【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
あれからわずか数時間。首都の安宿の一室にシモンを寝かせ、フェイトとニアはバルコニーで肩を落としていた。
「堀田社長・・・本当にそう呼ばれていたのかい?」
「ええ。確かに造物主という者は、現れた黒づくめの人物に、そう呼んでいました」
「・・・なんてことだ・・・まさか、そんな大物まで出たとなると・・・もうどうにかなる範疇を超えているかもしれない」
フェイトはほぼ無傷。ニアも多少の怪我が見えるが、シモンほどは深刻ではなかった。
これまでバイトで稼いできた金をつぎ込んで、最先端の医療技術を使ってシモンに治療を受けさせ、今は眠っているシモンが起き上がるのを待ちながら、フェイトとニアはこれまでのことを話し合っていた。
「黒ニア・・・もう、これ以上この件に首を入れるのはやめよう」
「ッ・・・フェイト・・・しかし、あの二人は我々の命と引き換えに囚われました・・・このままでは、寝覚めが・・・」
「大丈夫だ。彼女たちは紅き翼に救われる。それは歴史で既に定められていることだ。僕たちがこのまま何もしなくても、彼女たちは助かるんだ」
「・・・・・・・・」
気を失っていた後の話を聞いたフェイトは、シモンとニアにはこれ以上関わらせないことを決めた。
その理由は、語る必要もないことだ。だが、黒ニアは目を細めて、フェイトに問う。
「ならば、フェイト・・・なぜ、テオドラという皇女が、造物主というものではなく、アンスパという者に攫われたと聞いたとき、取り乱したのですか?」
「・・・それは・・・」
「あなたの知る歴史通りに時代は進んでいるのですか?」
フェイトはテオドラについて聞いたとき、激しく動揺した。それは、そんなことはありえないと知っているからだ。
(そう・・・テオドラ皇女はアリカ姫と一緒に完全なる世界に攫われるはずだった・・・なのに、それが・・・大体、堀田博士だと? 堀田というのは、たしか黒い猟犬の社長のコードネームのはず・・・どうしてそれが・・・)
黒ニアの指摘は当たっていた。
流石に黒ニアは騙せないと思ったフェイトは、素直に答える。
「確かに、歴史が変わってしまっている。もし、黒い猟犬にテオドラ皇女が殺されでもしたら・・・・・・完全に世界が変わってしまう。テオドラ皇女は・・・それほど歴史的にも重大な人物なんだ」
「ならばこのまま、テオドラ皇女を見捨ててしまった場合・・・私たちが未来へ帰っても・・・そこは私たちが来た未来と繋がってはいないのではないのですか?」
ニアたちが来た20年後の未来にテオドラ皇女は生きていた。しかし、歴史を変えてテオドラ皇女を死なせてしまった場合、時の矛盾が起こってしまう。
「黒ニア。やはり、君はシモンやニアと違って、鋭い」
そうなってしまった場合、ニアたちが未来へ帰れたとしても、そこは自分たちがやって来た世界ではないのかもしれない。
「タイムパラドックスは僕も専門外だからね・・・気を付けていたのに・・・・・・歴史が変わってしまうなんて」
「ならばやはり、テオドラ皇女は救い、歴史の辻褄を合わせることが・・・」
「それはダメだ」
時の矛盾。それを知ってもなお、フェイトはこれ以上シモンとニアを干渉させるのを止めた。
「何故です、フェイト。確かに私とシモンは・・・弱い・・・しかしこのままでは・・・」
「歴史が変わろうが変わらなかろうが、君たちが死んでは元も子もない」
「しかし・・・」
「分からないのかい? テオドラ皇女が死のうがどうなろうが、歴史が変わるのは魔法世界の歴史だけだ。魔法世界どころか魔法と何の関わりもなかった君たちには何の影響もない」
フェイトも自分がどれほど非道なことを言っているかは分かっている。しかし、今回ばかりはシモンとニアの我がままを受け入れるわけにはいかなかった。
