「ハッハーー!」
襲いかかってきた覇軍に対し、両腕に三本ずつブレードを展開、両腕をナックルのような形にした仭は、上等とばかりに突っ込んだ。
そして返り討ちに――あったりなどせず、むしろ覇軍の群れ相手に蹂躙し、どんどん遥香へと近づいていっていた。それもそのはず、覇軍は遥香が言ったように、一体一体の実力は低い。
しかしそれでも武偵たちが苦戦したのは、ジリ貧になるためであり、再生もするため、武偵が何人もいても苦戦したのだから、まさしく数としては最強の式神である。
そのため、いかに仭が三百体全ての覇軍を相手をしているわけでなくとも、苦戦するのが普通であった。
しかし今の仭は苦戦する様子もなく、むしろ当初の策通りに、どんどん遥香へと近づいていっている。
それの理由はまず単純に、仭が近接戦が得意だということ。そして仭がISを纏って特攻しているためである。
エネルギー量は、単純に物体の重さ×速さ(正確には違う)。
現在仭はあくまで
眼の前に立つ敵はすべて斬り裂き、特攻する。
普通では自殺行為でしかないこの行為が、仭にとっては最善の策であった。
なお、当然前のみの敵に集中しているので、幾分かは横からの攻撃を仭は受けているが、それは普通に無視している。
攻撃をくらえば、エネルギーに転換してしまうので、生半可な攻撃も専用機を纏った仭にとっては逆効果でしか無い。
「前鬼!」
「とうとう貴様か、巨人!」
覇軍の群れの中心で、たたずんでいた赤き鬼――前鬼が、遥香の指示によって仭の前に立ちはばかる。
斧をすでに失っている前鬼は、その拳で仭を殴り飛ばそうとするが、それに一足早く気付いていた仭は、地面に脚で踏ん張っていて、前鬼の拳が当たる範囲に届く前に、完全に止まる。
「GYAAAAAAAAAAA!!」
「速っ!」
前鬼はその巨体で圧倒するように、完全に止まった仭へと突っ込む。(覇軍はすでに前鬼の前線から離れている)
止まっていた仭は、前鬼が突っ込んでるよりも早く行動を起こしており、ナックルのような形で、左腕に付けていた二本のブレードを右手で刀身を持って引き抜き、そのブレード以外は収納。そして二本のブレードをそれぞれ左指に挟むような形にして、構え直した。
「なんですかそのおかしな持ち方は?突くのに使うとしても、前鬼にはまったく効きませんよ!」
その様子を見ていた遥香は呆れたように、呼びかける。
「突く?違うな。この構えでは・・・」
完全に仭へ近づいた前鬼は、右の拳で勢いよく殴りかかろうとする。が
「!」
「相手の攻撃を受ける。いや、流す」
左指で挟んだ二本のブレードが、前鬼の腕に添えられていて、仭の身体は前鬼の殴ったであろう右拳の横にあった。
そしてブレード二本を収納した仭は、そのまま前鬼をすり抜ける。
「
「!?」
仭は再び遥香の元へと特攻するかとおもいきや、IS機体の背中から先端に尖った刃物付きの鎖を、八つ出出して、前鬼の両腕、背中、首など上半身に鎖の先端の刃物をそれぞれ突き刺した。
「リベンジクラッシュ!」
する機体が発光し始め、そしてその光が鎖を通して、前鬼の上半身へと移っていく。
「GUOOOOOOO!!!!!」
「前鬼!?」
すると光が前鬼の上半身へと移っていくたびに、前鬼のその強靭な肉体に変化が訪れ始める。
その力強く太い両腕には、さらに筋肉が盛り上がっていて、屈強な上腕筋にも筋肉が盛り上がって、頑丈そうに見える、少し経つと光が完全に前鬼へと移っていて、その上半身が発光していた。そして上半身は前鬼の屈強な肉体が確実に強化されていると、誰が見ても明らかであった。
「クク」
