緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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学校見学

夏休みも終盤に差し掛かった8月23日。

俺はソファーで再び寝転がっていた。

ただし、いつもの男子寮の自室じゃない。

女子寮の流無の部屋だ。

実は、昨日から白雪の妹の粉雪とかいう子が泊りに来たのだ。しかも、この粉雪ときたらものすごい男嫌いで、俺は寮室に入るな、白雪を星伽に連れ戻すだの騒いでいたので、流無の部屋に避難したのだ。

キンジ?

あいつは白雪がなんとか説得したから部屋にいる。ちくしょう、差別だ。

いや、粉雪のことだから部屋で俺と流無がいちゃいちゃしていたら何か文句を言ってくるかもしれない。そう考えると逃げてきたのは正解だな。

いつもの習慣で六時に起きた俺と流無は朝食を食べ、特にやることもないのでごろごろしている。

合宿とか異世界に飛ばされて修行とか、その後も自主的に技の開発なんかをやっていたからその疲れが一気に来た感じだ。

 

「なんかさ~」

 

「ん~?」

 

俺とは別のソファーに寝そべっている流無が、ダレた状態で話し始める。

 

「改めて思うとさ~私たちって~」

 

「俺達って~?」

 

「中二くさいわよね」

 

その言葉に少し硬直してしまう。まさか、それを言うとは…。

 

「いや、だって水とか風を操って技名と科呪文言ったりさ、私に至っては片方の目の色が変わっているのよ。どこの邪王心眼だって話」

 

「お、おまっ!それは言ったらダメだろ!?」

 

思わずソファーから跳ね起きてしまった。だが、これはちょっとまずいだろ。今まで必死に目をそらしてきたのに!!

 

「それを言ったら白雪とかジャンヌもだろ!あいつらもなんか必殺技みたいなの叫んでるし!!」

 

「それを考えると武偵高って中二病の巣窟なのかしら」

 

「…SSRだけじゃね?」

 

そんなくだらないことをだらだら話していると、

 

ピンポーン

 

部屋の呼び鈴が鳴った。

 

「流無」

 

「和麻」

 

俺達は高々と右腕を掲げ、声を張り上げる。

 

「「最初はグー!じゃんけん……」」

 

いざ、勝負!

 

「「ポン!!」」

 

グー←俺

パー←流無

 

「どちらさまですか?」

 

敗者である俺は潔くドアを開ける。

そこにいたのは流無と同じ水色の髪をした。

 

「簪?」

 

「こんにちは」

 

簪だった。

 

 

 

 

 

「「見学?」」

 

「うん」

 

訪ねてきた簪を部屋に上げて、お茶を出した後、彼女が来た目的を聞いてみたところ、見学に来たのだという。

どこに?もちろん、俺たちの東京武偵高校だ。

 

「一度、お姉ちゃんたちがどんなところに通っているのか、見てみたくて」

 

「なるほどね」

 

確かに、姉がどんなところに通っているのか気になるだろう。

それが数年ぶりに再会したのならなおさらだ。かくいう俺も、遥香を案内してやった。

 

「確か…」

 

流無は携帯端末を取り出すとしばらくそれをいじる。

 

「うん。入学希望者を対象にした『学園案内』があったわ。簪ちゃんは違うけど、武偵高のPRっていうことなら大丈夫そうよ」

 

流無の言葉に簪がうれしそうな顔をする。

 

「じゃあ、俺と流無で簪を案内するってことでいいのか?」

 

「ええ。今は11時だから、お昼を食べたら行きましょ」

 

「了解」

 

流無に返事を返した後、少し耳打ちをする。

 

「それで、単位は?」ボソッ

 

「0.3単位」ボソッ

 

簪の依頼を受けた形にすれば、俺達二人に単位が報酬としてもらえる。流無がさっき調べていたのはこのことだ。

武偵だったら貰える物は貰わなくちゃ損しちまうんだ。

 

 

 

 

 

