緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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戦いの結末

 

第5話 暴走

 

 

「1週間か、思ったより仕掛けてくるのが早かったな」

 

和麻からバルバドスに会ったと聞いた私は、織斑先生と楯無を呼び状況を話し合っていた。

 

「アイツは仲間を連れて来ても良いと言っていた」

 

「バルバドスは策略家だ、何らかの策を練っているだろう。それにこの世界にはベルフェゴールやベエルゼも居る。奴らが出て来る可能性も考慮すると。IS学園には必然的になのは・フェイト・はやてに残ってもらう必要がある」

 

同時襲撃と言う可能性もある。その可能性がある以上どうしても自由に動けるのは私になる。

 

「織斑先生、なのは達を護衛においていきます。もし同時襲撃になった場合、狙われるのは一夏達です。それを警戒してください」

 

専用気持ちの面々もまたネクロのターゲットになっている。あいつらに連絡をするわけにはいかない。

 

「判っている。それでISの装備ではネクロとの戦闘は無理か?」

 

「無理ではないですが、ダメージを与えるのは難しいでしょう、一応ネクロに通用する武器を幾つか置いていきます」

 

武器を幾つか投影する。

 

「これなら魔力が通っているのでダメージを与えられますが、耐久力以上のダメージを受けると壊れるので気をつけてください」

 

「判った。これは念のための備えとして置く」

 

武器を手渡し今度は和麻と流無にブレスレットを渡す。

 

「私が得意とする加護の術式入りだ。ダメージをある程度軽減してくれる。持っておけ」

 

「ありがとう」

 

「助かる」

 

和麻と流無がブレスレットを身に付けると同時にはやて達が来る。

 

「IS学園のほうは任せる、陽動の可能性も捨て切れん。警戒を怠るなよ」

 

「判ってる。兄ちゃん達も気をつけて」

 

はやて達に見送られ、私達はバルバドスの指定した場所に向かった。走りながら幻術を解除し本来の姿に戻る。

 

「気をつけろよ。1週間修行したとはいえネクロは厄介な連中だ。和麻と流無は離されないように気をつけて戦え。個人戦になれば不利だぞ」

 

「了解」

 

鋭い視線の和麻。さすが武偵として活動していただけはある。きっちり切り替えが出来ている。これなら何とかなるかもしれない。

 

 

 

 

 

そして、指定の場所にたどり着くと、バルバドスがいた。

 

「ようこそ、神王陛下。貴方なら来てくださると思っていましたよ」

 

恭しく頭を下げるバルバドスの背後を見て、

 

「デクス……しかもセカンドシリーズ」

 

デクスシリーズの中でも取り分けやっかいなタイプが12体。

 

「これは過去のダークマスターズをモチーフにした強化型。能力は劣るとはいえこの数は厄介でしょう?」

 

にやにやと笑うバルバドス。

 

「さて?風の王。水を司る姫君。貴方達の相手はこの私深緑の射手バルバトスがお相手しよう」

 

私と和麻達が分断される。流石にセカンドシリーズが相手では私はこっちに集中しなければやられる。

 

「倒し終わったら合流する。気をつけろ」

 

「そっちこそ、な」

 

小声で和麻にそう警告し私は騎士甲冑を展開しデクス達を自分のほうに引き寄せた。だがこの判断は間違いであった……多少乱戦になろうとも和麻達と一緒に戦うべきだったのだ……。

 

 

 

 

 

「少しばかり変わったようだな。風の王」

 

一週間前と纏う気配が違う。僅かながら神王を師事した結果だろう。

 

「少しかどうか、試してみるか?エセ紳士。今度こそ倒してやるよ」

 

風の王が美しい蒼い剣を抜刀する。

 

「それが蒼穹覇王か……風の契約者だけあり良い剣だ」

 

私がそう言うと風の王は怪訝な顔をする。

 

「なぜこの剣の名を知っている?」

 

「はははは!!当然だろう!私は元は貴様の世界の人間でお前と同じ風術師だったのだから!風の神器くらい見分けがつく!」

 

イレギュラーであの世界に来たネクロに殺され奴らの同胞となった私もまた風術師としてあの世界で戦っていた。気が遠くなるような過去。まだ精霊王が人間を見限ってない時代の術師だった。

 

「それがなぜ?ネクロ等に成り果てた?」

 

