【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第16話 お前が俺らのセンコーだ!

「いや~、テストってもんを久しぶりに受けたら疲れちまったな~」

「おう、頭を使いすぎた。こうなったら息抜きに今夜は皆で飯でも食うか?」

「って、シモンにニアにフェイトは部活か? 今日から始動だろ? テメエら大丈夫か?」

 

小テストを終えて僅かな時間ながら頭を使うことになれていないキタンたちは、欠伸をしながら解放感に包まれていた。

 

「ちょっ、俺よりも今は皆のほうが心配じゃないか」

「確かに・・・僕たちは追試じゃないけど、君たちは追試だろ? 勉強しなくて大丈夫なのかい?」

 

シモンたちは特に追試を受けることは無いのだが、肝心の受けるカミナやキタンたちはまるで他人事のように余裕だった。

 

「な~に、本番になったら奥の手を用意してある! 秘密兵器とかな! 制服の袖、消しゴムのケースの中、シャーペンの持つ部分、あらゆる場所に秘密兵器を常備しとけば楽勝だっての!」

「・・・カンニングかい?」

「おっ、さすがはフェイト! 鋭いね~」

「は~、まあ別にいいけど、見つからないようにするんだね。バレたら退学だろ?」

「ダッハハハハハ、そんときゃそん時よ!!」

 

高らかに笑うキタン。どうやら彼らは最初からまともに勉強する気は無く、カンニングで乗り切る気満々だった。

フェイトも一々とやかく言う気も無く、バレない様にと注意だけした。

だが、そんなキタンたちにヨーコが口を挟んだ。

 

「ねえ・・・キタン・・・あのさ・・・」

「ん、ど~したんだよ?」

「そういうの・・・やめない?」

「あっ?」

「なんていうかさ・・・それで追試をクリアできてもさ、もうあの子供先生と正面向いて付き合えないと思うのよね。何かあの子のこと・・・裏切れないのよね~」

 

同じく追試組みのヨーコが、カンニング戦法を企んでいたキタンたちを止めた。

 

「あっ? じゃあ、ヨーコ。おめー俺らに真面目に受けろってのか? そんな頭がありゃあ、とっくに卒業してるぜ」

「でも先生も言ってたじゃない。やれば出来るように出来ているって。それってあんたたちの頭がどうとかじゃなく、あんたたちがやらなかっただけでしょ? 私も同じよ。楽してやってこなかったことって、いつか自分に返ってくるのよ。ここでまた楽したら、多分あんたたちも私も何も変わらないわよ? 10歳の子供を裏切ったっていう罪悪感だけしかないわ」

「いや・・・でもな~」

 

キタンはアイラックたちに振り返るが、誰も何も言えずに迷った表情をしている。

カミナもまた無言のまま、ヨーコの話を腕組して聞いていた。

 

「シモンは・・・変わったわ」

「えっ? ヨーコ?」

「あんたは変わりたいって思って、自分のやりたいことを見つけて道を切り開いた。変われるところで逃げないでちゃんとがんばったから変われたのよ」

 

シモンに全員が注目する。そうだ、シモンは確かにネギが来て以来変わった。

カミナの後ろでいつもオドオドビクビクしていたシモンだが、カミナが居なくても熱く、変わるために恥をかこうが笑われようが努力した。

 

「へっ、ヨーコの言うとおりだぜ。逃げてちゃ何にも掴めねんだよ! こうなったら正面から追試ぶち破ってやろうじゃねえか!」

 

その話を聞いて、今まで黙っていたカミナが両手をバチンと叩いてニヤリと笑った。

 

「でもよ~・・・」

「勉強つっても何やればいいか分かんね~よ・・・」

 

しかしこればかりはそう簡単に頷ける問題でもなかった。

そもそもやると言っても彼らにもどうすればいいのかは分からないのである。

 

「ならば皆で協力しましょう。皆でやれば絶対に大丈夫です」

 

すると、ニアが笑って皆に告げた。

 

「やれやれ・・・本気でやる気があるなら、僕も協力しますが・・・」

「ふう・・・それじゃあ、勉強会ってところかい?」

 

同じく優等生のロシウとフェイトも前へ出た。

 

「そうだな。俺もアニキや皆と学園祭を迎えたいし、一緒に協力するよ!」

 

こうなったらやってやろう。ダイグレン学園の総力を挙げて追試を乗り切ってやる。

彼らの心に気合が満ちた。

そんな時・・・

 

