「キンジ!今は炎を押さえろ。ここで消耗してはだめだ」
「分かった!」
兄さんの言葉に従い、炎の精霊に落ち着くように呼びかける。
すると、俺の体を包んでいた焔は収まった。
「いいか、キンジ!炎術は最後の奥の手にしておけ!今の俺たちの手には
叫びながら疾走する兄さんの胸と背中から流れ出た鮮血の量が、刻一刻と増えていくのが見える。
(――兄さん――!)
弱気になりそうになるのを振り払う。
舞い散るダイヤモンドダストをかき分け、流氷の海を疾走しながら、上空で響く爆発音を耳に拾う。
(――和麻、勝てよ――!)
兄さんと親友のことを思いながら、流氷を渡り終えて、俺と兄さんはイ・ウーの艦橋に降り立った。
「――風牙・十六式――!」
蒼風に染まった風で風牙の十六連撃を放つ。
刀奈はそれに対し、両手に展開した蛇腹剣「クリスタルクレール」に水を纏わせて、防ぎにかかる。
むろんそんなもので神風を防げるはずはないのだが――
「防いでくるしな~」
どうにも、あの水はただのナノマシンを含んだ水というわけではないようだ。
まさかとは思うが・・・
「確かめてみるか。シャーリーズ!」
俺の意思をすぐさま汲み取ったシャーリーズは、その大きさを小さくしていく。
大鷲の二倍くらいの大きさになったシャーリーズは俺の肩をその爪で掴み、そのまま飛行する。
これで空中戦がかなりやりやすくなった。
そのまま、刀奈に向けて飛ぶ。
俺の魂胆を読み取ったのか、さっき風牙を防ぐために伸ばしていた蛇腹剣を引き戻して剣の形態に戻すと、俺の二刀と斬り結ぶ。
「うおおおおおっっ!!」
「はあああああっっ!!」
俺たちは斬り結びながら、時に刃をぶつけ合いながら空を縦横無尽に駆ける。
「ISのパワーアシストに拮抗するなんて、本格的に人間やめたんじゃないの!」
「自分の周りの空気を操ればこれくらいできる!」
ちなみに、俺はとあるライトノベルで読んだ、窒素を操る超能力者の女の子の真似をやってみたら意外にできたから使っている。日本のラノベマジやばいと感服したぜ。
そうこうしているうちに、高度が下がり始め、海面すれすれまで来てしまい、そこでいったん離れる。
その瞬間、刀奈は蛇腹剣を収納し、弓「ヘイルレイン」を展開。
「疾っ!」
高密度ナノマシンの矢を三連射で放ち。
「覇っ!」
俺も穿牙・九連で迎え撃つ。
以前は九本の矢を一つにまとめていたが、今回は三つの矢を一本にすることで三つの槍となり、迎撃する。
水と風はぶつかり合い、互いに消滅する。
「ようやく分かったぜ」
そして、俺は今までの戦闘から確信を込めて言う。
「あら?何がわかったのかしら?」
それに対し、刀奈はまるで面白いものを楽しみにしているような顔をする。
「お前――水術師だろ」
俺たち遠山兄弟とシャーロックの戦い。
それは人知を超えたものになっていた。
「っ!!」
兄さんが
もはや神業ともいえる16連撃の『
しかし、その全ての銃弾がシャーロックの手前で火花を散らして弾かれる。
同じ、16連撃の『
「うおおおお!!!」
俺はヒステリアモードの反射神経で、思考するよりも先にベレッタの
『
見る見るうちに、イ・ウーの甲板上では32発――64発――100発を超える拳銃弾のが激突し合い、無数の火花を散らしていく。
名づけるなら『冪乗弾幕戦』――!
史上初の『銃弾の弾き合い』による射撃の応酬戦だ。
しかも、俺たちはその中でシャーロックに向かって疾走する。
詰まっていく敵との距離、累乗数的に増えていく空中の銃弾。
それらの処理だけで頭がパンクしそうだ。
だが、恐れることはない。
銃弾のハリケーン。その暴風域を駆け抜ける。
なんて戦いなんだ・・・!これがイ・ウー―――俺たちの戦っている場所。
全力のヒステリアモード、その上を行くヒステリア・ベルセでも限界になりそうだぜ。
だが、あきらめない。
阿修羅の様な兄さんの姿を見て、驚いているアリアを見ながら思う。
必ず、お前のところに行く。行ってそして、
「奪ってやるよおぉぉぉぉ!!!!」
咆哮する。そして、俺は『
今度は、銃が使い物にならないように精霊たちに頼む。
精霊たちは俺の意思をくみ取ってくれたのか、ベレッタを傷つけることなく炎を爆発させ、銃弾を加速させる。
それはシャーロックの銃口に迫るが、突如として拳銃を包み込んだ炎により一瞬にして蒸発する。
だが、その瞬間を狙って兄さんの16連撃の『
まるでビリヤードのキャノンショットのように弾かれた無数の弾丸が迫るが、奴が腕を一振りした瞬間に、煌いた閃光が全ての銃弾を
「なっ!」
俺だけでなく、兄さんも驚く中、奴はその胸を大きく膨らませる。
「――!」
あれは!
