緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲   作:竜羽

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IS学園の生徒たち

放課後のIS学園食堂。

タッグトーナメントを明日に控えたそこでは、多くの生徒たちが明日への英気を養っていた。

そんな中で俺はチームメンバーの五人と一緒に夕食を食べていた。

制服が違うから目立っているが気にしていたらキリがない。

ちなみに、俺は焼き魚定食、不知火はたぬきうどん、レキはいつも通り持参したカロリーメイトチーズ味(足元ではハイマキがドッグフードを食べている)、ジャンヌはフランス料理のポトフ、神楽はいか飯、平賀さんはお子様ランチを食べている。

というか、まさかお子様ランチがあるって何気に凄いなIS学園。そして、それをキラキラした目で頼む平賀さんもそれでいいのだろうか?

 

「それにしても、なんだかここは肌に合わないね」

 

不知火がそう言う。

 

「ここは世界中からのエリートが集まっている。偏差値の低い武偵高(うち)とは雰囲気が違う」

 

俺がそう返すと不知火は苦笑しながら「確かにね」と言いながら、再びうどんをすする。

 

「ジャンヌ先輩。警備の計画は出来たのですか?」

 

神楽がいか飯をつつきながらポトフのウインナーを食べているジャンヌに言う。その声がどこか沈んでいるのは、俺が一年一組でのことをじっくり絞ったからだ。

 

「とりあえず、大まかな作戦は出来た。まず不知火」

 

「はい」

 

「お前はVIPの近くだ。お前ならどんな事態でも柔軟に対応できる」

 

確かに不知火の器用さがあれば大丈夫だろう。

 

「次に八神は生徒たちの近くだ。お前の超能力での探査範囲の広さなら生徒たちに何があってもすぐに対応できる。柳生はそんな八神の補佐だ」

 

「了解」

 

「承知した」

 

「レキは狙撃ポイントを見つけ、そこから『鷹の目』だ。何かあれば私たちをサポートしてくれ」

 

「分かりました」

 

『鷹の目』とは、狙撃手(スナイパー)の優れた視力を活かして遠距離から対象者を見張る監視任務(ライドハード)のことだ。

今回は対象者が多いが、他の武偵の狙撃手(スナイパー)もいるから大丈夫だろう。

 

「今のところはこんな感じだな」

 

ちなみに、平賀さんは非戦闘要員のため当日はトーナメントを観戦するとか。

そのかわり、夜には俺達の武器の点検をしてくれる。

一応俺も平賀さんから武器を調達してもらっているからな。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

そんな俺達に話しかけてくるやつがいた。

 

織斑一夏

 

この学園唯一の男子生徒であり、世界で初めて確認されたISを動かせる男だった。

後ろには四人の女子を連れている。

 

 

「なんだい。織斑君」

 

不知火が応える。こういうとき、社交性のあるこいつがいてよかったと思う。

 

「一緒に食べてもいいですか?」

 

「もちろんいいよ」

 

不知火が応え俺達も無言で同意する。

織斑たちは俺達のすわっている長机の隣のところに座る。

 

「ええっと、自己紹介した方がいいですかね」

 

礼儀正しいな。最近の高校生じゃあんまりいないぞ。ましてや武偵高(うち)にはほぼ皆無だ。

 

「うん、できればお願いしたいかな」

 

「はい。えっと織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「篠ノ之箒です。よろしくお願いします」

 

一夏に続いて、黒い髪をポニーテールにした女子が自己紹介をする。

確か、ISの開発者、篠ノ之束博士の妹だったな。

クラス対抗戦の襲撃の際に、放送室に無断で侵入

。襲撃者と戦っていた織斑に激励をして、襲撃者のビームに狙われたって資料であった。

よくもまあ、そんな馬鹿なマネができたものだ。ISも持っていない無力な学生なのにそんなことをしたら死ぬぜ。しかも、それでもしかしたら助けるために動いた織斑が危険にさらされるって言うことが理解できなかったのかね。

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。よろしくお願いします」

 

長い金髪のお嬢様っていう雰囲気だな。

彼女は以前、レイズがイギリスを脅す材料にしようとした映像に映っていた。

何があったのかというと、一組のクラス代表(簡単に言えば雑用係)をきめるときに、織斑が推薦されたことに気を悪くしたセシリアは、反論。その内容は最初に織斑の非難から、男性全体への悪口、さらには日本という国を見下した発言までしたというのだ。