 

「その話、私たちも協力するわ!!」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

教室の扉がガラッと開き、本校の制服を来た女生徒たちが現われた。

 

「おめえらは・・・ブルマーズ!?」

「ブルマーズではなく、黒百合よ!」

 

そう、あの炎のドッチボール対決をした、麻帆良ドッジボール部にしてウルスラ女子高等学校の英子たちである。

何と彼女たちは不良の巣窟でもあるダイグレン学園に乗り込んできたのである。

 

「もしあなたたちがまともに追試を受けるなら、これをあげてもいいのよ?」

「あん?」

 

英子がピラピラとカミナたちに差し出した紙。それは・・・

 

「過去5年間分の高校一年生の一学期中間試験の範囲。本校とダイグレン学園は違うとはいえ、基本的な出題傾向も範囲も偏っているわ。そして追試で出る範囲もほぼ同じ」

「うおお、何で!?」

「ふっ、部活の伝統よ。部活をやっていると先輩たちの代からこういうか過去問が代々受け継がれるシステムなのよ」

「ちょっ、待ちなさいよ。あんたたちそのために本校から来てくれたの?」

「ふふ、同じドッジボールをやった仲だからね」

 

英子は軽くウインクして笑った。

こんなもの、今のヨーコたちには一番欲しいものである。

ヨーコたちは英子の心遣いに感動しながら過去問に手を伸ばそうとするが・・・

 

「おっと、ただであげるとは言ってないわ」

「へっ?」

「あなたたちがある条件を受けてくれたら、この過去問をあげても良いわ」

 

感動した途端に、取引を持ちかけてきた。

 

「じょ、条件ですって?」

「そう・・・・彼よ」

「・・・・・・・・へっ・・・お、俺?」

 

何と英子たちはニヤリと笑って、あろう事かシモンを抱き寄せた。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

「この子をドッジボール部にくれるのなら、それをあげても良いわ」

 

 

やはり裏があった。

彼女たちの目的は、ドッジボールで大活躍したシモンのスカウトだった。

 

「それに聞いたわ、シモン君。あなた部活に入りたくてイロイロな部活を回っていたそうだけど、何故ドッジ部に来なかったの? まあ、でもいいわ。他の部と違って、私たちはあなたを大歓迎するわ」

「う、うわああ」

「シモン!? 駄目です、シモンは私とフェイトさんと超さんとザジさんでドリ研部に入るのです!」

 

年上美人に抱き寄せられ、耳元で艶っぽい声でささやかれ、シモンの顔は真っ赤になった。

 

「お、おお・・・う、うらやましいヤツ・・・」

「まあ、シモンが入部するだけでもらえるならなあ?」

 

キタンたちは別に自分たちが入部するわけではないのでニア以外特に文句はなさそうだ。

だが、このタイミングで丁度この学園にたどり着いた彼女が黙っていなかった。

 

「その話、チョット待つネ!」

 

教室の扉が勢いよく開けられて、振り返るとそこには超鈴音が居た。ついでにその後ろには無表情のザジも居た。

 

「超さん!? ザジさん!?」

「シモンさんは渡さないヨ! そして私はそのような汚いことはしないヨ! 私も学園のデーターベースから同じものを印刷できるので、それをあげるヨ。それどころか君たちには超包子の無料お食事券も付けてあげるネ!」

 

「「「「「「「なにいいいい!? 無料お食事券だとォ!?」」」」」」」

 

「き、汚いわ!? それこそ取引じゃない!」

「ハッハッハッハ、シモンさんをドッジ部に引き抜かれるわけにはいかないヨ!」

「な、ならば・・・私たちはウルスラ女子との合コンを企画してあげるわ!」

 

「「「「「なにいいいい、合コン!?」」」」」

 

「ぬっ・・・女で釣るとは卑怯ヨ!」

「食べ物で釣っているあなたに言われたくないわ!」

 

いつの間にか超鈴音と英子たちがシモンの引っ張り合いを始めた。

ザジも何を考えているか分からない顔をして、超側に立って一緒にシモンの腕を引っ張った。

 

「ちょちょ、別に俺は追試を受けな・・・痛いってば!? それに、俺の意思は!?」

 

両サイドから両腕を引っ張られるシモン。彼にもはや意思など存在しない。

いつの間にかニアも参戦してシモンを引っ張る。

するとその光景を見ながらキタンはニヤリと笑い、椅子に座りながら机の上に両足を乗せた。

どちらもおいしい条件だ。ならあとするのは・・・

 

