【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第77話 プリンセスラバー

緊迫した空気。

互いの覇気が空間を埋め尽くし、激しくぶつかり合っていた。

自分たちは果たしてこの場に居ても良いのかとさえ思った。

だが、ここまで来たら見届けよう。遠のきそうになる意識、吐き気がするほどの張りつめた神経の全てをむき出しにする。

 

「フェイト! 僕は・・・僕は負けない! 僕はここに来るまで多くのものを積み上げて、多くのものを背負ってきた! 君に負けるわけにはいかない!」

 

魂の籠もった声を上げるのは、ネギ。

 

「それが驕りだというのだ、ネギくん! 受け継いだものや積み重ねなど関係ない! 強い奴が生き残る! それが戦いだ!」

 

熱の籠もった言葉で応える、フェイト。

 

「ならば、僕は君を超えていく!」

「させるものか、勝つのは僕だ!」

 

時間の流れが狂いそうになる。それほどまでに二人の戦いにギャラリーは飲み込まれていた。

 

「すげえ・・・すげえ・・・なんなんだよ、この二人、どうして人間が・・・こんなガキが・・・こんな戦いを出来るんだよ」

「分からねえ・・・・分からねえけど・・・何か・・・熱い物が腹の底から・・・」

「どっちも引かねえ。どうなっちまうんだよ、この戦い。立っているだけで、気が狂いそうだ」

 

何気ない一つ一つの動作、目にも止まらぬ腕の動き、そして相手を射殺し、読みとり、圧倒しようとする瞳の強さ。

どうしてこの二人はこれほどの戦いが、これほど己の全てをさらけ出して出来るのか。

ただ、見守る者たちは拳を熱く握っていた。

 

「これは通じるはずだね」

「ふっ・・・確かにね、通しだ。なら、こっちはどうかな?」

「ふっ、その手はくわないさ」

 

決して互いに引かぬ、いや、引くことの出来ぬ所まで行った。

リスクを恐れず、敗北を恐れず、むしろ自分で自分の首を絞めるような危険な戦い方を両者はしていた。

力は互角。

恐れた方が負けならば、二人は恐れない。

ならば、勝負を分けるのは何か?

それは天運だ。

 

「ふふ・・・」

 

そして、ネギは笑った。

 

「ッ・・・何がおかしい!」

 

珍しく声を荒げるフェイト。だが、ネギはおかしいから笑ったのではない。

ネギは・・・

 

「違うよ、フェイト。おかしいんじゃない。僕は掴んだんだ・・・希望を!」

「ッ!?」

 

そして、二人の決着が訪れた。

 

「僕の手は、四暗刻だ!!」

「ぐっ!? ・・・ここに来て役満だと・・・」

「牌が、僕の気持ちに応えたんだ!」

「・・・くそっ・・・これで点数は・・・逆転・・・・」

「僕の勝ちだ。フェイト!」

 

その瞬間、張りつめた空気が一気に解けて教室に歓声が上がった。

 

「うおおおお、オーラスで逆転! やるじゃねえか、先公!」

「さすがに普段からアイツらに鍛えられているだけある!」

「なんか、遊戯王みたいだったけどな」

「一緒に打ってたテッカンとアーテンボローは空振りだったな」

 

勝者となったネギを教室に居た男たちは称え、乱暴だが肩を叩いていく。男ならではの祝福の方法。

ネギは照れくさそうに笑った。だが、すぐに顔を引き締め、今全力を出して戦った相手の顔を見る。

 

「フェイト・・・」

 

少し俯いているフェイト。だが、すぐに苦笑して首を横に振った。

 

「敗者に情けは不用だ、ネギ君。そして、紛れもなく君の勝ちだ」

「フェイト・・・」

「ネギ君、君の勝ちだ」

 

そして最後は両者を讃え合い、ノーサイドの証でもある固い握手をガッチリと交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・とまあ、そんな光景を見て一言。

教室の中には入らず、扉の影から中を覗き込む二人。テオドラとタカミチ。生徒たちは気づいていない。

 

「のう・・・あそこで、最終決戦みたいなノリで麻雀しとるのは?」

「ナギの息子のネギ君と、完全なる世界残党のボス・フェイト・ーウェルンクスだ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

テオドラ。とりあえず、一通りの連中を見た。

そして一分ぐらい硬直して、ようやく口から出た言葉は・・・

 

