【完結】ミックス・アップ(魔法先生ネギま✖グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「クソッ、やられた! まさかこのような手段で出てくるとは思わなかった! こんな大胆な作戦を取るような者だったとは!」
「タカミチ・・・少し落ち着くのじゃ・・・」
「学園長、これが落ち着いていられますか!?」
学園長室で悔しそうに頭を抱えながら、タカミチは叫んだ。
いつも冷静で大人の柔らかい物腰のタカミチがこれほど取り乱すなど珍しい。
逆に言えば、それだけ事態のヤバさを表しているともいえる。
「小太郎君の証言だけではフェイト・アーウェルンクスを立件できない。正規のルート・・・どこまで本当かは分からないが・・・まともな手続きで編入してくる以上、それを学園側が拒否するわけにはいかない。だからといって多数の腕利きの魔法使いたちが在住するこの学園に堂々と乗り込んでくるとは・・・この堂々とした作戦・・・大戦期では人の裏ばかりをかいて影で動き回っていた完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)とは明らかに違う・・・まさかこんなことになるなんて・・・今回のアーウェルンクスは・・・明らかに何かが違う!!」
「うむ・・・堂々と乗り込んできた・・・これは警告とも取れるのう。なんせワシらはこれで何千人とこの学園に通う一般生徒達を人質に取られたに等しい。ワシらが不穏な動きを見せたらどうなるか・・・これは大胆な作戦に見えてとてつもない防御も兼ね備えておる」
「はい。何よりここの学生になってしまえば、これからは堂々とネギ君や・・・アスナ君にだって近づく口実が出来る・・・こんなとんでもない作戦を実行してくるとは・・・しかもまさかダイグレン学園にとは・・・あそこではネギ君は今一人だ・・・刹那くんたちやエヴァが居るわけでもない。もし襲われたら、今のネギ君では・・・・ネギ君・・・・」
「う~ん・・・まあ、そうなんじゃがの~」
タカミチは己の無力さを嘆くかのように拳を握り締め、ワナワナとしている。
今すぐにでも飛び出してネギの元へ駆けつけようとしているようにも見える。
フェイトが編入してきたというとんでもない事態に、タカミチは非常に頭を痛めた。
これから起こりうるかも知れぬ何かを、どうやって防げばいいのかと悩み苦しんでいた。
だが、学園長は何故か既に達観したかのように落ち着いていた。
それがタカミチをさらに苛立たせた。
「学園長、もっと真剣に考えてください。こうなったら、京都に居る詠春さんに協力を要請するなど対策を色々と・・・」
「いや・・・タカミチ・・・なんというか・・・問題はそれだけに留まらんのじゃ・・・」
「ま、まさかまだ何かがあるのですか!?」
これ以上一体何があるというのだ。
タカミチは背筋を凍らせながら、学園長の言葉を待つ。すると・・・
「このままじゃネギ君・・・普通に教職取り上げられそうなんじゃよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・えっ?」
「つーか、もうマジで取り上げられることはほぼ確定的じゃ。委員会でもそういう話がある」
それは信じられぬ言葉だった。
あまりにも突然すぎる言葉に我慢できなかったタカミチは思いきり怒鳴った。
するとその声は当然学園長室の外まで聞こえ、これまた偶然通りかかった3-Aの生徒たちの耳に入ることになる。
聞き耳を立てられているとは気づかず、タカミチは尋ねる。
「どういうことなんです?」
「うむ・・・実はダイグレン学園のネギ君のクラスで、とある課題をクリアすればネギ君を教師としての資質を認めると言っておるのじゃ・・・」
「課題? なんだ、それならなんとかなるかもしれませんよ? ちなみにその課題とは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
タカミチの問いかけに対し、学園長は一枚の紙を無言で手渡した。
「なになに・・・ネギ・スプリングフィールドのクラスで中間テストの赤点者が全員追試をクリアできれば認める・・・・・・・えっ?」