「ふふん、まあ、俺たちはどっちからもらっても構わねえ。だが同じものを貰っても仕方ねえ。だから貰うならやっぱ・・・条件がいいほうだな!」

 

貰う側に居るはずが、ものすごいでかい態度で彼女たちのオプションを上乗せさせる気だ。

ヨーコもその魂胆が分かって深々とため息をつく。

だが、キタンたちの悪巧みを聴いた瞬間、彼女たちもオプションを吊り上げる。

 

「くう・・・ならば私たちはこの試験問題プラス・・・マンツーマンで勉強を教えるというのはどうかしら?」

 

英子たちは少々ためらいながら、そしてあろうことか制服に手をかけ、あろう事か脱ぎ捨てた。

 

 

「ブルマ姿で!!」

 

「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 

お色気で勝負する気のようだ。更に英子はブルマ姿のままシモンを抱き寄せ、シモンのふとももに右手を這わせて、耳元で息がかかるほど口を近づけてボソッと呟く。

 

「シモン君がドッジ部に入ってくれるなら、練習後に女子部皆で皆でマッサージ・・・シャワーのお手伝いもするわ?」

「dmにおfhんjッ!?」

 

シモンが鼻血を噴出した。

 

(やばいわ・・・シモン君のこの情けなさと、あの気合の入ったときのギャップがやばいわ・・・・萌える・・・)

 

悦に入りながらブルマーズは持っているカードをキタンたちに提示した。一方超は少し歯噛みした。

 

(ヤバイネ、お色気勝負では敵わないヨ。合コンの設定も中学生では勝ち目が無い。だが、食事で釣るにも限度がある・・・なら・・・)

 

超鈴音はこのままではヤバイと思い、学園最強の頭脳をフル回転させて好条件を考える。

そして・・・

 

 

「では私は・・・・・・学園や警察のデーターベースにハッキングしてあなたたちの前科をもみ消して、成績も全て改ざん・・・・」

 

「「「「「ぬあにいいいいいいいいいい!!??」」」」」

 

 

とうとう犯罪にまで手を伸ばす始末。

部活でのシモン争奪戦がいっそうに激化し始めるかと思った瞬間・・・

 

 

「・・・兼部・・・・」

 

「「「「「「「・・・・・・・へっ?」」」」」」」

 

 

ザジがポツリと呟いた。

そう、あまりにも熱くなりすぎて、超もすっかり忘れていた。

最初から兼部すればいいのである。

大体自分も様々な団体に掛け持ちで所属し、ザジだって曲芸部とドリ研部の掛け持ちだ。

ということは、それほど慌てる必要も無く、それほど無理をしなくても・・・・

 

「みなさーーーーーん、まだ帰ってなかったんですか!?」

 

その瞬間、ネギが少し疲れた表情を見せながら教室に入ってきた。

両手を後ろにやって背中に何かを隠している様子だ。

 

「おお、先公、おめえもまだ居たのか?」

「はい、実は皆さんに渡したいものがありまして・・・」

 

ネギは笑みを堪えながら、背中に持っているものを皆に差し出そうとする。

 

(ふふふ、少し雑かもしれないけど、皆さん喜んでくれるかな~)

 

ネギが今の今まで職員室に籠もって作り上げたもの。

ネギは皆がどう反応してくれるのか楽しみにていた。

だが・・・

 

「おう、聞いてくれよ先生。今ウルスラのやつらとこの超包子のオーナーの子が過去問をたんまり持ってきてくれたんだよ!」

「・・・・・・へっ?」

 

ネギは呆気に取られた顔で固まった。

 

「まあ、どっちのを貰うかは決めてねえけど、これで試験範囲も傾向もバッチリってヤツよ!」

「まあ、おいしい思いをしているのはシモンだがな」

 

キタンたちは盛大に笑いながら余裕をかましていた。

一方でネギは少し戸惑いながらも、慌てて笑顔を見せて喜びをあらわした。

 

「よ・・・よか・・・良かったですね、皆さん! それじゃあ、これで学園祭はバッチリですね!」

「おうよ、後はやるだけよ! 同じ問題も何個も出てるし、これなら楽勝だぜ! しかも全教科あるしよ!」

「まっ、丸暗記すりゃ大丈夫だな!」

「おう、楽勝だ楽勝だ楽勝だ!」

 

浮かれるキタンたちを前に何とか笑顔を見せるネギだが、その表情はどこか無理をしているように見える。

 

(・・・ん?)

