ありえざる尋常じゃない魔力が周囲を破滅的に破壊していく。ただ魔力が猛るだけで、このありさま。特にモードレッドの魔力はロンドンで見た時以上。明らかに異常と呼べるレベルで増えていた。
兜を付けたままであるが、
「オラオラ行くぞ!!」
放たれるクラレント――聖剣の輝き。いいや、それどころか。
「くぅ――!」
モードレッドが聖剣を振るえばその全てが聖剣の輝きに飲み込まれる。全てが必殺。こちらが聖剣を振るう隙を与えれば最後、宝具を開帳され薙ぎ払われる。
「マシュ!!!」
「はぁ――いぃいぃぃ!!!!」
ゆえにこちらも全力を出さざるを得ない。もとより円卓の騎士を相手に手加減などできようはずもなく。マシュの宝具を全力展開。
そのうえで、ベディヴィエール卿が前に出る。防御しながらも前に進むために銀腕が輝きを上げて剣と化す。あらゆる全てを両断する神霊の腕から発生する光剣。
あらゆる全てを両断するそれは聖剣の輝きであろうとも切り裂く。マシュで受け止めベディヴィエール卿で切り裂き、前へ進む。
「ぐぅうう――」
だが、このままではまずい。マシュもベディヴィエールももたない。
「どうする――」
その上、クラレントが放たれるというのに全く意に介さずに突撃してくる粛清騎士ども。その相手もしなければならない。
現状、そちらにノッブ、クー・フーリン、式を割り振っているが、押されている。対策したとは言え、クラレントが縦横無尽、無差別に放たれている中でその動きをできるはずもない。
「やるしか、ない――」
クラレントが問題ならばそれが問題なくなればいい。現状あれを止めることは不可能。マシュとベディヴィエールの二人にありったけの魔力を注いで強化をかける。
これでしばらくはもつと信じ、こちらは粛清騎士の方を対処する。一振り全てが対軍宝具。だが、その一振り、剣閃をオレは知っている。
――やるんだろう。
――円卓と戦う。
――世界を救うために勝つんじゃないのか。
だから――。
イメージしろ――未来を。
ロンドンで見た。感じた。あらゆる全てを思い出せ――。
彼女の剣だけを思い出せ。それ以外は思い出すな。湧きあがる恐怖の記憶をそのままに彼女の剣だけを思い出す。
その剣戟の順序を、振るう癖を、すべて思い出し、イメージしろ。そうすれば、次にどこにクラレントが放たれるかがわかる。
自らにできるのは、指示のみ。マスターとしてやるべきことは相手の先読み。ならば、己の心眼、直感、観察眼の全てを用いて
「――――」
今の彼女の状態を見抜け――。
心眼、直感、観察眼。持てる全ての手札を切る。凡人が英雄に勝つには、出し惜しみなどできるはずもない。
思考を回す。回し続ける。脳の許容限界を超えて、未来を演算する。
記憶からモードレッドの動き全てを読み取る。
足りない情報を蓄積された経験で補完する。
目に見える全てを逃さず、見続けて情報を更新する。
あらゆる全てを取りこぼさずに完璧な予測へと近づけろ。
ひとつでも読み間違えれば仲間が死ぬのだ。妥協するな、目指すは完璧の一つのみ。
周囲の被害。自らに降り注ぐ瓦礫の全てを無視する。魔術回路を限界まで励起させ、マシュとベディヴィエールを援護しながら、モードレッドの一挙手一投足を見続けた。
その動きに先んじて自らのイメージが重なるまで――。
微細な血管が破れ血が流れるのもいとわずに、そのイメージが重なるまで予測を続ける。脳が焼けているかのように熱く、どこかで血管がはじけている音がするが、それすらも無視して、今はイメージの完成にだけ注力する。
「――――」
そして、全てが完了した――。
彼女の呼吸、あらゆる全てを感じて、その動きを読み取った。その瞬間、全ての時が止まったかのように感じる。
あらゆる痛みがなくなり、あるのは爽快感。全てを読み切ったのだという、全知に通じる感覚が清々しい。
「クー・フーリン、式、ノッブ、ハサン――
――勝つぞ。
「ノッブ、現在位置で三秒待機、のちに前方右斜め四十五度へ火縄銃十二丁一斉射撃。その後、左前方二十メートルの位置で一斉射撃準備」
「――応」
ノッブが指示通りに動く。
連動して動く粛清騎士たちは火縄銃の射撃を受けてその場にとどまる。
「式、現在位置から五メートル前進、五秒後に後方へ三歩、左斜めに十メートル前進。位置についたら一秒後に跳躍!」
次。式の移動に合わせて動く粛清騎士。彼女の跳躍と同時にそこをクラレントの一撃が薙ぎ払っていった。粛清騎士はそれに巻き込まれて消滅する。
「ハサン、上方五十七度、右四度、左十度に向けて、ダークを三連投擲!」
そこは何もない上空。だが、仕事に対して彼は誠実だ。ゆえに、命令に対してもまた従ってくれる。その一瞬の躊躇いもまた、計算に入っている。
