緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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Sランクの力

土御門。

本や映画なんかでも有名な大陰陽師、阿倍晴明の直系である家で、俺の実家だ。

代々、その家の者は陰陽術、白雪の家で言うところの鬼道術みたいなものを用いて、人知れず、国のためにその異能(ちから)を振るってきた。

そんな家の長男として俺は生を受けた。

最初は特に不満はなかった。

自分の家が普通の家とは違っていても、その仕事は凄いことだと思ったし、将来自分も陰陽術で世の中のために戦えたら、なんて憧れていた。

でも、最初の陰陽術の練習を始めたとき、その願望は砕けた。

 

俺は基礎の陰陽術すら使えなかった。

 

何度試しても、何も起こらない。

両親は最初は俺のことを励ましてくれていたけど、陰陽術をつかえないまま、一年、二年もたつと、だんだん俺のことを見放していき、反対に天才的な陰陽術の才能を持っていた遥香をかわいがるようになった。

それだけじゃなく、土御門に連なる分家のやつらも、俺のことをバカにし、同年代のやつらにはいじめられるようになった。

唯一の味方は、妹の遥香だけになっていった。

 

中学に上がる頃、俺は神奈川高付属中学に通わされた。

多分、そこで何らかの危機的状況に陥れば何かが目覚めるかもしれないという、両親の最後の賭けだったのだろう。

その予想通り、俺は一年生の時に異能の力を発現させた。

 

風を操るという、陰陽術とは全く関係のない異能を。

 

それが決定的だったのか、俺は発現させた数日後、勘当を言い渡された。

俺は怖くなって、上海の武偵高付属中学に留学した。

才能がないのならば、実の息子すらも切り捨てる土御門の家がたまらなく、怖かった。

 

その土御門家がイ・ウーに潰された。

 

イ・ウー。

ジャンヌから聞いた話によると、それは世界中の国が手出しできない組織。

そこでは天賦の才を持った者たちが集い、互いに技術を教え合い、どこまでも強くなる。いずれは、神の領域まで。それがイ・ウー。

組織としての目的はなく、天才同士がお互いの能力をコピーし合い、超人になっていく。

このコンセプトはいい。だが問題は、そいつらが無法者の集団だということだ。

故に、国も恐れるほどの組織になっていて、そんな組織がアリアの母親に冤罪を着せて、そして、今、その組織の一員となった妹に、俺は――

 

「ねえ、ねえ!行こうよぉ、おにーちゃん♪」

 

ものすごく甘えた声でお誘いを受けている。

 

本当に、人生っていうのは予測不能の事象だらけだ・・・

 

っていう現実逃避は置いておいて、これはマジでやばいぞ。

あの前鬼が出現したことで生徒たちはパニックになっているし、シールドも消えている。

それに前鬼はやばい。

何せ、土御門の最終兵器だとか言われているような式神だ。

ISなんかより戦闘能力があるかもしれないから放っておくわけにもいかない。

だからといって、遥香をそのままにしておくのもまずい。

遥香は阿倍晴明の直系、土御門家始まって以来の才女と言われたほどの陰陽師だ。

式神を使役する陰陽術は、基本的に戦闘を式神まかせにする。故に式神が出ている間、術者は無防備になる。

前鬼があそこにいるから遥香は簡単に制圧できるし、遥香を制圧すれば前鬼は停止する。だがそんなことは遥香も承知のはずだ。

分かっていながら俺たちの前に姿を現したってことは何かしらの策がある。

どうする、どうする・・・

 

「な~んてね☆」

 

「は?」

 

「実はまだおにーちゃんは入れないんだよね~。教授(プロフェシオン)が未だ入学できないって。入学するためには――」

 

そう言って遥香はアリーナの中、四人のIS乗りたちと戦っている前鬼を指さした。

 

「あの子を倒して来てよ。おにーちゃんならできるよね?」

 

マイシスターよ。いろいろ言っていることが支離滅裂だと思うぜ。この四年間の間に何があったのか、お兄さんは激しく気になります。

 

「じゃあね~☆」

 