(・・・先公?)

 

ヨーコとカミナだけ、その表情に違和感を覚えていた。

 

「は~~、これじゃあ、私の心配は無意味だったようネ。まっ、シモンさんが兼部するかどうかは本人に任せるよ」

 

超も要らない心配だったと、どっと疲れてため息をついた。

 

「・・・・まっ、僕にはどちらでも構わないけどね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 

その時、超鈴音はフェイトの存在に気づき、引きつってしまった。

 

「シ・・・モン・・・さん?」

「ああ、紹介するよ。こいつはフェイト。フェイト・アーウェルンクスだ。編入してきたばかりだけど、俺たちドリ研部に入部してくれることになったんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」

「やあ、君が超だね。話はシモンから聞いている。まあ、何をする部活かは分からないけどよろしく頼むよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

超はまだ固まったままだった。

 

(あ、・・・あれ? これはどういうことネ? へっ? こういう・・・歴史だったのカ? ザジさんでも驚いたが・・・・えっ、っていうか何でこの人がここに居るネ? しかもネギ坊主も当たり前のように・・・しかも編入? が、学園は何をやっているネ?)

 

何が何だか分からず、超は混乱していた。

 

「どうしたんだい? 僕に何か不服があるのかい?」

「い、いやいやトンデモナイヨ? フェイトさん、それについでにザジさんも歓迎するヨ」

 

あまりにも予想外すぎるメンバーを見て、超鈴音の混乱はまだ収まらないようだ。

だが、キタンたちの追試も大丈夫そうで、こうして部員が全員揃ったのだから、シモンは何も疑うことなく部員たちに声を掛ける。

 

「ヨシッ、アニキたちも大丈夫そうだし、皆揃ったんだ。ニア、フェイト、ザジ、超、皆で今から親睦会をやろうよ!」

「賛成です!」

「僕は構わないよ」

「行く・・・」

「・・・・・・しょ・・・承知したヨ・・・」

 

何とも奇想天外な5人組のドリ研部は、問題も解決したことだし、教室を後にする。

 

「まっ、待ちなさい、シモン君! さっきの条件で駄目なら他にも体育館倉庫で・・・って、待ちなさい! はい、もうこの過去問は置いていくから勝手に使いなさい!」

 

英子たちもシモンの後を追いかけ、過去問を放り投げて走って出て行った。

 

「お、おい! ブルマンツーマンは? 食事券は!? おおーーい!」

「行っちゃった・・・でも、いいじゃない。欲しいものは手に入れたんだし」

「か~~、惜しいことしたぜ」

 

おいしい条件を逃してしまったと舌打ちしたが、とりあえず欲しいものは手に入っただけでもよしとしようと、キタンたちは英子たちが置いていった過去問を手に取りパラパラと捲っていく。

その光景を眺めながら、どこか気まずくなったネギは、少しワザとらしく声を出した。

 

「あっ、そうだった。僕もまだやることがあるんでした」

「ん? そうなのか?」

「はい。では皆さんは早くお勉強をしてくださいね?」

 

ネギは笑顔を見せながら、隠しているものを見せずにそのまま走って立ち去った。

 

「何だ~?」

 

少し不自然なネギの様子にキタンたちは首をかしげる。

カミナとヨーコは、そのネギの後姿が何か気になりだし、皆でその背中を追いかけた。

 

 

 

「はあ・・・無駄になっちゃったな~」

 

ネギは結局渡さなかった皆のために作ったものを、職員室の自分の机に置きながら呟いた。

 

「でも・・・いっか・・・これで皆さんもなんとかなりそうだし・・・」

 

自分の苦労は全て無駄だった。

 

「そうだよ・・・別に僕は褒められたかったわけじゃない・・・皆さんに学園祭を楽しんでもらいたかっただけだ・・・それが何とかなりそうなんだから、それでいいじゃないか」

 

自分自身にそう言い聞かせるネギは、少し瞳が涙ぐんでいた。だが、意地でも泣かない。

だってこれで良かったのだから、泣く必要なんて無いはずである。

 

「そ、そうだ。帰る前に校舎内を見回りに行かないと。今日は疲れたし僕も早く帰ろう」

 

ネギは目元をゴシゴシと擦りながら、駆け足で職員室から飛び出した。

その背中はとても寂しそうにも見えた。

 

