緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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蒼風

ピラミッドの内部は分かれ道だらけの迷路みたいになっていたが上に向かう正しい道順が篝火で示されていた。

どうにもパトラは俺たちを招き入れるつもりらしく、上に上り詰めた先には象形文字(ヒエログリフ)で『王の間』と書かれた扉が現れた。

 

「キンちゃん、ここだよ。ここにパトラがいる。アリアも一緒に・・・!」

 

白雪は、普段その高すぎる魔力を押さえている頭の封じ布を取る。

扉は、触れてもいないのにひとりでに開いた。

そこから見えた部屋の内部は――何もかも黄金でできた広間だった。

奥の方には、アリアを収めた黄金筆がスフィンクスの像の手元にあった。

そして、その奥の黄金の玉座に――パトラが座っていた。

俺たちはその中に踏み込んだ――!

 

 

 

氷の海。

全てが凍てついた氷海の一角に、流無は座り込んでいた。

 

「さてはて。すっかりふさぎ込んでいるわね」

 

そこにやって来たのは流無と似た、否同じ体つきをした少女、楯無。

唯一の違いは髪の長さと瞳の色だ。

 

「・・・わたしは・・・許されない」

 

「・・・」

 

流無の口から紡がれるのは、懺悔の言葉。

それを黙って楯無は聞く。

 

「・・・簪ちゃんを・・・守るのが・・・私の役目だったのに。それを忘れて・・・あの子につらい役目を押し付けて・・・つらい目に合わせて・・・・・・みんなにも迷惑をかけて・・・・・でも、戻りたくない。自分が自分でいられない、あの家には、戻りたくない・・・・武偵高にいたい・・・でも・・簪ちゃん達を放っておくなんて・・・」

 

記憶を取り戻した流無の心の中は様々な思いでぐちゃぐちゃになっていた。

更識家当主としての責任感。

妹を護るという姉としての誓い。

普通の女の子として自由に生きたいという思い。

妹に役目を押し付けてしまった罪悪感。

それらが溢れてきて、何をどうすればいいのか、分からなくなっているのだ。

周囲にブリザードが吹き始め、世界はさらに氷に閉ざされていく。

 

「このまま、世界が凍り付けばあなたは永遠に閉じこもってしまう。そうなれば私が主人格として、肉体の権利を得る」

 

楯無は踵を返して、流無のもとを去っていく。

 

「・・・」

 

それを流無は止めない。止める気力すらない。

流無の心はもはや限界だったのだ。

いかに修業で精神を鍛えていようと、大きすぎる事実を一度に知ってしまったら耐えきれるようなものではない。

特に、普段は軽いノリをしているが、流無は誰よりも優しく、周りの人間のことを考えている。

そんな流無にしてみれば、自分が記憶を失い、和麻たちと武偵高で楽しく自由に過ごしている間に、大事に思っていた簪たちが苦しんでいたという事実は耐えられない事だったのだ。

しかも、自分の記憶から楯無という別人格が生まれ、彼女が簪を傷つけたことにも罪悪感を持ってしまっている。

 

今、流無の心は完全に閉ざされようとしていた。

 

 

 

都内のはずれに存在する広大な面積を持つ武家屋敷の様な屋敷。

それこそが更識家の本家だ。

今、その本家では大騒ぎになっていた。

更識簪が大号令を発したためである。

 

「簪様、ヘリの準備整いました」

 

「ありがと」

 

IS学園の制服から、動きやすい黒装束、更識家での仕事服に着替えた簪に祐人が準備完了の報告をする。

 

「行くのですね」

 

「うん。もう逃げないって決めたから」

 

簪たちは和麻での見舞いから、すぐに戻り出撃の準備に取り掛かった。

全ては、更識楯無の元に向かうために。

 

「政府には連絡した?」

 

「はい。結華がいろいろO・HA・NA・SIしたら許可をいただきました」

 

「グッジョブ」

 

簪の頭にあるのは、先ほど文字通り病院から飛び出した和麻の姿と言葉だった。

蒼き鳳を従えながら和麻は

 

『取り戻す。奪い返す。ただ、それだけだ』

 

と言った。

その迷いのない言葉、強い意志を宿した強い言葉に簪は見惚れた。

 

「行こう。私たちの家族を取り戻すために」

 

 

 

ジャンヌから借りたデュランダル(イロカネアヤメはパトラに盗まれていたらしく、手元の無かったため)を構えた白雪が、パトラの操る砂金による変幻自在の攻撃に耐えてくれている間に、スフィンクスの元に向かいアリアを助けようとするが、無限の魔力を持つパトラは俺の動きを足止めし、殺そうとしてくる。

さらには、恐竜みたいにデカいスフィンクスまで動きだし、棺に近づいた俺に襲い掛かってきた。

拳銃一丁とナイフ一本じゃ、どうあがいても勝てそうにない化け物に俺が愕然としていると――

 

星伽候天流(ほとぎそうてんりゅう)、奥義――緋緋星伽神(ヒヒホトギカミ)双重流星(フタエノナガレボシ)――!!」

 

白雪が取り戻したイロカネアヤメとデュランダルを十字にクロスさせるように、渾身の力を込めて振りかぶる。

二本の刀剣から放たれた真紅の光が俺の頭上をかすめるようにして跳び、スフィンクスの首に激突。

爆炎を巻き起こしてスフィンクスを破壊する。

よし、なぜだかわからないがあれだけの爆発でも熱くない(・・・・)

あと、一歩、一っ跳びでアリアの棺に届く。時間はあと――約五分――!!