鎖を前鬼の上半身から引きぬいた仭はそれらを機体内へと収める。
「GYAAAAAAAAAAA!!」
後ろへと振り向いた前鬼は、その強化された腕を振りかぶって、仭に向けて殴りかかる。
しかしそれは仭が遥香へ突っ込んだことで空振り、地面に触れる。
その瞬間ドゴォンと、地面が大きな音を立てて陥没した。
「ノロマが」
「・・・なるほど。前鬼の肉体を強化させたのは、そのスピードを殺すためですね。けど、前鬼がやられたわけでもないし、まだ後鬼や覇軍の群れがいるんですよ!」
そう遥香が叫ぶと共にすぐ横の後鬼が持つ瓢箪から水が溢れ、仭へと龍のように襲いかかる。覇軍の方も仭の逃げ場をなくすためか、遥香の前(水が襲いかかってるため)を除いて仭へと跳びかかる。
「はっ」
それらを仭は一言で一蹴。片脚を軸にしてそのまま駒のように回転。そして脚で覇軍を蹴り飛ばしていく。
ある程度蹴り飛ばすと、仭は回転を停止。今度は脚を構えて、水の龍に向かってボールを蹴るような形でエネルギーの斬撃を放った。
それは水の龍へとぶつかると、その熱によって二つの攻撃は相殺され、辺り一面煙に包まれる。
「小賢しいですよ。視界を封じることなんて私に効きません」
「たまたまこうなっただけだ」
そう言いながら仭が煙を突っ切って飛び出してくる。
春ァへの距離もほとんどなくなってきていた。
「後鬼!」
後鬼が持つ瓢箪から再び水が溢れ、今度は激流として仭へ襲いかかる。
「ふん」
仭はその場で止まって、鎖を背中から再び放出し、前に構える。そして鎖からエネルギーを放出するとそれらは集束していって、仭の前に壁としてできた。そしてその壁は水の激流を防ぎ、仭の近くにいた覇軍の方も激流に巻き込まれていく。
少し経って激流が止まり、仭の前にある壁も消え去ると
「ふふ」
遥香は微笑んでいた。
「!」
仭はそれになんかを察したかのように、ハイパーセンサーで後ろを見る。
そこには上半身が発光して、その強化された肉体をよくアピールするかのようにしている前鬼が立っていた。
仭が後鬼の激流を防いでる間に、ゆっくりとだが前鬼は人へ近づいていたのだ。
しかし前鬼のその巨体ゆえに足音くらいするものなのだが、それは激流の音によって消されていた。
つまり遥香の目的は、後鬼の瓢箪から出した水を激流へと変えて、仭の動きを制限させる。その間に前鬼を後ろから近づかせて、その強化された肉体による攻撃で終わらせようとしていたのだ。
「いかに攻撃速度が遅くなろうとも、あなたはもう終わりです!」
前鬼が仭へと上から殴りかかろうとしていて、仭は逃げようとしようも前と左右から後鬼の瓢箪から出た水が壁となっている。これを無視して突っ込めるほど強度は弱くなく、ISの補助があろうとも押し戻される強度であった。瞬時加速でぶち破ろうとしても、発動準備する時間はすでにない。
仭の後ろは前鬼が道を塞いでいる。
前後左右上下、完全に逃げ場を失った仭。その表情は死を覚悟した――
「ふっ」
「!?」
表情ではなく、策にかかったとばかりに、笑っていた。
「G、GU・・・!」
「前鬼!?」
あと少しで仭をミンチにできる前鬼の拳が止まった。前鬼自身の動きも止まっている。
「・・・そういえば、この巨人を強化したのはスピードを殺すためだと貴様は言ったな」
「!」
この状況に特に疑問も持ちもせず、仭は語る。
そしてにやりと笑って
「馬鹿が。前鬼のスピードを殺すためだったなら、下半身にもエネルギーを送り込んでるぞ」
「G、GUOOOOOOO・・・!!」
前鬼は急に苦しみ始めたかのように、苦悶の声を上げ始める。