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

 

そんなネギの背中を眺めながら、無人となった職員室にカミナたちは侵入し、ネギの机の上を見た。

 

「何・・・これ・・・」

 

机の上にあったソレを見て、ヨーコたちは驚いた。

そこには紙の束が何枚も置いてあり、表紙にはデカデカとこう書かれていた。

 

「あん? 『これさえやれば大丈夫! 追試突破ネギドリルブレイク?』・・・なんだよこりゃ~」

 

キタンたちはそれをパラパラ捲っていき驚愕した。

 

「ちょっ、これ・・・まさか今度の追試の対策用じゃねえのか?」

「おいおい・・・全教科分ちゃんとあるぞ?」

「まさかあのガキ・・・一人でこんなもん作ったのか?」

「それだけじゃねえ。問題と答えだけじゃねえ・・・解説文まで丁寧に書かれている」

「おい・・・担当教科の先公がよく出す問題には二重丸が書かれてるぞ・・・」

「すごい・・・まさかネギ先生が一人で? こんなにたくさん・・・何時間かかったんでしょうか・・・」

 

急いで作ったのだろう。

手書きで少し荒い部分もある。

大体日本語の読み書きは少し苦手だとも言っていた。ネギは日本人でないのだから当たり前だ。

しかしこのネギドリルからは、そんなことを感じさせない、そんなことを思わせないほどのものを心に感じた。

 

「あいつ・・・これをさっき俺らに渡そうとしたんじゃねえのか?」

「・・・・・・・・」

 

ネギの前で自分たちが大はしゃぎしていたことを思い出し、その瞬間罪悪感に駆られた。

 

「テメエら・・・どうしてえんだ?」

 

カミナが真面目な顔で、しかもいつも自分で勝手に決めていくカミナが珍しくみなの意見を問うた。

無言になるヨーコ、キタン、ジョーガン、バリンボー、キッド、アイラック、ゾーシイ、キヨウ、キヤルの追試組に、本来関係の無い追試組ではないロシウにキノンもこの状況に何も言えなかった。

 

「・・・・・・・・・ちっ・・・・」

 

そしてついにキタンが一番最初に舌打ちして口を開く。

 

「あ~~~もう、・・・・・・くそっ・・・アーテンやテツカン、バチョーンたちも・・・つうか追試受けるヤツ全員今すぐ集めんぞ!」

 

キタンの仕方なさとヤケが混ざったその言葉にヨーコたちも苦笑しながら頷いた。

 

 

 

一通り校舎を見回り終わり、ネギはため息をついた。

 

「はあ・・・もう見回ったし・・・そろそろ帰ろうかな?」

 

外はもう暗い。早く帰ろうと思ったのに、何故か校舎内をゆっくりと歩いて見回っていたのだ。

一人で校舎をウロウロするのは寂しいが、少し今は一人になりたかったのかもしれない。だから歩く速度も自然と遅かった。

 

「カミナさんやキタンさんたち大丈夫かな・・・でも、やる気満々だし、そんなに心配すること無いかな。僕が急ぎで作ったものよりずっと確実な過去問が手に入ったんだし、これで皆さんと学園祭を楽しめるな~」

 

一人だけだというのに、ネギは無理やり明るく振舞った。

無理やり明るい声で、明るい笑顔で笑った。

そうしないと今は駄目な気がしたからだ。

 

「よしっ、もう帰ろう。おなかも減ったし・・・・・・・・・・あれ?」

 

その時ネギは気がついた。

帰ろうと思って校舎の中を歩いていたら、生徒たちの騒がしい声が聞こえてきたからだ。

とっくに下校時間は過ぎている。

ネギはおかしいと感じて声の聞こえる方向へと走った。

すると、何十分か前にはちゃんと無人で電気の消えていた教室がの明かりがついていて、中から怒鳴るような声が聞こえた。

 

「だからこの場合はこちらの公式を使えばいいんです!! いいですか、公式さえ当てはめれば後はただの簡単な掛け算と足し算だけで答えは導き出されるんです! それに先生の解説にもこの問題は毎年よく出ると書いてあるじゃないですか! いい加減覚えてください!」

 

声が聞こえたのは自分のクラスだった。

ネギがそっと覗き込むと、中でロシウが教壇に立ち、キノンが横で手伝い、カミナやキタンにヨーコたち、さらにはまだ会ったことの無い生徒たちが机に座って頭を抱えていた。

 

(みなさん・・・どうして・・・・・・・ハッ!?)

