【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「一体何なのよ! ゴキブリじゃなさそうだけど・・・ブタ!? それとも、モグラ!?」
生物の顔はどこかブタにもモグラにも取れる風貌だった。
それに気づいた焔が答えた。
「ブ・・・ブタモグラ・・・」
「えっ!? ・・・こ、これが噂の!?」
世界は一般には公にしていないが、月に住む生物とされていた動物。
名前からして多少は大きいモグラなのかと思っていたが、あまりにも想定外な大きさにゾクッとした。
デカ過ぎる。
「ね、ねえ、焔・・・私もブタモグラはよく知らないんだけど・・・これ、肉食じゃないよね?」
暦が少しビクついていた。
アスナたちもギョッとした。
そう、これだけ大きければ人間など軽く飲み込めるように思えた。
そして、小さいながらも牙が生えていた
「確か、主食は土だと聞いていたが・・・」
「じゃ、じゃあ、私たちが餌だと思ってるわけじゃ・・・ないよね・・・?」
「わ、分からん。しかし、確かブタモグラの性格は温和だと聞いたが・・・」
「・・・誰から?」
「・・・・・・・・・・さあ?」
しかし、そのわりには気が立っているように見える。ひょっとしたら、ナワバリに侵入してきた敵だと判断したのかもしれない。
「どちらにしろ、ここを脱出してアークグレンに避難しましょう」
「賛成・・・何だか戦うのも嫌だし・・・」
「よし、なら私が戦陣を切る。獣なら火が苦手なはず。道を空け、シモンを抱えてアークグレンに飛び乗るぞ!」
皆で頷き合う。そして、タイミングを見て一斉に前へ出る。
「さあ、道を空けろ! スピリット・オブ・ファイア!!」
「よし、みんな! 今のうちにシモンさんを抱えて・・・・・えっ?」
名前が「焔」であるだけあって、火の扱いに長けた焔だ。恐らく発動すれば相当強力な技だったのだろう。
しかし・・・
「な・・・ほ、炎が出ない!?」
ギャラクシークリームなどという物を使い、当たり前のように生身で活動しているから忘れていた。
「しまった!? ここは、地球のように酸素が空気中にたくさんあるわけではないんだ!」
炎が発生しない。ゆえに、既に突っ込んでいたアスナたちはそのままブタモグラの群れに突っ込み、カウンターを食らってしまった。
「ッたああああ~~~!!」
「うえええええん、いたーーーい!」
勢いのある頭突きをくらわされて、半泣きのアスナたち。魔力を体に漲らせて耐久力を上げているからこの程度で済んだが、生身では決して食らいたくないものである。
しかし、勢いにそのまま押され・・・
「あ・・・・・」
アスナたちは、呆然とした。
吹っ飛ばされて、ブタモグラたちが空けた穴の真上に飛ばされていた。
「ちょっ・・・」
「ま、まずい!?」
巨大なブタモグラが通ってきた穴だ。人間数人など余裕で通れた。
一瞬の油断のすえ、彼女たちは全員なすすべなく、月の地表深くまで落ちていくのだった。
「「「「きゃあああああああああああああああああああ!!」」」」
硬い土に全身を打ち付けながら、深い地の底まで転げ落ちるアスナ達。
咄嗟に全員で手をつなぎ、落ちて数メートルぐらいの地点で足を使ってブレーキを掛けようとするが、うまく伝わらない。
「とと、止まりませんわ!?」
「お嬢様! 絶対に手を離してはダメですよ!?」
「ああん、きっと青アザだらけやー!」
「くっ、しかしどこまで続いてるんだ、この穴は!?」
「ブタモグラの仕業でしょう! 奴ら、月の地下深くで土砂を食べて生きているんです!」
月にクレーターのような穴が空いているのは知っていたが、このように月面の下に空洞がここまで続いているとは思わなかった。
だんだん痛みが麻痺してきて、自分たちは一体どこまで落ちるのかと思っていたとき、穴の底でゾッとする光景を見た。
「え・・・・えええええええ!?」
穴の先には大きく開けた空間がある。そこには、大小無数のブタモグラがウジャウジャ居た。
居並ぶブタモグラの数は百を超えている。鼻をつく家畜のような匂い。聞いたこともない鳴き声。そこはブタモグラの巣に見えた。
「イヤですわ! あんなところに落ちるなんて絶対にイヤですわ!」
「絶対匂いが一生落なくなるーーー! お嫁に行けなくなる!!」
「うわあああん、フェイト様ァァァ!!??」
まともに戦えば負けることはないのだろうが、彼女たちは既に半泣きの状態だった。
とにかく、今はこのまま穴の底に落ちるわけにはいかない。落ちたら、百匹のブタモグラの群れのど真ん中に落ち、どうなるかは分からない。
だが、その時だった。
「さ、させない!!」
シモンがようやく動けるようになった。
「シモンさん!?」
「みんな、捕まってろ! 道が一つしか無いのなら、他の道はこの手で作る!」
咄嗟にシモンは真横にドリルを突き立てた。咄嗟だった。とにかくまっすぐ落ちたくない一心だった。
だが、それが功をそうしたのか、シモンたちはブタモグラの巣のルートから外れることができた。
「は~、危なかった。今ほどシモンさんが穴を掘るのが得意で良かったわ」
ブタモグラが作った穴とは別の穴を掘って、逃れることができた。
シモンたちはそのままトンネルを掘って、安全な場所まで移動しようとした。
とにかくもう落下する心配はなさそうだ。シモンが地中を掘り進み、アスナたちは擦り傷や打撲の怪我を気にしながら這って進む。