それと共に前鬼の上半身が、熱湯に加熱をさらに加えたときに起こる泡の状態のように、ボコボコ膨らみ始め
「はじけろ」
「GUAAAAAAA~~~~~!!!!!」
「前鬼!!???!!!!」
そしてポップコーンのようにはじけ、その肉体は完全に肉片となって、辺りに飛び散った。
突如、前鬼の上半身がすべてはじけ飛んだのを見て、信じられないとばかりに遥香は驚愕の声を上げる。
「ふん」
前鬼が肉片となって、飛び散ったのに対して仭はなにも言わず、上空へと回転しながら飛ぶ。
「残りも消えろ」
そう言って両手に短剣を展開して、前鬼の唯一残った両足に投擲。短剣は爆発を起こして、両足を巻き込み、完全に仭は前鬼の身体と呼べるようなところをすべて消し去った。
「あ、あなたどうやって前鬼を・・・!」
「知る必要はない」
「!」
地面から少し浮いたところで、仭は止まると短剣を後鬼に投擲した。
「後鬼!――しまった!」
それは後鬼に当たると爆発して、ひるませる。
思わずそれに釘付けになった遥香は、自身に迫る脅威に気付くのが遅れた。
遥香の前に立ちはだかる覇軍らを、瞬時加速による突進で仭は吹き飛ばしながら、遥香へと近づいていっている。
「終いだ」
そして瞬時加速がちょうど切れると、仭は遥香の目の前にいて、そのまま遥香を地面へ叩きつけようと、ラリアートをかけた。が、
「!?」
遥香の後ろからの攻撃。それも激流で、仭は不意を付かれたのもあって水の勢いに負け、吹っ飛ばされる。
「――っと!あの程度ではひるまなかったか・・・」
吹っ飛ばされた仭は、ある程度離れた所で体勢を立て直す。先ほどの攻撃は後鬼の瓢箪から溢れでた水だった。
「・・・ようやくわかりました。前鬼がなぜ吹き飛んだのか。前鬼は自爆したのですね」
(気付いたか・・・)
仭が先程前鬼にした攻撃?、リベンジクラッシュは、蓄えたエネルギーを鎖で突き刺して、相手に送り込む武装である。
前鬼が吹き飛んだのは、これによるせいだ。
ざっくり言ってしまうと、遥香の言ったとおり、前鬼は自爆した。
この武装はエネルギーを送り込んで、その者?の持つパワーを増幅される。
そうなれば当然強化することになり、攻撃を食らえばダメージも上がる。前鬼のパンチによって地面が大きく陥没したのが例だ。
だが、延々とパワーが増幅されすぎたために、前鬼は自爆した。
例えるならば、風船に空気を入れすぎれば、破裂する。これの原因は限界以上に空気が入ったために、風船のゴムが耐え切れずに破れた。
これと同じような感じで前鬼は、自爆したわけである。(前鬼を風船、送り込まれたエネルギーを空気と例えれば分かりやすいだろうか)
もっともこれは当然ISを纏った相手用で、ISの装甲に鎖を突き刺して本来エネルギーを送り込む。そして武装を自壊させる武装だ。
ただ、操縦者自身に送り込むことはふつうできない。(絶対防御に阻まれるため)
「そうだ。生物に・・・特にあんな巨人に使ったのは初めてだったがな」
「それでも、なんであの時それを使わなかったか気になりますね」
「はっ、あんな肉片が飛び散る様なんざ、教師といえど見たら動きが止まるに決まってるだろ」
そう仭が言う。
これは理由としても合っているが、本当に使わなかった理由は、エネルギーを多く使うからである。
「まあ、どんな理由にしろ・・・後鬼」
遥香が後鬼に呼びかける。
「術式展開――反魂」
「なんだ・・・?」
水がうねり、地面に細い線を引いていく。
それはやがて巨大な円を描き、その中に文字と五芒星の文様を浮かび上がらせてくる。
「!?」
それは術式――陰陽術の発動を意味している。
陣の中から光が漏れ出し、現れるのは、先ほど仭が自爆させた――前鬼。
