【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第84話 兎は居ないがブタモグラがいた

今、事情を知らない者がこの組み合わせを見たら何と言うだろうか?

 

「のう、セクよ。祭りもよいが、夏期休暇の予定などは聞いておらぬか?」

「いいえ」

「むう、そうか。早いところ予定を入れんと、帝国の大臣たちが五月蠅くてのお。妾を呼び戻そうとな。しかし、シモンとの予定が入っていると言えば、将来の婿候補との時間を優先とか言って言い訳が立つであろう?」

「婿?」

「ん、ああ、安心せい。妾とシモンがつがいになっても、ヌシを遠ざけたりなどせん。妾は皇女ゆえ器が広いからの」

 

麻帆良学園名物『超包子』。昼夜問わずに賑わう中華屋台。大人から子供まで評価の高い絶品料理の香りがいつも漂っている。

様々な人種が多い麻帆良学園ゆえ、外国人、更にはコスプレしたまま食事している客も珍しくはない。

だが、数あるテーブルの一つだけ、今日はとても異質であった。

 

「うーむ、しかしうまいの、この肉まん。エビチリも絶品じゃ。卒業後にはシェフを帝国に連れて帰るかの?」

「・・・・・・ニアの料理はある意味真似できませんが・・・・・・これほど質の高い料理を真似るのも難しい・・・今の私ではマスターの食事は作れない・・・」

「そう、難しく分析せんで、食わぬか。ほれ、妾の奢りじゃ」

「コクコク」

 

端から見れば、これは物静かでミステリアスな雰囲気が漂う美少女と、褐色肌でスタイル抜群の年上美人の組み合わせ。

しかし、事情を知っている者たちからすれば、世界滅亡を目指した悪の組織のメンバーと、世界救済に尽力した大帝国の皇女。

普通なら一触即発。下手したら戦争にまで発展しかねない経歴を持つ二人だ。

だが、今のこの二人からはその空気はまったくない。

 

 

「しかし、造物主ではなくシモンに目覚めさせて貰ったとは羨ましいのう。妾なんぞ、ヌシらの生みの親やその仲間に散々な目に合わされたのだぞ? 何度誘拐されかけたことか」

 

「・・・・・・エビチリ・・・絶品です」

 

「それが、デュナミスといい、フェイトといい、肩すかしもいいとこじゃ。何だか初代や二代目のアーウェルンクスや造物主が不憫じゃ」

 

 

一般人の同世代とは大きくかけ離れた、戦乱の時代の皇女として生まれ育ったテオドラ。

普通に生まれ、普通に育つ少女たちなら手に入れて当たり前のものを知らず、ただ国のため、民のため、世界のため、そして大義のためにあらゆるものを犠牲にしてきた。

その全ては「戦争」と「敵」によってもたらされたもの。

だというのに、二十年経った今ではこうして戦争の敵だったものと食事をしている。

 

「まあ、これも時代の移り変わりかの。人生一寸先も分からぬな」

 

敵と仲良くなる。良いことと言えば良いことなのだが、どこか複雑な気にもなるが、これも人生かとテオドラは笑い、肉まんを追加注文した。

 

「にしてもじゃ、ヌシら本気でどうするんじゃ? もう造物主は復活させんのか?」

「この肉まん・・・肉汁が素晴らしいです」

「・・・魔法世界崩壊とかどーするんじゃ?」

「しかし、マスターの味覚は特殊・・・果たして同様のモノを作成したところで、お気に召していただけるかどうか・・・」

「・・・のう・・・ナギとアリカについてなんじゃが・・・ナギはともかく、ヌシらはアリカの居場所を知っておるのか?」

「この肉・・・決して高級食材を使用しているわけではないというのに・・・」

「ナギは造物主と相打ち・・・アリカは人の手が決して届かぬ地に肉体ごと封印を・・・」

「シェフの名は、四葉五月・・・世界には色々な天才が居る・・・」

 

テオドラのふった話題にド無視のセクストゥム。黙々と、超包子の点心料理を解析中。

あまりにも無視されたので、テオドラが試しに聞いてみた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・シモンのことなんじゃが」

「ッ!? マスターがどうかなさいましたか!?」

「ヲイ!? 何故、世界を揺るがす超重要な話題に反応せんで、シモンの話題にだけ反応するんじゃ!?」

 