 

その時ネギは気づいた。

カミナたちが手に持っている物は、自分が作り、結局渡せなかった物。

カミナたちはそれと真剣な顔で頭をかきながら睨めっこしていた。

 

 

「ど、どうして!?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

思わずネギが教室に入ると、ビックリしたカミナたちに、そしてネギがはじめて会うバチョーンたちを始めとするこれまで不登校だった生徒たちがそこに居た。

 

「おいおいこいつか・・・俺らが来てねえ間に本当に10歳のガキが教師になってやがったのかよ」

「へっ、だから言ったろ? マジだってな。おまけに麻雀の腕もそこそこだ。今度打ってみるといいぜ?」

 

バチョーンたちもキタンたちもネギを見て笑い出す。だが、ネギは未だに固まったままだ。

 

「みなさん・・・どうして・・・それを・・・」

 

ネギが震える手でそれを指差した。

すると、カミナはニヤリと笑って答えた。

 

「追試突破・・・ネギドリルブレイクだ!」

「ッ!?」

 

ネギは信じられないものを見たかのように体を震え上がらせた。

しかしこれは紛れもなく本当だ。

ヨーコたちも照れくさそうに笑っている。

 

「だから~、先生の言うとおり追試対策してるのよ」

「子供先生もやるじゃない。見直したわ」

「へっ・・・これで追試突破できなかったらキレるけどな。へへへへ」

「しっかし、全教科は広すぎだぜ。覚えることがありすぎじゃねえか」

「気合が問われるわけだが・・・」

「そうだ、気合だ!」

「気合気合気合!!」

 

ネギは呆然としてしまった。目の前の光景がやはり信じられなかったからだ。

 

「そ・・・駄目ですよ! ぼ、僕のは急いで作ったから凄い雑ですし、信用性は薄いです! やっぱりウルスラの方々や超さんの持って来てくれた過去問のほうが絶対に信用できます!」

 

うれしいはずなのに、ネギは慌てて叫ぶ。

だが、そんなネギに向かって教壇に立つロシウが口を挟む。

 

「ネギ先生!」

「ッ・・・・・・ロシウさん・・・」

「先生・・・仲間を・・・仲間を信じろって言ったのは、ネギ先生ですよね? 先生は、僕たちが先生を信じたらいけないというんですか?」

「・・・・・えっ? ・・・仲間?」

 

仲間・・・ロシウがハッキリとそう言った。

 

「ぼ、・・・・僕は・・・」

 

ネギはうまく呂律が回らなくなってきた。

まばたきすれば、瞳から涙が零れ落ちてしまう。

そんなネギの小さな肩に手を回して、カミナはネギをポンポンと頭を軽く叩きながら笑った。

 

「俺たちも同じだ。仲間は疑わねえ。だからテメエの作ったネギドリルを俺たちも信じる。だからテメエも俺たちを信じやがれ! 仲間に信じてもらえたら、俺たちは絶対に裏切らねえからよ!」

「うっ・・・ウウ・・・ガ・・・ミナざん・・・・ぐすっ・・・皆さん・・・」

「分かったのか? 分かってねえのか、どっちだ!」

「・・・ぐっ・・・うう・・・・・・・・・・・は・・・はい・・・・」

「聞こえねえよ!!」

 

ネギは鼻水と涙でグチャグチャになった顔をゴシゴシと拭う。

どれだけ拭っても目から涙は止まらないが、それでも精一杯の笑顔を見せて叫んだ。

 

「ハイッ!!」

 

作り笑いではない心からの笑顔をようやくネギは見せて、生徒たちに笑った。

 

「よーし、そうと決まればテメエも手を貸せ! 物理が終わったら英語だ! 英語はロシウじゃなくてテメエが教えやがれ! アメリカ人なら楽勝だろうが!」

「も・・・もう・・・僕はアメリカ人じゃなくてイギリス人です! でも、そういうことならビシビシ行きます! 朝になろうがとことんやりますからね!」

 

こうして赤点軍団の大勉強会が夜通しで開かれたのだった。

教室の外では、その光景に笑う大人が二人。

 

「だから言ったでしょう、心配要らないってねん。高畑先生?」

「ええ。生徒を信じていなかったのは、僕たちのほうでした・・・リーロン校長」

 

彼らは教室に入らず、心の中でネギと生徒たちに「がんばれ」と呟いたのだった。

 


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