「断罪者になる為さ!人間は愚かでつまらない種族だ!過去から今まで何一つ学習などしていない!そんな奴らを生かす価値など無い!!だから私はお前を殺し蒼穹覇王を我が物とする!!いかに契約者といえども、我が狂わせた精霊たちを従えることはできん!」

 

ネクロと化した事で私の力は以前にも増して増大した。風の神器だろうが力で制御できる!そうすればベエルゼなど目ではない。

 

「そうかい……どうりで風の精霊が泣いてるんだな」

 

「何を言ってる?」

 

静かに呟く風の王にそう問いかける。

 

「今の貴様は風術師なんかじゃない。ただの醜い化け物だ。なら同じ風術師としててめえに引導を渡してやる!!!」

 

「やってみるがいい!!現代の未熟な術師などに私が倒せると思うなよ!!!」

 

私の目的は2つ。1つは蒼穹覇王の奪取そしてもう1つは、

 

(真のイロカネの力を持つ貴様の姫のネクロ化だ)

 

過去の人間である私は知っている、水を司る姫君が本来の力を発揮して無い事を……

 

(さあ見ていろベエルゼ!私は私の目的を成し遂げ貴様を地に落す!!!)

 

魔力でサーベルを作り出し、私は風の王へと向かって行った。

いかにやつが契約者であり、すべての風を統べるものと言えど、ネクロとなった私の狂わされた風までは統べることはできん!

 

キンッ!!キンッ!!!

 

「はっ!やるな!風の王」

 

私の剣を弾く風の王にそう言うと、

 

「そうかい!お前の剣なんて軽すぎて話になんねえんだよ!!!」

 

蒼穹覇王が変化し槍になる

 

「ふっ!甘いな!!ウィンドカッターッ!!!」

 

指先から風の刃を飛ばすが

 

「あら?甘いのはどっちかしら?」

 

風の王に当たる瞬間、私の放った刃が何かに当たって跳ね返り、私の翼を引き裂く。

 

「なにい!?」

 

何が起こった?確かに命中した筈だ!?

 

「水翼・水牢鏡。私の新しい術よ」

 

目をこらすと風の王達を護るように無数の氷のレンズが見える。あれに反射されたのか。

 

「はっ!だがそれだけ展開していれば貴様らの術だって通らんぞ!」

 

「これだから無知な奴って嫌いだわ」

 

「全くだ。風牙ッ!!!」

 

風の王の放った魔術がレンズに当たるとレンズが輝き凄まじい勢いで風の刃が飛び出し、私のもう片方の翼を断ち切る。

 

「馬鹿な!?どうして」

 

私の魔術が通らなかったのになぜ!?私が困惑していると、

 

「敵に教える馬鹿は居ないわ。咲き誇れ、雹雪散花!!!」

 

水を司る姫の放った水の弾丸がレンズに当たると同時に凍りつき雪の華となり私を引き裂く。

 

「ぐっ!?これは」

 

夜天の女神が得意とする術式。まさかこんな短期間で習得しているとは!?

 

「くらえっ!!!」

 

蒼穹覇王が大鎌に変化する。それが高速回転しながら私の体を深く傷つける。だが、ただでは喰らわない。

 

「シッ!!!」

 

「流無!」

 

高密度に圧縮した風の刃を水を司る姫にぶつけ、その手から蒼霞閃を弾き飛ばす。

 

「大丈夫!和麻!一気に決めちゃって!!」

 

「ああ!!!」

 

ブーメランの様に戻ってきた蒼穹覇王を掴み風の王が跳躍する。そして目に見えるほど刃に収束した風の精霊の力が篭った一撃を肩に受ける。

 

 

「ぐうううッ!!!」

 

身体を中ほどまで切り裂かれながら蒼穹覇王を掴む。

 

「勝負あったな。後少し切り裂けばお前の負けだ、バルバドス」

 

「それは…どうかな?」

 

蒼穹覇王を掴んだまま風の王の耳元に顔を近づける。

 

「全部私の描いた筋書き通りさ」

 

「何?」

 

しっかり蒼穹覇王を掴みながら言葉を続ける。

 

「ネクロは影に潜れる。それは聞いているだろう?私は最初からこれが狙いさ」

 

私が笑うと風の王は何か気付いた様で慌てて振り返る。そして見た。水を司る姫の影から現れるネクロとデクスの姿を。

 

「!!!ちい!!!」

 

