【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第81話 教えてシスター

児童養護施設・アダイ学園。

両親と死別、遺棄、経済的理由、虐待など様々な理由で暮らせなくなった子供達を受け入れ、自立できるように支援していく環境である。

だが、アダイ学園を目にしてまず印象に残るのが、あまりにも寂れた校舎、それなりの敷地内の広場に設置されている壊れたまま修理されていない遊具。建物の中も、いくつか割れたまま張り替えられていないガラスや点滅している電灯などが目立ち、経済的な余裕がないことはすぐに感じ取れる。

だが、本日この施設に訪問したカミナは、そのことについては大して驚かなかった。彼の記憶では昔から施設の設備はこのような状態であったし、自分の育った施設もあまりお金がなかったために似たり寄ったりな環境であったからだ。

しかし、それでもこれには驚かずにはいられなかった。

面談した目の前にいる老人の姿に、カミナは戸惑いを隠せなかった。

 

「ほう、祭りか。それはありがたいな」

 

ギシギシとうるさい音が鳴るベッドから体だけを起こして微笑む老人。その手足は細く、頬もこけた様子で老いている。

カミナはこの老人を子供の頃から知っていた。昔からよく怒られた。厳格なこの男があまり好きではなかった。だが、それも今となっては良い思い出だった。

しかし、今日久しぶりに会ってみてその変わり様に驚いた。

 

「マギン園長よ~、随分と老けたな」

「久しぶりに会ってそれを言うか?」

「ああ。昔はもちっとキリっとしてたからよ。今のロシウみてーにな」

「そうか。ロシウが・・・。あいつは頭も良く優秀だが、少し考えすぎるところがあったが、お前たちが居てくれるぐらいが丁度良い」

 

精一杯悪態つくが、すっかりと老い衰えた人物に、カミナは少し悲しくなった。

 

「お前の話しはロシウから聞いているよ。文句ばかりだがとても楽しそうだ」

「ああ。あったりまえよ。俺を誰だと思ってやがる」

「お前も相変わらずだな。そういえば、彼は元気かな? お前の弟分でいつも一緒に居た・・・」

「シモンか。あいつも男になってきてるぜ? 最近、色々と悩んでいやがるから、楽しみだ」

「楽しみ? 悩みがあるのにか?」

「ああ。あいつは悩んだぶんだけデッカイ男になっていきやがる。これを乗り越えたらシモンはどんだけスゲー奴になるんだ? ってな」

「ははははは。変わらないな、相変わらず」

 

マギンはとても穏やかで優しい瞳で笑った。そんな穏やかな表情をカミナは今まで見たことがなかった。

 

「随分と優しくなったじゃねえかよ、ジジイ。昔もそれぐらい優しければよ~」

「それはお前が悪い。いつも食事前にお祈りをしないで・・・」

 

カミナは昔から色々な大人たちに怒られたり、ぶん殴られたりしてきた。マギンもその大人のうちの一人だ。

今のロシウのように真面目で頭が固くて、規律を重んじ、厳格な態度でいつも自分たちと接していた。

それが今では縁側でのんびりと余生を迎えようとしている老人のようで、寂しかった。

 

「園長先生、入りますよ」

「今帰りました。体調はどうですか?」

 

部屋の扉が開かれ、学ランとセーラー服姿の少年少女が顔を出した。

桃色の髪の可愛らしい少女と、茶髪でそばかすのある少年。一瞬誰かと思ったが、カミナはすぐに気づいた。

 

「おおお、オメーら、ギミーとダリーじゃねえか? でっかくなったなあ!」

「えっ・・・あ、あの・・・えっと」

「俺だよ俺。ジーハ学園に居たカミナだよ!」

「あ、カミナ・・・さん」

「おうよ。かーっ、なっつかしいな! いつもロシウの後ろでウロチョロしていたチビ助共!」

 

二人の名は、ギミーとダリー。

ロシウと同じ施設であるアダイ学園の子供たちであり、彼らのことをカミナは知っていた。

彼らも一瞬戸惑ったが、すぐにカミナに気づいて笑顔をくれた。

 

「最後に会ったのが、オメーらが小学生に上がる頃か? 今、いくつだ?」

「はい、中三っす。来年は高校生ですよ。それにしても、久しぶりですね、カミナさん」

「おお、来年高校か? んじゃあ、ロシウと同じでダイグレン学園に来るんだろ? 歓迎すっぜ!」

「もー、カミナさんってば相変わらず強引ですね。まだ、進路のことなんて分からないですよ」

「そーか? ってか、昔は俺のことを呼び捨てにしてて生意気なガキどもだったけど、いざ「さん」付けで呼ばれるとなんか寂しいな」

「そりゃあもう、俺たちも子供じゃないですから・・・で、久々どうしたんですか?」

「おう。今度、おめーらんとこで祭りをすることになったから報告に来たんだよ」

「・・・・・・・・・・えっ?」

「カミナ君。それは話を省略しすぎだろう」

 