「妾は、本当に幻術でも見とるのかの? あっ、それともこれが噂の「完全なる世界」とかでは?」

 

現実を認められなかった。

 

「いくらでも頬を握りましょうか? 僕なんて、夢かどうかを確かめるために、自分の顔に居合い拳を叩き込んだことがありますから」

 

タカミチはテオドラに激しく同意。だが、これは事実なのだと改めて言うしかなかった。

 

「あ・・・・・・あやつらを倒すために妾らは・・・妾らは・・・どれだけ」

「そうなんです。あれと戦って、師匠は・・・師匠は・・・」

「どうして・・・どうしてこうなっておるのじゃあ!?」

 

テオドラ、そこで号泣。ようやく自分の気持ちを共有できる人と会えたと、タカミチもつられて涙目。

 

「なんでじゃあ! デュナミスがモテ男になって、メンバーたちは普通の女子高生になりおって、挙げ句の果てに残党のボスと英雄の息子は仲良く麻雀じゃとお!?」

「ちなみに、この間はモンハンというものもやっていたらしいです」

「普通の友達になっとるではないか!? ええ!? なんでじゃあ!?」

 

正に、どうしてこうなっていると叫ばずにはいられない酷いものであった。

 

 

「さ、最初は疑ったんじゃ。何かの間違いでないかと。仮に本当だったとしても、完全なる世界たちが麻帆良に居るのは生徒たちを人質とかナギの息子を狙ってるとか麻帆良に眠ってる造物主の復活とかよからぬことを考えてるからだと警戒しておったのに・・・なんか普通に学生生活送っておるではないか!?」

 

「ええ。っていうか彼らは目的どころか、造物主の存在も忘れてますよ・・・今の彼らの頭の中は、せいぜい夏休みをどうしようかとかそんなものですよ」

 

「なんじゃあ!? 平和そのものなのに、このやるせなさはなんなんじゃあ!?」

 

 

タカミチ。激しく同意。何度も強く頷いた。

 

 

「分かってくれますか。分かってくれますか、皇女。僕だってそうでした。魔法先生・生徒たち、そして最新魔法技術を駆使して彼らの監視や僅かなメモ書きにすら何時間も掛けて暗号解読に当てはめたり、挙げ句の果てに隙だらけで彼らを拘束しようとしたらネギ君や生徒たちから大ブーイングを受けていた苦労が!」

 

「うむうむ。大変であったろう」

 

「ある日フェイトが、『狩りの時間だ』などと発言をし、その言葉を耳にしてようやく彼らが本性を出して動き出すと思った我々全魔法先生・生徒たちが総動員で休日に戦闘態勢及び超S級警戒態勢に入ったと思ったら、モンスターハンターをクラスメートと始めていた僕の気持ちが!」

 

 

本来は大人の物腰で落ち着いたダンディー教師のタカミチが珍しく壊れていた。

テオドラはタカミチの心労を心から理解して、同情と慰めの言葉を掛けた。

タカミチは初めて温かい言葉をもらえたと、泣きそうになってきた。

だが、タカミチはこの時は想像も出来なかった。

ようやく心を理解してくれる仲間が出来たと思ったが、このテオドラが事態をさらに訳分からなくさせてしまうということに。

 

「がーはっはっはっは! いよう、ケリはついたか!」

 

教室の扉が勢いよく開けられた。

 

「あれっ・・・先公の逆転勝ちか?」

「おうおうおう! 地味にツエー、フェイ公を倒すったあ、さすがは俺らの先公だぜ!」

 

入ってきたのは、ダイグレン学園を代表する不良たち。

そして、事態を滅茶苦茶にしてしまった元凶とも言えるものたちだった。

 

「ってことは、俺らへの挑戦権は先公が得たってことか」

「はい、カミナさん、キタンさん、ゾーシイさん。ダイグレン学園麻雀最強決定戦の最後のメンツは、僕です!」

「だはははは、俺らが食堂に行ってる間に勝ち抜きで決めとけとは言ったが・・・まさか先公が残るとはよ」

「だがな、ダイグレン学園麻雀四天王の俺たちに勝てるか?」

「この、キタン様!」

「このゾーシイに!」

「そしてこの、カミナ様になあ!」

「ええ、挑みます! 倒れていった者たちの願いと後から続く者たちの希望を織り込んで、僕は雀聖への道を掘る! それが、・・・って、違いますよ!」

「だはははは、ノリツッコミはいいが長え! まだまだ甘え!」

 