風の王は即座に剣を手放し、水を司る姫の元へ向かう……これで良い私の筋書き通りだ。私はゆっくりと肩に突き刺さった蒼穹覇王を引き抜いた。

 

 

 

 

 

「和麻!?何してるの!」

 

蒼穹覇王を手放し私の方に向かってくる和麻に訳が判らずそう叫ぶと、

 

「まにあええええええッ!!!」

 

和麻は私の言葉が聞こえないかのように叫び。次の瞬間私を突き飛ばした。

 

「あいたたた……和麻な……にを」

 

ピチャ……

私の顔に生暖かい雫が当たる。

 

「えっ?」

 

赤・朱・あか・アカ……どこまでも赤い雫そして……

 

「がはっ……」

 

「キキキ……」

 

「グルルル」

 

ネクロの手刀に腹を貫かれ、デクスに左肩を噛まれ。口から血を吐き出す和麻の姿――!

 

「あ……あああああッ!?!?」

 

崩れ落ちる和麻の身体を抱きとめる。

 

「ああ……ああああッ!?!?」

 

違う!違う!!嘘だ!嘘だ!!私・ワタシ・わたしのせいだ!?ワタシが油断していたから!和麻がバルバドスをやっつけたと思ったから!!警戒を解いてしまった。ネクロに私の常識は通用しないと散々言われたのに!!!!

その瞬間にフラッシュバックする、過去の光景。

さびれた廃工場。

鳴り響く銃声。

私の腕の中で、血を流し、冷たくなっていく体。

あんな事は、もう繰り返さないと誓った。そのために力を身に着けた。更なる精進を、研磨を志した。

なのに、なのになのになのになのになのになのになのになのに――――!!

 

「これで良い。私は蒼穹覇王を手にした、後は風の王とお前を殺すだけ」

 

ゆっくりと近付いてくるバルバドス……こいつ、コイツのせいで和麻が!私の大事な人が!!

 

憎い、ニクイ、にくい!!!!

 

(「駄目じゃ!!思考を手放すでない!!!」)

 

楯無様の声がした気がした。でも、いまはただ、目の前のこいつが、このバルバドスという存在が―――憎い!

こいつを殺したい。

私の大切な人を傷つけた、こいつを!

殺す

 

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!

 

殺 す ! ! ! ! ! !

 

ただ、そのことだけが、頭の中を埋め尽くしていった。

 

 

 

 

 

和麻を抱えた流無の体から、蒼と玄の二色の光が放たれ始める。

この場にいる者にはわからなかったが、それはかつてボストーク号で蒼天を放った際に発せられた輝きと同じものだった。

しかし、今の流無から放たれている輝きはそれ以上だ。

 

「あ、ああ、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

咆哮。

戦っていた龍也も、ネクロたちでさえも、動きを止めてしまう。

そして、――流無が消えた。

 

「なっ!?」

 

龍也は困惑した声を上げる。しかし、それは流無が消えたことに対する困惑ではない。

 

「い、いつのまに転移したのだ?」

 

いきなり自身の見ていた風景が変わったことに対しての困惑だ。

龍也自身が転移魔法を得意とするために、すぐに気が付けたのだが、自分は転移したのだ。自分以外の第三者の手によって。

ふと横を見てみれば、明らかに重傷とみられるほどの傷を負った和麻が横たわっている。

 

「和麻!?……ひどいな、今治す」

 

そんな和麻に治癒魔法をかける龍也。

 

ドオオオオオオオンンンンン――――!!

 

龍也たちのいる場所から少し離れたところから、轟音が鳴り響いたのはその直後だった。

 

「一体、何が起こっているというのだ?」

 

 

 

 

 

「がっ・・・はぁあ!?」

 

(何だ?一体何が起こった!?)

