緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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ブラド

私、キンジ君、アリアちゃんは紅鳴館で働き始めてから一週間ほどで館の構造、警備システムの把握は終わったわ。

それ以外にも小夜鳴先生の行動パターンも把握したのだけれど、いつも地下金庫のある地下室前にある研究室にこもっているのが問題だった。

まあ、計画実行日には特殊捜査研究科(CVR)の自由履修で習った色仕掛けの罠(ハニートラップ)の応用で先生を引き留めたりしたけど。

私とアリアちゃんが先生を引き止めている間にキンジ君が二週間かけて掘った地下への侵入穴から地下金庫に潜入。

紆余曲折あって何とか理子ちゃんの十字架(ロザリオ)を手に入れることができたわ。

 

その後、私たちは私服(といっても武偵高の防弾制服だけど)に着替えて紅鳴館を後にした。

先生は軽く挨拶だけ済ませるとすぐに地価の研究室に戻って行った。

確か遺伝子工学の品種改良なんかの研究だったっけ?ご熱心なことね。

そのまま、タクシーに乗って私たちがやってきたのは横浜駅にほど近い横浜ランドマークタワー。

ここにある理子ちゃんのアジトで盗品の受け渡しをすることになっている。

理子ちゃんの指示に従って私たちは屋上に待っている彼女の所に向かった。

案内板によれば高度296メートル、日本一高い超高層ビルの上で取引を行った。

 

「やっぱりキーくんとアリアは名コンビだよ!それにルーちゃんもナイスアシスト!アリアだけだったら絶対小夜鳴を足止めできなかった!理子にできないことを平然とやってのける!そこにしびれる憧れるぅ!」

 

こんな感じで理子ちゃんは喜んでいたけど、私は少し違和感を感じていた。

いくらなんでもうまくいき過ぎている。

イ・ウーっていうのが何なのかよくわからないけど、アリアちゃんのお母さんにとてつもない罪を着せて、Sランク武偵のアリアちゃんが何年を追っている組織。そこのナンバー2であるブラドの屋敷からこんなにあっさりと物を盗むことができるかしら?

 

「り・・・りりりりり理子おッ!?な、なな、なんなあ何やってんのよいきなり!」

 

おっといつの間にか事態が進んでいたわね。

アリアちゃんが顔を真っ赤にしながら、やたら密着しているキンジ君と理子ちゃんに叫んでいて、キンジ君の雰囲気が変わっているということは・・・。

理子ちゃんがキンジ君に接近→不意を衝いてキス→ヒステリアモード覚醒→いまここ。っていうことかしら。

 

「ごめんね、二人とも。理子的にはぁ、この十字架(ロザリオ)さえ手に入れば、欲しいカードは全部そろったんだ」

 

そう言い、理子ちゃんは2丁拳銃を構える。

 

「アリア。腐った肉と泥水しか与えられない織の中で暮らしたことある?理子はね、お母様が亡くなってから親戚を名乗る人に引き取られて、ブラドに捕まってそんな暮らしをさせられたんだ。まるで犬の優良種を増やすための『繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)』みたいに」

 

大仰な見振り手振りを交えて、理子ちゃんは笑いながら話し始める。

そこで私は後ろ、離れたところに下がることにする。

多分この後の展開は決まっているから。

 

「ふざけんなっ!あたしはただの遺伝子かよ!優秀な『5世』を生むための機械かよ!!違う違う違う!!私は理子だ!峰・理子・リュパン4世だ!!」

 

理子ちゃんは感情のまま虚空に向かって言葉を吐き出し続ける。

これが、彼女の抱えている闇、戦う理由なんだ。

 

「この十字架はね、ただの十字架じゃないんだ。理子が大好きだったお母様が『これはリュパン家の秘宝』って、ご生前にくださった――一族の秘宝なんだよ。

だから理子は織の中に捕まっている間も、これだけは絶対に取られないように・・・ずっと口の中に隠し続けていた」

 

そこまで言った理子ちゃんはツーサイドアップの髪のテールを、まるで神話のなかの魔物・メデューサみたいに動かし始めた。

あれが、理子ちゃんの超能力・・・。

 

「ある夜、理子は気づいた。この十字架、いいや、この金属は、理子にこの力をくれる。それでこの力で織から抜け出したんだよ!」

 

左右のテールが、背中に隠し持っていた大振りのナイフを抜き放つ。

アリアちゃんと同じ、でも異なる意味をもつ双剣双銃(カドラ)

その通り名の通り、4つの武器を構える。

 

「今日、私はオルメス、お前を倒して証明する!曾おじい様を超えたことを!そして、自由の身になるんだ!」

 

そう叫んだ瞬間、

 

バチッッッッッ――!!

