刀奈のランスが簪に振るわれ、それを簪の薙刀が弾く。
しかし、その瞬間に刀奈の操る水が簪に迫るが、
「アイス・クリスタル。ナノマシン展開・・・凍って」
瞬時に水は凍りつき、動きを止める。
それは簪の打鉄弐式が修繕された際に、彼女の懐刀といわれる風宮祐人が開発した、対『
アクア・ナノマシンを基に設計した、アイス・ナノマシンを空気中に散布させ、水を瞬間的に冷却。氷へと変態させ
「疾っ!」
そのことに対し、あまり動揺を見せずに刀奈はランスを繰り出す。
「くっ」
刀奈のランスの扱いはかなり洗礼されており、簪は何とかさばいていく。
(やっぱり、昔よりも、ずっと、強い!)
簪が知るのは2年ほど前の刀奈の実力だ。
その頃には、刀奈との実力差から避けるようになった簪は向かい合って稽古をすることは無く、たまに、ちらりと見る程度でしか把握していなかったが、その頃よりも刀奈の実力は上がっていた。
それは流無が2年間、破天荒な人物に師事していたり、上海でマフィア相手にドンパチやっていたり、武偵高で和麻と様々な事件に挑んでいたり、という具合に更識家にいた頃よりも過酷な日常を過ごしたことで身体能力が上昇し、その間に刀奈もイ・ウーにて超人たち専用の訓練に明け暮れ、流無の身体を手に入れてからもその体をなじませるための常識離れした訓練を積んでいたからであった。
「はっ!」
横なぎに振るわれたランスに簪は弾き飛ばされ、体勢を崩す。
その隙を逃さずに刀奈は追撃をしようとするが、何かが自分に向けて放たれたことをハイパーセンサーが感知したので回避行動をとる。
さっきまで刀奈がいた場所を風の槍が通り過ぎていく。
「仲間外れとは、さびしいじゃないか」
和麻はシニカルな笑みを浮かべてそう言う。
「あら。姉妹の事に口出しするなんて野暮じゃないの?」
「姉妹ね・・・更識は捨てたんじゃないのか?」
「・・・ちっ」
和麻の言葉が気に障ったのか、刀奈は舌打ちをして、水の槍を放つ。
それを和麻が回避した瞬間、ヘイルレインを展開し、矢を放つ。
ヘイルレインの矢を生身で受ければ一巻の終わりなので、和麻、正確には和麻を守護するために存在するシャーリーズは必死で回避する。
「やああああっ!!」
弓を射る刀奈に簪が斬りかかるが、刀奈は紙一重でひらりひらりと躱していく。
そして、簪の方を視ずに右手の裏拳を放つ。
それは簪の顔面を的確に叩き、ひるませる。
「鬱陶しいわよ」
続けて蹴りを撃ちこみ、簪のアイス・クリスタルを破壊すべくヘイルレインに矢をつがえる。
『させるかあああああ!!!!』
しかし、そこに一機のヘリが突っ込んできた!?
「ちょっ、ええええええ!!!!???」
これには流石の刀奈も驚き、それでも何とか回避する。(ついでに和麻と簪も驚いて動きを止める)
「この声祐人くん!?」
『気安く名前呼んでんじゃねええええ!!バカ楯無があああああ!!!』
ヘリの運転手は簪LOVEを地で行く祐人だった。
『結華、操縦代われ!』
『へ?いきなり何を、って何取り出しているの!?』
『何って』
ヘリのドアが開き、そこから祐人が顔を出す。
その手に黒光りする黒い筒を持って。
「ミサイルランチャーだぼけええええええええ!!!!!」
そして、その手に持った祐人お手製のミサイルランチャー(名前は楯無ジェノサイド)を躊躇なく楯無に放つ。
「IS相手にそんなもの!」
楯無は矢で迎え撃とうとするが、突如ミサイルが空中分裂をして8つの小型ミサイルになる。
「嘘!?」
突然分裂したミサイルに矢は憶測を外してしまう。
ならば、回避しようとするがミサイルはこちらの動きを先読みするかのように動いてくる。
このミサイルには簪の山嵐のマルチ・ロックオンシステムが搭載されているのだ。
「きゃあ!?」
刀奈はよけきれずに8発すべてを受ける。
「はっはー!ザマア見やがれ!」
もはやどっちが悪人かわからないようなセリフを言う祐人。
「おい、あれあんたの知り合い?」
「悲しいことに、そう」
高笑いする祐人を見ながら、和麻は近くに飛んできた簪に確認を取る。それに簪は目をそらしながら肯定する。
やがて、刀奈を包んでいた爆炎が晴れるとそこには、
「クリアジャベリン。外装
ランスを片手に持つ刀奈。しかもその姿にはダメージらしいダメージは無い。
「よくも・・・よくもよくも」
無い?