そこに書かれている内容を、タカミチは恐る恐る読み上げる。
「カミナ君たちが・・・留年を毛ほども恐れぬ彼らが・・・・後一週間足らずで・・・ですか?」
そして固まった。
「・・・・無理じゃろ?」
「そ・・・それは・・・」
タカミチの口元は震えていた。
実はダイグレン学園の生徒は同級生の年齢が違うというのは珍しくない。
姉妹全員と同じ学年というキタンや、弟分と同じ学年のカミナ、そして既に成人男性並の貫禄のある不良たちである。
彼らのほとんどは停学や出席日数、そして単位不足が原因である。
しかし彼らの学業姿勢は留年しようが、だからどうしたといわんばかりに改善が見られない。赤点出そうと追試を出そうと・・・それ以前に・・・
「赤点とか追試とか以前に・・・そもそも試験を平気で休む彼らが・・・デスカ?」
「ああ、無理じゃろ? こんなもんどーしろっちゅうんじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
タカミチは無言になってしまった。
思わぬ難問に、タカミチですら言葉を詰まらせた。
だが、その数秒後、噛み噛みではあるももの、タカミチは何とか学園長の言葉を否定する。
そうだ、教師である自分が信じなくてどうする。
「い・・・・・・・・・・・・・いえ、ネギ君は同じような課題を以前クリアしました。そう、試験順位が最下位だった自分のクラスを学年トップに押し上げました。僕は・・・・・・・信じます。彼のことを」
タカミチは学園長室の窓から空を遠くまで見つめる。
(ネギ君の可能性は無限大だ。道はこの空のようにどこまでも繋がっている・・・そう・・・彼なら・・・きっとやってくれる)
だが、そんな大人たちの話を何も知らずに、肝心の麻帆良ダイグレン学園の教室では・・・・
「待ってください!!」
「ッ!?」
ネギは素早くゾーシイの腕を掴んだ。
ゾーシイはネギを睨みつけるが、ネギは怖い目をしてゾーシイを睨み返す。
「ゾーシイさん・・・今・・・ぶっこ抜きをしましたね?」
「あ~~?」
「その手、・・・開いて見せてください」
ぶっこ抜き・・・それは、麻雀であらかじめ山牌の端に自分の好きな牌を積み込んでおき、相手の隙を見て自分の要らない牌とすりかえるポピュラーなイカサマだ。
ネギはゾーシイの腕を掴んで嫌疑を掛ける。正直ネギはメガネをかけてはいるが、一般人の怪しい動作を見逃すほど間抜けでもない。ネギはこの瞬間を待っていたとばかり、ゾーシイの腕を掴んだ。
だがゾーシイは、追い詰められているはずが、逆に笑った。
「はっ、俺がぶっこ抜き? とんだ言いがかりだぜ。まあ、見たけりゃ見せても良いが・・・この手の中に何もなかったら・・・どうすんだ?」
「・・・・えっ?」
「生徒にイカサマの疑いかけて・・・俺がシロだったらどうすんだ? テメエ、ちゃんと落とし前つけるんだろうな?」
「えっ・・・でも・・・僕は確かに・・・」
「ああ。だから俺もそこまで言うなら見せてやるが、あらぬ疑いを掛けた事を、どう責任取るつもりだ?」
「うっ・・・・・ううう・・・」
相手が一枚上手だった。
ネギは諦めてゾーシイの腕を放して、何事も無かったかのように続きを打ち始めた。
諦めたネギを見て、安堵のため息をつきながら、ゾーシイは手の中に入っていた牌を手牌に加えた。
要するにネギは間違っていなく、ゾーシイのハッタリだった。
だが、これで完全にペースを乱されたネギはズルズルと負けていく。
(((まだまだ甘いぜ!)))
男たちは不敵に笑った。
「まあ、泣くなって先生よ~。後でこのキタン様秘蔵のエロDVDをこっそり拝ませてやるからよ~。金髪年上年下制服コスプレなんでもござれのコレクションだ」
「なっ!? こ、高校生がそんなエッチなのはいけません!?」
「な~に言ってんだ。あのシモンとニアだってあんなツラしてきっとイロイロしてんだぜ? この世のでっかい山やきわどい谷を見てみたくねえか?」
「へっ、まずは先生の好みを知る必要があるな。そうだ、このグラビアの中で先生が一番反応すんのはどれだよ? ほれ、顔隠してねーで見てみろよ」
「駄目ですってば~~!?」
顔を真っ赤にして逸らすネギ、その瞬間男たちの瞳はきゅぴーんと光った。
(((はい、この隙に牌交換!!)))