とりあえず、今の話を聞いて状況が理解できたタカミチ。あのネギ君をなんてことに巻き込むんだ・・・と思ったその時だった。

 

「ああ、皇女・・・ちなみに彼らが全ての元凶とも言える、カミナ君という名の生徒で―――――」

「ぬわあああああああああ!?」

「えっ、皇女!?」

 

何と、突然テオドラが奇声を上げて飛び出したのだった。これには、タカミチは完全に予想外。そして、生徒たちにバレた。

カミナたちもビックリして振り返る。

 

「げっ、高畑!? やべ、急いで卓を片づけろ!」

「タタ、タカミチ!? これは違うんだ、お昼休みのレクリエーションで、お金なんて賭けてないから! って・・・その人は誰?」

「ん? おい、何だこの色黒スタイル抜群の女は・・・メチャクチャ美人じゃねえか!」

 

慌てだす教室。だが、タカミチは少し戸惑っていた。それは急に飛び出したテオドラだ。彼女に一体何があったのか?

すると彼女は、カミナたちを指さして震えていた。歯をガチガチとさせ、明らかに動揺していた。

 

「ヌ、ヌシら・・・」

「あん? 何だよ、姉ちゃん」

「た・・・・確か・・・・二十年前・・・」

「はっ?」

「シモンと一緒に・・・妾を救ってくれた者たちではないか?」

 

教室がシーンとなった。

タカミチもポカーンとしている。

 

「あっ・・・テオドラ皇女・・・」

 

いち早く彼女の正体に気づいたフェイトが、思わず彼女の名をポロッと口に出した。

そして、その瞬間フェイトは全てを理解した。

 

(なんでここに、彼女が・・・って、そうか! 彼女は僕たちと二十年前に会っている! それに、まずいな・・・カミナたちが二十年前とまったく歳の取っていない状態だし・・・)

 

学園祭でタイムマシーンの事故に巻き込まれて過去の魔法世界に飛ばされたダイグレン学園の生徒たち。

そこで、彼らはテオドラと会っていた。そして一緒に戦いもした。カミナたちはまだボケーッとしていて気づいていない。

だが、このあり得ない事態にテオドラは言葉を失っていた。

 

「何だか騒がしいですね」

「ふっ、麻雀の方はどうなってるかな?」

「あれ・・・高畑先生じゃない?」

「あら、ほんとね。みんなどうしたのかしら?」

 

昼休みが終わりに近づいて、外に出ていたロシウやヨーコたちの面々が続々と教室に帰ってきた。

テオドラ、それを見てさらにビックリ。

 

「え、ええええ!? あれ、ヌシらは・・・・ヌシらは!?」

 

どういうことだ? 何がどうなっている?

混乱が加速して、何も言葉が出ない。

 

「ふう、いい汗かいたー」

「息もようやくあってきたしね」

「これなら、本番も大丈夫だよね」

「ん・・・何か様子がへんです」

「ふふふ、私も自分の手腕をたまに恐ろしいと思うネ。むっ・・・ところで少し騒がしいガ・・・って、ええ!?」

「おいどうした。もうすぐ鐘もなるであろう。いつまで立って・・・ぬぬ、あの女は・・・テオドラ皇女!?」

 

同じく外に居た焔や超たち、そしてデュナミスも帰ってきたのだが、超とデュナミスは一目でテオドラに気づき、少し慌てた。

 

 

「おい、どういうことだテルティウムよ。なぜ、ヘラス帝国の皇女がここにいる!?」

 

「フェイトさん、今度は何をやらかしたネ!?」

 

「あっ・・・デュナミス・・・うん、僕もよく分からないけど、少し黙ってたほうがいいよ。そして超。こうなった原因の大半は、君のタイムマシーンだからね」

 

 

あまりにも堂々とヘラス帝国とか皇女とか魔法世界のワードを出しすぎる無警戒なデュナミスを制するが、しかしテオドラはそれどころではないといったところだ。

 

(ど、どういうことじゃ!? なぜ、なぜこやつらがここにおる!? しかも・・・何故歳を取っておらぬ! 人違いか? それともあやつらの血縁者か? いや・・・しかし・・・)

 

混乱収まらぬテオドラ。だが、幸か不幸かこの数秒後、彼女にその全てがどうでもよくなるほどの衝撃がやってくるのだった。

 

「なあ、みんなどうしたんだよー」

「皆さん微動だにしていません。ダルマさんが転んだでしょうか?」

 

―――ッ!?