投擲した場所に放たれていたアーラシュの矢。射線の向こうには粛清騎士。矢から逃れようとした騎士をダークが牽制し、矢が突き刺さる。
「これで詰みだ。クー・フーリン。後方七メートル。二秒待機。クラレントが過ぎ去った瞬間、ゲイ・ボルク投擲!」
「――了解だ、マスター! ――
降り注ぐ朱の槍。一か所に集められた粛清騎士に対して、対軍仕様のゲイ・ボルクが降り注いだ。如何な粛清騎士と言えども全力で放たれた宝具の一撃。ノーダメージというわけにはいかない。
また、槍が突き刺さればもはや動けず。
「式!」
「ああ」
そして、最期には死を切り裂かれて殺される。
「待たせた、マシュ! 上段振り下ろし、もう一歩踏み込め!」
「はい!」
受ける体勢だったのを一歩踏み込ませることによって、斬撃点をズラす。クラレントが振り下ろされるその直前に盾が滑り込む形。
「ベディ、未だ、マシュの左脇からアガートラムを振るえ!」
「はい! 我が魂を燃やして走れ、銀の光――
振るわれるアガートラムの一撃。
「――チッ!」
それすらも躱すモードレッド。無論、躱すことはわかっている。この程度で、仕留められるはずもない。何より、あらゆる全てがギフトによって暴走しているかのように強化されているのであれば、この程度は当然だろう。
「わしの1人長篠にようこそじゃ叛逆の騎士とやら――」
後方に下がるように躱したモードレッドに三千丁の銃口が向いている。放たれる三千世界。騎兵殺し。その宝具は騎乗スキルを持つ者にとって天敵だ。
回避した姿勢。この状態からさらに回避はできないだろう。だが、それでもなお彼女ならば対処する。この程度でやられるのならば円卓の騎士などではないとすらオレは思っている。
ゆえに油断なく。
「その心臓、貰い受ける――!」
クー・フーリンを突っ込ませた。放たれる弾丸はすべて目視圏内。ならば飛び道具はクー・フーリンを傷つけることはない。
「そうかよ。ああ、ったくよぉ!!!」
その瞬間、兜を脱ぎ去った。そして、そのまま魔力放出によって無理やりに全力で宝具を放った。
「やば――」
「
放たれる全力解放の宝具。今までのが嘘のようにあらゆる全てが吹き飛ばされていく。
「――クソが」
「こりゃ、駄目じゃの――」
一直線に振るわれるのではなく薙ぎ払いの一撃。山が半分に引き裂かれるほどのそれ。
「マシュ――!」
「っ――宝具、展開します!!!」
展開されるマシュの宝具によってかろうじて、防ぐが――。
「ノッブ!」
ノッブは防ぐ手段がなく消し飛ばされた。
「クー・フーリンは!?」
「ここ、だ」
かろうじてルーンと加護を総動員して躱したが、半身がほぼ焼け崩れている。宝具の一撃を受けて未だ命を繋いでいるのだから上出来だろう。
「くそ、何してんだ、父上に祝福までもらっておいてよ! しかも――!!」
放たれる矢をクラレントが叩き落す。
「誰だ、さっきからしつこく狙ってきやがって!」
「そりゃあ戦いだ。どっちかは死ぬ。特に、自分の限界を無視して前に出る奴とかな。ったく、自分諸共自爆するつもりだっただろ。一瞬でも矢が届くのが遅れたら、もう全部吹き飛ばす気だったみたいだしな。そこまで追い込んだってのもあるんだろうが」
「……なんだそれ。おまえ、わかるのかそういうの」
「たまたまだ。たまたま。だが、そいつはいただけねえな。暴走とは聞こえがいいギフトなんだろうが。そりゃあ、ただのメルトダウンだ。あとそっちのマスターもな」
「先輩!?」
無理をしたツケ。意識が急速に薄れる。目の前が真っ赤に染まっている。血涙、鼻血、耳血。頭が痛いなんてものではなく、受け身すら取れずに倒れる。
あの程度でこのざまというのが情けない。ただ三秒先、五秒先の未来を考えただけで、これだ。人にできることじゃないってのはわかっているが、もう少し、どうにかならなかったのかと思う。
ただ、やるだけのことはやったのだと思うが、ノッブが犠牲になってしまった。それくらい予測できなかったのかと自分を殴りたいほどだ。
こちらの惨敗だ。モードレッドを討ち取れず、こちらは犠牲が出た。こちらの負け。何をしているんだ、オレは……。
「――い、せん――!」
マシュの声がしているが、よく聞こえない。そんなに揺らさないでほしい。痛みで今にも気絶しそうなのだ。
「……クソ。帰る。部隊は全滅。どうあってもオレの負けっぽいしな。この村も見逃してやる。もともとテメエら目当ての山狩りだ。そこのチキン野郎が獅子王に謁見するってんなら、どうあってもオレたちは聖都で御対面だ。勝負はそれまで預けた」
それは命を見逃してもらうための誓い。決して破られることはない。そうしてモードレッドは去っていった。