「おいおいおい、蘇生術まで持ってるのか・・・。さすがは、かの阿倍野晴明が手に入れ、使役したという式神・・・」
復活した前鬼を見て、さすがに動揺を隠せない仭。
「そして・・・」
「!」
さらに仭を取り囲んでいる形でいる覇軍が、地面からさらに無数の影が出現し、仭を取り囲んでいく。
「覇軍の増援・・・?そうか、武偵の探索に行ってた連中?か」
「ええ、そうです。出し惜しみなんてせずに、もうあなたを殺してからおにーちゃんたちを、探すことにします。ここにいる覇軍は三百体全てです。ここまではよくやったと思いますよ」
「はっ、なに俺がここで諦めるような展開になってんだ?数が増えようが、俺のやることは変わらん。大体、数がいようが、ほとんどの覇軍は死兵じゃねぇか」
「・・・・・・」
闘志をまったく失わない仭に対し、遥香はしぶといとばかりにイライラし始める。
たった一人のIS操縦者に、それも最強の式神三体を使ってもまだ仕留められないとなれば、苛立つのは当然であろう。もっとも、和麻たちを探せないという考えの方が強いが。
「バトルの最中、申し訳ないけど・・・」
「「!」」
「お嬢さんに、少年。いったん、収めてくれないかい?」
その声の方角(仭の後ろの方)に、二人は顔を向ける。
そこには声の主のキンジ(ヒステリアモード)、流無、アリア、神楽、理子、不知火、ジャンヌの武偵たちがいた。
「・・・誰だ?」
キンジのことをデータで知っていた仭も、口調の変化に思わずそう呟いてしまった。
「まったく。おにーちゃんがいないなんて・・・どいつもこいつも・・・」
いかにも不機嫌ですという顔を隠さない遥香に流無が苦笑しながら話しかける。
「口調が悪いわよ?それにそんな不機嫌にならないの。義姉さんとしてはかわいい義妹には笑っていてほしーの」
(何を言ってんだか・・・)
黒崎がなんか言いたげだな。
そしてそれに対し、遥香は流無のことを親の仇でも見るかの様な目で見ながら――言い放つ。
「何を言っているのですか?わたしにはおにーちゃんしかいりません。そしておにーちゃんにも恋人などいらないのです。妹の私が責任を持って世話をするのです。そう朝のモーニングコールから始まり朝食のご飯とみそ汁と卵焼きをはいアーンと食べさせ通学も腕を組んで歩き休み時間になればクラスまで出向き変な虫が寄り付かないように目を光らせ昼食のお弁当を食べるために屋上まで一緒に行きのんびりとお昼休みの一時を過ごし放課後も並んで歩いて帰り家についたらお風呂にも一緒に入り背中と前を洗いっこし夕食も食べさせ合い一緒にテレビを見たりして就寝の時間には・・・ポッ」
『・・・・・・・・・』
なにあれ無茶苦茶怖いんですけど。
今、俺は遥香が最初に現れた位置まで戻り、そこで黒崎と戦闘を行なっていた(正確には黒崎と戦っていた式神に指示を出していただが)遥香と対峙する流無、アリア、キンジ、神楽、理子、不知火、ジャンヌの様子をとある場所から気配を完全に隠してみているんだが―――あまりの恐怖に危うく叫びそうになった。
ちなみに現在の状況は遥香の少し離れた前に覇軍に囲まれた黒崎、そして仭のさらに後ろの方に、流無たちという状況だ。
まあ、とりあえず
自爆させたとはいえ、前鬼を倒したのにはさすがに驚いた。コードネーム通りな戦いぶりだった。
しかし覇軍の攻撃も効いてはいるのに、それを無視して遥香に突っ込むとは・・・。
相性があったとはいえ、式神三体を相手にあそこまでやれるとは思わなかった。
で、視線を戻すとああ、まだ何か言ってるよあいつ・・・。
本当に一体何があった妹ちゃん!?
