

一年に一回の特別企画、クリスマスパーティの開催を宣言した。

あ、ど、どうも。はじめまして。

更識簪、IS学園の三年生。

今は生徒会長をやらせていただいています。

 

 

 

 

 

ワイワイと賑やかに盛り上がる生徒たちを眺めながら、私は壁に背中を預けて、取り皿に乗せた料理をつまむ。

このクリスマスパーティは体育館を使った立食パーティで、たまに壇上で吹奏楽部や軽音部などの部活や希望した生徒が出し物をしたりしている。

 

卒業を間近に控えた今年のクリスマス。

思えば、今年ほど何事もない一年は、私のIS学園で過ごした三年間の中で無かったです。

 

一年生の時は、織斑一夏君の周りで様々な騒動が起こり、私自身も家族(主にお姉ちゃん)のことでいろいろ有ったりしました。その果てに、世界を巻き込んだ争いに更識家の一員として参加してもう大変でした。

 

二年生の時は、生徒会長に就任しちゃったので毎日が忙しかったです。主に織斑君たちの騒動の後始末が。もう、最後にはさすがの私も怒りました。織斑君たちに何度もお説教をしました。そして、その愚痴をお姉ちゃんに毎晩電話で聞いてもらったりしました。

 

そして、お説教の成果が出たのか、今年はあまり大きな騒動はありませんでした。よかったです。

 

まあ、お姉ちゃんが失踪しちゃいましたけど。和麻さんやレキさんと一緒に。

 

理由はわかりませんが、きっと事情があるのでしょう。でも、お姉ちゃん。今度会ったら覚悟してね。ふふふっ。

 

「かんちゃ~ん」

 

おっと、本音が呼んでいる。

 

「何?本音」

 

「パーティ楽しんでる~?」

 

本音は口の周りにクリームをつけ、両手にケーキをたくさん乗せたお皿を持っていた。

本音も二年前と全然変わらず、のんびりとしている。

体の一部は二年前と比べ物にならないほど成長しているけれど。もはや着痩せとかじゃない。服の上からでも丸わかりなほど大きい……。

 

「どうしたの~?」

 

「ううん。何でもない。……楽しんでるよ」

 

自分の胸元を見てみる。……な、泣かないもん。

 

「よかった~。まだまだケーキいっぱいあるよ~」

 

「ケーキだけじゃなくて、料理も食べないとダメ」

 

「ほ~い」

 

いつもののほほんとした返事をして再びケーキに向かう本音。全然わかってない。

本音を見送っていると、別の人が近づいてきた。

 

「挨拶お疲れ様、簪さん」

 

「ん、ありがと。織斑君」

 

織斑一夏。このIS学園唯一の男子生徒だ。

 

「……ええっと、こんな時くらい呼び捨てでもいいんだぜ?」

 

「いや。私あなたのこと好きじゃないから」

 

そう、私は織斑君が好きじゃない。

私が会長を務める生徒会の副会長だけど、好きじゃない。

 

「ははは、ずいぶん嫌われたな」

 

「あれだけ迷惑かけられれば、当然」

 

今年は大きな騒動はなかったけれど、それまでは彼の所為で私は、私たちはとても迷惑を掛けられた。

今年一年の平穏じゃ全然釣り合わない。

 

「そっか」

 

「そう」

 

そういうと、織斑君は私の隣に背中を預けます。そして、その手に持っていたコップに口をつけて傾け、中身を飲んだ。

 

「……流無さんたち、見つかった?」

 

「全然」

 

「どこに行ったんだろうな?」

 

「さあ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

会話が続きません。まあ、私が余り続けるつもりがないからですが。

しばらくすると、織斑君は意を決したかのように口を開く。

 

「……あ、あのさ」

 

「何?」

 

「あの返事。やっぱり変わらない?」

 

ああ。あのこと。

 

「変わらない。織斑君が私に勝てない限り、私の答えはNO」

 

「だったら」

 

織斑君は壁から背中を離し、私の目の前に移動する。

 

「だったら、新学期の初日に、生徒会長に挑戦する」

 

「……分かった」

 

私の返事を聞いた織斑君は一言「ありがとう」というと、パーティの中に消えて行った。

多分、いつもの面々、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんのところに行ったのだろう。これで『お騒がせ六人組(アスタリスク)』の完成だ。

 

「…………お姉ちゃん」

 

周りはにぎやかだけど、やっぱり少しさびしい。

そんなクリスマスパーティだった。

 

 

 

 

 

パーティも終わり、最低限の片付けを終えた後、私は部屋に戻った。

相部屋の本音は生徒会の会計であるにもかかわらず、先に部屋に戻って今ではぬいぐるみを抱き枕にすやすや眠っている。

少し頭にカチンと来た。

お仕置きに、冷蔵庫の中のプリンを食べよう。

冷蔵庫を開けると、

 

『食べないよね?かんちゃん。ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?』

 

「……………」

 

冷蔵庫の扉をゆっくりと閉める。

 

「見なかったことにしよう」

 

それまで来ていた制服を脱いで、シャワーを浴びて、体を拭いてベッドに横になる。今日は疲れたから早く寝よう。

ふと、本音の枕元の靴下が目に入る。

それはクリスマスイブの夜にサンタクロースがやってきて、靴下の中にほしいものをプレゼントしてくれるというもの。

子供のころはほとんどの人が夢見た物で、私もそうだった。

でも、子供のころに知った。サンタさんはいないって。

 

 

 

 

 

私はサンタさんに会いたくて、クリスマスイブの夜に寝たふりをして待っていた。

眠気を必死にこらえて、私が布団の中でじっと待っていると、部屋のドアがゆっくりと開く音がした。

 

(来た!サンタさん来てくれた!)