今の世界情勢で日本はかなり上の立場にいる。世界最強のIS操縦者と名高い織斑千冬は日本人だし、開発者の篠ノ之束も日本人。さらには今のところ世界で唯一の男性操縦者の織斑も日本人なのだから。

こんな発言をイギリスの代表候補が言ったとなれば、日本とイギリスの仲は悪くなり、セシリアは専用機のISと候補生の資格のはく奪。悪ければ、国外追放をされていてもおかしくないのに、何でここに無事でいるんだろう?不思議だ。

 

「凰鈴音よ。中国の代表候補生。よろしくね」

 

さばさばした感じのツインテール。アリアにどこか似ているな。合わせてみたらなんか面白そうだ。

確か、こいつは入学するときに一度断ったのだが、その後軍の上官をISで脅し入学したんだっけ。・・・普通に軍法会議ものだろ?何で通ったんだ?

しかも、入学してからすでに決まっていた二組のクラス代表を無理やり変えてもらったらしいし、そんなこと認めていいのだろうか、IS学園。

少し、武偵高に似ているんじゃないか?

 

「僕はシャルル・デュノア。フランスの代表候補生です。よろしくお願いします」

 

金髪の中性的な顔立ちのシャルルがそう挨拶する。

 

(『転装生(チェンジ)』か・・・)

 

転装生(チェンジ)』とは、極々まれな話だが男子が女子のふりをして、または女子が男子のふりをして武偵高に通うことだ。

特殊条件下の犯罪捜査・・・例えば、女子高での潜入捜査などに備えて、強襲科(マスターズ)に許可をもらい、異性のふりをして学校に通う生徒が武偵高(うち)にはいる。一学年に二人くらい。

で、今、織斑一夏の後ろで男子のふりをしている生徒、資料ではシャルル・デュノアはまさにその『転装生(チェンジ)』だ。

骨格が男子にしては細いし、声も高い。極めつけは呼吸をするとき、男は腹でする物だが、こいつは胸でしている。空気に関しては敏感だからな風術師(おれ)は。

まあ、他のやつは気づいていないみたいだし、わざわざ言う必要もないか。

武偵高(うち)の面々はなんとなく怪しいと思っているだろうが、

 

「おいしいのだー!」

 

平賀さん以外。

 

「あややん!私にもそのプリンちょ~だ~い」

 

「いいのだ、ののちゃん!あ~ん」

 

「あ~ん。ん~~~おいし~」

 

そして、いつの間にかそこにいた布仏本音さんといっしょに固有結界『無限の癒し(アンリミテッド・セラピー)』を展開していた。

まあ、この二人はともかく、なぜ誰も疑わないのだろうか?

普通、男性IS操縦者が見つかったのに全く報道されていない。

しかも、もし最近見つかったのならいきなり代表候補生、しかも専用機持ちになれるわけないのに。

他にもいろいろ不審な点が出て来るのになぜ誰にも気づかれない。いや、

 

(知っていて、入学(いれ)たのか?)

 

まあ、どっちにしろ俺達が気にすることじゃない。

 

「じゃあ、昼間もしたけど、今度は僕たちから。

東京武偵高校二年。強襲科(アサルト)の不知火亮だよ。よろしくね」

 

強襲科(アサルト)?」

 

強襲科(アサルト)の意味が分からなかったのか、織斑が聞き返す。武偵になじみのない人間だとよくわからないよな。

 

武偵高(うち)の学科の事だ。武偵高(うち)の生徒は将来進む武偵の仕事によって履修する専門科目をきめて、それを受けられる学科の所属となる」

 

俺の説明に織斑は納得する。

ついでに軽く、強襲科(アサルト)やほかの学科の説明もしておく。

 

「へ~、え~っとあなたは?」

 

「このチームのリーダー、二年の八神和麻だ。専攻は不知火と同じ強襲科(アサルト)

 

「八神君は強襲科(アサルト)騎士(ナイト)って呼ばれているくらい強いんだよ」

 

「不知火ぃぃ!お前どうでもいいこと言うな!」

 

それ無茶苦茶恥ずかしいんだよ!