最後にそんなことを言うと、遥香はポンッという音を立てて、人型の紙になった。

この遥香も式神で、自分の姿に似せた分身・・・。

前鬼を出しながらこんな器用なことをやってのけるとは、流石は土御門始まって以来の天才だな。

 

「神楽、生徒たちの避難を頼めるか?」

 

「・・・」

 

「神楽!」

 

「は、はい!」

 

さっきの光景に呆然としていたのか返事がなかったので軽く怒鳴りながら言うと、神楽は慌てて返事をする。

 

「生徒たちの避難。それとみんなにさっき起こったことをありのまま伝えろ」

 

「はい!」

 

神楽が返事をした瞬間、俺は全力で駆けだす。神楽が何か言っているようだったが気にしている暇はない。

この状況で、前鬼を止められるのはおそらく俺だけだ。

ISならできるかもしれないが、そのためにおそらくかなりの時間がかかってしまう。それでは前鬼が客席に侵入するかもしれない。そうなったらアウトだ。

今見ているだけでも、かなりの生徒たちが混乱して、それを収めるために教師たちが奮闘している。

そんな中に、前鬼が来たら最悪死人が出る事態に陥る。

だったら、対処法を知っている俺がやるしかない。

まったく、四年ぶりにあったと思ったらこんなことをするなんて、お前に何があったんだよ?遥香――!

とにかく、通信をつなげる必要がある。相手は――

 

 

 

アリーナ内。

そこでは、突如乱入してきた前鬼と専用機もちたちが闘っていた。

 

「GYAAAAAAAAA!!!」

 

雄たけびを上げながら、右手に持った鉄斧を振り上げて迫る。

標的は・・・箒。

 

「くぅ!?」

 

打鉄の実体盾でその一撃を防ぐが、防ぎきれず吹き飛ばされ、

 

「かはぁ!?」

 

左手の拳を受け吹き飛ばされる。その一撃はシールドを抜き、絶対防御まで発動させるほどだった。

満タン近くまであった打鉄のシールドエネルギーが大きく減少する。

 

「箒!くそおおおっ!」

 

一夏がその手に持った雪片弐型で斬りかかり、それは前鬼の背中に斬りかかるが、その剣は少し傷をつけただけで前鬼は気にも留めずに、振り向く。

 

「GUOOOOOOO!!!」

 

「うわああああ!!!??」

 

振り向きざまに放たれた鉄斧に一夏は吹き飛ばされてしまう。

さらに一夏につけられた傷もすぐに塞がってしまう。

 

「一夏!このおお!!」

 

シャルルは一夏が吹き飛ばされた瞬間、アサルトライフルを出して攻撃するがそれもダメージを与えられず、付いた傷はすぐに塞がってしまう。

前鬼は銃弾が鬱陶しいのか、次の狙いをシャルルに決め、その巨体に似合わないスピードで迫る。

 

「速い!でも――!」

 

それに対して、シャルルは空に飛び上がることで回避するが、前鬼はすぐに後を追うようにジャンプする。

 

「ええ?!」

 

その予想外の動きに一瞬動きを止めてしまったシャルルは、鉄斧の一振りで地面に叩きつけられる。

 

「はあああああっ!!」

 

今度はラウラが両手のプラズマ手刀で斬りかかるが、それを受けてもなお前鬼は微動だにしない。

前鬼は先陣を切り、道を切り開くのが役目。

それゆえに、その身に宿した力と強靭な肉体は並大抵のものではない。少しの傷ならばすぐに修復されてしまうのも当然のことだった。

そもそも、たかがISという宇宙開発用に開発された、兵器としては未完全なものに傷をつけられる様では大陰陽師が使役した式神の名折れだろう。

 

「ちっ、頑丈な奴だ!」

 

攻撃が効かないことにいら立ったラウラは、鉄斧を振り上げてくる前鬼に右手をかざし、その動きを止める。

アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。通称AIC。慣性停止結界。

ISの基本システムの一つである浮遊・加減速などを行うことのできる、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを発展させた兵器であり、対象を任意に停止させることができる。