シモンという名前を出しただけで、態度を一変させるセクストゥム。

こいつらに、自分の少女時代をメチャクチャにされたんだよなーと、かなり複雑な心境になった。

 

 

「まったく・・・と、それはさておき、シモンを見んのう。せっかくじゃから一緒におりたいのじゃが」

 

「マスターの居場所・・・? ・・・・・ッ!? マスターの反応が消失!? マスターの身に何か!?」

 

「ん? なんじゃ、あやつ麻帆良におらんのか? ならばどこにーーーってヲーーーーイ!? そのバズーカー砲とか仰々しい魔剣チックなもんを装備してどこ行く気じゃ!? 別にシモンは誘拐されたと決まったわけではないぞ!?」

 

「マスターが私を置いて学園都市外へマスターが私を置いて感知領域範囲外へマスターが私を置いてマスターが私を置いてマスターが私を置いて」

 

「のわああああ、いい加減にせぬか! あやつも色々とあるんじゃろ。あんまり付きまとうと嫌われるぞ! 時におなごは男の帰りを信じて待つというのも必要なのじゃ!」

 

 

――ピクッ

 

シモンに嫌われる。そう言っただけでセクストゥムはピタリと止まった。

 

 

「マスターに・・・付きまとってばかりだと嫌われる?」

 

「えっ・・・あ・・・ん~、そ、そうじゃ! くっついて甘えるばかりが重要なのではない。時には男に頼らず自立している面もなければ大人になれんのじゃ! 男は船で女は岬じゃ」

 

「大人・・・・・・・・」

 

「そうじゃ。そうでなければ、ヌシはいつまでも大人にも、そして大人の女にもなれん。子供のままじゃ」

 

 

テオドラ。「あれっ? 妾、今結構良いこと言ったかの?」という表情だ。

しかし、テオドラ自身は片思いの経験はあるが、異性との交際経験は皆無。

テキトーな一言にセクストゥムが食いついたのだった。

 

 

「大人・・・では、大人になるにはどうすればよろしいのでしょうか?」

 

「ほえ?」

 

「マスターに嫌われないために、大人の女になります。どうすればよろしいでしょうか?」

 

「お、大人? はて・・・どうすればよいのじゃ? うーむ・・・自立・・・一人暮らし? 自分で金を稼ぐ? う、う~ん・・・」

 

 

テオドラ。自分で着る服ですら、女中に着せて貰っている状況である。

 

(って、じゃから何で妾は完全なる世界のアーウェルンクスシリーズと、女のあるべき姿とか恋バナをしとるのじゃ? しかも大人の女じゃと? そんな話題をふられてものう・・・)

 

金に困ったことも、自分で買い物をした経験もない。というより、一人暮らしなどつい最近始めた状況である。

そんな彼女が焦って言った答えは・・・

 

「こ・・・子供を産んで母親になるとかかの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「って、今のはなしじゃあ! ま、待つのじゃ! 冗談じゃ! そんなに目をキラリと光らせて何処へ行く!?」

「大人の女になるために・・・私を作った人物を探し出して子供を産めるように改造してもらいます」

「ぬああ!? って・・・ヌシを作ったのは・・・ってダメじゃあああ! それだけは絶対、て、待たんかァ! 何故、世界樹を一目散に目指す!」

 

テオドラの必死の説得には何十分も時間がかかったが、麻帆良は平和のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球から38万キロ以上離れた、直径3千キロ以上の星。

 

「やったやったーーー! ついに、来たわよ!」

 

表面は多数の巨大なクレーターがあり、大気も水もない環境は決して人が住めるような場所ではない。

そんな場所に、ただ一人の女性に愛を伝えるためという理由でたどり着いてしまった。

 

「すごい・・・」

「これが・・・月・・・」

「なんか、地球から見た月とは全然違うわね。こんなに広かったなんて。それに、クレーターの大きさとか、ハンパないわ」

 

最初はギャーギャー騒いでいたアスナも、少し声のトーンが静かだった。

今になって興奮よりも緊張が大きくなってきた。

 

「みんな、椅子に座ってベルトを締めよう。多分、着陸の衝撃が結構来ると思うよ」

 