「ニア・・・いや、黒ニア。君なら分かるだろ? シモンが・・・死にかけたんだよ? 君の・・・この世で最も大切な男が、いともたやすくね」
「ッ!?」
思い出しただけでも体が震えあがる。黒ニアは身を抱きしめながら、言葉が出なかった。
「歴史の辻褄を合わすには、黒い猟犬を・・・あのチコ☆タンを始めとする連中や謎に包まれた社長を退けて、テオドラ皇女を救い、彼女をアリカ姫と同じ完全なる世界のアジトの一つ、夜の宮殿に移動させ、紅き翼に救出されること。そんなこと・・・この三人でどうにか・・・」
どうにかできるわけがない。
「僕だってどうにかしたい。だが、現実的にこの戦力で、しかもシモンもこの状態だと・・・・・・・」
「しかし!」
「ダメだ!」
「フェイト!」
「こればかりは、僕も認められない!」
どうにもならない。それが答えだった。
フェイト自身もこの状況がどれほどまずいことかは承知しているが、自分たちの今の戦力を考えると、とてもではないが歴史の修正がどうのと言える状態ではない。
生きてさえいればそれでいい。
それで今は我慢するしかないのだと、フェイトも苦渋の選択だった。
だが・・・
もし、四人なら・・・
「ならば、私が足りない分を埋めます」
「「・・・・・・えっ・・・」」
「シモンさんの傷も私が見ます。歴史を元の形に導いてから、未来へ帰りましょう」
一体、いつからその少女はそこに居たのだろう。
安ホテルのバルコニーは決して広くない。
誰かが現れればすぐにわかる。
だが、声を聞くまで、そこに誰かが居るかなど気づかなかった。
そして、気づかないどころか、そこに居たのは信じられない人物。
「な・・・なんで君が・・・」
「ど、どうやって?」
サーカスの道化のような服装。
褐色肌にピエロのような可愛らしいメイク。
そして何より、常に何を考えているか分からないそのミステリアスな雰囲気が魅力的だった。
「20年の時間跳躍となると片道だけのエネルギーしか学園祭では手に入りませんでした。しかし、この時代なら帰りの分のエネルギーを手に入れやすい。だから、私も来ました。心配でしたので」
いつもは必要最低限のことを一言二言しかしゃべらない。
学園祭期間中は少し饒舌になったが、今はそれ以上。
だが、口数の問題ではなく、驚くべきはどうやって彼女がここに現れたかどうかだ。
「だ・・・だから・・・どうやってココに来れたというんだい! ザジ!?」
そう、何故か造物主やアンスパさんと同じように謎の存在、ザジ・レイニーデイが居たのだった。
「ザジ、どうしてここにいるのです?」
っていうか、本当にザジなのか? そんな疑いの眼差しに対して、ザジが珍しく微笑んで答えた。
「黒ニアさん・・・実は武道大会が終了後、ある人から情報を貰いました。今、シモンさん、ニアさん、フェイトさんは、魔法世界の過去にタイムスリップしてピンチだと」
「だ、誰からだい? 僕たちがこうなったことを、あの時代の誰が知っているっていうんだい?」
「・・・・私が関わっている、ある研究所の所長からです。何の研究所かは内緒です」
「所長?」
思わぬ助っ人。
何故? どうして? なんで? 同じ言葉の意味だが、とにかく頭の中は「?」で埋め尽くされるフェイトと黒ニア。
だが、目の前に居るのは紛れもなくザジ・レイニーデイ本人に間違いなさそうだった。
「ザジ・・・君が本物だとして・・・どうやって、ここに来た? 僕たちがここに来れたのは、超の作ったタイムマシーンの誤作動と学園祭の魔力による偶然が起こした奇跡。にもかかわらず、どうして君はピンポイントに僕たちの所へ来れた?」
ザジ本人だと分かっても、フェイトも疑いの眼差しを向ける。
ザジがどうやってここまで来れたのか? するとザジは、少し言葉を選びながら、種明かしを始めた。