使用には多量の集中力が必要であったり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いなどの欠点もあるが、強力な兵器であり、一対一では反則的な強さを持つ。

 

「くらえ!!」

 

動きの止まった前鬼にラウラは右肩に装備されている大型レールカノンを連射する。

爆炎に包まれる前鬼。

 

「ふん、これで・・・?!」

 

勝利を確信したラウラだったが、爆炎が晴れたさきに未だ立っている前鬼の姿に驚愕する。

その体は所々、傷が出来ていたがそれも徐々に回復していき、しかも、

 

「な!?AICを無理やりはがそうとしているだと!?」

 

少しずつ、鉄斧がラウラに向かっていき、

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!」

 

ついにAICの呪縛を力ずくで破り、振り下ろされた。

 

「くっ!」

 

それをバックして躱すラウラだが、

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!」

 

前鬼は再び驚異的な瞬発力で迫り、体当たりでラウラを吹き飛ばす。

 

「ぬああああ!?」

 

更なる追撃に前鬼はラウラを踏みつける。

 

「がはぁ!」

 

その力にラウラの専用機、シュバルツェア・レーゲンはそのシールドエネルギーを徐々に減らしていく。

 

「はあああ!!」

 

ラウラを踏みつけている前鬼に何とか立ち上がったシャルルがその腕のシールドを切り離し(パージ)、裏に隠していた69口径パイルバンカー、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を打ちこむ。

通称・盾殺し(シールド・ピアース)と呼ばれるそれは第二世代ISの武器では最高クラスの威力を持つシャルルの切札だ。

リボルバー機構の装備によって連続打撃を行えるそれを撃ちこまれた前鬼は体勢を崩し、ラウラを開放してしまう。

だが、

 

「GOOOOOOO!!!」

 

すぐに灰色の鱗殻(グレー・スケール)の杭の部分を掴む。

あまりに前鬼の対応が早かったため、シャルルはまたしても行動が遅れてしまい、

 

「うわあああああ!!!??」

 

そのまま地面に叩きつけられる。

 

「シャルル!!」

 

再び、一夏が斬りかかるが今度は斬る前に雪片弐型を掴まれてしまう。

 

「そ、そんな、ぐあああああ!!?」

 

そのまま、鉄斧の一撃を受けて、一夏は吹き飛ばされる。

その身に纏っていた専用機の白式も光となって解除される。

 

「ぐう、く・・・そ」

 

地面に倒れ伏す一夏の目の前に、前鬼がゆっくり歩いてくる。

逃げようと思うのだが、先ほどの一撃はISの接待防御を発動させるほどの威力だったため、体にもかなりの衝撃が伝わり、そのせいで動きにくくなってしまった。

 

「逃げろ!一夏!」

 

そんな一夏の前に打鉄を纏った箒が現れ、近接ブレードを構えるが、装備している盾が先ほどの攻撃で罅だらけになっているほど深刻なダメージを受けている。それはもう一度、攻撃を受けたら完全に壊れてしまいそうなほどだ。

 

「に、逃げろ、箒!」

 

一夏はそう叫ぶがもう遅かった。

前鬼はその鉄斧を振り下ろすとしているし、箒が例え回避しようとしても間に合わない。

 

そして、鉄斧が振り下ろされる――――ことはなかった。

 

いきなり、鉄斧が中ほどから消え、少し離れたところに消えた部分がドスンと落ちる音がした。

 

「「え?」」

 

一夏と箒は何が起こったのかわからなかった。

 

 

 

「――穿牙(せんが)・九連――」

 

ジャンヌに現在使えるアリーナ内への非常口の場所を教えてもらい、中に侵入した俺は、「風牙」で二人に迫っていた鉄斧を斬り、風斬と水蓮をつかって九つの風の槍を突きと共に撃ち出す。

九つの風の槍は互いに絡み合い、一つ一つは弱いかったものが最大瞬間風速を竜巻に匹敵させるほどまで強くなり、前鬼を問答無用で吹き飛ばす。

前鬼の瞬発力は高いがこれは躱せなかったようで、ゴロゴロところがる。

それにしても、どこからかこの間の恐山合宿での出来事を調べてきたレイズに提案された技を使ってみたんだが、まさかこんなに威力が出るとはな。

 

「――天牢(てんろう)――」

 

未だ呆然としている二人を俺の跡から入ってきた教師たちに任せて、俺は風を纏い、駆ける!

