アラクネの八本足の先端から放たれた銃弾がガトリングのように連射され、四方八方に放たれる。
「全員林の中に逃げろ!」
俺がそう叫ぶ。この演習場は山のふもとということもあり、周りに林がある。
そんな俺にも銃弾が迫るが流無の展開した水の盾が受け止める。
水の中に入った銃弾は、速度を落として小さくなる。流無が水圧を高めているためだ。
「流無。援護を頼む」
「ええ。みんなが逃げ切ったら
銃弾がやんだ瞬間、水の壁が割れ、そこから縮地で飛び出す。
風牙・八閃。
昨日使った風の刃を八つ、連続で撃ちだす。それは八本足に命中するが、少しのけぞらせる程度。
「なんだあ?今のが超能力かよ。そんなもん効かねえんだよ!」
やっぱ、ISには通じないか。
風の一撃は速度あっても重みがない。
おっさん曰く、風術の風は術者の思いが強ければ物理法則を無視して、鋼だろうと斬り裂くようになるとのことで、事実、修行の成果で斬鉄可能な風を放てるようになったが、それは五発のみ。
しかも、それを放てば精神力をほとんど消耗してしまう。刀に風を纏わせて維持すればリーチも伸ばせて、鋼も斬れるのだが、遠距離はまだまだ未熟だ。
でも、けん制にはなり、接近することができた。ここは俺の、
「
懐に飛び込み、蹴りを放つ。
ISはエネルギー・シールドで操縦者を守っているが、この蹴りは昨日流無が使った掌底と同じ、衝撃を伝える蹴り。例え鎧を着ていても関係なく、相手にダメージを与え、
「ぐううおああああ!!??」
吹き飛ばす。
追い風と縮地の加速による勢いと、増幅した気の衝撃をまともに受けたあの女は五十メートルくらい吹き飛んだ。こっちが生身だと油断してくれていて助かった。
あんな見え見えの突進攻撃、普通の戦闘だとただの自爆特攻だもんな。簡単に避けられる
「よし、流無!
パン!
「――え?」
俺の言葉は一発の銃声に遮られた。そして、目の前には
パン!
そして、もう一度聞こえた銃声。
「があ!?」
撃たれたのは俺の左肩。反射的に急所は逸らしたが、防弾制服に伝わる衝撃は普通の拳銃とは桁違いの威力だ。
吹き飛ばされて地面をころがる。
おそらく、IS兵装のライフルによる狙撃だ。
痛みに顔をしかめながらも風の精霊と意識を同調しているおかげで、より広くなった視界を使って上空を見ると、さっき飛んで行ったと思っていたラファールが見えた。
(あいつの狙撃か。というか生身の人間相手にISの銃で狙撃するか?気で体を硬くしていなかったら方が吹き飛んでいたぜ)
当たった個所を見てみると防弾制服は破れて、青く変色した肩が露出している。
流無の方を見ると、
(やばいな。一応気で防御したみたいだが、当たり所が悪かったのか起きてこない)
何とか起き上がるが、再び狙撃が来た。
今度はバックステップで避ける。
だが、このまま狙われたらジリ貧だ。林に逃げ込むしかないか。
そう思ったが、今度は前から銃弾が飛んできた。
「この糞餓鬼いいいいいい!!よくもやってくれたなあああ!!?」
げ、化粧が崩れて山姥みたいな形相で撃ってきやがる。一応、気を乱しておいたから動けないみたいだがめんどくさいな。
右手の風斬だけで銃弾をはじきながらどうするか考える。
流石、ISに使われているだけあって威力が強く、普通の銃弾なら気の強化なしでもはじけるのだが、それも無理だ。しかも、上からの狙撃にも警戒しなければいけないし、後ろの流無も守らないといけない。
速く何とかしないとあの女も起き上がってきて、あのアラクネと近接格闘なんていう面倒なことをしないといけなくなる。
それに、上空のISが下りてきて、二機が同時に襲い掛かってきたらアウトだ。
これもう詰んだんじゃないか?
俺がそう思った瞬間、アラクネに砂の塊が直撃して吹き飛ばした。
「ぶゃあああああ!!??!」
「急げ!八神!!」
そこにいたのは数人の生徒で、一人は昨日の模擬戦で俺と戦ったやつで、そのそばには、流無を背負った影の犬がいる。
そこに上空からの狙撃が襲い掛かるが、水の壁がガードする。流無のやつ、起きていたのか。
俺は、すぐにそっちの合流、急いで林の中に身を隠した。
「お前ら、逃げたんじゃなかったのか?」
「へ、武偵憲章一条だ」
武偵憲章
国際武偵連盟が作った十の武偵の心構え。
その第一条は、
「仲間を信じ、仲間を助けよ」
俺の言葉に電撃を放った男子生徒が応える。
「ああ。俺達は武偵だ」
影の犬を従えている奴も同意する。
「武偵は武偵を絶対に見捨てたりしないよ」
お前ら・・・。
「そうか、助かった。・・・今はとにかく体勢を立て直そう」
「「おう!」」
林の奥を進み、洞窟を見つけ、中に身をひそめる。
こういうとき、風術をつかえると風の精霊を通して広範囲の様子を探れるから便利だ。
「あいつら、なんで襲ってきたんだと思う?」
電撃使いの篠原がそう言う。名前はさっき教えてもらった。
「さっき大声でしゃべっていたが、あのISの経験値を積むためっていうのが妥当なところだろ。ッ痛」
「ごめんね。和麻君」
「いや、大丈夫だ」
俺は今、風で周囲を見張りながら、途中で合流した白雪に左肩を治療してもらいながら応える。
ISは経験を積み、自己進化するという機能を備えている。通常じゃ積むことのできない俺達、
「まったく、ゲームのモンスターみたいな扱いね。・・・ふざけているわ」
俺と同じく、怪我した脇腹を気で治療している流無がそう言い、全員が怒りのこもった表情で頷く。
「さて、とりあえず状況整理だ」
俺はここにいるやつら、俺と流無以外にも逃げる途中で合流した生徒たち二十人くらいを見ながら言う。
「あいつらは二人組。八本脚の蜘蛛の様な兵器を持つ『アラクネ』と上空からライフルの狙撃でアラクネを援護する『ラファール』。アラクネの操縦者の女は口が悪く、突撃思考の単純バカ。対して、ラファールの操縦者は冷静に狙撃を絶妙なタイミングで撃ってくる冷静沈着な強敵だ。
目的は俺達との戦闘データだ。そのために隠れている俺達を今頃探しているだろう。白雪たちがはった結界のおかげで見つかることはまずないだろうが」
今のところ、この近くにアラクネの女はいない。
そして、近くに逃げていた生徒は風に声を乗せてこの洞窟に逃げるように伝える。
「・・・先生は確か」
「恐山のイタコさんたちに会いに行っていて不在です」
「サンキュ、白雪」
これも武偵憲章。その四条、
武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。
のためだろうな。さっきの一条と少し矛盾するが、あれは現場にいた者同士での連携みたいなもんだしな。・・・そうだよな?
「多分そうなんじゃない?」
流無、うん。ありがとう。
「さて、このまま隠れていれば何とかなると思うけど」
一度、ここにいる全員の顔を見渡し、
「お前らそれでもいい?」
と、聞いた。
答えは分かりきっていた。
さあ、ここから反撃の時です。
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