ワクワクしながらも、シモンは的確に操縦席のボタンや桿を握って操作していく。これも螺旋の力なのか、かなり手馴れているように見える。

 

「適正な地形に着陸はじめ!」

 

アークグレンのモニターに、大きく『了解』の文字が映った。

すると、アークグレンはまるで吸い込まれるように急激に下降し、全身を揺らすほど大きな衝撃とともに着陸した。

 

 

「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

「すごーーーーーーーーーーーーーーーーい!」

 

 

全員がコクピットから見える月面の景色に感嘆した。

雄大だった。

どこまでも広がる地面。そこには、壁もなく、天井もなかった。

遠く、遥か彼方まで続いている月面の大地の向こうに、丸く輝く青い球があった。

どこを見ても、爽快だった。

何もない場所なのに、一瞬で心満たす何かがそこにあった。

 

「これが月・・・はは・・・ほんとに来ちゃったわよ」

 

柄にもなくアスナも感慨にふけっていた。

自分たちは地球から飛び出してしまったのだと。

 

「よし! じゃあさっそく準備をしないとね。まずは、環境について調べないと。」

 

改まって、アスナは拳をギュッと握って立ち上がった。

 

「シモンさんには悪いけど、ギャラクシークリームなんてインチキ臭いもの信用できないからね。えーっとアークグレンで、気温を調べるには・・・あと、装備の確認しないとね。それと、忘れちゃいけないのが酸素マスク! どれぐらいの量があるか調べとかないとイザって時に・・・」 

 

アスナはイキイキとしていた。

普段は大した準備などもしないで、行き当たりばったりなところも多いアスナだが、まるで遠足前日の幼稚園児のように目を輝かせながら準備をしていた。

準備をしているだけでも楽しい。次々と案を出して、皆を引っ張ろうとした。

だが・・・

 

「はー・・・すっごいなー」

「あっ、星条旗だ!」

「なるほど・・・これが人類にとっては大きな一歩となるわけですか」

 

シモンたちは既に普通に外を歩いていた。

ズッコケたアスナの目の前には、蓋の開いたギャラクシークリームが置いてあった。

 

「だから、どーしてそんなノリで出ちゃうのよ! 一歩間違えれば死んでたじゃない!?」

 

アスナもギャラクシークリームを塗って直ぐに外へ出てきた。

慣れない頭で必死に考えていた自分がアホらしかった。

一方で緊張感の欠片も無く、平然と月を闊歩していた焔たちは、反応に困った。

 

「何故、アスナはあんなに怒っているんだ?」

「先に月面に降りられたのが、そんなに腹立たしかったのでしょうか?」

 

しかし、アスナも怒鳴りながらも結局月面に降り立ってしまったが、とくに何の問題も無さそうだった。

アスナもすぐに反応が変わった。

 

「あっ・・・でも、本当に何ともない。確か、月ってすごい気温差激しいんでしょ? それを、魔法の力で乗り越えちゃう魔法使いもすごいけど、こんな便利なクリームを作ったシモンさんのお父さんもすごいわね」

 

月は太陽が出るか出ないかで、非常に気温が大きく変化する。100℃以上だったり、マイナス100℃とか、とにかく宇宙服などの装備も何もなく、生身で生きられるような場所ではない。

それを、常識を超えた魔法の力で乗り越える魔法使いはまだしも、クリームを塗るだけで誰もが生身で宇宙空間に出れるものを開発した、シモンの父親も普通ではなかった。

 

「うーん、俺も父さんが何をやってるかはよく分からないや。でも、開発したのは父さんだけじゃないみたいだけどね」

 

シモンがクリームの箱の裏を見ながら答えた。そこには、『神野ジョー』と書かれていた。

 

「神野・・・シモンさん、その人物はひょっとして・・・」

「ああ、アニキのお父さんだよ。俺の父さんとは親友だったり、ライバルだったり、でも仲は良かったよ」

 

カミナとシモンの両親。アスナたちは想像する。

あのグレン学園のシモンとカミナの父親たちだ、今のシモンとカミナが大人になった姿を想像すれば、かなり常識はずれでメチャクチャをやりそうなところを容易に想像できる。

 

「そういえば、父さんは最近になって会うようになったけど、ジョーおじさんとは行方不明になってから会ってないや。なにをやってるんだろう」

 