一瞬で距離を詰め、二刀で前鬼を斬り裂く。

休まず、再び斬る!

体の力を全て速さに集中させる。

再び斬った瞬間、俺は空気を蹴って前鬼の上に着地する。

今、周囲には風の渦が出現しており、それはドーム状に俺と前鬼を包み込んでいる。

これは敵を閉じ込めるためのモノじゃない。

これは俺の足場だ。

この中を渦の流れに乗って、縦横無尽に駆け巡ることで何度でも敵を斬りつけ、動けなくする。

 

――天牢――

 

高速で天を駆け、敵を牢獄にいるかのごとく封じ込めるこの技に、周りの人たちはあっけにとられているだろうな。

前鬼にこの技は時間稼ぎでしかないかもしれない。

だが、

 

「――七風刃――」

 

平賀さん特製、切断用の鋼糸(ワイヤー)を取出し、斬撃とともに斬りつける。

それらは一度に七つの傷を前鬼に与えるとともに、前鬼をゆるく縛る。

 

「――風牙・二式――」

 

二本の風の斬撃で前鬼の両足を斬る。

今度の風はかなり精神力をつぎ込んだので、前鬼の脚を深く斬りつけ地面に倒す。

その瞬間を見計らって、ワイヤーを巻き取り前鬼を地面に縫い付ける。

すぐに起き上がるだろうが、チャンスは出来た。この隙に――!

 

「ぬああああああああ!??!!」

 

いきなり上がった叫び声に振り向くと、そこではどろどろに溶けたISに飲み込まれるボーデヴィッヒの姿があった。

やがて、それはボーデヴィッヒを完全に取り込み、いびつな人型になった。

その手には日本刀を構えており、俺に斬りかかってきた!?

 

「ちっ!」

 

それを俺は二刀を交差して受け止める。

気で身体能力を強化しているから何とか受け止められたが、この太刀筋、達人クラスのものだ。

それを弾き、いったん距離を取ろうとするが、相手はすぐに接近してきて斬りかかって来る。

ただ、それは決められた型をなぞっているだけのような動きなので、冷静になれば見切ることができる。

避け続けながら、どうしたものかと悩む。

だが、時間というものは待ってくれないようなもので――

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!!」

 

ち、斬り結んでいる間に前鬼が立ち上がりやがった。

一旦、離れると黒いISは動きを止めた。どうやら近くにいる者にしか反応しないようだ。なら、ボーデヴィッヒは・・・。

 

「このやろおおお!!」

 

突然聞こえた声に、ハッ、となるとそこには、黒いISにあろうことか素手で向かっていく織斑の姿があった。

 

「はぁ!?何してんだあのバカは!」

 

しかも、それだけじゃない。

そんな織斑に、前鬼が反応して殴りかかろうとしているぞ!黒いISも織斑を敵と定めて斬りかかろうとブレードを振り上げている!

 

――篠ノ之も、シャルルも、教師たちもあまりに予想外な織斑の行動に反応できずにいる中、俺は縮地で織斑のもとに向かい、まず、織斑を思いっきり蹴飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

織斑の行方を確認せずに次に迫ってきたブレードに、圧縮した小さな空気の塊をぶつけ、ベクトルをそらして空振りさせる。

最後に、突き出された前鬼の拳を俺は―――まともに受けて吹き飛ばされた。

 

 

 

 




結構長かった。ISでの戦闘ってやっぱ難しいですね。あと、力量関係というか、前鬼の強さの調節がね。和麻はスピードで前鬼を圧倒した感じにしたかったのですがうまくできたか不安です。
次回でひとまずIS学園の方を終わらせて、紅鳴館組の方に行けたらいいと思います。

はやくいちゃいちゃをかきたいな~。これが終われば夏の話だ~。

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