緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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蒼の月姫

青空がよく見えるくらい開かれたボストーク号のハッチ。

八本ものICBMが今にも飛び出そうと白煙を撒き散らす中、そのハッチから中に進入してきた機械の巨人、ゴーレムⅡ。

春先のIS学園を襲撃してきたということはレイズから聞いていたが、おそらくその発展型だろう。

 

「アリア君、キンジ君、流無君、和麻君」

 

ゴーレムⅡが現れてもシャーロックは取り乱したりせずに、ゆっくりと右手をゴーレムⅡ向ける。やつは条理予知(コグニス)でこのことも推理していたからだろう、実に落ち着いている。本当にチートな能力だ。

 

紅閃(こうせん)

 

瞬間、シャーロックの手から一筋の光が迸る。

あれは限界まで炎を収束した熱線だ。しかも紅炎での技だから触れたものを全て焼き尽くすだろう。

そして熱線は寸分たがわずゴーレムⅡを貫き、一瞬にして炎で包み込む。

そして、ゴーレムⅡは現れて数秒で火達磨のスクラップになった。

ええー。

出てきて速攻退場かよ。

俺だけじゃなく、流無たちもなんともいえない顔をしている。

 

「君たちは早く逃げたまえ。あのお嬢さんがまだ後続を用意していないわけないからね」

 

シャーロックはそういうとどこからか帽子を取り出し、役者顔負けの仕草で格好つけながらかぶる。

 

「曾お爺様!――待って!待ってください!!私はまだ、あなたと話したいことが!!」

 

「アリア待て!」

 

ICBMに乗って飛び立とうとするシャーロックにアリアは駆け寄る。そんなアリアをキンジも追いかける。

俺たちもアリアを止めたいのだが、俺はもう満足に動けないし、流無も俺をおいていけるわけがない。

そうこうしているうちに、アリアは背中から取り出した二本の小太刀をICBMに突き刺しよじ登っていく。

 

「アリア君」

 

そんなアリアを見ながらシャーロックは優しく語り掛ける。

 

「短い間だったが君と話せて楽しかったよ。子孫と話すことができるというのはなかなかに刺激的だった。そして――すまなかった。謝って許されることではないが、一言わびよう。キンジ君、和麻君、流無君も。僕のような時代遅れの老人につき合わせてすまなかった。君たちはこれから、君たちの道を歩んでくれたまえ」

 

アリアだけじゃなく、俺たちに頭を下げるシャーロック。

 

「特にアリア君。そして、流無君には最後にわびの品をあげよう。あいにく目に見えるものは持っていないが――名前をあげよう。僕は『緋弾』という言葉を英訳した二つ名を持っている。『緋弾のシャーロック(Sherlock The Scarlet Ammo)』――この名前をアリア君に」

 

「曾お爺様……」

 

「そして、流無君。君には僕が調べた際に見つけた君のご先祖様の二つ名である月夜を駆け、敵を滅ぼす『月の楯無姫』の名前をもじって、ここに名づけよう」

 

「シャーロックさん……」

 

「さようなら――『緋弾のアリア(Aria The Scarlet Ammo)』――『蒼の月姫ルナ(Luna The Blue Luna Princess)』」

 

その言葉を最後にシャーロックはICBMのハッチを閉じる。

それと同時にICBMが持ち上がり始める。

それでもアリアは張り付いたままだ。

このままじゃまずいと思ったが、キンジもシャーロックが持っていた剣、エクスかリバー(仮)と炎雷覇をその手に持って駆け寄り、アリアのように二本の剣を突き刺して張り付く。

二人を貼り付けたまま、ICBMは大空へと飛んでいく。

そして、その後を追うかのように残りの七本のICBMも飛んでいく。

多分、あの中にはイ・ウーの残党たちが乗っているのだろう。彼らは世界中に散っていく。自分たちの目的を果たすために。イ・ウーが無くなろうとも、変わらずに、変わることもなく……。

 

 

 

 

 

全てのICBMが飛び立った後、残された俺たち二人はしばらく呆然としていたがぐずぐずしている暇はない。

こういうものの定番では、やがて崩壊を始めるというお決まりの展開だ。

だが、その予想は斜め上を行った。

 

「流無急げっ!!」

 

「分かっているわよ!」

 