懐かしい再会にカミナはうれしそうに笑った。

だが、一方で再会したギミーとダリーの二人はどこか少し元気がないことを見逃さなかった。

何だか元気がないというよりどこか冷めているという気もする。

 

(ギミダリか・・・昔はアダイの中で唯一俺やシモンのやることに楽しそうにくっついてきたのにな・・・なーんか、つまんねえ目をしてやがんな)

 

あの幼かった子供たちも少し変わってしまったのかもしれない。十年近く経っていれば当たり前ともいえる。

そして、時折せき込むマギンをオロオロとする子供のように伺う二人に、カミナはあることに気づいた。

二人がそうなってしまった原因に、年老いて体調が良さそうに見えないマギンに何か関係があるのかもしれないということに、カミナは何となく気づいた。

 

 

 

 

 

麻帆良教会は、礼拝堂のステンドグラスから日の光が射し込み、神秘的な雰囲気を漂わせていた。

だが、その礼拝堂では神聖さを台無しにするような光景が繰り広げられていた。

 

「現れたな、穴掘り怪人・スパイラルボーイ! 貴様に穴だらけにされた者たちの無念、今こそ晴らさせてもらおう!」

 

決めポーズまでしっかりキメて、相手を指さす教会のシスター。

 

「なんだよお前。お前も穴だらけにしてほしいのかよ!」

 

対して、学ラン姿で精一杯ガラの悪い声で相手を威嚇するシモン。

 

「お断りしよう。そのうえで貴様の心に風穴を空けてやろう」 

「何なんだよ。お前は一体何者だ!」

「魔法世界に轟く完全なる世界。造物主の魂背中に背負い、不撓不屈のダークヒーロー。それが、私、デュナミスだ!」

 

台本を片手にセリフに熱を入れて悪役を演じながらも、どこか恥ずかしそうに顔を赤らめてセリフを読み上げていく二人。

シスターの名は、シャークティ。麻帆良教会シスターにして麻帆良学園教員の一人でもあった。

 

「はい、とりあえずここまではシモンさんも完璧ですね。この調子で本番も頼みますよ」

 

ポンと台本を閉じて、微笑む彼女の頬は少し赤かった。大分恥ずかしかったことが伺えた。

 

「ありがとう。シスター・シャークティ!」

「しかし、この台本・・・デュナミス先生がセリフを色々と追記されてますが・・・なんでしょう・・・かなりネタバレというか、一部の人には危険なワードがチラホラと・・・」

「えっ? 何のこと?」

「いえいえ、シモンさんはお気になさらず」

 

シスター・シャークティの手に握られている台本。

タイトルは「天元突破デュナミス。侵略するスパイラルボーイ 作者・春日美空 早乙女ハルナ デュナミス」となっている。

今度、施設の子供たちのために行う劇の台本だ。

 

「最初、学園でも札付きのシモンさんが参加されると聞いて心配でしたが、とても熱心に練習されて感心しています」

「はは、アダイは俺も子供の頃から世話になってるし。大体デュナミスに頭まで下げられたら断れないよ」

 

施設にいる子供たちを楽しませるため、教会が中心となって行うチャリティー。

学園でも人気急上昇中のデュナミスに協力を依頼したシャークティ。そのデュナミスの推薦とはいえ、不良仲間が多いシモンの参加を最初は快く思って見なかったが、こうして実際会ってみてその印象がガラリと変わっていた。

 

(ふふ。学園祭では色々と暴走していましたが、普段こうして見ると熱心な生徒ではないですか。・・・・・・しかし・・・)

 

普通の生徒たちと何も変わらない。いや、それどころか両親もいないのに、ちゃんとしっかりとした性格と優しさを持っていると、むしろ感心した。

だが、同時に何かに気づいた。それは、こうして芝居の練習を熱心に行っている一方で、シモンは休憩などで時間が空くと何かを思いつめたように考え込んでいる。

何か悩みでもあるのだろうか? 迷える子羊を導くシスターならではの勘がそう告げていた。

 

「・・・シモンさん、とても真剣に練習されていますが・・・何か別のことで悩みでもあるんじゃないですか?」

「えっ・・・何で!?」

「これでもシスターですよ? 何か悩み事がある人のことぐらい、顔を見れば分かりますよ?」

 

ニッコリと優しく微笑むシャークティ。まるで、迷子になった子供を安心させるかのような母性に溢れる微笑み。どこか心地よかった。

 

「あ、うん・・・別に悩みってわけじゃないんだ。悩み事は解決したし、やるべきことは分かっているから。ただ、ちょっと考え事してて」

「よろしければ相談にのりますよ? 実は私・・・こう見えてシスターなんですよ?」

 