 

小さな雷鳴のような音が上がった。

そして、理子ちゃんは顔を強張らせて、半分だけ・・・ゆっくり振り返った。

 

「な、・・・なん・・で、お前が・・・」

 

理子ちゃんの小さな体が前のめりに倒れて、背後に立っている人物の姿が見えてくる。

後ろにいたのは、

 

「小夜鳴先生――!?」

 

アリアの声にその手に持った猛獣用の大型スタンガンを捨て、背後に銀狼を従えた小夜鳴先生だった。

 

やっぱり、彼はただの管理人じゃなかったのね。

 

「ふふふっ、動かない方がいいですよ。お二人が少しでも余計なことをすれば襲うようにしつけてあります」

 

「コーカサスハクギンオオカミ。じゃあ、レキが従えたのも」

 

「ええ。もとは私の僕です。レキさんの優秀さには驚きましたよ。やはり強引にも血をもらうべきでしたね」

 

血をもらう?どういうこと?

 

「それに比べて、リュパン4世。君は相変わらずにですね。その様子では10年前に私と会っているのも覚えていないようですね」

 

「お、お前だったのか。あの時ブラドにあれを吹き込んだのは」

 

「ええ。そうだ、君たちにも教えてあげましょう。リュパン家の血をひきながらこの子には――」

 

「や、やめろ!言うなああ!!」

 

「優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。つまり遺伝学的にはこの子はまったくの『無能』ということです!」

 

それを言われた理子ちゃんは顔をそむけるように、地面に額を押しつける。

その後、小夜鳴は理子の十字架(ロザリア)を奪って、偽物の十字架(ロザリア)を口に押し込む。

 

「あなたにはこのガラクタの方がお似合いでしょう」

 

背を伸ばした小夜鳴は理子の頭を踏みつける。

 

「人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない人間は、いくら努力を積んでもすぐに限界を迎えるのです。今のあなたのようにね!」

 

そう言ってさらに小夜鳴は理子ちゃんを踏みつける。

そこまでが限界だった。

 

「いい加減にしなさい!理子ちゃんをいじめて何の意味があるの!」

 

蒼く輝くデザート・イーグルを向けながら、私は小夜鳴に叫ぶ。

 

「ふふふっ、蒼神さん。そう言えばあなたは4世さんのお友達でしたね」

 

「そうよ。それが何?」

 

「皮肉なものですねえ。無能な4世と違って、すべての能力に恵まれたあなたが友達とは。はははっ。優秀な血筋であり、歴代でも最高峰のあなたがねえ。大方、かなわない夢でもあなたに重ねていたのでしょうか?」

 

その言葉に、私は目を見開く。

優秀な血筋?

歴代でも最高峰?

カタカタと、デザート・イーグルを構える手が震える。

 

「あ、あな・・た。知って、いるの?私の・・・こと?」

 

「ええ。ああ、そう言えばあなたは知らないんでしたねぇ。自分が何者なのか?」

 

「ッ!」

 

「ですが、私は諸事情有ってそのことについてしゃべれないのですよ。ですから、お教えできません」

 

私は、無意識にした唇をかむ。

 

「代わりに、何でこんなことをするのか。お教えして差し上げましょう。絶望が必要なのですよ。ブラドを呼ぶためにはね」

 

「ブラド――!?」

 

その名前を聞いて今度はアリアちゃんが反応する。

 

「彼は絶望の(うた)を聞いてやってくる。この十字架も、わざわざ本物を一度盗ませたのは・・・こうやって小娘を一度喜ばせてから、より深い絶望にたたき落とすためでしてね。おかげで・・・いい感じになりました!」

 

そして、私たちが見ている前で小夜鳴はその体をみるみる変貌させていく。

それだけじゃないわ。この切り替わっていく感じは、

 

「ま、まさか、ヒステリアモード?」

 