後方から飛んできたガトリングの弾丸を流無はサイドステップを駆使して避ける。

今、俺は流無に背負われながらボストーク号の中を走っている。

後ろからはあの後、天井のハッチから侵入してきた二体目(・・・)のゴーレムⅡだ。

脱出しようとした俺たちの目の前に現れた。シャーロックの言ったとおりに。

そして、いま俺たちはこいつに追いかけまわされているっていうわけだ。

ここが潜水艦の中で助かった。

もしも、開けた場所ならあっという間に追いつかれていた。

潜水艦内には恐竜の化石や動物の剥製、世界中の鉱物などの標本や、よくわからない肖像画のたくさんある部屋がある。まるで博物館や美術館だといっても差し支えない構造になっており、その中を駆け抜ける。そして、背負われている俺が後ろを確認して、ゴーレムⅡの攻撃を流無に教えてかわしていく。

それにしても、なんだか思い出すな。

今年の四月。

俺たちは理子のチャリジャックに逢い、サブマシンガンを搭載したUZに追い掛け回された。

思えば、あれが始まりだった。

アリアがやってきて、立て続けに事件に巻き込まれて。

全部あの日から始まったんだ。

あの時は俺が流無を後ろに乗せながら自転車で逃げていたが、今回は流無が俺を背負いながら無人機ISから逃げている。

なんとも、おかしな話だ。

 

「きゃあ!?」

 

後ろから一気に接近してきたゴーレムⅡが右腕のブレードを振りかぶり、壁を破壊する。

その衝撃で飛び散った残骸が俺たちに飛んできて、それに流無は驚き悲鳴を上げる。

 

「かわいい悲鳴を上げている暇があるなら早く脚を動かせ」

 

「彼女に対する言葉じゃないわよ」

 

「これくらいでお前が俺を嫌いになるか?」

 

「全然っ!愛しているわ!」

 

絶体絶命なのだが俺たちはいつもどおりの、ふざけたようなやり取りをしながら逃げる。

しびれをきたしたのか、相手は両足の装備の中から大きな円形の電動ノコギリ、いわゆるマルノコを展開して、それを加速装置にして突っ込んできた。

どうにも、あれは地上戦を想定しているみたいだ。

 

「なんかやばそうなの出してきたぞ。っていうか速くなった!」

 

「ちょ、もう足がパンパンなんだけど!?」

 

「気合でよけろ、右だ!」

 

「いやあああ!!」

 

後ろからものすごいスピードで、壁や展示物を蹴散らしながら突っ込んできたのを何とかよける。それにしても、壊された標本っていくら位するのだろうか。一億や二億じゃ済まないだろうな、という場違いなことを考えながら、自分では動けない情けない俺は再び流無に拾われる。

そして、流無は持っていた三叉槍を後ろに回して俺を固定した後、艦橋に続く螺旋階段を駆け上る。

 

「脱出!」

 

ついに外に脱出した。

だが、突然俺たちの後ろが爆発を起こす。

その衝撃に俺たちは吹き飛ばされ、艦橋をごろごろ転がる。

俺は目の前に流無が三叉槍を手に倒れ伏しているのを見ながら、後ろを振り返ると、そこにはゴーレムⅡが艦橋の入り口を破壊しながら出てきたのが見えた。

よく見ると、右腕のブレードが真ん中から二つに割れて何かの発射口が見える。まさかとは思うがあれはミサイルか?

まあ、何はともあれこれはいわゆる……。

 

「もしかして絶体絶命ってやつか?」

 

(「もしかしなくても絶体絶命です」)

 

おお、シャーリー。なんか久しぶりにしゃべったな。

 

(「回復した力をあなたに分け与えたからしばらく話せなかったのよ。まったく無茶ばっかりして」)

 

なるほど。玄蒼月風の時の火事場の馬鹿力はお前のおかげだったのか。

 

(「ええ。それはともかく、どうするの?もうご都合主義みたいなあんな力は使えないわよ」)

 

だろうな。もし無理やり使えば、今度こそ俺は廃人コースか、一生ベッドの上だ。

でもな、心配するな。

 

「俺がやらなくても、うちの姫さんがやってくれるさ」

 

そして、ゴーレムⅡが左手のガトリングを俺に向け、思いっきり発砲した。

無数に飛んでくる弾丸が俺に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

潮の香りがする。

さっき艦橋に飛び出たんだから当然だけど、その匂い以外にもおかしいところがある。私は堅い鉄でできた艦橋の上じゃなくて、柔らかいハンモックの上に寝ていた。

 

「何とも感慨深いのぅ。まさかこのようなことになるとは」

 

隣から女の人の声が聞こえた。

若々しい声だが、口調はなんというか、お婆さんみたいに時代がかっている。

 