 

バルバドスは何が起こったのか理解できなかった。

咆哮を上げた流無の体から発せられた光が蒼と玄から完全な漆黒(・・・・・)に変わっていったかと思った瞬間、三人の姿が一瞬で消え、自分は目の前に突然現れた流無に殴り飛ばされた。

そして、その細腕から繰り出されたとは思えない尋常ではない膂力により、身に着けていた鎧は砕け、地面に数メートールほどのクレーターができるほど殴りつけられたのだ。

 

「くっ!」

 

流無がもう片方の手を振り上げ、追撃の拳を繰り出そうとする。

その前に、バルバドスは空間転移で回避する。

さっきまでいた地点から少し離れた場所に膝をつきながら現れたバルバドスは、そのあとに襲い掛かってきた強烈な地面の揺れに、這いつくばる。

 

「な、あ、あれが、あれがイロカネの力だというのか!?」

 

一方、追撃をかわされた流無にレベル1や2のネクロとデクスが襲い掛かる。

しかし、再び流無は空間転移でかわすと、クレーターのふちに現れ、右手を掲げる。

流無の右腕から濃密な黒い闇が漏れ出し、球体を形成する。

右手の球体をそのまま、クレーターの中に存在するネクロ達に放つ。

球体はネクロ達にぶつかると、そのままネクロ達のみならず周囲の物質を破壊する。

重力球。それが流無の作り出した球体の正体。

超高密度の重力球は光でさえ飲み込み、空間をゆがませるブラックホールとなる。

『重力制御』による高重力を纏った拳にブラックホールの生成・操作を行う。それが先ほどの流無の力だった。

やがて、クレーターの中に存在したネクロは全滅する。世界の深き闇に飲み込まれて。

残ったネクロ達に対して、流無は再び右手を掲げる。

今度は白い光が集まる。それはやがて巨大な剣を作り出す。

振り下ろされる白き光の剣。

それは虹色の軌跡を描きながら振るわれ、周囲のすべてのネクロを空間ごと(・・・・)切り裂き消滅させる。

『空間切断能力』によって空間を切り裂き、あらゆる物質を問答無用で切断、消滅させる剣撃。その攻撃に距離や障害物など関係ない。

そして、重力制御と空間切断という二つの能力から生み出される『完全なる空間制御能力』。

それこそが、流無の今の能力だった。

再び右手にあふれる闇。

超重力により空間をもゆがませるシュバルツシルトの闇の球体が対象に向けられる。

 

「ぐっ!」

 

その対象であるバルバドスは必死に逃げようとするが、自分の周囲の空間が切断され、檻のように包囲する。

転移して逃げようにも、それは流無の能力で妨害され意味をなさない。

 

『死ねええええええええええええッッ!!!!!!!!!!!!』

 

放たれた重力球は射線上に存在する地面を削りながらバルバドスへ向かい、

 

「―――――――――――!!??!」

 

その断末魔さえもの消滅させながら、蹂躙した。

あとに残されたものは何もなく、やがて流無は輝きを失い、糸の切れた人形のように倒れ伏した。

 

 

 

 

 

「ぐっ、お、おのれ……」

 

流無が暴走した地点より少し離れたところ、そこにバルバドスはいた。

重力球の直撃を受けたバルバドスだが、最後のあがきで体が完全に消滅してしまう前に転移することに成功。体の四分の三を削られながらもネクロの頑丈な体で何とか生きながらえているのだ。

 

「ま、まさか私を上回る時空間移動能力をもっているとは。し、しかも、あれで暴走状態。もしも、制御されたら――!」

 

バルバドスは暴走状態でありながら、自分をはるかに超えた力を見せた流無、正確にはその身に宿したイロカネの力に恐怖した。

自分には手に余るものであると、いまさらながらに恐怖したのだ。

 

「は、早くこの世界を離れ、傷を――!」

 

しかし、その考えは実ることはなかった。

 

「――!?」

 

突然、その身を無数の刃に貫かれたからだ。

 

「こ、これ、は?」

 

「逃がさないわよ、醜い亡霊さん」

 

後ろを振り返ったバルバドスは見た。

バルバドスを貫いている蒼い翼をその背に生やし、蒼穹のごとく澄み渡る瞳をした少女の姿を。

まるで天使のような少女だが、その顔に浮かぶのは憤怒。とてつもない怒りだ。

 

「精霊王の眷属として、何より愛しい代行者(かずま)の半身として、お前を断罪するわ」

 

少女、シャーリーはその手に持った武器を振り下ろす。

 

「そ、蒼穹は――」

 

「消えなさい」

 

その言葉は底冷えするようなシャーリーの声に遮られ、最後まで続かなかった。

振り下ろされた蒼穹覇王から放たれたシャーリーの操る蒼風が無数の刃となり、バルバドスの体を再度蹂躙し、その破魔の力で消滅させていく。

こうして、レベル4のネクロ、バルバドスはこの世界から完全に消滅したのだった。

 

 


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