「よくも私の髪を!!!!!」
事もなかったようだ。
外装の取り外されたランスには螺旋の溝が掘られている。
そこに水が纏わりついていく。
水の量は徐々に多くなっていき、さらにランスも回転を始める。
そう、これは巨大な――ドリルだ。
「落ちろおおおおおおおおおお!!!!!!!」
刀奈はそれを躊躇なく祐人の乗っているヘリに撃ち出す。
水が螺旋の渦を描きながら、ヘリに向かっていき・・・激突。ヘリは鉄くずになって海に落ちて行った。
「何しやがるんだ、楯無!?死ぬかと思ったぞ!!」
「祐人なら問題なし!」
「私はとばっちりじゃないですか!」
パラシュートで脱出した祐人と結華が口々に叫ぶ。
そして、刀奈に迫る――和麻の風牙。
「ちっ!?」
それを刀奈はランスで防ぐが、水を撃ちだし内装を露出したランスはあっさりと切断され使い物にならなくなる。
「よそ見している暇あんのかよ!」
そこから和麻の怒涛の連続斬撃が繰り出され、刀奈はランスの残骸で防ぐが分が悪いので後退する。
「そこ!!!」
しかし、後退した先には簪が薙刀を振りかぶって待ち伏せしていた。
躱し切れるようなタイミングでもなく、アクア・ナノマシンの水も間に合わない。
炎術よりは速いが、水術も間に合うか微妙なところだった。
しかも、和麻も接近している。
その中で刀奈は右手に蛇腹剣を一本呼び出し、和麻の二本の刀を受け止める。
そして、簪の薙刀を――
「う、うそ・・・」
左手の人差し指と中指で受け止めた。
真剣白刃取り――その片手版で、だ。
簪が驚愕する中、
「ぼさっとするな!」
和麻の叱責と同時に、簪を衝撃が襲う。
「っあ!?」
それは背後から放たれた水の槍。
この時、簪はなぜアイス・ナノマシンでアクア・ナノマシンの力を抑制しているのに水の攻撃が来たのかわからなかった。
しかし、和麻にはわかった。
今の攻撃は水術によるものだと。
世界というシステムに、精霊を媒介に自分の意思をアクセスし、物理法則を捻じ曲げる超常の力。
それにより、水の槍は凍りつかなかったのだ。
「はっ!」
気合一閃。
発頸の要領で和麻を大きく吹き飛ばした刀奈は、その手に二本の蛇腹剣を構えて簪の方に向かう。
「もう、諦めなさい」
そして、簪に蛇腹剣での怒涛の攻撃が叩き込まれた。
「う、ああ、ぐ、かはっ!?」
何度も斬りつけられ、絡め捕られ、振り回される。
そして、刀奈は簪の首を掴む。
「もう遅いのよ。私は更識に戻らないし、ましてやあなたが私に勝つなんて無理よ」
「お、お姉、ちゃん・・・」
「さようなら」
そして、刀奈は簪を海に放り投げた。
海に叩き釣られた私は、衝撃で意識を失いそうになりながらも機体をチェックする。
スラスターは・・・だめ、全部破壊されている。
機体のダメージもかなり大きい。
海面がどんどん遠ざかっていく。
このままじゃ、わたしは・・・。
助かるにはISを捨てて解除するしかない。でも、そうなったらこの子は、太平洋の海の底。
引き上げるのは不可能に近い。できたとしても、もう戦えなくなる。
そうなったら、もう私はお姉ちゃんを、助けられない。
ううん、違う。
助けるなんていうのは私の勝手な言い訳。
私は、ただお姉ちゃんを・・・・・・!
お願い、打鉄弐式。
動いて、動いてよ!
こんなところで、私は終われない!
まだ、まだ私は全部をぶつけていない。
お姉ちゃんは更識にもどることを、心の底から望んでいないかもしれない。
それでも、私は、私は・・・!
お姉ちゃんが自分の思いに従って自分の道を行くのなら、私も自分の思いを貫く!
もう一度、もう一度昔みたいになりたいから。
ちゃんと謝りたいから。
もう一度、お姉ちゃんと・・・笑いあいたいから!
すると、打鉄弐式のウィンドウにメッセージが表示された。
――経験値が規定値に達しました――
え?
――形態移行を開始しますか?――
形態移行。つまり第二形態への
――飛び立ちましょう。マイマスター――
打鉄弐式・・・
――あなたの思いを翼に乗せて――
うん、行こう!