「ほれ、ちとこっちを見んか。お前の顔をよく見たい」

 

ハンモックから顔を起こしてみると、周りにはまるで南国の島のような砂浜が広がっていた。少し向こうにはこじゃれたログハウスもある。そして、私のすぐ横に水色の着物を着た女の人がその手に扇子を持って立っていた。なぜか両手両足には鎖がついていて、その先には鉄球がついている。

顔は何というか、私にとても似ている人で、思い出した昔の記憶にあったお母さんにもそっくり。

困惑する私に、女の人はニヤニヤとした、でも全然不快じゃない笑みを浮かべながら話し始める。

 

「いやはや、これが今代の当主にして玄蒼姫(げんそうひめ)か。実際に会うとまた何ともいえんのぅ」

 

「あの、あなたは?」

 

いい加減、状況を把握するために話しかける。

 

「おお、そうじゃな。わしはお前を知っているが、お前はわしを知らんのだった。わしの名前はな―――更識楯無じゃ」

 

……は?

 

「もっとも、今は魂だけの存在だがな。玄蒼色金の中から歴代の姫たちを見守っていたのじゃが、最近ここにひっぱりあげられてしもうた。まあ、これはこれで面白いのじゃがな。それにしてもこの構造、『妖刕(ようとう)』をモデルにしておるのじゃな。あの『あいえす』とやらの心臓に情報を集め、それを基に武具を生成する。ようできとるわ。魔術と先端科学(ノイエ・エンジェ)の融合、言うなれば『魔導式先端科学武具(マツギ・ノイエ・エンジェ・アムド)』とでも名付けようかの。まことに面白い!今の私はさしずめ、『妖刕(ようとう)』で言うところの『妖刕(ようとう)の精』じゃな」

 

という、初代・楯無(仮)。

 

「おいおい。(仮)などとつけるでない。気づいとるじゃろ?わしがお前のご先祖様だと」

 

「まあ、それは」

 

何となく、魂が覚えているというか、妙に納得しているから否定できないのよね。

 

「とりあえず、状況を簡単に説明するぞ。今お前たちは絶体絶命じゃ。だから、使え。もう準備は整った。振るえ、お前の槍を。すべてを貫く無双の魔槍を。お前は永木更識の歴史においてわし以外で初めて玄蒼色金の力をふるうことのできる姫じゃ。今こそ、『蒼殻八星』による封印を完全に解き放ち」

 

「はい、ちょっと待って。ストップ!」

 

なんか、一人盛り上がっている楯無様?を止める。

 

「ん?なんじゃ?」

 

「いや、いろいろ説明してよ!」

 

魔槍とか、力をふるうとか、封印とかよくわからないって!

 

「ああ、めんどくさいのう。詳しい説明はまた後ということでいいかの?」

 

「う~ん、まあ、いいです。最低限のことがわかれば」

 

「ここは魔槍、お前が持っておる槍の中じゃ。あの三叉ののう」

 

「ああ、いつの間にか私の手にあった」

 

あの見事な業物ね。っていうか、ここがその中!?この南国の楽園みたいなところが!?

 

「槍の名は『魔槍・蒼霞閃(そうかせん)』。お前の力を最大限に引き出す武具じゃ。右目に突然画面(ガイド)が出てきたじゃろ?」

 

シャーロックさんとの戦いのときのあれね。いきなりモン○ンみたいなのが右目に出てきたからびっくりしたけれど、あれのおかげで何とかなったのよね。

 

「あれも蒼霞閃の能力の一つでな、『バーミリオンの瞳』という。そして、『バーミリオンの瞳』以外にもお前の力を引き出すぞ」

 

私の力っていうと、水を操る異能?

 

「そうじゃ、名づけるなら『水統べし女王(ハイドロ・クイーン)』とでもいうべき」

 

「却下」

 

そんな中二病全開の名前は入りません。いくらご先祖様でも却下です!