シモンがふとした疑問を呟く。ちょっとそれには焔たちも興味を引いた。シモンの父親があのアンスパなのだから、カミナの父親も相当ぶっとんだ人なのだろうと。

 

 

「カミナの父上はどんな人だったんだ?」

「うーんとね、優しくてメチャクチャ頭が良かったかな。よく、アニキと一緒に空を見て星を教えて貰ってたかな」

「頭がいい? カミナの父上が・・・?」

 

それには全員目を細めた。グレン学園を留年しまくって、自分の名前もテストで間違えたというカミナの父親だ。

 

「そういえば、アニキは言ってたっけ。アニキはおじさんと一緒に、昔宇宙に行ったことがあるって!」

 

進路指導の後に、カミナと二人で話していたことを思い出した。

昔、金星を目指して壮大な宇宙に行ったことがある。それ以来、自分は地球を飛び出したその先ばかりを夢見ていると。

 

「それなら、こんなすごいものを開発してても不思議じゃないな・・・」

 

やはり、カミナはウソをついていなかった。こんな物まで開発しているのだ。この、見渡す限り壁も天上もない世界へカミナは来たことがあったのだ。

そう思うと、シモンはうれしくなった。

 

「へへ、何だかようやく少しだけアニキに追いついた気がするな」

 

いつだって、上へ上へと行ってしまうカミナの世界観に、少し追いついてきたかも知れないと思えた。

だが、それで満足してはならない。何故なら、シモンは月にはこれで来れたが、カミナの目指しているものは更にその先にあるからだ。

グッと拳を握りしめ、いつか自分もこの宇宙の先まで行ってみたいと、シモンの瞳が輝いた。

 

「は~、何だかシモンさんとカミナさんって、まさに宇宙兄弟ね」

「ははは、確かに。スケールの大きなお二人だと思っておりましたが、まさか宇宙とは・・・」

 

言ってておかしかったが、しかしシモンとカミナならいつか宇宙の先まで辿り着くかも知れない。アスナたちにもそんな予感がよぎったのだった。

 

「でも、今は浪漫よりも愛が先! 分かってるわよね?」

 

だが、夢を見るのもこれまでにしよう。今回ここまで来た目的を忘れるなと、アスナは笑顔で手を叩いた。

 

 

「ああ! まずは、この月を制覇しないとな!」

 

「そうよ! 宇宙のリングをニアさんに贈るわよー!」

 

「「「「「おーう!!」」」」」

 

 

みなで拳を突きだして一斉にぶつける。この広大で穴だらけで未知な世界を今から掘り起こすのだと、気合いを入れた。

 

「さあ、タマちゃん。さっさとドラゴンどこにいるのか教えてよ!」

 

いつの間にかアスナが仕切りだして、ビシッと環を指さす。

確かに、この広大な月の大地。起伏も激しい地形で、一匹のドラゴンを探すのは至難の業。

同じ竜族である環の手腕にかかっていると言っても過言ではない。

 

「すん・・・すん・・・すん・・・」

 

気を、鼻を、神経を張り巡らして集中する環。だが、すぐに首を振った。

 

「近くにはいない。竜にしか分からない波長を流したけど、反応ない」

 

まあ、そう簡単に見つかるとは思っていない。それぐらいはアスナたちにも予想通りだった。

とりあえず、月面で思いっきり背伸びしてみて、頭の中を一度スッキリさせた。

 

「まあ、いいわ。せっかく月に来たんだし、堪能しながら地道にやりましょ。月なら、進化したコキブリとか居ないだろうし」

「もー、アスナ。驚かさんといてや。もしそんなんがおったら、ウチら改造手術もしてへんし、ミッシェルさんが居らんと生き残れんのやから」

「はは、アスナさんもお嬢様も結構余裕がありますね」

 

相手はドラゴンだ。その姿や力を生まれて一度も見たことのないアスナたちだが、それでもゲームやマンガなどでドラゴンというものが物語ではどれほどの強さを誇っているかは分かっている。

普通、ドラゴンと戦うとなれば、それこそ大魔法とか伝説の剣とかが無いと倒せないほど難度が高いと思われる。

しかし、今回のメンツとノリと宇宙という開放感からか、あまり細かいことは気にせず自分たちなら何とかなるだろうという考えが、アスナたちの気持ちを軽くした。

 