冗談交じりのシャークティの言葉にシモンはおかしくて笑った。

 

「そうなんだ。なんか、最近のシスターってみんな親切だよね。さっきも謎のシスターズに相談のってもらったし」

「謎のシスターズ? 何ですか、それは」

 

シモンは、さっき自分をぶん殴ったシスターを思い出す。なかなかあれは貴重な経験だったが、非常にタメになった。

恐らく、あんなシスターは他にはいないだろう。だが、シスターに相談したことで答えを見つけた経験が記憶に新しく、シモンはシャークティの言葉に甘えて打ち明けることにした。

しかし・・・

 

「実は・・・女の子ってどういうプロポーズをすれば喜んでくれるかなって」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

予想の斜め上なシモンの相談に、開いた口が塞がらない。そんな様子のシスター・シャークティだった。微笑んだ頬がピクピクと引きつっていた。

 

「えっと・・・・・・シモンさん? あなたは・・・したじゃないですか。告白。学園祭の武道大会で堂々と」

「そうなんだけど、あれって告白であってプロポーズじゃないんだ」

「いえ、これからもずっと一緒に居てくれと言っていたじゃないですか」

「そうだよ。でも、ただ一緒にいるだけじゃダメなんだ。俺、分かったんだ。それだけじゃ他のみんなと変わらないんだって。もっと・・・俺の耳がニアの耳で、ニアの目が俺の目で・・・」

「・・・・大丈夫です。言いたいことは何となく分かりますので」

 

シモンはどうやら本気だった。何かノリや勢いだけでプロポーズすると言っているわけではなさそうだ。

しかし、そうなると逆に面倒なことになる。結婚とはそんな甘いものではない。ここは、ただ応援するだけではなく大人として諭してやらねばいけない。

自身も未知なものだが、シモンに結婚についてシャークティは語る。

 

「えっとですね、そもそもプロポーズとは成功すればいいというわけではありませんよ? なんというか、自分以外の人を心だけでなく経済的にも養っていくわけですから、まだ学生であるあなたの身としては色々とあるわけで・・・」

「俺、よくバイトしている親方から一生ここで働かないかって誘われてるんだ!」

「あ~、ほら、ニアさんもまだ学生。彼女の学力なら大学進学も狙えるわけですし・・・」

「分かってるよ。だから俺、いっぱい稼がないと!」

「・・・いや・・・そういう問題じゃなくてですね・・・・それ以前に、そもそも法律ではあなたはまだ・・・」

「とにかく、俺は好きな子にプロポーズしようって思うんだけど、どうやってしようかまだ考えてないんだ」

「いえ・・・あなた何歳ですか?」

「指輪も用意しなくちゃいけない。バイトとかしないとな・・・あと、ロージェノムにも挨拶しないと・・・」

「いえ、あの法律では年齢が・・・」

「どういうシチュエーションで言うかなんだよ。できれば、プロポーズは学園祭の時の告白以上のものをしたいんだ。そう思うとアイデアが・・・」

「ですから、あなたは結婚できる年齢ではないでしょう!?」

「なんだよ、そんなに反対なの? さっき相談にのってくれた謎のシスターズは、もっと積極的な人たちだったよ? イケイケドンドンって感じだったよ!?」

「何ですか、その謎のシスターズとは!? そんなシスターなど存在しませんよ!? そんな無責任な発言をするとは、一体どこのシスターでしょうか? 顔を見てやりたいぐらいです!」

 

なぜ、神に仕える恋愛厳禁のシスターである自分がこのような恋愛相談というか結婚相談を受けているのか?

しかも、世にも珍しい学生結婚をしようとしているのだ、そんな相談、恋愛経験皆無で堅物のシスターに答えられるはずもない。

だからと言って、賛成などと言えるはずもない。

 

「まあ、・・・恥ずかしい話・・・私も異性とお付き合いしたことはありませんから・・・それを結婚だなんて・・・」

「うん、でもデュナミスもネギ先生も今日は忙しいみたいだし、アニキたちにさっき電話したら何だかみんなして取り込んでいるみたいだし・・・」

「もう、私に相談するより他の先生にしたほうがいいかもしれませんね。・・・デュナミス先生やネギ先生にその話題は酷ですが・・・例えば、ダヤッカ先生など。結婚はいいことばかりではないと教えてくれるはずです」

「うん・・・でも、俺、もう決めたんだ」

 

一方で、シモンもウダウダ悩んでいたり、ハッキリしない時間が多くあった分、答えを決めたら一切揺るがない。

だからこそタチが悪いとシャークティも苦悩していた。

だが、何も思い悩んでいるのはシモンやシャークティだけではない。

誰しもがそういうものの一つや二つは抱えているものだ。

 


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