昼食を食べた俺たち三人は、教務科(マスターズ)に行き依頼(クエスト)申請をして簪に武偵高を紹介していく。

武偵高の設備というのは、実はかなり充実している。

武偵高の立っている人工島は、着工当時は羽田空港の増設滑走路にする予定だったためかなりの広さがあるし、武偵庁や武偵企業なんかからの投資もあるしな。

その投資を使って情報科(インフォルマ)通信科(コネクト)なんかでは最先端のPCや携帯が支給されるし、装備科(アムド)では大量の機材を扱ったり、新しい装備の開発だってできる。いつだったか、平賀さんがIS作ってみるのだー、とか楽しげにつぶやいていたことがあるが、流石にそこまでは……やばい、ありえそうだ。そういえば、装備科(アムド)棟の地下には秘密基地があって、そこに巨大ロボがあるとかいう噂があったっけ。聞いたときは、なんだそれと呆れたがあの平賀さんならばと思ってしまう。

そして、そんな平賀さんが今目の前にいる。

 

「お~八神君にルーちゃんなのだ!そこの女の子は、確か海で会ったのだ!」

 

「更識、簪です。姉がお世話になっています」

 

「ルーちゃんの妹さんなのだ!お久なのだ」

 

握手を交わす簪と平賀さん。

ここは装備科(アムド)の地下にあるB201作業室、平賀さんの根城だ。

装備科(アムド)棟は地上1階・地下3階と、地下部分が広く、そこには無数の武器銃器弾薬などが並んでいる。その中にある装備科(アムド)の生徒用の作業室の中も同様の有様なのだが、平賀さんの作業室は部品の山、山、山となっており、何がなんの部品なのか把握できるのは部屋の主である平賀さんのみであるという状況になっている。

 

「そういえばルーちゃん!」

 

簪とIS関連の話題で話していた平賀さんが、流無を呼ぶ。

 

「頼まれていたものができたから渡しておくのだ!」

 

そういうと、部品の山の中にその小さな頭をもぐりこませる。

しばらく、子供のようなお尻を突き出した格好をしていたが、お目当てのものを見つけたのかポンッと頭を引き抜いた。

 

「ルーちゃんのD・Eを改良しておいたのだ。威力をそのままに、重さと強度は今までの二倍!しかも、特別サービスで特殊チタン合金製の小刀もつけるのだ!」

 

平賀さんの手にあるのは、まぎれもない流無の愛銃、D・E・ルナカスタムだ。

長年、流無が自分で改良してきたのだが、そろそろ限界を迎えてきたので、一度平賀さんに預けておいたらしい。

その愛銃と一緒に受け取ったのは、刃渡り二十センチほどの小刀で、プラスチック製の鞘と柄でできている。

流無はためしにそれを抜き放って、二、三度振って感触を確かめる。

 

「うん、いい感じに手になじむわ。いつもありがとうね、あやや」

 

「いえいえ。これからもあややをごひいきになのだ!」

 

 

 

 

 

装備科(アムド)棟から出た俺たちは、情報科(インフォルマ)の資料室に向かう。

なんでも、簪が俺たちが今まで解決した事件のことを知りたいらしい。

 

「まずは、今年の四月からの事件でいいか?」

 

「うん」

 

四月のSSRでの恐山合宿のIS「アラクネ」襲撃事件から簪に説明していく。

 

「合宿で模擬戦をしている時に襲撃された。敵はこのアラクネとラファールだ」

 

「ISが二機……」

 

「ラファールはアラクネを下ろすと上空に戻って射撃による援護、アラクネはそのまま私たちに襲い掛かってきたわ」

 

俺達は現場や、生徒の一部が撮影したアラクネの写真なんかを見せながら説明していく。

 

「一度撤退した俺たちは全員で協力して攻撃したわ。まあ、その結果私と和麻は病院送りになったけれど」

 

「今思うと五体満足で良かったぜ。下手したら腕や足の一本は持って行かれていたかもな」

 

もっとも、逆にアラクネの足を持って行ったが。

 

「聞いてはいたけれど、ダウンバーストって……」

 

簪は資料片手に俺に人外を見るような目を向けてくる。

 

「いや、その眼はもう慣れたけど、一緒に刀奈と闘ったときそれ以上のことやったの見たでしょ?君」

 

軽く突っ込みながら、今度は魔剣(デュランダル)事件の説明をする。

 

「次は魔剣(デュランダル)事件ね。この事件の始まりは、引退した私たちが部屋に戻ったお気に始まったわ」

 

「も、もう?」

 

まさか、傷が癒えたのにすぐにまた事件が起きたと聞いた簪が目を見開く。

うん、確かにあれが始まりだったんだ。でもなあ……

 

「そう、武装巫女が部屋で暴れていたの」

 

「…………は?」

 

簪は流無の言葉を理解できなかったのか、少し間抜けな顔をする。

 