昔のお前はそんなんじゃなかった。俺に向けてくる目ももっと純真なものだったのに、今じゃハイライトの消えた暗い、グルグルした目になっているよ。
そんな目であんなことを休み無しで言って、しかも顔を赤くして体をくねらせ始めたから流無たちドン引きしているじゃん。俺もドン引きしているし。
「・・・」
黒崎が、キンジに視線を送っている。
多分『もう聞きたくない。終わったんなら、攻撃していいか?』と、訴えてるんだろう。
キンジは首を横に振ると、それを黒崎は了承したか再び遥香の方を向く。
それにしても、かなりカオスなメンツだよな。
流無と不知火を除けば、無数の影の軍勢と二匹の鬼を従えた阿倍晴明と向かい合うシャーロック・ホームズ、遠山の金さん、柳生十兵衛、アルセーヌ・リュパン、ジャンヌ・ダルク、それと(コードネームだが)ベルセルクとかカオスすぎるだろ。
「・・・ンンッ!話を始めてもいいか?」
おおっと、キンジが遥香のグルグルした危険思想を止めてくれた。
「君が何の目的で襲撃してきたのか教えてほしい」
キンジの質問に遥香は落ち着いたふうに話し始める。
「そんなの決まっているじゃないですか。おにーちゃんとの触れ合いのためです!具体的には男女のかんk「シャラップ!それ以上は却下!」
とんでもないことを口走ろうとした遥香をアリアが銃声と共に止める。
ありがとうアリア。
「それはなんとなくわかる」
何がわかるだキンジ!?お前にこの恐怖が理解できるのか?
「だが、なぜこのタイミングなんだ?はっきり言ってもっと別の機会があるはずだ。なのに、武偵に加えIS操縦者の多いこの時に君は現れた」
「そうですねぇ、それは・・・・・・・」
遥香は右手をゆっくりと掲げる。
「私に勝てたら教えて差し上げましょう!」
パチンッと遥香が指を鳴らすと、式神たちが流無たちに飛びかかる。
「数人姿の見えない人達がいますが、私の布陣にはどのような策も無意味です!あなた達を這いつくばらせた後に、おにーさまとの甘い一時を堪能します!その後、一緒にイ・ウーにゴールインします!そのためにあなた達、とくに蒼神流無はぶっ飛ばすのです!その水色の髪を血で真っ赤になるまで殴り飛ばしてさらしてあげるのです!」
「怖いわよ!?」
それに対し、流無たちも動き出す。流無があまりの恐怖に叫んでいるけど。いや、ホントごめん。うちの愚昧が・・・。
「俺はこの覇軍の群れを相手するとして、あんたたちにあの女を止めるのは任せる!異論は?」
「ない!」
「了承!」
遥香と流無たちの間にいた黒崎も、近くの覇軍を攻撃し始める。
攻撃の仕方は一人で戦っていた時より、消息的だ。
粗すぎると、覇軍が流無たちの方にまで飛んでってしまい、邪魔になると考えたからか。
「まずは私が行く。神楽、
「了解した!」
ジャンヌと神楽が飛び出し、それぞれの刃を振るう。
ジャンヌのメイン武器だった聖剣デュランダルは魔剣事件の際、武偵高の
達人級の剣技で覇軍を切り捨てるジャンヌに対し、傘から抜いた仕込み刀で斬り裂き、傘で覇軍からの攻撃を受け流す神楽。
ジャンヌが堂々とした力押しの戦い方に対し、神楽の剣技は敵の隙を突き死角から一瞬で斬り捨てるという剣士と言うより忍びみたいな戦い方だ。
二人は道を作るように正面の覇軍を蹴散らしていく。
「私たちも行くわよ、理子ちゃん、不知火君」
「アイアイサー!」
「わかったよ、蒼神さん!」
今度は流無、理子、不知火が飛び出す。
流無は右手に三叉槍、左手にDEという独特の構えだ。
重さと反動を極限まで軽減したDE・ルナカスタムを左手で発砲し、右手を器用に扱い三叉槍を振るい、覇軍を薙ぎ払っていく。
この器用さと技術の高さが流無の売りだ。それは水を封じられたところで変わるわけではない。