「そうですよ、遠山君。これはヒステリア・サヴァン・シンドローム。イ・ウーではね。私とブラドが革命を起こし、能力を写す業をもたらしたのです!」

 

和麻から話は聞いていたけれど、能力を写すですって?それって、

 

「方法自体は難しいものではありません。ブラドは600年も昔から、『吸血』によって他者の遺伝子を写し取ってきました。その能力を人工化し、誰からでも写し取れるようにしたのが私です。それから優れた遺伝子を集めるのも私の仕事になりました。先日武偵高にお邪魔した時も、採血で優秀そうな遺伝子、特に蒼神さんやレキさんの血をもらう予定でしたが、遠山君が覗いていたおかげで、失敗しましたね。不審な監視者がいれば襲うようオオカミたちに教え込んでいたのがあだになりました」

 

ブラド、吸血。そして、紅鳴館で小夜鳴が話していたルーマニア語。それらが私の頭の中で一つにつながっていく。

 

「ブラド。ルーマニア。吸血」

 

アリアちゃんが歯ぎしりしながらそう呟く。どうやら同じ結論に達したみたいね。

 

「そう。そう言うことだったのね。ブラドの正体はドラキュラ伯爵!」

 

アリアちゃんの言葉に小夜鳴はにやりと口をゆがめる。

 

「そのとおりです」

 

認めた、ブラドの正体がルーマニアに実在した人物だと。

ついで、体をさらに変貌させていく。

 

「あんたがブラドだったの!?」

 

「少し違いますね。私はブラドが作りだしたもう一つの人格。長い年月の中で人間に擬態するために生み出したものです。ただ、私という殻の中に隠されてしまいました。彼を呼び出すためには私が激しく興奮した時――つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時に出現するようになってしまったのです。しかし、長い年月を生きた私はあらゆる刺激になれてしまいまして、激しく興奮できなくなったのです」

 

そういうことなのね。だから、ヒステリアモードを。

 

「そんな時に遠山金一武偵、つまり遠山君のお兄さんのDNAから得たヒステリア・サヴァン・シンドロームによる神経伝達物質の大量媒介はまさにうってつけでした。私は人間(ホモ・サピエンス)ではなく、吸血鬼(オーガ・バンピエス)。したがって人間のメスは守るべき対象ではないので、全く良心も痛みません。そして、私はこういった動物虐待でも愉悦できる可逆思考の持ち主でしてね」

 

どんどん、その姿を変えていく。

 

「へ、変身していく・・・!?」

 

アリアちゃんの言葉通り、あれはまさに変身。

しゃれたスーツを紙のように破り、その下から現れた肌は赤褐色に変色していく。

肩や腕の筋肉は、ぱき、ぱきり、と不気味な音を立てて牡牛のように盛り上がり、露出した脚はもう獣のように毛むくじゃら。

上半身の肌には、何か、ツタ植物みたいな模様が白く浮き出ている。

吸血鬼というより、狼男っていった方がいい気がするわ。この姿は――!

 

「初めまして、だな」

 

声帯までもかわってしまったのか、急に、何人もの人が同時に喋っているようなぶきみなこえでしゃべり始める。

 

「オレたちゃ、頭の中でやり取りするんでよ・・・話は小夜鳴から聞いている。分かるか?ブラドだよ、今の俺は――」

 

私たちを黄金色の凶暴そうな眼で睨むブラドはそう名乗った。

 

「そうか・・・そういうことだったのか」

 

キンジ君が舌打ちしながらつぶやく。

 

「ど、どういうことよ!」

 

「擬態・・・でしょ?」

 

キンジ君が言う前に私がしゃべる。

 

「ぎたい・・?」

 

「動物が自然界で有利に生きようとするとき、他の動物の姿や動作をそっくりに真似するだろう?」

 

「う、うん」

 

「ブラドと小夜鳴はね、それの吸血鬼・人間バージョンだと考えられるわ。もともと、あの化け物みたいな姿だったけど、進化の過程で人間に擬態して生きるようになっていった」

 

「その擬態は高度で、姿だけじゃなくて、『小夜鳴』という人格まで作り出したんだ。つまり、少し変わった一種の二重人格だ」

 

私とキンジ君の説明にアリアちゃんは納得したような顔をする。

 

「まあ、そんなところだ」

 

毛むくじゃらの前腕、鎌のように長く鋭くなった腕で理子ちゃんの頭を掴んで持ち上げる。

 

「う・・・!」

 

「4世。久しぶりだな。イ・ウー以来か?」

 

その隙をついて、私たちはブラドを銃で撃つけど、

 

「うっ!?」

 

キンジ君がうめく。銃弾は命中した。でもその銃創は赤い煙のようなものを立てながら簡単に塞がってしまった。ほんの1秒ほどで。

ついでに腕の中から銃弾が排出されて、足元に落ちる。

こいつには、銃弾が効かない――!