 

「むう、つれないのう。まあ、お前の能力を強化してくれるのは本当じゃ。それ以外にもいろいろできるぞ」

 

それってかなりすごいことよね。

 

「今、お前とお前の男の身に危機が迫っておる。その危機を打開するにはお前が蒼霞閃をもってして、玄蒼色金の力をふるうしかない。さあ、どうする?」

 

どうするって、ここに来る前の状況から察するに選択肢なんかないじゃない。それをわかっていてこのご先祖様は言っているのでしょうね。ほんと、喰えない人。

 

「わかったわ。やってみる」

 

私がそういった瞬間、楯無様の両手両足首についていた鎖が砕けた。そして、うれしそうに手を広げる。

 

「さあ、ゆけ。魔槍の姫よ、蒼の月姫――流無よ!」

 

 

 

 

 

俺に襲い掛かってきたガトリングの弾丸は、しかし、俺に届かなかった。

俺の目の前に広がった水の膜がその行く手を遮り、銃弾を水の中に封じ込めたからだ。

 

「蒼霞閃――!」

 

その水の膜を作り出した流無が、三叉槍を手にゴーレムⅡへと突っ込む。

それをゴーレムⅡは右手のミサイル口を閉じて、ブレードに戻して迎撃しようとする。

しかし、振り下ろされた剣筋があらかじめ分かっているかのように流無は必要最低限のサイドステップでかわすと、槍を右腕に向かって一閃する。

すると、ゴーレムⅡの右腕はいとも簡単に切り落とされる。

よく見れば槍の穂先に水がまとわりついている。たぶん、ウォーターカッターと同じ原理で、切り裂いたのだろう。高周波振動する水はダイヤモンドだって切り裂く。

流無は槍を器用に一回転させると、少し後ろに下がり溜めを作ってから突撃する。

その速さは縮地を使っているからかかなり速い。

槍がゴーレムⅡの胴に吸い込まれるように突き刺さり、そのまま串刺しにする。

 

「はああああ!!!」

 

そのまま、槍を振りかぶりゴーレムⅡを投げ飛ばす流無。

意外にあいつもパワーあるんだよな……。

そのまま、投げ飛ばされたゴーレムⅡだが、動きが遅くなっている。

串刺しにされたときにどこか、回路に異常でもきたしたのだろう。その隙に流無は槍に水を収束し始める。それはどんどん大きくなり、しかも回転を始める。まるで水でできたドリルみたいだ。

 

「これでぇ!」

 

それを構えて、ゴーレムⅡに再び突っ込む。

 

「終わりっ!」

 

ドリルがゴーレムⅡに突き刺さり、それでも流無は止まらず走る。そして、さっき俺達が出てきたボストーク号の非常口のある艦上のでっぱりにぶつける。

そのまま水のドリルは回転し続け、ゴーレムⅡを粉々に粉砕した。

 

「ヴィ……ヴぃくとり~」

 

フラフラになりながらも勝利宣言をした流無はそのままばたりと倒れた。

 

 

 

 

こうして、長い長い、一日が終わった。

 

 

 

 

 

まあ、この後も沈み始めたボストークから海へダイブしたり、救助されるまで流無を抱えながら必死で泳いだり、なんか空からツインテールを翼みたいにはばたかせながらゆっくりと降りてくるアリアに、そんなアリアにつかまっているキンジというわけのわからない光景を目にしたりすることになるのだが、何はともあれこの事件は終わったのだった。

 

 




次回「エピローグ 一つの夜」

長かったな。ここまで来るのに。
この話は少し、プロローグにも似ています。ゴーレムⅡからの逃走シーンが。それも踏まえて、次回はエピローグなのです。
プロローグでは別々だった流無と簪。エピローグでは?
それでは、また次回で


魔槍・蒼霞閃
霧纏の姫君(ミステリアス・プリンセス)に搭載されていたイ・ウーオリジナルのコア、そのコアに施されていた魔術術式により、生み出された『魔導式先端科学武具(マツギ・ノイエ・エンジェ・アムド)』の三叉槍。『妖刕(ようとう)』という武具の製法を基としている。
流無の持つ異能、玄蒼色金の力を増幅させる力を持ち、さらに魔術的なエネルギーを切り裂く力も持つ。通常の物体に対してもかなりの切れ味を持っており、ISですら切り裂き、ダメージを与えることができる。
古今東西様々な魔術の情報が記録されており、その魔術を扱うことができる。中には、異世界へ渡ることのできる魔術もあるとか?
右目にバーミリオンの瞳という魔眼の魔術を展開する機能もある。その際、ルビーレッドの瞳になる。(バーミリオンとは朱色と言う意味)。
バーミリオンの瞳とは、戦闘時に周囲の状況を分析し、次の相手の行動予測を映し出すもの。さらに、動体視力などの視力も飛躍的に上昇させる。
所有者である流無の力を最大限に引き出すことのできる唯一無二の武器。
その特性から、神器に近いものではないかと推測される。
また、『妖刕(ようとう)』には人格、通称『妖刕(ようとう)の精』が宿り、それは蒼月閃も同じなのだが、『月の楯無姫』と謳われた初代・更識楯無が宿っている。


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