理子も
不知火も危なげない射撃でしっかりと二人のフォローをする。流石、フォローの達人。
「アリア、俺がエスコートしてあげるから一緒に行こう」
「ッ!?」
キンジもアリアを赤面させながら、突貫する。
ベレッタから9mmパラべラム弾を放ち、覇軍の頭部を正確に撃ち抜いていくキンジ。
二丁のガバメントで敵を滅多撃ちにしながら突き進むアリア。
二人の息は神がかかっているほどに合っていて、覇軍をどんどん蹴散らして遥香の所に向かっている。
そして、キンジ達が明けた道を最初に突っ込んだジャンヌと神楽が進んでいく。
覇軍の数の暴力は驚異的だ。
いくら俺たちが強いといっても正面から戦えば勝ち目は薄い。(黒崎のやり方は別だが・・・)
だから戦力を集中させることにした。
ジャンヌ・神楽、流無・理子・不知火、キンジ・アリアの三組に分かれ、まずジャンヌ・神楽の二人で覇軍に少し道を開け、そこにつぎの流無・理子・不知火が飛び込み、さらに道を作る。その道を通ってさらにキンジ・アリアが進み道を作る。そこをもう一度ジャンヌ・神楽が通りぬけ、道を作る。
こうやって少しずつ進んでいくというわけだ。
黒崎も俺たちの進み方を理解したか、空中に浮いて覇軍を蹴散らし始めて、道を作るのを手伝ってくれてるおかげで、進んで行っている。
はっきり言って個人の能力頼みの危険な綱渡りだが、遥香の所にたどり着くためにはこれくらいしないと無理だろう。
それに覇軍に道をふさがれそうになっても――
『――私は一発の銃弾――』
「道を開けろ雑魚どもが!!」
耳につけたインカムから聞こえるのはレキの声。今のインカムは全員の声がリアルタイムで聞こえるように設定してある。
そして、鳴り響くドラグノフの銃声。
それは道をふさごうとしていた覇軍を数体まとめて撃ち抜く。
平賀さん作の
レキがドラグノフを撃ったあとのタイムラグの間に、黒崎が突進で覇軍の群れを吹っ飛ばす。
レキの神業的な狙撃と、黒崎の薙ぎ払いによって、危ない場面を切り抜けていく。
こうして、キンジ達は着実に遥香に近づいている。
まあ、俺の蒼之神風で吹き飛ばすというのもできなくはないが、再生能力のある覇軍にはあまり意味をなさないし後鬼の術で精霊の力を無力化されかねない。土御門最強の名前は伊達ではなく、ついでに言えばISすらも叩き落とした竜巻でも相性次第で無力化されるのが
「へえ、少しは考えたようですね。ですが、前鬼のことをお忘れではありませんか!」
前鬼が大きくジャンプし、流無たちに飛びかかっていくが――
「させない!」
「忘れるわけなかろう!」
打鉄弐式を展開した更識さんが飛び出し、空中でタックルをかます。そして追撃とばかりに上昇した黒崎が、前鬼にドロップキックをかまし、流無たちより離れた覇軍の群れへと落とす。当然覇軍は潰れる。
前鬼を吹き飛ばした更識さんはその手に対複合装甲用の超振動薙刀を展開し、地面へ落下した前鬼に斬りかかる。
打鉄弐式は日本の第二世代型量産機IS『打鉄』の後継機なのだが、防御型で鎧武者の様な見た目の打鉄と違い、弐式はスマートな見た目で機動性に特化した機体だ。
その機動で前鬼の拳を交わし、隙を見て斬りつけるヒット&アウェイ戦法で互角に渡り合っている。
「更識簪!?福音の方に行っていたのではないのですか」
少し離れた位置に飛ばされた前鬼と戦う簪を見て遥香が苦々しげにつぶやく。
「簪、一人で大丈夫か?」
「私を、舐めないで!」
「いらん心配か!」
そう言って再び覇軍の群れ相手に戻る黒崎。たまに来る後鬼の攻撃を防ぎながら。
さあ、そろそろ遥香もキンジ達に釘付けになっているし、そろそろ時間だな。
頼むぜ。――白雪!