しかも、あの外見から判断して、筋力も多分相当なもの。接近戦も危険と判断するべきね。

 

「ブ、ブラドォ・・・!だ、だました、な・・・!オ、オルメスを倒せれば、あ、あたしを・・・解放するって、い、イ・ウーで・・・約束、した、くせに・・・!」

 

悔し涙を流しながらそう言う理子ちゃんにブラドは、明らかに嘲笑うような声で、

 

「―――お前は犬とした約束を守るのか?ゲゥゥゥアバババハハハハハ!!」

 

と、牙をむいて笑いながら言った。

 

「檻に戻れ。お前は無能だが優良種には違いない。交配次第では品種改良されたいい5世が作れて――そいつからいい血がとれるだろうよ!遠山。おめえの遺伝子でも掛け合わせてみるか?」

 

その、人間全体を侮辱するような言葉に私は怒りが湧き上がってくる。

確かに、遺伝子で人の能力は決まるかもしれない。それでも――!

 

「いいか4世。お前は一生俺から逃げられない。世界のどこに逃げても、お前の居場所はあの檻の中なんだよ!ほれ、これが人生最後の、お外の光景だ」

 

理子ちゃんの頭を振り回して、屋上の外にその目を向けるブラド。

 

「よーく目に焼き付けておけよ!ゲハッ、ゲババババッ!」

 

泣き顔を見せまいと強がる理子ちゃんは目を閉じるけど、その頬には大粒の涙が流れ落ちる。

 

「あ、アリア・・・・キ、ンジ・・・」

 

絞り出すように、出したその声、

 

「るー、ルーちゃ、ん・・・」

 

「理子ちゃん・・・」

 

そのか細い声に・・・

 

「――た、す、け、て・・・・・・!!」

 

「いうのが遅いわよ!このバカ親友!!」

 

私は一気に飛び出す。

およそ常人では考えられないような速度で飛び出した私に続いて、アリアちゃんも飛び出す。

オオカミたちが襲いかかって来るけど、

 

ガンッ!ガウンッ!

 

とキンジ君の撃った銃弾がオオカミたちを昏倒させる。話で聞いていたレキちゃんの真似ね。

 

「ブラド!理子は私のエモノよ!」

 

エモノって。まあ、理子ちゃんを傷つけたことは絶対に許さないけどね!

アリアちゃんがブラドの右側に回り込んで銃弾のつぶてを浴びせている間に、デザート・イーグルを3点バーストに切り替えて理子ちゃんを掴んでいる腕の手首を重点的に撃ちまくる。

そして、理子ちゃんの体を掴んで助け出す。

ブラドは手の筋線維が一時的に切断されているはずだから握力が入らず、簡単に助けることができた。

 

「キンジ君!お願いっ!」

 

近くに走ってきていたキンジ君に理子ちゃんを任せる。キンジ君はさっき十字架(ロザリオ)を取り返していたから任せた方がいいわ。

 

私とアリアちゃんは仕切り直しのために一度離れる。

 

「『無限罪のブラド』――あんたは、あたしのターゲットのなかでも一番正体不明で、見つけにくそうな相手だったけど、相当のマヌケで助かったわ。警戒心もなく、あたしの目の前で正体を現したんだからねっ。覚悟なさい」

 

「ブラド、私はあなたを許さない。確かに人間の能力は遺伝子で決まるかもしれない。だからと言ってその人の価値までもが遺伝子で決まるなんてことはありえないわ!例え優秀な能力が遺伝していなくても、人はさらなる高みに上ることができる!私はそれを知っている!!」

 

私とアリアちゃんは一度目を合わせて頷き、

 

「「ブラド、あんたを虐待の現行犯で逮捕するわ!」」

 

ブラドに向かっていった。

 

 

 




長くなりそうなのでここで区切ります。一話でまとめたかったのに・・・。



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