【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第52話 20年の恩返し

「うおおおお、空間がぐにゃぐにゃして・・・っていうか、みんな逸れちゃったけどどうして・・・」

 

 

妙な空間で漂っているシモン。

普通にみんなと一緒に帰れると思っていたら、まるで時空間の狭間のような場所で宙を漂っていた。

一体何があったのか? そう思って不意に『天も次元も超えて会えちゃうマシーン』を見て見ると、なんと・・・

 

「ああああーーー、ヒビが入ってるゥゥゥ!!?? なんでェ!?」

 

まるでマシーンは、過剰なパワーに耐えきれずに破損したかのようにヒビ割れていた。

その原因は後々わかることになる。

コアドリルから発せられる螺旋力。学園祭の世界樹の膨大な魔力。全ての膨大なエネルギーをため込んだマシーンを、己の内に計り知れぬほど膨大な螺旋力を秘めさせたシモンが扱う。

フェイトやザジのように魔力をコントロールできれば話は別だろうが、シモンにそこまでの技術は無い。

それはエネルギーの出力にマシーンが耐え切れなかったと言われれば、仕方のないこと。

何より、大量生産で未来のアンスパが一晩で造れる程度の物に、そこまで求めるのは酷であったのかもしれない。

 

「やばい・・・漫画でも良くあるけど、こういう場所に閉じ込められたら、そのうち永久に出られなくなるんだ!」

 

シモンはビビる前に、辺りを急いで見渡す。

 

「なら、ぶち破る! このままこんな終わりなんかしてたまるものか!」

 

シモンはドリルを取り出した。アンスパと戦っていた時を想いだし、内にある螺旋の力を解放する。

ここは、壁も床も天井もない世界。

だが、とにかくシモンは突く。

穴よ開け。

どこでもいいから、時限の穴よ開けと、何もない空間を突きまくった結果。

 

「あっ!?」

 

手ごたえがあった。

何もないはずの空間にヒビが入った。

そのヒビは、空間全体に広がり、やがてボロボロに落ちる。

このひび割れた世界の向こうに何があるかは分からない。だが、自分は必ずみんなの元へ帰って見せるとシモンは誓った。

その瞬間・・・

 

「ぶはえあああああああああ!?」

「・・・あれ?」

 

未知の世界へ飛び出したシモンは、初っ端に何かを踏みつけた。

辺りを見渡すと、建物の中のようだが、まるで大決戦を繰り広げていたかのようにボロボロだった。

そしてシモンは下を見る。

すると、何とシモンは両足で人の頭を踏みつけていたのだった。

 

「わああああああ、ごめんなさいいい!」

 

シモンは慌てて飛びのいた。

どこの誰だか知らないけど、これは明らかに自分がワルイ。

とにかく急いで降りて、深々と頭を下げた。だが、そんなシモンの耳に、横から聞いたことのある声が聞こえた。

 

「シ・・・シモン・・・くん?」

「えっ?」

 

シモンが顔を上げて振り返ると、そこには予想外の人物が居た。

 

「クウネル・・・じゃなくって・・・アル?」

 

そこに居たのは、紅き翼の一味の、アルビレオ・イマ。

 

「アル!? どうしてここに・・・って、どうしたんだよ、その怪我!」

 

さらにアルは傷だらけであった。壁際に寄りかかりながら、傷口から血が流れ落ちていた。

かなりの重傷のようだ。

 

「ふふ・・・どうして君がここに・・・? いや、まあ私の怪我は、今あなたが踏んづけた相手との戦いで・・・」

「俺が踏みつけた?」

 

シモンは、自分が踏みつけたものを見る。よーく見ると、誰かに似ているような気がした。

そしてその者はワナワナと震えながら、怒りをあらわにして立ち上がる。

 

「どこの誰だァァァァ! この私を足蹴にするとは、いい度胸ではないかァ!」

 

それは、ここ最近見た人物だった。

 

「お前は・・・デュナミス!」

「ぬっ・・・きさ・・・きさまは・・・キィサァマァハァ! シィモォォン!!!!」

 

どうやらアルと死闘を繰り広げている最中だったのだろう。デュナミスも相当の手傷を負っている。

だが、彼はシモンの姿を見た瞬間、これまでの傷など忘れてしまったかのように、元気な怒りを爆発させた。

 

「ハァッハッハッハッハッハッ! また会える日を楽しみにしていたぞ、この男の敵めがァ!!」

 

デュナミスの視線に、アルの姿はもう居なかった。

それどころか、積年の恨みを持った少年の姿に感動しているようにも見えた。

 

「シモン君・・・知り合いですか? それより、どうしてここに?」

「俺もよく分からないけど、ドリルで掘り当てたらここに居た。アル・・・この状況を簡単に説明してくれ」

 

意味が分からない。つい先日にボコボコニされて、ボコボコにしたデュナミスと、奇妙な縁で出会ったクウネルことアル。

一体何がこの状況を作り出しているのか?