遥香とキンジ達が戦闘を行っているのとは別の場所。
そこに星伽白雪と布仏本音、風魔陽菜はいた。
「すごい。龍脈からこんなにたくさんの気を、気づかれないように偽装して供給していたなんて。こんな式見たことない」
白雪はあっけにとられながら呟く。
彼女は持ってきたありったけの呪法具などを使って覇軍の力の流れを読んでいた。
覇軍の異常な力の謎を知るためにキンジが白雪に指示したのだ。
まず、蒼之神風を発動した和麻が力の流れを感知する。
風術の特徴の一つは、どこにでもある空気を媒介とするが故の隠密性の高さだった。
しかも、強化されたそれは天災陰陽師である遥香をもってしても気づかれないほどで、覇軍の力の源のおおよその位置を割り出した。
そこを巫女であり、こういった魔術にも詳しい白雪とその護衛のために風魔と本音が調べていたのだ。
「大地に走る龍脈。そこから大量の気を引き上げて動力にしていたんだね」
和麻は前鬼・後鬼を充電された電子機器に例えた。
覇軍はそれと違い、コンセントをつながれた電子機器と言えば分かり易い。
術式をつなげればあとは指示通りに動き、破壊されても自動で再生する驚異の式神だ。
しかし、コンセントをつながれているということはそれが外れれば無力になるし、使える場所も限られてくる。前鬼・後鬼のようにコンセントの無い場所で使えるわけではないし、一度外れればその力は一気に下がってしまう。
「解除できそうでござるか?」
風魔が白雪に尋ねる。キンジ達、特にキンジのことが心配なのだろうか少し焦っているような声だ。
「うん、少し干渉すれば一気に壊れると思う。繊細な術式だからね」
そう言うと白雪は目を閉じて精神を集中させ始めた。
キンジ達は覇軍の中を突き進み、更識さんと前鬼の戦闘も激しさを増している。
まだか、まだか白雪!
「いいかげん、終わらせましょう」
遥香が手を掲げると、後鬼のひょうたんから水が放出されそれが空に広がる。
描き出されるのは黒い光を放つ術式。
(玄の式!?まずいぞあれは)
あれは北の守護を司り、水の霊獣と崇められる玄武の力を行使する高等術式。その威力はバカにできない。後鬼に籠められた力をかなり使うからだ。
あんなのを撃たれたらまずいぞ。
「やらせたらマズそうだな・・・」
黒崎が術を止めようとしてか、後鬼に突っ込もうとするも覇軍の群れに阻まれる。先程とは違って、数も多いので仭も動けない。
そしてキンジ達はその脅威を感じ取り、目を見開く。
しかしその瞬間何かが切れる音がした。
「え?」
遥香が目を見開く。覇軍が動きを止めた。
「術式が・・・切れた?そんな馬鹿な!?」
白雪たちだ。どうやらうまくやったらしい。
キンジ達もそのことに気づき、覇軍を一気に倒しにかかる。
黒崎も何が起こったか分からないようだが、今が好機と見て後鬼へと突っ込む。
「――蒼之神風――」
俺の周りに蒼く輝く風が舞い始める。さっき流無に
ここからは俺も参戦だ。
「――螺旋風刃剣舞――」
本来なら横向きの竜巻で相手の動きを封じ、その中に紛れ込ませた風の刃と二刀の刃で相手を斬り刻む技。
しかし、今の俺は蒼之神風を発動しており、その力はまさに天災級。その状態でこの技を使えば――
「おにーちゃん!?きゃああああ!!?」
キンジ達とは全く別の方向から吹き荒れた蒼い竜巻が覇軍を吹き飛ばしながら遥香を巻き込む。完全なる不意打ちに遥香は虚を突かれるが、
「舐めないでください!後鬼、風断・金華陣!」
「やらせるか!!」
黒崎が後鬼に怒涛の攻撃を食らわせるも、効いてはいるはずだがおかまいなしに、後鬼の持つ瓢箪から金色の水が溢れ、まるで花びらのような術式の陣を作り上げる。
すると蒼い風は勢いを落とし始める。