麻帆良学園の魔法先生、魔法生徒たちがこれからの事態に頭を悩ませている頃、ネギはのん気にカミナたちと麻雀をして、負け越していることに頭を抱えていたのだった。
「シモン・・・彼・・・どんどん深みに嵌っていくけど、大丈夫なのかい?」
「う~ん、でも麻雀で勝ったら授業を真面目に受ける約束だったしね・・・」
「しかしカミナたちも容赦が無いね。さっきから見ているけど、イカサマばかりじゃないか。見破ってもネギ君では問い詰めることも出来ない・・・何だか見ていて気の毒だね」
「ああ。どうやら先生は運だけは凄いから、イカサマ使わないと勝てないらしいよ。あれでもっと押しが強ければいいのにな~」
麻雀対決を横目で眺めてため息をつくフェイトと苦笑するシモン。
これがこの学園の日常。
おおよそ普通の学校生活というものを味わったことの無いフェイトには戸惑う場面が多かった。
「フェイト、ところで今日放課後時間ある?」
「放課後? 特に用は無いけど・・・」
「良かった。今日さ、部員が揃ったって事を超って人に教えたら第一回会議とお祝いを超包子でやろうって連絡が来たんだ。だから放課後一緒に行こうよ」
「・・・部活・・・本当に僕がやるのかい?」
「うん、アニキも強引だったし、どうしても嫌だって言うなら仕方ないけど、俺はフェイトと一緒に出来たらうれしいかな・・・」
少し上目遣いで見てくるシモン。
ここで断ってもいいのだが、どうしてもそれを躊躇ってしまったフェイトは仕方なく了承した。
「・・・ふう・・・分かった。とりあえず今日は顔を出そう」
「本当? それじゃあ放課後は空けといてくれよ」
まるでこれでは本当にただの学生だ。
学園の魔法使いたちはフェイトの行動にハラハラとしているのに、肝心のフェイト自身は本当に何か明確な目的や考えがあって編入してきたわけではない。
しかしそれでもこの場に居てしまうフェイトは自分自身を疑問に感じていた。
「シモ~ン、お弁当作ってきました、一緒に食べましょう」
「ああ。いつもありがとうな」
大きな重箱を幸せいっぱいの顔でシモンに届けるニア。シモンも照れながらニアにお礼を言うと、ニアはもっと嬉しそうな顔で笑った。
「いいえ。これが私のやりたいことだもの。たくさん作ってきたので、フェイトさんもどうですか?」
「ッ!? い・・・いや・・・結構。僕は食堂で何かを買ってくる」
突然のニアの誘いだが、フェイトはニアの巨大な重箱を見た瞬間、背筋が震えた。
あの闇鍋で一口サイズの料理を食べただけで自分は撃沈したのだ。
その何倍もの量がある目の前の弁当は、フェイトにとって大量破壊兵器にしか見えず、やんわりと断りながら教室から出た。
「やれやれ・・・何をやっているんだろうな・・・僕は・・・」
廊下に出てフェイトは一人呟いた。
(・・・学校か・・・確かにそれなりに悪くない・・・だが・・・)
騒がしく、無意味な時間の繰り返し。特に何かが目的でもなく、当たり前のような時間を当たり前のように過ごす。
(本来住むべき世界が違う・・・なのに僕は何故ここに居る? ・・・場の雰囲気に流されて成すべき大義を見失う・・・そんなことは許されない・・・なのに何故僕は寄り道をしている・・・)
自分が分からない。
ただ、自問自答して思い出すのは、カミナが言ってくれたあの言葉。「お前のことを知ってやる」ふざけるなと拒絶したはずの自分の心が、なぜか何度もその言葉を思い出させる。
(カミナ・・・シモン・・・ニア・・・彼らに分かるはずがない。僕を理解できるはずはない。なら何故僕は無視せずにここに居る?)
おおよそ、魔法や裏の世界とは関わりのないシモンたち。しかしそんな彼らと共にある自分は一体なんなのだ?