同時にベディヴィエールも倒れる。
この戦い。果たして、本当に勝ったといえるのか。西の村は守れた。だが――。
犠牲はなによりも大きかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――あれは、どれほど前の出来事だっただろう。
私は多くのものを見て、多くのものを忘れた。
その中でも、いまだに胸に残るものが、その記憶だ。
『今年の冬は一段と厳しいそうだ。いくつかの村を解体しなくてはなるまい。ようやく
その日、王は物見の塔で黄昏ていた私の元に現れた。共の従者もつけず、一人で、ふらりと。
少年のようにも見える王。騎士王と呼ばれる、その王はこの時の私とあまり変わらない年齢だった。偉大なりしアーサー王。ブリテンに平和をもたらした者。
彼は王となる時にその成長を売り渡したのだ。そうそれは祝福などではないのだと私は思う。精霊の加護とは言うが、それは呪いに思えて他ならない。
並み居る敵を打ち倒してきた偉大な王。この方がいる限りブリテンに滅びはなく、また苦しみが蔓延することはないだろう。
そして、それは永劫のことになる。歳をとらぬ王ゆえに、アーサー王は永遠にこのブリテンを統べるのだろう。あらゆる民の為にその身を捧げえるのだろう。
――では――アーサー王、貴方の幸せはいったい、誰が叶えてくれるというのだろうか。
彼の王は、己のことでは笑わない。他人の幸福な姿を見て、穏やかに微笑むのだ。
ああ、それは、なんとも――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――あれは、いつのことだったか。
ロンドン。霧に煙る都で、オレは彼女に出会った。
『なんだよ、おまえ、なっさけねえな』
――どこがだよ。
オレは内心の恐怖を、怯えを、あらゆる弱音を押し殺して泰然とそういった。それが理想のマスターであると信じて。
だが、彼女は、
「やめとけやめとけ。似合ってねえぞ。そんなのはやめとけって、じゃねえとあとでいろいろと後悔すんぞ。ま、オレは後悔なんてしてねえけどな」
そういったのだ。
思えば気が付いていたのだろう。オレの弱さに、オレがどういう人間なのかに。それをオレは聞かなかった。間違いだと断じていた。
まったく、なんて情けないのだと思わずにはいられない。あの時のオレはさぞ滑稽だったのだろう。だからこそ、今の彼女の姿をオレは見ていられなかった。
だから、無茶をした。止めたくて。
――忘れていたものを思い出していく。
それは忘れようとしていた第一から第四特異点の記憶。
大まかな流れだけで詳細を思い出すことを拒否していたオレの
どうして忘れていたのだろう。どうして忘れようとしていたのだろう。
どうしようもなく弱いオレはやっぱり、まったく成長してないよ。
『はは――まったく自虐もそこまで来ると呆れてものがいえんな。マスター』
――……。
『人間がそう簡単に成長できるものか。それに、成長というものは実感するものではなく、誰かによって感じさせられるものだ。自分で感じられる成長など、ただの虚飾にすぎん。そうありたいという願いの姿に他ならない。
誰かに肯定してもらえることで初めて、おまえは成長したといえる。だから、おまえは成長している。我がマスター。
この、オレが肯定しているのだ。前に進むのだろう。あきらめないのだろう。どれほどの無茶を重ねても、どれだけの無理を重ねても、おまえは前に進み続けるのだろう。おまえの愛する女の為に。
ならば、こんなところで
意識が浮上する。
「ありがとう」
暗がりの誰かに語り掛ける。それはきっと幻想でしかない、ただの幻影なのだろうけれど。
それでも、ただありがたかった――。
ぐだ男君頑張るの巻。なんかすごいことやってますが、心眼と直感と観察眼のフル活用です。前々から未来視にすら近づくという描写してたんで、ここに来ていっそ完全に発揮させてやろうと思った結果です。
参考はレンタルマギカの妖精眼つかった社長。アニメ版の社長ボイスいいよね。
それにしても、ネロ祭、英雄王、強かった。
フレンドの白薔薇凸玉藻サマーがいなければ負けていた。
いや、天草で強化解除した途端にエヌマ放たれるし、さらにもう一発放たれるという二連エヌマくらってしまいましたよ。
槍は本当に少なかったから、死ぬかと思いました。いやガチで。
そして、七百万ダウンロードですよ。凄いですね。そして、邪ンヌですよ。エドモンならよかったのに……。まあ、呼符分だけ引きますか。アヴェンジャーとは相性悪いんだよなぁ。
強化クエも来ますね。果たしてエリちゃんかフィンか、書文先生か。アーチャーも果たして誰かのか。楽しみですねー。