「陰陽術の基本、五行相克において『金』は『木』を断つ。風が持つ属性は『木』!ならば、この術式で風は封じられます!」
断言する遥香の前で竜巻は収まり、二刀を抜刀した俺の姿が現れる。
「・・・だが、どうする?覇軍はもう使い物にならないぞ?」
俺の言葉に遥香は落ち着いたふうに言う。
「問題ありません。前鬼・後鬼だけでも十分ですし、まだ切札があります。最大の脅威であるおにーちゃんもこの術式があれば無力です」
「投稿する気はないと?」
「ええ、私は必ずおにーちゃんをイ・ウーに連れてきます」
「そうか―――残念だよ」
突如、上空から飛来する二つの影。
それは武藤が水上バイクから糸を引いている大凧にのった風魔と布仏さん、そして焔を纏ったイロカネアヤメを構えた白雪だ。三人は役目を終えた後すぐにこうやって飛び上がり機会をうかがっていた。遥香は術式が破られたことに気を取られて気づかなかったみたいだけどな。
「――
白雪が凧から飛び降り術式に向かい、イロカネアヤメを振り下ろす。
その一太刀は金色の術式を両断し、炎で焼き尽くす。
それを遥香は呆然と見ている。
「五行相克。『金』は『木』に強い。ならば『金』に強いのは?それは当然『金』を溶かす『火』だ。お前が俺を封じるために『金』の術式を使ってくるのは分かっていたんだよ」
なにせ、お前のおにーちゃんだからな、と心の中で付け加えて、俺は風斬を振り上げる。
「――風牙・三式――」
三つの風の刃は、遥香に向かい手前の地面にぶつかる。
その衝撃に遥香は吹き飛ばされた。
「決着ついたか・・・」
「おい、そいつらを飛ばせるか?その間に、そいつらを止める」
俺は残りの式神をそれぞれ相手にしている二人に言う。
「了解。さてこれで・・・!」
「終わり!」
そう同時にISを纏った二人は、前鬼・後鬼をそれぞれ蹴り飛ばした。宙を飛ぶ二体は、林の中へ突っ込んでいった。
そんな遥香に白雪と同時に飛び降りた布仏さんが飛びかかり、その長い袖の中から分銅付きの鎖を取出し、あっという間に拘束する。
「えへへ~、よいではないか、よいではないか~」
「ちょ!?なんなのですかこの子は!?」
がんじがらめにされた遥香が叫ぶ。
うん、本当に何なんだろうな。さっき見せてもらったけど、彼女の袖の中っていろんな暗器が入っているんだよ。うちの
まあ、それは置いておいて。
遥香が拘束されて、白雪が何かの札を遥香に張ると林の中から、ゆっくりと出てきた前鬼・後鬼は動きを止め、消える。
更識さんはISを展開したまま、どこかと通信している。近くには黒崎もいて、二人?で話もしているようだ
そもそも彼女と布仏さんが来たのは彼女たちがこういう緊急事態において、ある程度の行動の自由を約束された立場だからだ。くわしいことはレイズも教えてくれなかったけど。
とりあえず、遥香と二人きりで話すかと歩き始めたとき――
轟音と共に何かが俺たちの近くに落下した。
それに対し、俺たちはすぐさま警戒態勢を取る。
俺もキンジも、未だに蒼之神風とヒステリアモードは続いているから大丈夫だ。
やがて、砂煙が晴れるとそこにいたのは、
装甲がボロボロになった白式を纏った織斑一夏だった。その手に持つ雪片弐型も真っ二つに折れている。
そこ光景に全員が驚いていると、続けてもう一つ落下してきた。
ボロボロの紅椿を纏った篠ノ之箒。最新鋭と聞いていた機体はもはやスクラップ同然だった。
そして、その二人を吹き飛ばしてきたのは、右手にランスを構えた、水を纏ったISだった。
「水・・・
仭が何か言っているが、それは俺らに届いていない。
その機体は無傷とはいかないまでも、目立った外傷はなく、その手に持ったランスをゆっくりと俺たちの方に向けた。