「私がここまで来れたのは、所長の発明品によるものです」
「だから、その所長とは?」
「所長の話によると、超鈴音の発明したものは、魔法と科学を融合させた超科学の産物。それにより、魔法ではありえぬ時間跳躍を可能にしました。しかし、この世は広い。魔法と科学だけが最高峰の技術や奇跡を生み出すとは限らないのです」
「な、なんだって?」
ザジは懐から何かを取り出した。フェイトたちがこの時代に来たタイムマシーンに似た懐中時計に、手のひらに収まるぐらいのドリルのようなものが突き刺さっていた。
「これこそ、所長が開発した、コアドリルにエネルギーを凝縮し、螺旋界認識転移システムを搭載した・・・おっと、これは禁句でした」
「な、なんだい? らせんかい? なんだい、それは」
「とにかくっ、この『天も次元も超えて会えちゃうマシーン』を所長から貰い、ここまで来れたのです。多少の時間の誤差があって、すぐに再会というわけにはいきませんでしたが・・・」
「いや、何かとても重要そうなことを、誤魔化さなかったか!? っていうか、何だい、そのテキトーなネーミングは!」
ツッコみどころ満載だった。だが、この空気はどこか懐かしかった。大グレン学園やドリ研部のボケにフェイトが真顔でツッコむ。
どこかフェイトもホッとするような空気となった。
マジメな話が一気に和やかになってしまった。
黒ニアは、溜息をつきながら最後の確認をする。
「ザジ、来てくださったことは感謝します。しかし、正直なところ、シモンやニアほど私はあなたを信用していません。それはフェイトも同じだと思います」
「・・・・・・・・・・・・」
「黒ニア・・・」
「超鈴音に関してもそう。私たちは、誰よりも近くで学園生活を過ごしているようで、その心と心はとても距離があります」
ザジ本人。そして来れたタネも、テキトーだがとりあえず今はいい。
「フェイトもまだまだ私たちに話していないことは山ほどあります。しかしこの時代で数か月も彼と共に過ごし、たとえ秘密があっても、信用のおける人物だと認識しました」
今一番重要なのは、ザジの心の内だった。
「ザジ・・・ここから先は、あのふざけて騒いでいた学園生活とは違います。弱い私たちは、僅かなことで命がなくなってしまう状況です。でも私たちはあなたを・・・仲間と思っていいのですね?」
黒ニアの問いに、フェイトは黙って見守り、ザジの答えを待つ。
ザジは目を瞑り、少し考えてから、黒ニアの問いに答える。
「黒ニアさん・・・正直なところ・・・分かりません」
「分からない?」
「自分でもどうしてこうなったのか。しかし所長から話を聞き・・・どうしたいのかと問われた瞬間、私はあなたたちの帰りを待つよりも、一緒にいたいと思うようになりました」
自分が信用のおける人物かどうか、ザジは分からないと答えた。ただ、一つ・・・
「それに、私は一応・・・」
ただ一つ、自分がどのような人物かと問われると・・・
「私は一応、麻帆良ドリ研部ですから」
どうやら、それだけは本当のことのようだった。
「ふー、結局そうなるか」
「しかし、それを理由に出されたのなら、信用できないなど言っていられませんね」
フェイトと黒ニアは、肩の力が抜けて、呆れたように笑った。どうやら、疑念は晴れたようだ。
「やれやれ、いっそのこと、超も居ればよかったのにね」
「超さんは超さんで、学園祭中に色々と動いています。全てが片付いたら、部員全員で会いに行きましょう」
「ならば、問題は悩むより、さっさと解決することにしましょう」
疑念が晴れた瞬間、やるべきことも決まった。
「ザジ、シモンを治せるのかい?」
「大丈夫です」
「ならば、超鈴音は居ませんが、麻帆良ドリ研部の出動と行きましょう!」
歪んだ歴史を正すため、反撃開始ののろしが上がったのだった。