 

 

テオドラ、心臓が止まってしまうかと思った。

 

「ッ・・・そ・・・その声・・・」

 

教室に帰ってきた二人。その二人の声をテオドラは知っていた。いや、忘れることなど出来るはずがない。

 

「まさか・・・まさか・・・まさか・・・」

 

まさか・・・そう思って彼女が振り返った先には・・・

 

「あっ・・・」

「あれ・・・君・・・・どっかで・・・・」

「あら。私もどこかで見たことが・・・」

 

首を傾げる二人は、テオドラの正体に気づかない。しかし、どこか心当たりと懐かしさを感じた。

一方でテオドラは、後僅かな衝撃で両膝から崩れ落ちるところだ。気づけば頬に涙が伝っている。

ずっと会いたかった・・・ずっと恋こがれていた・・・そしてずっと探していた・・・そして、もう二度と会えないと思っていた。

だが、これは幻ではなく現実だ。正直この瞬間、テオドラはアーウェルンクスや完全なる世界など頭に無かった。

時の矛盾も気にしなかった。

ただ、目の前にいる人物が本当かどうかを明らかにするため、彼女は震える唇でその名を告げた。

 

「シ・・・シモン・・・なのか?」

「えっ? 何で俺の名前・・・あれ?」

「シモン・・・なのだな・・・い、生きて・・・いたのか・・・」

 

もはや涙が流れる程度の問題ではない。涙が止めどなく溢れだした。

首を傾げるシモンは、どうやらまだ自分の正体に気づいていないようだ。だが、当然だ。二十年も経っているのだ。テオドラとて、シモンが二十年前とまったく同じ容姿でなければ気づかなかったかもしれない。

だが、こっちが気づいて向こうが気づかないというのは、やはり面白くないと言えば面白くない。

テオドラは涙を拭いながら、両手を合わせて頭を下げた。

 

 

「お・・・・・・お久しぶりです。わ、わたくし・・・かつて勇者であるあなた様に命を救われました、ヘラス帝国皇女・テオドラにございます」

 

「えっ!?」

 

 

涙は気にせず、テオドラは皇女として、そして大人としての振る舞いを見せてシモンに一礼する。

それを見て、シモンは気づいた。

かつて魔法世界で出会った、うるさくて騒がしくて可愛らしいお姫様のことを。

 

「テオッ!!」

 

そこから先は皇女でなく、テオドラはただの女になった。

 

「シモン・・・・・・シモンッ!!!!」

 

テオドラは力強くシモンを抱きしめた。ようやく再会できた男を、離すものかと抱きしめた。

 

 

「ヌシなのだな! シモンなのだな!? 本物のシモンなのじゃな!? シモン・・・シモン・・・シモン!! まさか・・・まさかもう一度会えるとは・・・まさか・・・」

 

「テ、テオなのか? 本当にあの時のテオなのか!?」

 

「どうして・・・どうして!? どうして妾に何も言わずに消えた! どうして礼も言わせずに黙って居なくなった! どうして・・・どうして!?」

 

 

先ほどまでと違い、己の感情の全てをシモンにぶつける。

この二十年で互いの身長は逆転した。かつてはシモンよりもずっと小さかった少女が、今では小柄なシモンをすっぽりと覆い抱きしめるほど成長していた。

 

シモンが戸惑うのも無理はなかった。

 

「・・・・・・・・・・・皇女?」

「あの・・・結局あの人誰なんですか?」

「お願い・・・フェイトさん・・・これ、本当に私が原因でこんなことになってるカ教えて欲しいネ」

ポカン顔のタカミチとネギ。訳が分からん超。

 

そして・・・

 

「とりあえず・・・・・・」

 

とりあえず、皇女と呼ばれているグラマーな大人の美人に抱きしめられているシモンに、一同一言。

 

 

「「「「「「「「「「シモン・・・・・・どこのプリンセスラバーだこらあああああああああああああああああ!!!!????」」」」」」」」」」

 

 

大怒号が学園に響き渡ったのだった。

 