「まあ、武装巫女云々は置いておいて」

 

「いやいや!気になる気になる!」

 

「ごめん。これは本人のためにも、そっとしておいて」

 

じゃあ、最初から話すなよ。

 

「超偵のみを誘拐する魔剣(デュランダル)が私たちの知り合いの星伽白雪ちゃんを狙っている可能性が示唆されて、私たちとキンジ君、アリアちゃんが護衛することになったわ」

 

あの事件は結構大変だったな。ジャンヌって本当に用心深いから、手掛かりがほとんどなかった。相手が見えないっていうのは本当にやりづらい。流無の機転であっさり解決したが、もしもレイズがいなかったらもっと手間取っただろうな。

 

「最後には地下倉庫(ジャンクション)で四人がかりで魔剣(デュランダル)を無力化したわ」

 

「へぇ~」

 

ちょうど流無も説明を終えたようだ。

 

「で、次の事件の発端がまたまたすぐにやってきたのよね」

 

「ま、また!?」

 

うん、また。事件を解決したその日のカラオケの打ち上げで事件が舞い込んできたんだ。

 

「ただ、この事件っていろいろやばいことやっちゃったから、あんまり詳しく説明できないのよね」

 

何せ、窃盗してるもんな。流無たち。いくらブラドの屋敷から盗んだとはいえ、武偵が犯罪まがいのことをしたっていうのはまずすぎる。

 

「まあ、何やかんやで私とキンジ君、アリアちゃん、理子ちゃんでイ・ウーのナンバーツー、無限罪のブラドと横浜ランドマークタワーの屋上で死闘を演じたわ」

 

その時の戦闘を詳しく説明する流無に、その話をハラハラしながら聞く簪。

そうして、時間が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

ブラドの事件を語り終えていたあたりで、俺達は資料室を後にする。

本当はもっと話を聞きたそうにしていた簪だが、時間が迫っていたのでやむなく後にする。

最後に俺たちの根城である強襲科(アサルト)に連れてきた。

 

「ここじゃ足元に気負つけてね。空薬莢がごろごろしているから、毎年見学に来た子が何人も転ぶのよ」

 

流無が簪に注意を促しながら、俺達が黒い体育館みたいな訓練施設に入ると、

 

「死ね!」

 

「くたばれ!」

 

「この聖書(バイブル)は俺の物だ!」

 

ドカバキドゴッ!

軽装のA装備で一年生五人がなぐり合っていた。

どうやらエロ本の奪い合いをしているようだ。

 

「「「……」」」

 

見なかったことにしよう。

 

 

 

 

 

いきなり、恥ずかしい場面を見せてしまったが強襲科(アサルト)の紹介も滞りなく終わらせた。夏休みで生徒が少なくてよかったぜ。

 

「面白い学校だね」

 

「まあ、退屈はしないわね」

 

簪は見学の感想を流無に話す。

面白いか。確かに普通の学校よりも面白いが、IS学園も大概だと思うけどな。

 

「さて、この後どうする?」

 

もう、依頼は完了したし、そろそろ夕食時だ。

 

「私は、そろそろ帰る。候補生の仕事があるんだ」

 

そういえば、簪は日本の代表候補生だったっけ。

先日の一件でISが進化したから、いろいろ忙しいのだろう。

しかも、更識の仕事もやっているって言っていたっけ。

 

「そう。苦労を掛けるわね」

 

「ううん。お姉ちゃんは昔から苦労していたんだから、今は気にしないで」

 

心苦しげな流無に、笑顔で言う簪。お互いに思い合っているんだな。

 

「ありがとう。でも、どうにもならなくなったらいつでも頼ってね。お姉ちゃん、すぐに駆けつけるわ」

 

「うん!」

 

そうして、別れの時間がやってきた。

簪を駅まで送っていき、別れる。

これから二学期が始まれば、またしばらく会えなくなるだろう。

二学期は、修学旅行に文化祭、体育祭などなど、イベントが目白押しで、それはIS学園も同じだから。

 

「それじゃあね、簪ちゃん」

 

「うん、また二学期にね(・・・・・・)、お姉ちゃん」

 

「「え?」」

 

最後に謎の言葉を残して、簪は駅の雑踏の中に消えて行った。

 

 

 

 




時間がかかり申し訳ありませんでした。
最後の簪の言葉の真意は?

次回は夏休みの最終話です。


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