 

布団の中で、胸の鼓動がドキドキって速くなる中、ドアを開けて入ってきた人――サンタさんはゆっくりと私のところに近づいてくる。

 

(さ、サンタさん……!あ、会わなくちゃ!)

 

私は目をうっすらと開けて、サンタさんにお礼を言おうとした。そして、私が見たサンタさんは――

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

そこで、私は目を覚ました。いつの間にか眠っていたみたい。部屋の中はまだ真っ暗。

 

「懐かしい、夢」

 

私が子供のころのことだった。

やっぱり、クリスマスだからこんな夢を見たのかな?

その時、私が目を開けた時に見たのは想像していた、白い髭をたくさん生やしたおじいさんのサンタさんじゃなかった。でも、私にとって、とってもとっても大好きなサンタさんだった。

だって、サンタさんは――

 

「っ!誰!?」

 

不意に感じた、本音じゃない人の気配。

驚いた私は気配のしたところ、部屋の窓側を見る。そこには

 

「え……?」

 

「Merry Christmas。簪ちゃん」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

ミニスカサンタの格好をしたお姉ちゃんがいた。

 

 

 

 

 

あーやっぱり起きちゃったか、簪ちゃん。

私、蒼神流無はとある事情で世界を駆け回っており、行方をくらませている。それは簪ちゃんたちにも軽々しく言えるような内容じゃない。

でも、心配させちゃっていることに変わりはない。だから、せめてものお詫びに、今日はクリスマスプレゼントを持ってきた。

可愛いサンタさんの恰好でね☆

まあ、簪ちゃんが起きちゃったから、サプライズは失敗ね。

 

「お、お姉ちゃんっっ!!」

 

「わわっ!?」

 

「おね“ぢゃん!!会いたかったよぅ!」

 

簪ちゃんは私に抱き着き、真夜中にもかかわらず泣き始める。

もう、大きくなったのに、泣き虫なんだから。

 

「ごめんなさい。私も、いろいろあってね」

 

「いやぁ。許さない。ぜったいにぃゆるさない」

 

「ええ。許さなくてもいいわ。全部終わった後に戻ってくるから、その時に、全部ぶつけて頂戴」

 

「ゔん」

 

またしばらくの間、泣き続ける簪ちゃんを、私はあやし続けた。

 

 

 

 

 

「簪ちゃん。これ」

 

ようやく泣き止んだ簪ちゃんと一緒にベッドに腰掛ける。

まだ目は赤いけれど、もう落ち着いている簪ちゃんに、私はこの日のために用意したクリスマスプレゼントを渡す。

 

「これって」

 

それは水色の毛糸で編まれたセーター……ちょっと不恰好だけど。

しょ、しょうがないじゃない!編み物苦手なんだから!!

 

「子供のころも、お姉ちゃんが、サンタさんになってクリスマスプレゼントをくれた」

 

「……覚えていてくれたんだ」

 

「うん。あのマフラーは、いまでも私の宝物」

 

それは小学生の時、私が簪ちゃんのためにお母さんに必死に教わりながら作った毛糸のマフラーをサンタさんみたいにプレゼントしようとしたときのことだ。

簪ちゃんがいきなり起きたからびっくりしたけれど、ちゃんと渡すことができた。

その時のマフラーも、今日のセーターみたいに不恰好だったけど、簪ちゃんはとても喜んでくれたっけ。

 

「ありがとう。簪ちゃん」

 

「私こそ。ありがとう。お姉ちゃん」

 

もう一度、抱き合う私たち。

このぬくもりを決して忘れない。絶対に、帰ってくるんだ。

ゆっくりと抱擁を解き、私は立ち上がる。

 

「もう、行くの?」

 

心配そうな簪ちゃんの声。

 

「うん。でも大丈夫。絶対に帰ってくるから」

 

私は窓を開け、ベランダに出る。

雪はまだ降っており、うっすらと積もり始めている。

ホワイトクリスマスか~。最近じゃ、この地方だと珍しいわね。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

簪ちゃんは、最後に笑って私を見送ってくれた。

私は、それを目に焼き付けながら、雪の舞い散る夜の空へ水翼で飛びあがる。

 

しばらくとんだ私は、IS学園のある人工島から、さほど離れていない場所に立つビルの屋上に舞い降りる。

そこには、一緒に行動を共にしている和麻とレキちゃんがいた。

 

「私は終わったわ。二人は?」

 

「ああ。俺も遥香に会ってきた。一緒に着いてくるって聞かなかったけど、何とか説得できた」

 

「私も、アリアさんやキンジさん達に会ってきました」

 

どうやら二人とも顔見せは終わったみたいね。

 

「それじゃあ、行きましょうか。『パンスペルミアの砦』を突き止めに」

 

「そうだな。猶予は後二年だ」

 

「そうですね。いい加減、そろそろ手掛かり位、掴まないといけません」

 

『パンスペルミアの砦』

それが何を意味するのか、私たちは知らない。でも、きっとそれが近い未来で重大な国家事項になり、私たちが巻き込まれることになる。

それを私たちは知った。知ってしまった。

だからこそ、後手に回らない。

二年前のように、受け身になるわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 




はいクリスマス特別編です。想像していたのと違って少しシリアスになってしまった。
一応、この話は現在刊行されている『やがて魔剱のアリスベル』からわかる限りの情報を基に書いてみました。
あと、更識姉妹の触れ合いも書いてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。

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