 

「そんなにすごいんですか!?」

 

忘れろ!聞いたことを忘れろ!後ろの笑っている女子四人も忘れろ!

 

「私はジャンヌ。学年は二年で専攻は情報科(インフォルマ)だ。もとはパリの武偵高だったのだが、東京武偵高校に留学してきた」

 

そういう設定だけどな。

 

「あの~」

 

そんなジャンヌにシャルルが手を上げて質問する。

 

「なんだ?」

 

「ジャンヌさんって名字は何なんですか?いえ、言い難いことだったらいいんですけど、ちょっと気になっちゃって」

 

自己紹介の時も黙っていたからな。そりゃ気になるか。

 

「ああ、私のフルネームはジャンヌ・ダルクだ」

 

「「「「「ええええええ!!?」」」」」

 

正直に答えやがった。大丈夫か?

 

「といっても、あのジャンヌ・ダルクじゃないし、関係もないぞ。たまたま同姓同名になっただけだ。ただ、あまり騒がれてもなんだからな。あまり人前ではいわないことにしているんだ」

 

「そ、そうなんですか。確かにあのジャンヌ・ダルクじゃありませんよね」

 

「そうですわ。ジャンヌ・ダルクは十代で死んだといいますし、子孫なんておりませんわよね」

 

シャルルとセシリアが笑いながらそう言う。

 

「当たり前だ。ジャンヌ・ダルクが生きていて、その子孫がいるわけがないだろう?はははっ」

 

へ、平然と嘘をつきやがった。流石、策士ジャンヌ・ダルク。

これでジャンヌをジャンヌ・ダルクの子孫だと思うやつはいなくなった。

孫子の兵法には「疑われたくないことは、逆に見せることで疑われなくなる」といい、知能犯もよくこのトリックを使う。

ジャンヌはわざと聖女として有名なジャンヌ・ダルクの名前と自分の本名を明かしたことで、逆に疑われなくしたんだ。

 

「レキです。みなさんと同じ二年生で狙撃科(スナイプ)に所属しています。こっちが武偵犬のハイマキです」

 

レキが淡々と答え、ハイマキが小さく吠える。

 

「そ、それって犬ですか?」

 

凰が少し躊躇いながら質問する。

確かに犬よりでかいしな。

 

「はい。犬です」

 

「そ、そうですか・・・」

 

レキの感情の見えない目で見られて凰は気圧されたように質問を終わらせる。

 

「柳生神楽。強襲科(アサルト)の一年だ。お前たちとは同い年だから気楽に話しかけてくれ」

 

神楽はそう言い頭を下げる。

 

「ああ、よろしく」

 

織斑に続いて全員が応える。

 

「それにしてもよく似てるわね、あいつに」

 

凰がそう言うと神楽は機嫌が悪いという顔をする。

 

「はっきり言うが私はあんなチビとなんの関係もない」

 

その答えに凰もそれ以上何も言わなかった。

 

「最後に、そこで無邪気にプリンを食べているのが平賀文さん。二年生で装備科(アムド)を専攻している。平賀さん、挨拶」

 

俺がそう言うと、平賀さんはプリンの欠片をほっぺたにつけたまま無邪気な顔で織斑たちの方を向き、「よろしくなのだ!」と言って再び、布仏さんと一緒に固有結界『無限の癒し(アンリミテッド・セラピー)』を再び展開し始めた。

 

その後は、軽い雑談なんかをして俺達は先に食堂を後にした。

 

 

 

 

「不知火。お前は織斑をどう見る?」

 

宿泊のために用意された部屋で俺は不知火に話しかける。ちなみに女子たちはレキと平賀さん、ジャンヌと神楽という部屋割りで止まっている。

 

「そうだね。正直、彼は自分のことをまったくわかっていないっていうのが僕の感想かな」

 

「理由は?」

 

「さっきの会話でも聞いてもいないのに自分のことをしゃべってきたし、僕たちになんの警戒もしていない。ある意味それは親しみやすくて美点になるんだろうけど、彼は自分の価値がどのくらい高いのかを理解していないからああいうことを喋れているのかもしれない。あそこにスパイがいたら簡単に情報を握られてしまうのにね」