「シモン・・・シモン・・・シモン~・・・生きて・・・いた・・・のか・・・」

「うん。久しぶり」

「何故・・・何故歳を取っておらんのじゃ! ヌシは三十代のはず!」

「あ、えっと・・・それは・・・」

「いや、よい。話なら後で構わぬ。重要なのは、そなたが目の前に居ること。だから、妾はもう離さんぞ」

「あっ・・・むーーーーッ!!??」

 

だが、テオドラは全く気にしなかった。それどころかシモンにスリスリとし、その身長以外にも成長しているたわわに実った二つの果実にシモンを埋め込んだ。

 

「むー、むむーう!!??」

「シモン・・・ようやく会えた・・・シモンよ」

「むー!? むーっ!? むーっ!?」

 

テオドラ、感動のあまりに何も耳に入らない。だが、テオドラの胸の中でシモンが切羽詰まった声を上げている。

それは何故か。何故ならこういう状況だとクラスの怒号と、あの女が目覚めるからだ。

 

「錐揉みキーック!!!!」

「ぬぬッ!?」

 

どんなに感動に浸っていても、流石は歴戦を生き抜いた皇女。自分に向けられた殺意にはちゃんと反応した。

後、コンマ数秒反応に遅れていたら、顔面を蹴り飛ばされていた。

 

「テオドラ・・・・・・何を・・・しているのですか?」

 

額に青筋立てた黒ニアが光臨した。

 

「ニアくーーーん、なんてことを、この人は帝国の皇女なわけで!?」

「てか、高畑・・・ヘラスってどこだ? ヨーロッパのどこかか?」

「でもよー、ニアだって小さい国なら簡単に潰せるテッペリン財団のお嬢様だ。言ってみりゃ、あれも姫だろ?」

「しっかし、あの姉ちゃん何者だ? どっかで見たことあるような気がするが・・・」

 

一国の皇女の顔面に蹴り入れようとしたニアに、泡拭いて気を失いそうになるタカミチ。

だが、黒ニアは相手が誰でも関係ない。むしろ「チッ、外しました」と舌打ちしていた。

 

「ほ、ほう・・・これもまた懐かしい・・・ニアか?」

「ええ。随分と手足が伸びて脂肪もついていますね。ですが、・・・あなた・・・誰に手を出しているのでしょうか?」

「ぷはっ・・・黒ニアー、待って! ちょっ、テオだって悪気があるわけじゃないんだし、それに久しぶりなんだからここは落ち着こうよ!」

「いいえ、シモン。私は至極冷静に、テオドラの首を跳ね飛ばして肥溜めに叩き込もうと思うほど落ち着いていますが」

「な、なぬ~」

 

黒ニア。漆黒の瞳と明らかなる殺意が場を凍り付かせる。

テオドラも少しカチンと来たのか、ムッとして立ち上がろうとした。

だが、そこでテオドラは・・・

 

(むっ・・・ニア・・・・・・・ニア・・・こ、・・・これは!?)

 

あるとんでもない重大なことに気づいたのだった。

 

(・・・ぬふふ・・・なるほど・・・そういうことか。ならばここは・・・)

 

テオドラ、顔には出さないが、気づいたあることを考えるだけで、ニヤケが出そうで仕方なかった。だが、ここはあくまで冷静にと、急に大人の余裕の振る舞いを見せだした。

 

「申し訳ありません、ニア。あなたの恋人を抱きしめるような事をして」

「むっ・・・」

「しかし、うれしくて思わずしてしまったのです。お許し下さい」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

何と、テオドラは礼儀正しくニアに謝罪しだしたのである。これには黒ニアも反応に困った。あの、二十年前のじゃじゃ馬娘が、こんな落ち着きのあるお淑やか大人になったのかと。

 

「ダイグレン学園の皆さん驚かして申し訳ありません。ですが、ずっと探していた方が目の前にいましたので我慢できませんでした」

 

この時、疑ったのはタカミチだけだった。

 

(何だ・・・急に大人びた態度を見せて・・・お淑やかなフリをして・・・何を企んでいる?)

 

テオドラは明らかに何かを企んでいると、タカミチは読んだ。しかし、そのことに気づかないダイグレン学園の生徒たちは照れくさそうに笑った。

そしてテオドラは説明した。自分がかつてシモンたちと出会い。窮地を助けてもらったことを。そして何も言わずに消えたシモンやカミナたちを探していたと。

勿論、事情の知らない者たちもいたので魔法やタイムマシーンのことは旨く省いたが、ネギや超やデュナミスたちはようやく事の流れが掴めた。

 


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