横浜でブラドが見せた――『ワラキアの魔笛』――!
――ヴィアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!
シャーロックの
なんて衝撃だ。ブラドを超えていやがる!
これを食らえば、ヒステリアモードが解除されてしまうので、俺はとっさに耳をふさぐ。
やがて、大音響が収まったのを確かめた俺は、自分の血流を確認する。
・・・よし、大丈夫だ。ヒステリアモードは解かれていない。
ふと、兄さんの方を振り返ると・・・兄さんは耳から血を流して、倒れていた。
「お前が最初に防いだ風牙・十六式。あれはISなどに防ぐことはできない。なにせ、蒼風となった風はただの風じゃない。俺の意思が宿った高エネルギーを持った風だ」
精霊魔術に必要なのは、揺るがない意思だ。
炎術に例えると、術者が水を燃やすと強く思えば精霊はその意志を読み取り、水を燃やす。
そして、風牙には俺の斬り裂くという意思が込められ、それを受けた精霊たちがそれを実行しようとする。
それを防ぐには、蒼風を超えるエネルギーをぶつけるか、俺の意思を超える精霊魔術をぶつけるしかない。
前者ではさっき防いだことが成り立たない。あの量の水で、ナノマシンで蒼風を防げるようなエネルギーがあるわけがない。
残るのは後者だけだ。
俺の意思を超える意思を込められた水。それを操るこいつは――
「水の精霊魔術を扱う、水術師だ」
俺の答えに刀奈はしばらく沈黙していたが、
――パチパチパチ――
両手に装甲を消して、俺の答えをほめるように拍手をする。
「大正解よ。流石は探査に優れた風術師。いまのって推理だけじゃなくて、風に探らせたことからも確信を得たんでしょ?」
「まあな。にしても、キンジといい、シャーロックといい、お前といい、何で今まで確認されなかった精霊魔術師がこんなに立て続けて現れるんだ?」
おかしな話だ。
精霊魔術はとうの昔に無くなった魔術だと聞いたし、事実、俺も出会ったことはなかった。それがこうも立て続けに出てくるなんておかしすぎる。
少し探りを入れてみるか。
「・・・なあ?」
「何かしら?」
「お前・・・何か知っているだろ?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばらく見つめ合う。根拠はない。だが、彼女は明らかに何かを知っているかもしれない。
その沈黙を破ったのは・・・ボストーク号の方から放たれた衝撃波だった。
「くっ!」
それにバランスを崩してしまうが、すぐに立て直す。
だが、目の前に迫るランスに俺は必死に回避行動をとる。
「ちいっ!」
交差した二刀でランスを受け止め、押し込められてくるランスに耐える。
「・・・確かに私は知っているわ」
そんな俺に刀奈は話しかけてくる。
「何が起きようとしているのか。これから世界がどうなるのか。でも、私はしゃべるつもりはない。知りたいのなら――」
「力づくってか!上等だ!!」
二刀を振り抜き、距離を取る。そのまま再度突っ込もうとするが・・・。
「・・・おい、どうやらもう一人、参戦するみたいだぜ?」
俺は刀奈の後方を指さす。
彼女もそちらを振り向き、目を細める。
「・・・あの子、一体何をしに来たの」
「さて、な」
俺にはなんとなくわかるが、あえて言わない。さっきのお返しだ。
俺が指差した先、そこには三機のヘリとそこから飛び出してきた、一人のISを纏った少女がいた。
刀奈と同じ、水色の髪だが、ロングヘアーの刀奈と違い、セミロング程の長さで内側にはねており、特徴的な髪飾りをしている。
眼鏡をかけたルビーレッドの瞳には、見た目の大人しい雰囲気には似つかわしくない、強い決意の色が見える。
そして、彼女のまとうISもまた、以前の物とは少し違っていた。
その少女、更識簪は右手に展開した薙刀『夢現』を構えながら、やがて俺たちの前に降り立った。
「・・・お姉ちゃん」
静かな、しかし強い決意を宿した声だ。
「・・・何をしに来たの」
「あなたを、連れ戻しに来ました」
「連れ戻す?一体どこに」
「私たちの、更識家に、です」
そんな簪の言葉に刀奈は、
「はっ」
笑いをもらす。
「あは。あっははははははは!!!連れ戻す?更識に?あはは!!面白いことを言うじゃない。笑える冗談ね!」
「冗談じゃ、ない。私は、本気」
笑い始めた刀奈に簪は動揺しない。
「あはは・・・そう」
やがて、笑い終えた刀奈は海水の水を操り、自分の周囲に展開する。
「だったら、証明してみなさい。あなたの、その思いを」
ランスを構える刀奈。
「言われなくても、そのつもり。叩きのめして、引きずって、帰る!」
それに対して簪も薙刀を構える。
「あなたにできるのならね!」
「倒して、連れ戻す!」
ここに、壮絶な姉妹喧嘩の幕が切って落とされた。
いつもより短いですが、ここまでです。
最近、コミカルな更識姉妹が出てくる作品が多いですが、この作品ではずいぶん先になるでしょうね・・・・。