私はすぐさま開始のボタンを押した。
簪が落ちたその瞬間、和麻は・・・静観していた。
その様子に不信感を持った刀奈は和麻に問いかける。
「てっきり怒って斬りかかって来ると思ったのだけど?」
「ま、普段の俺だったらそうかもな。武偵だから殺人は許せないし。でもな」
そこで和麻は言葉を切って刀奈の眼を見据える。
「お前が本気であいつを沈めようとしていないなら別にそこまで怒らない」
「・・・どういうことかしら」
「お前、簪のISの機動力と武装だけ奪っただろ。つまり簪を戦闘不能にしたわけだ。殺すわけでもなくな」
「・・・」
「こうすれば、あいつはもう戦わなくて済む。お前はアイツを戦いから遠ざけるために叩きのめしたんだろ?」
和麻の言葉に刀奈は何も答えない。
だが、図星なのか少し和麻の眼光から目をそらす。
「巻き込みたくないんだろ。あいつを。俺たちの世界に」
「・・・おしゃべりはここまでにしましょ。続けるわよ」
刀奈は再び二本の蛇腹剣を構える。それに対し和麻は、
「まあ、待てよ」
構えを解いて、話を続けようとする。
「何?」
「いいか、お前の妹みたいなやつはな、一見引っ込み思案だが、一度何かをやると決めたら頑固に貫くんだ。自分の意思を、思いをな」
その言葉が合図だったかのように、
「何が言いたいのかっていうとな」
そして、そのエネルギー反応の場所は急激にその温度を下げていく。
「アイツはまだ終わっていない」
ついに、簪が沈んだ場所の海は凍りつき始めた。
音を立てて凍りついていく海。
そこはさながら北極のように氷に覆われていく。
そして、その氷が中心から音を立てて割れる。
氷が舞い散る中、凍てついた氷海から現れたのは――鳳だった。
機体のカラーリングは灰色から、
機動性上昇のためにか、六枚三対のウイングスラスター。
その手に持つのは白銀の薙刀「白牙」。
その姿こそ、簪の打鉄弐式の第二形態。名前を――
「氷の鳳――氷凰(ひょうおう)!」
その光景に刀奈は驚く。
「
刀奈が驚いている中、簪はスカート状の装甲を切り離す。
すると、それらは自動で動きだし刀奈に殺到する。
可変ビット《ランダム・ストライク》
五基搭載されたビッド兵器。
ソードモードとガンモードに形態移行ができる。その名の通りランダムに攻撃するのでパターンは存在しないので攻略は不可。
もっと言うと動かすが早いため、攻略するためには本体を早く倒したほうがいいといえるほどの素早さを持つ。
「ビッド兵器って、また厄介なものを!」
変幻自在の攻撃に刀奈は追いつめられるが、水を操り何とか迎撃していく。
しかし、
それは自分がロックオンされたというものだった。
ここに来て刀奈は自分の失敗に気が付いた。
簪の武装の中で最も厄介なのは、マルチ・ロックオンシステムを搭載した多核弾頭ミサイル「山嵐」だ。
それを知っていた簪に対して近接戦闘しかしてこなかったし、離れたとしても、使う余裕をなくすために「ヘイルレイン」で牽制していた。
だが、ここでビッド兵器に気を取られたために使う時間を与えてしまった。
「氷山、ターゲットロック。全砲門開け」
ウイングスラスターが開き、八問×六基のミサイルが顔を見せる。
「この氷山に飲まれて、凍れ」
発射される、全48個ものミサイル。
刀奈はそれをどうにか避けようとするが、マルチ・ロックオンシステムにより刀奈の動きに合わせて動くミサイルから逃れることはできずに、一発被弾しそうになる。
それを蛇腹剣で防ぐが、ミサイルが爆発した個所が凍りつく。
「な!?」
「氷山」は「山嵐」とアイス・クリスタルが融合したもので、アイス・ナノマシンを圧縮したミサイル弾頭を発射するのだ。
そのまま、刀奈はミサイルに飲み込まれ、海に落ちた。
全てのミサイルが爆発した後、そこには巨大な氷山が残っていた。
「はあ、はあ」
簪は緊張の糸が切れたのか、荒い息をつく。
いきなり、新しい武装を使ったことでかなり疲れたようだ。
「ランダム・ストライク」と「氷山」はともにかなりの演算をこなすので、操縦者にもかなりの負担がかかる。
とはいえ、刀奈に勝ったという興奮に簪は少し気が緩んでいた。
しかし、
「まだだ」
隣にやって来た和麻の言葉が簪の耳に届く。
「どういう・・・?」
簪が聞き返そうとした瞬間、
ピシリッ
何かが割れるような音がした。
ピシリピシリッ
それは氷山から聞こえてきた。
ピシリピシ・・・
そして、氷山が爆発した。
「きゃっ!」
簪は驚いて顔を覆う。
そして、氷山のあった場所に目を向けた瞬間、そこには・・・
三メートルはあろうかという、漆黒の大剣をその手に持った刀奈が佇んでいた。
「断ち斬りなさい、サンダルフォン」
氷凰
風宮祐人が簪のために打鉄弐式を改修した機体が、セカンドシフトした第三世代型IS。霧纏の姫君に対抗するためにアイス・クリスタルを追加装備扱いで搭載していたが、セカンドシフトしたことで完全な固有武装になった。
追加武装
・氷結ミサイル《氷山》
山嵐のミサイルポッドにアイス・クリスタルが融合した大型の六枚三対のウイングスラスター。アイス・ナノマシンを圧縮したミサイル弾頭を発射する。山嵐の機能は健在。
・対艦薙刀《白牙》
薙刀。超高周波振動だけでなく、冷却機構も施されている。
・近接ブレード《氷牙》
日本刀型の近接ブレード。白牙と同じ機能を持っている。
・可変ビット《ランダム・ストライク》5基搭載
スカート状の装甲についているビッド兵器。ソードモードとガンモードに形態移行ができる。その名の通りランダムに攻撃するのでパターンは存在しないので攻略は不可。もっと言うと動かすが早いため、攻略するためには本体を早く倒したほうがいいといえるほどの素早さを持つ。