アルは溜息つきながら、話をする。

 

 

「ここはオスティアに位置する『墓守人の宮殿』です。我々は総力を結集し、完全なる世界との最終決戦に乗り込み、敵の幹部と我々が一騎打ち。あのデュナミスという男を私が請け負い、一進一退の攻防のさなかに、あなたが登場したというところです」

 

「えっ・・・オスティア?」

 

 

シモンは「あれっ?」と思う。そう、そこは確かフェイトが帰る目標として定めた場所。

 

(それに、最終決戦て・・・)

 

そして、フェイトが定めた日。

元の世界へ帰れるチャンスがある時でもあった。

シモンは慌ててグレンウイングを見る。すると、グレンウイングの窪みにピッタリと装着されている、超鈴音の懐中時計が光り輝いていた。

 

(超のタイムマシーンが動いている! そうか、今はフェイトが言っていたように、魔力っていうのがこの場所にいっぱいあるんだ。これなら、これを使えば帰れる!)

 

シモンは心の底から安堵した。ひょっとしたら自分はとんでもない状況に陥ったのではないかと錯覚したが、自分にはまだツキがあった。

これなら帰れると、戦場に居ながらシモンは完全に気を取られていた。

そのため・・・

 

「何を余所見しておる!!」

「シモン君、危ない!!」

「・・・えっ・・・」

 

一瞬の出来事。影の触手がシモンに襲い掛かる。

だが・・・

 

「ぐうううう!?」

 

その触手の刃は、シモンをかばおうと盾になったアルに突き刺さったのだった。

 

「ア・・・・アルウウウウウ!?」

「はっはっはっはっはっは、これは一番面倒な奴が勝手にやられてくれたではないか!!」

「アル、アルッ! アルッ!?」

 

無数の触手が肉体を貫通したアル。響き渡るアルの苦痛の叫びと、シモンの叫び。

そして、デュナミスの高笑い。

 

「アルッ!?」

 

アルは何度呼びかけてもグッタリとしていた。

シモンは取り乱した。

自分の所為だ。

 

「アル・・・」

 

戦争中なんだ。

今は、世界の行く末をかけて、皆が命がけで戦っているんだ。

そんなことを忘れて、自分だけ平和で安全な時代と世界へ帰れることに油断した結果、取り返しのつかないことになってしまった。

だが、そんなシモンの涙がゆっくりと拭われる。

 

「そんな・・・・顔を・・・しては・・・ダメ・・・ですよ・・・シモン君」

「アルッ!」

「あなたには・・・男として守らねばならぬ人が居ます・・・・そんなあなたが・・・・泣いていてはダメですよ」

 

アルは笑っていた。拷問のような痛みに一切の苦しみの表情を見せず、笑ってシモンに語りかけていた。

 

「例え・・・私がやられても、私の仲間が居ます。私が負けてもきっと彼らは勝ちます。私は・・・それでいいのです」

「・・・・アルッ!」

「さあ、急いでこの場から立ち去るのです。デュナミスも・・・人間のあなたを殺すこと・・・は・・・・ぐっ!?」

「アルッ! しゃべっちゃダメだ! 傷が!?」

 

アルの傷は深い。血がどんどん溢れてくる。

こんな場所にいつまでも置いていたら、どうなるかなどシモンにも予想がつく。

そして何よりも・・・

 

「はっはっはっは、バカめ! 大のために小を捨てられぬ英雄め! だから甘いというのだ! 非情になれぬ貴様らに、世界は背負えぬ!!」

「ッ!?」

「民衆にちやほやされ過ぎて、為すべき大義を忘れた愚か者よ!」

 

この、アルを侮辱する言葉を聞いていつまでも・・・

 

「ふっ、シモンとやら。あれほど殺してやりたいと思った貴様に感謝したいぐらいだよ。おかげで私は――」

「黙れ」

「ッ!?」

 

いつまでも、黙っていることができるはずがない。

 

「なんだと? 聞かなかったことにしてやっても良いぞ?」

「シモン君、やめなさい! 逃げるのです」

 

そう、黙っていられるわけがない。シモンは立ち上がる。

 

「だったら聞こえるように言ってやる。黙れっつったんだよ! そして俺は、逃げない!!」

 

ドリルを構えて。

 

「小さな命を気遣うことのできるアルを、・・・お前なんかが・・・お前なんかがバカにするなァ!」

 

シモンは吠えた。

 

「シモン君!?」

「ふふふふ・・・はっはっはっはっはっ、笑わせる! 貴様一人に何ができるというのだ?」

 

デュナミスはおかしくて笑った。

 

「前回貴様にやられたのは、アリカ姫とテオドラ皇女、そして綾波フェイと黒ニアという者たちが居たからにすぎん。貴様一人は私に地獄を見せられたことを、もう忘れたのか?」