「やはり、地道に探索する必要があるな。アークグレンを拠点として、探索の範囲を広げていこう」

 

幸いなことに、アークグレンは環境や設備が非常に整っている。

食料もキッチンもベッドルームもシャワー設備もちゃんと備わっているので、食う寝るや女の子の身だしなみなどで悩むことは無かった。

ドラゴンの戦闘にさえ気を付ければ、あまり難しいサバイバルの必要もない。

この時までは、皆がそう思っていた・・・

 

「ッ!?」

 

その時、調が何かに反応して、ある方角を見る。

 

「どうしました、調?」

「しっ! ・・・・・・何か・・・聞こえます」

「えっ・・・?」

 

調は音に非常に敏感だ。だからこそ、一番速くに察知した。

調の様子から、仲間である焔たちも調が向いた方角に警戒心を強める。

 

「調ちゃん、何が聞こえるの? ・・・まさか、ドラゴン?」

 

まさか、いきなり現れたか? アスナと刹那が剣を取り出して身構える。

調は数秒の間を置いて答えた。

 

「・・・これは・・・何かが来ます。こっちに。振動が聞こえてきます・・・」

「やっぱり!?」

「しかし! これは・・・一つではありません! 複数・・・複数の何かがこちらに近づいて来ます!」

「えっ!? 複数!?」

 

まさかドラゴンは一匹では無かったのか? もし、そうだとしたら想定外だ。

 

「で、でもまだ何も見えませんわ!」

「環。どう!?」

「いえ・・・分からない。ドラゴンの波長は感じない」

「ま、待て! た、確かに揺れが・・・地響きが!?」

 

調が気づいてから少しして、ようやく焔たちにも何かが聞こえてきた。

いや、というよりも月の表面の僅かな揺れに気づいた。

 

「でも、一向に何も見えませんよ!?」

「うちもや! せやけど、ちょっと揺れてるんは分かる! どういうことや!?」

 

しかし、どれだけ目を凝らしても何も見えない。だが、どんどん揺れが大きくなり、何かが近づいてくるのは分かる。

すると、そこで調はようやく気づいた。

 

 

「わ、分かりました! 皆さん、この音の発生源は・・・・下です!?」

 

「「「「ッ!!??」」」」

 

 

その時、シモンたちの目の前の地面が割れて、下から黒い影が飛び出した。

 

 

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

それは、耳を塞ぎたくなるほど大きな声を発した。

 

「なっ・・・」

「なんなよこいつは!?」

 

戦慄した。

全身を毛で覆われた四足歩行の生物。

月の破片が舞い上がり、土埃が視界を覆う。だが、それでもその物体が生物でどれほどの大きさなのかはすぐに分かった。

 

「で・・・」

「デカッ!?」

 

単純にデカイ。背格好は牛や馬より大きく、横幅は大きく手を広げても足りないほどの体積だ。

どこか荒々しい鳴き声と、爪で大地を叩きながら、ソレはシモンたちを視界に入れた瞬間、突進してきた。

 

「ブモウウウウウウウウ!!」

「あ、あぶ・・・ッ!?」

 

女の子を守らなければ。咄嗟に前へ出たシモンだったが、その腹部に強烈な痛みが走った。

その生物の顔面からの突進で強打され、吐瀉物を撒き散らしながらシモンは月面を転がった。

 

「シ・・・シモンさ・・・ん・・・」

「お、おのれ!!」

 

話し合いの通じる相手などではない。そして、獰猛で動きも素早い。

 

「神鳴流・斬――――」

「せっちゃん! 下や!」

「・・・えっ!?」

 

刹那が斬りかかろうとしたが、忘れていた。近づいてきた音が一つでなかったことに。

 

「ブモウラアアアア!!」

 

その生物が空けた穴から飛び出すように、次々と同じ生物が飛び出してきた。

 

「な・・・こ、これは!?」

「な、なんなよこいつら・・・っきゃああ!?」

「アスナ!? あ、あかん、別の地面からも出てきた!?」

 

突如出現した謎の生物。明らかに自分たちに敵意を見せている。

次々と現れるその生物に成す統べなく、アスナたちはシモンを囲うように周囲の生物に構えた。

 


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