 

織斑一夏は現在かなりの国・組織に狙われている。なにせ、今まで女性にしか使えなかったISを動かすことのできるイレギュラーなのだ。そこから生まれる利益は計り知れないし、単純に女性にしか動かせないISを動かしたことに対する危機感から命を狙われる可能性もある。そして、狙っている連中の中には彼を手に入れるためならどんな手段でもとるという組織だってあるはずだ。

なのに、それに対する警戒が無いに等しいというのは致命的だ。

 

「それだけじゃない。今日の会話の中で出てきた織斑を敵視するラウラ・ボーデヴィッヒのことも問題だ。こいつは戦争が起こしたいのか?」

 

食事中の雑談で出てきた、ラウラ・ボーデヴィッヒの軍人にあるまじき暴挙。

イギリスと中国の代表候補生のセシリアと鈴(そう呼んでくれと言われた)の専用機ISを大破させ、危うく殺しそうになった。

結果的に織斑とシャルルの乱入で二人は助かったが、ISがしばらく使えなくなってしまい、明日からのトーナメントには出場できなくなったらしい。

これは下手をすれば、ドイツとイギリス・中国の戦争の引き金になりかねない事態だ。

しかも、そんなことをしたボーデヴィッヒを何のお咎めもなしにしておくなど明らかにおかしい。

聞けば、織斑千冬が仲裁したらしいが何の罰則もなかったという。

 

「織斑千冬・・・IS操縦者としては一流かもしれないけど、教師としては失格かもしれないね」

 

武偵高(うち)の教師たちも教育者としては問題だらけだろ?」

 

「それはそうだけど、武偵高(うち)IS学園(ここ)じゃあ生徒の重要度が違うじゃないか?」

 

確かにな。国の顔となりうるIS操縦者を育成するIS学園(ここ)と拳銃でドンパチやる武偵を育成するじゃあ武偵高(うち)確かに生徒の重要度は違う。現に武偵高(うち)だと在学中に強襲科(アサルト)の生徒の何人かは死ぬし。でもさあ、

 

「・・・言っていて悲しくならないか?」

 

「はははっ、まあ、そうだけどさ」

 

「はぁ~、やめやめ。明日から警備が始まるんだ。もう寝ようぜ」

 

「そうだね」

 

電気を消して俺達は就寝した。

 

~~~♪~~~♪

 

「ん?」

 

メールか?

 

携帯を開けて、メールを見てみるとそこには――

 

メイド服の流無がこっちにピースをしている写真が添付されていた。

 

「・・・」

 

俺は無言でそれを保存。帰ったら写真にしようと心に決めた。

 

 

 

翌日から始まった学年別タッグマッチトーナメント。

発表された対戦組み合わせでは、織斑とシャルルペアとボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアはかなり離れていて、戦うことになるのは準決勝戦でということになった。

恐らく順調に勝ち進んでいくだろう。

この二つは、残っている専用機持ち、更識簪・布仏本音ペアとは当たらない組み合わせになっているからな。

このペア、一回戦を無傷で勝利している。

更識簪の専用機『打鉄弐式』は未完成(平賀さんが布仏さんから聞き、少し意見を出し合っていたらしい)なのだが、それでも操縦者である更識さんの技量が高いのか、武器の薙刀で相手を倒していた。

加えて布仏さんの柔軟な戦い方も、相手のペースを乱して終始有利に試合を運んでいる。

予想だが、このペアが優勝で間違いないだろうな。

 

『八神、何か異常はあったか?』

 

おっと、ジャンヌからの通信だ。

今、俺たち全員は通信用のインカムを付けている。

平賀さんが作ったこれは目立ちにくく、それでいて高音質という優れものだ。

 

「特にない。怪しい動きをする奴もいない。静かなもんだ」

 

『そうか。鷹の目のレキも何も異常はないといっている。かと言って警戒を怠らないでくれ』

 

「了解」

 

そう。今は異常はない。

だが、何かの前触れのように静かすぎる。

 

「何も起きなければいいけどな」

 

そんな俺の呟きは今日の最後の試合の終了を告げるアナウンスの中に消えて行った。

 

 

 




結構長くなった。こんな感じですかね。

次回は遂に和麻の・・・。


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