 

「止まらんかぁ!トオヤマキンジ!さもなくば、この女をミイラにするぞ!」

 

「何・・・!」

 

パトラの言葉に振り返った俺が見たのは、パトラに踏みつけられている白雪!

しかも、倒れた白雪からしゅう、しゅうう・・・と、水蒸気のような煙が上がり始めている。

 

「人体とは水袋のようなもの。妾はその水を抜き取る聖秘技(わざ)をもっておるでの」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

苦しげな白雪の声に――

 

「ま、待てパトラ!」

 

俺は拳銃を足もとにおく。

置かざるを、えない。

だが、諦めるもんか。約束したんだ。アリアを助けて、無事に戻るって。俺も白雪もアリアも、全員無事で戻るってみんなに約束したんだ!

何とかして、突破口を探ろうとするが、俺の身体からも、シュウ・・・シュウ・・・と煙が上がり始めた。

 

「ほほ。大した2人組ぢゃったのう、お前たちは。スフィンクスを壊し、棺に迫るとは。しかし、所詮それは、人の技。神より力を授かりし妾には、絶対に勝てぬ!立体魔法陣(ピラミッド)と共にある妾の力は、無限!無限にそなたら有限は、勝てぬ。それが道理ぢゃ。お前等がやろうとしたことは、道理に逆らう――無理。無理無理無理無理、無理ぢゃったのよーぅ」

 

うるせえよ。

そんなこと知ったことじゃない。

俺は、俺たちはそんなくだらないこと(道理)で止まるなんてことはありえないんだ。

それにな、パトラ。俺は四月にアリアに言われてんだ。――ムリ・疲れた、めんどくさい、この3つは人間の持つ無限の可能性を自ら押しとどめる、よくない言葉だってな!

だから、諦めないし、無理なんて絶対に――ないんだ!

 

がんっ!

 

その音はピラミッドの外から聞こえてきた。

のどが渇き、眼球からも煙が出てきて前が見えなくなってきた視界の中で、何かがピラミッドを上る音が・・・近づいてきている?

 

「――!?」

 

そして、俺の背後でガラスの音が割れる音が響く。

そこからはいてきたのは、赤く着色されたオルクス潜航艇――!

パトラが驚いて集中力を切らしたせいか、俺と白雪の身体から上がっていた煙が止まる。

 

「じゃあ――」

 

俺のそばに停止したオルクスのハッチが、開いている。

 

「もう少し、無理させてもらおうかしら」

 

俺のベレッタか何かに盗聴器でもしかけていたのか、会話を盗み聞きしていたその人物、それは――

 

「・・・トオヤマ、キンイチ・・・いや、カナ!」

 

カナ!

俺が気づいた瞬間、砂金のナイフがオルクスに殺到するが、一瞬でハッチから飛び出した、武偵高の女子制服のカナは、長い三つ編みを翻し、

 

パパパパパパッ!

 

6つの光を、閃かせる。

不可視の銃弾(インヴイジビレ)。その、6連射(ファンショット)だ。

それをパトラはバク転して躱すが、降り立ったその膝に・・・一筋の血を流している。

着陸したカナは、何も言わない。

でも、わかる。

今、パトラに発砲したことで、アリアを殺さず、イ・ウーと戦う、俺の『第4の可能性』にかけてくれているんだな・・・!

 

「さて、最後の役者も登場したことだし、派手にいきましょうか」

 

最後の役者?

俺だけじゃなく、パトラまでカナの言っていることがわからないという顔をした、その時――!

 

ドオオンッ!!

 

今度はピラミッドの天井を突き破り、何かが中に入ってきた。

 

「ま、まじかよ・・・!」

 

あまりに場違いなその存在に、俺だけじゃなくパトラも、白雪も呆然とする。

 

「これは流石に予想外だったわね」

 

あのカナでさえ、驚いている。

なにせ、入ってきたのは巨大な鳥だったのだ。

蒼い体を持つ、全長3メートルはあろうかという鳳がピラミッドの中を悠然と飛行している。

やがて、鳳は舞い降り、その背中から飛び降りたのは――

 

「さて、苦戦しているじゃないかキンジ?」

 

八神和麻。

俺の、俺たちの仲間だった。

 

「――シャーリーズ――!」

 

和麻の呼びかけに、鳳はその姿を風で包む。

やがて、その風がはれた後には鳳の姿は無く、一人の女の子がいた。

触れれば壊れてしまいそうな白くてきゃしゃな体に、長い黒色の髪。その体を包み込むのは漆黒のドレス。

目が釘付けになること間違いなしの、神秘的な雰囲気を持った美少女だが、そんな美貌に合わせて目を引くのは、その背中にある蒼い翼だ。

まるで天使の様な翼。

その翼が、彼女をより神聖なものに見せている。

 