「ふう・・・みんな~、大丈夫?」
「なんとか・・・お嬢様、大丈夫ですか?」
「あはは、あっちこっち痛いえ~。こんなん、子供の頃に隠れてせっちゃんと山の中で遊んでたとき以来や~」
「我々も」
「全員なんとか~」
差し迫っていた危険を回避し、シモンたちは無事を確認し合って、軽く息を吐いた。
しかし、危機は完全に去ったわけではない。
「だいぶ落ちてきたが、大丈夫か?」
「分かんない、なんとかこのまま掘り進めて地上に戻るしかないよ」
月面に降りて僅か数分で月の地下深くに落とされたシモンたち。ワクワクの冒険のはずが一気にトーンダウンした。
「は~、とにかくアークグレンを目指そ。シャワー浴びたいし」
「さんせー」
おまけに、この土で汚れた状態がやる気を更に削いだ。
この出だしからズッコケた状況を元に戻すには、一度綺麗になって再スタートしかない。
「しっかし、人類初じゃない? 月の地下に落とされるって・・・」
「ブタモグラに襲われた人間も・・・」
「そう考えると貴重な経験」
そうやって、自分を慰めるしかなかった。
一方でシモンは無言のまま、少女たちのためにも少しでも早くとドリルを前へ進める。
もともとは自分が連れてきた子達だ。全て自分に責任がある。彼女たちは一切シモンを責めはしないが、責任からシモンはただ黙々と月を掘っていた。
だが、その時にシモンは何かに気づいた。
「・・・あれ・・・・・?」
一応地上を目指して掘り進んでいたのだが、妙なものを感じた。
それは、アスナたちも気づいた。
シモンのドリルが掘っていた場所を確認すると、何かが光っていた。いや、光が漏れていた。
「なんだ・・・?」
シモンは、その光る何かを知ろうと、ドリルを更に勧めた。
すると、空洞を掘り当てた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
シモンは、目を疑った。
アスナたちは、夢かと思った。
シモンのドリルで掘り抜いた場所は、広々とした空間となっていた。勿論、それ自体は珍しいことではない。
問題なのは、この空間を埋め尽くしているものだ。
「ねえ・・・夢だよね」
「さあ・・・どう思う? ちなみに、私は目の錯覚だと思いたいが・・・」
自分たちは月の地下深くに落ちたのは間違いない。
だが、これは何だ?
「これ・・・海水?」
シモンたちの膝上ぐらいの高さまで埋め尽くされている、海水。
「何で・・・月の地下に空が? 太陽が?」
見渡す限りの青い空。白い雲。そして、バスケットボールぐらいの大きさで輝いている太陽。
「何故・・・月の地下に、島が?」
目の前には、海水の上に漂う小さな島があった。
漂う海水が小さな波を作って、島の小さな砂浜に打ち寄せていた。
「何で・・・月の地下の島に・・・芝生が・・・ヤシの木があるん?」
島の砂浜を少し登れば、数センチ程度の芝生と、南国を思わせる木が三本並んでいた。
だが、問題はさらにあった。
「どうして月の地下に・・・海と空と雲と太陽と島があって・・・その島の上に・・・家があるんだろう?」
小さな島に立つ、小さな家。
ピンク色の木造で作られ、赤い屋根の2階建てぐらいの小さな家。
「な・・・なんで・・・・・・・・・・・」
「「「「「なんで、月の地下にカメハウスみたいのがある!!??」」」」」
ハッキリ言って、どこかの漫画で見たことがあるような光景が、まんまそこにあった。
「どーいうことよ!? 私たちは月のドラゴンを探していたら、ドラゴンボールの世界にでも来ちゃったっていうの!?」
本当に夢ではないのかと思うが、海水の冷たさが現実だと告げる。
「ア・・・アスナさん・・・アレ・・・」
刹那が震える指で、目の前の家を指した。言われてアスナも気づき衝撃を受けた。
家の壁にはアルファベットの赤い文字が書かれていた。
「・・・NAGI HOUSE・・・」
その言葉を目撃し、この瞬間、誰もが同じ人物を頭に思い浮かべた。
「ナギハウス!?」
「ナ・・・ナギって・・・まさか・・・」
「ッ!?」
アスナが慌てて海水から走って島に上陸し、家へ向かって一目散と走り出した。
シモンたちも急いで追いかける。
「ね、ねえ・・・焔・・・ナギってまさか・・・」
「そんなことあるはずが・・・あの人物が、月に来たなどという情報は・・・」
月の地下深くの空洞。偶然掘り当てたこの場所は、まさか・・・
そう思ったときだった。
「みなさん、表札に名前がありますわ! ひょっとして持ち主の名前が・・・えっ!?」
「う、ウソッ!?」
「ちょっ!?」
家の扉の横に付いていた表札には、確かにこう書かれていた。
「ナギ・スプリングフィールド・・・アリカ・スプリングフィールド・・・・・・」
『アリカ』という名前にシモンは、かつて出会った女を思い出した。
そして、『ナギ』、『スプリングフィールド』という名前。
まさか・・・
そう思ったとき、ずっと黙っていた環が声を荒らげた。
「待ちなさい!!!!」
それは、アスナが家の扉に手を掛けた瞬間だった。
「どうしたの、タマちゃん?」
「家の中に・・・誰かが・・・居る」
「ッ!?」
反射的にアスナはドアから手を離して後方に飛んだ。
皆も汗が頬を流れた。
「気配は感じない・・・でも、確かに感じる・・・人間の・・・女の匂い・・・。まるで、眠っているような・・・だけど、この家の中には・・・誰かが居る!!」