(僕は人形。主の夢想を叶えるための・・・だから心はない・・・そう思っていた・・・。そうか・・・分かっていないのは僕も同じか・・・矛盾しているんだ・・・僕は・・・)
フェイトは騒がしく、暴力的で、しかしどこか笑いの耐えないカミナやシモンたちを見ていると、気づかなかったことに気づいてしまった。
(そう・・・彼らが僕を知らないんじゃない。僕が僕自身のことを分かっていないんだ・・・・)
分からないのは自分自身。だから自分はここに居るのかもしれないと、少し自嘲気味にフェイトは呟いた。
「やれやれ・・・それにしてもこの学園の自動販売機の品揃えは悪いね。こんなコーヒーは飲めたものじゃない」
いつの間にかたどり着いた自動販売機の前で、コーヒー党でもあるフェイトは自動販売機の飲み物の種類に愚痴を零した。
こんなことをしていると、本当に自分は学生になってしまったような感覚に陥り、それを無様だと思う反面、それほど悪くもないと思う自分が居た。
すると、自動販売機の前でため息をついているフェイトの後ろから、割り込むように小銭を入れてボタンを押した者が現われた。
だが、その人物は出てきた飲み物をそのままフェイトに差し出した。
「何事も経験だよ。・・・・・・転校祝いに、僕が奢るよ」
そこに居たのはネギだった。
少しムスッとした表情のネギは、飲み物をフェイトに渡し、そして自分用にもう一本購入し、そのままふたを開けて飲んだ。
「・・・七味コーラ? 嫌がらせかい?」
ギャグのような飲み物を手渡されてフェイトも呆れる。
「先に嫌がらせのような行動をしてきたのは君じゃないか。まさかダイグレン学園にいきなり編入してくるなんて・・・・・・・・何を企んでいるんだい?」
教室に居たときとは違い、実に真面目で真剣な表情だ。
実際フェイトのことが分からず探りを入れているという印象を受ける。
「そういう君こそ何をやっているんだい? 噂では中国拳法やら闇の福音の弟子になったやらで、相当修行していると聞いたんだが、ここでやっているのは麻雀や花札にグラビアアイドルなどの談義・・・君、何をやっているんだい? 授業は?」
「うっ・・・ぼ、僕だって授業をやりたいけど皆が聞いてくれなくて・・・」
「僕も同じだ・・・僕の意思とは関係なく・・・何故か逆らえない言葉に従ってしまったというべきだろうね」
「どういうこと?」
「こればかりは僕にも分からないということさ」
フェイトにも分からない。何をバカなという言葉だが、フェイト自身もこれが今言える本心だった。
「ねえ、フェイト・・・・・・ヘルマンさんは・・・君が? アスナさんたちを攫うように指示したのも・・・君か?」
探りを入れても分からぬため、ネギは直球でフェイトに尋ねた。だが、フェイトは至って冷静にかわした。
「・・・さあ・・・何か疑わしいことがあるのなら証拠を見せてみることだね。そうすれば僕を追い出せるかもしれないよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕を追い出すかい? ネギ・スプリングフィールド。まあ、力ずくはお勧めしないね、正直今の君の力では・・・「そんなことしない」・・・僕にかな・・・・何だって?」
フェイトが少し驚いた顔をした。
「君がどういう目的で、何を考え、何を思ってこの学園に来たかは分からないけど、僕がここに居る間は君も僕の生徒だ。迷惑な生徒だから追い出す? そんなことを僕は絶対にしない。魔法使いとしてではなく、君が生徒である以上、僕は先生として君を受け入れるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・裏切られて後悔しないかい?」
「しないようにがんばるよ」
「・・・・・・・ふん・・・」
これ以上フェイトはネギと会話をする気にはならなくなった。
カミナにシモンにニアだけではない、キタンたちだけでもない、ネギもそうだ。
どうしてそう簡単に人を受け入れようとする?
(人・・・僕は人とは違う・・・でも・・・なら、ヒトとは何だ? ・・・分からない・・・)
ただフェイトは自分の心の中の戸惑いを悟られぬように、持っていた缶のふたを開けて、グイッと飲んでその場を誤魔化そうとした。
「あ・・・・・・・・」
「・・・・・・ぶごッ!?」
フェイトは自分の持っていた飲み物が「七味コーラ」ということをすっかり忘れて一気に飲んでしまったのだった。