 

そう、デュナミスの言っていることは間違っていない。

前回の戦いは、頼もしい仲間が居たからに過ぎない。

そして今は、アンスパとの激戦を乗り越えたカミナたちも居ない。

ある意味今のシモンは、この世界に来て初めて、たった一人になってしまったのだ。

 

「そんな貴様に何ができる!! この私を侮るのもいい加減にするのだな。今度こそ、取り返しのつかぬダメージを与えるぞ!」

「いけない! シモン君!?」

「はっはっはっは、深き闇に落ちるがよい、愚かなる者よ!」

 

デュナミスが襲い掛かる。味方の居ない孤立無援のシモンに何ができる?

シモンはドリルを構える。

 

「無駄だ! 以前、指一本で止められて砕かれたのを忘れたか!」

「それは・・・何日も前のドリルの話だ」

「それがどうした! たった数日で何かが――」

「俺には一分でも時間があれば、十分なんだよ!!!!」

 

シモンはデュナミスの腹部にドリルを突き刺した。

 

「ッ!?」

 

威力も衝撃も、何よりも感じる力がデュナミスの予想を遥かに超えた。

 

「なにィ!?」

「シモン君!?」

 

アルですら驚いた。初めて会ったときは、ただの学生でしかなかったシモンがしばらく見ない間に、完全なる世界という世界最強クラスの組織の幹部を、壁際まで吹っ飛ばしたのだ。

呆気にとられるアル。

 

「思い出すよ・・・」

「えっ?」

 

すると、アルに振り返りながら、シモンが言う。

 

「また・・・アルに助けてもらっちゃったな」

 

シモンの言葉に、アルは首を傾げる。

 

「また? それは初めて会ったとき、ナギたちと一緒に居た時のことですか?」

「いや、それもあるけど・・・もっと前・・・いや、歴史的に言えば20年後の話かな?」

「はい?」

 

シモンは思い出す。

ニアがロージェノムに連れ去られ、武道大会でニアを賭けてロージェノムと戦う前のこと。

ガチガチだったシモンの前に現れたローブを羽織った謎の人物。その名はクウネル・サンダース。

 

「アル。心配するな。俺は自分を信じてるよ」

「シモン君?」

「例え、ニアやアニキたちがこの場に居なくたって・・・あいつが、どんなに強い奴だって関係ない!」

 

彼こそがアルだった。彼はシモンに言った。

 

 

――あがきにあがいて、自分が信じる自分を信じなさい。それが絶望に勝つ唯一の方法です

 

「あがきにあがいて、自分が信じる自分を信じる。それが絶望に打ち勝つ唯一の方法だ」

 

 

その言葉は、アルが教えてくれた。

 

「アルが俺に教えてくれたんだ・・・その魔法の言葉を・・・俺は魔法世界って所に来てみたけど、あの言葉以上の魔法を今でも知らないよ」

「・・・シモン君・・・きみ・・・は・・・」

 

あの言葉があったからこそ、自分はロージェノムに勝ったと言っても良い。

だからこそ・・

 

「今度は俺がアルを助けるんだ。20年分の想いをこめてな」

 

やってやる。たとえ一人でも。自分が信じる自分を信じてやり抜く。

それが、自分をかばって傷ついたアルへ、報いることだと信じたのだ。

 

「バカが・・・私と・・・タイマンをしようというのか?」

 

デュナミスが鼻で笑いながら近づいてくる。だが、今に笑えなくさせてやろうと、シモンは叫ぶ。

 

「俺を誰だと思っている」

 

シモンは自分の心を掘り抜いた。

そして誓う。

 

「待ちなさい、シモン君!?」

「待ってるだけの男には絶対にならない!」

 

アルに、仲間に、そして・・・

 

(父さん、・・・今の俺が20年後の父さんに再会しても、何も変わってないと思う。でも、どうせ会うなら少しは成長していたい)

 

約束した父に誓う。

 

(この壁を乗り越えて、父さん・・・俺は、父さんに会いに行く!)

 

シモンは走り出した。たった一人でも、その背中と胸の中に、数えきれないほどの絆と想いを掲げて。

 

「ハッ、たった一人で何ができる!」

「何でもできるさ! 俺は俺だ! 穴掘りシモンだ!!」

 

デュナミスとシモンが交差する。

 

「よかろう! 積月の恨み! 今こそ晴らしてやろう!」

「来やがれ、デュナミス! アルが仲間の元へ行く道は、俺が創る!」

 

この瞬間、シモンの20年前の魔法世界、最後の戦いが始まった。

 

「俺の覚悟を見せてやる!!」

 

この戦いの結末が・・・

誰も予想できなかったことになる・・・

シモンもデュナミスもまだ、分からなかった。

 


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