「シャーリー」

 

和麻が再度、呼びかけると、少女はドレスの裾を持ち上げて優雅に礼をする。

 

「はい、カズマ。私はあなたの刃。あなたの望むままに――」

 

そう言うと再び風に包まれる。

今度は風が和麻の手に収束していく。

風は、やがて、あるはずのない形を取り始める。

現れたのは、一振りの刀。

どこまでも広がる大空のように透き通った蒼い刀身に、流れるような装飾を施された大刀。

 

「――蒼穹覇王――。風の神器だ」

 

和麻はその刀、蒼穹覇王を振り上げ――

 

「避けろよ」

 

振り下ろした。

 

 

その瞬間、風が、すべてを吹き飛ばした。

 

 

砂も、オルクスも俺の身体さえも吹き飛ばした。

あまりにすさまじい風にパトラも周囲の砂金を集めて防御するが、防ぎきれずにごろごろ転がっていった。

そして、アリアの入った柩さえも。

 

「アリア!」

 

柩の蓋は少し傾いており、中にはパトラと同じ衣装を着せられたアリアが眠っていた。

吹き飛ばされて、そのまま床にぶつかるかと思われた俺の身体は、まわりに吹き始めた風に包まれ、ゆっくりとアリアの近くに運ばれた。

 

「キンジ!私があげたナイフは持っているわね。あの、緋色のバタフライナイフを」

 

何事もなかったかのように着地したカナが俺に呼びかける。それに俺は頷く。

 

「あのナイフを持ったまま、アリアに口づけしなさい」

 

・・・はぁ!?

く、口づけってなんだよ!?

なんで、瀕死のアリアにそんなこと・・・!!?

 

「カナ!」

 

俺が戸惑っていると和麻がカナに話しかける。

 

「キンジとアリアがいちゃつけばアリアは助かるんだな!具体的にはキス!ディープな方で」

 

「そうよー」

 

「んなわけあるかああああ!!」

 

何なんだよお前は!やっと目を覚ましたと思ったら平常運転だな!

 

「さっさとキスして来い、キンジ。カナはパトラ、俺は――あいつの相手をしなきゃならないんだ」

 

「あいつって、誰だよ――」

 

俺の言葉と同時に、まるでタイミングを見計らったかのようにまたまた天井から何かが落ちてきた。

それは2体の鬼を従えた――

 

「おにーちゃん!今度こそ、逃がしませんよ!」

 

和麻の妹、土御門遥香だった。

 

 

 

「さあ、今度こそ私といっしょに、ずっと一緒にいよう。おにーちゃん!」

 

2体の鬼を従え、手を広げながらそう言う遥香。

見てみると周りには覇軍も出現し始めている。おそらくパトラの立体魔法陣(ピラミッド)に接続して、魔力を分けてもらっているな。

ほんと、お前は天才だよ。遥香。

陰陽術と魔法の融合。

こんなこと、何年、何世代かかるかわからないのに。

もっともこれは才能だけじゃないな。

俺への思いもあるのだろう。俺への強い思いが、その力を与え、同時にお前をゆがめてしまった。

だったら、俺は・・・。

 

「シャーリー、あれをやる」

 

(「いきなりやるの?大丈夫?」)

 

「ああ、問題ない」

 

狙うは、前鬼と後鬼、覇軍。

さっきの一撃で少し、この船は軋んだ音を上げた。だから、性格にあの2体を撃ち抜き、覇軍を吹き飛ばす必要がある。そのためには――

 

「蒼穹覇王――!」

 

蒼穹覇王――精霊王より授かった風の神器。

それが一度、形を崩し、再び、再構成される。

現れるのは、漆黒の柄に蒼い刃をもつ槍。

俺はそれを手の中でクルリと回して、構える。

 

「行きなさい!前鬼、後鬼、覇軍!!」

 

2体の鬼と、無数に影の軍勢が襲い掛かってくる。

前鬼はその剛腕を振り上げ、後鬼はひょうたんから水を出して撃ち出す。

覇軍もその手に多種多様な武器を構えて突っ込んでくる。

 

「神風――」

 

俺は気を練り上げ、高めていく。

すると、俺の従えている風の精霊たちが歓喜する様子がわかる。

ああ、行こう。みんな――!

風にあるはずのない色がつく。

それは蒼。

どこまでも澄み渡る大空のごとき――蒼!

その色をした風の名は――

 

蒼風(そうか)――!」

 

撃ち出す。

音は無い。

特別なことは何もしない。

ただ、撃ち出した蒼風は――

 

前鬼の身体をピラミッドの外まで吹き飛ばし。

 

後鬼を水ごとまきこみ。

 

覇軍を打ち上げた。

 

 

 




いよいよチートタグの出番か?
シャーリーの少女形態は「精霊使いの剣舞」のレスティアを想像してください。


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