Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 6

「はぁ、嵐のような展開でしたね、先輩」

「そうだね……」

 

 一戦を交えて、その後に食事。そして、出ていけと追いだされる。休まる暇がまるでない。ただ、ようやくあの空間から出ることができて非常に清々しい気分だった。

 ただ、彼は触れ合って見ると意外に良い人物であることがわかった。遠方より訪れた客人を無下にしないところとか。

 

 ただ、協定は結べなかった。足りないものが多いと言われた。この世界を見て来い。つまりやるべきことを示唆されたのだ。

 

「まずは、聖都か」

「そうだね。そのために食料やら、資材やらいっぱいもらえたしね。やっぱり王様だけあって気前がいい。というわけではこれ。改良版のマスク。これでだいぶマシだろう?」

「ありがとう。確かに、これでいつも通り動けるかな」

「準備はできましたか?」

 

 マシュと何かを話していた女王ニトクリスがこちらに話しかけてくる。何を話していたのか聞いたらガールズトークだと言われた。

 気になるがガールズトークを突っつくことほど恐ろしいことはないとダビデが言っていた。ガチトーンで。だからオレも突っつかない。

 

「ええ、お世話になりました」

「借りを返しただけのことです。二度目はありません。次に会う時は、敵同士でしょう。手加減など期待せぬよう」

「うん……」

「ああ、もうそんな悲しそうな顔をしない! まったく、そういうところがやりにくい! ……ですが、そういうところがあるからこそ、貴方には数多くの英霊がついていくのでしょうね」

「そうかな。弱いし、無様だし」

「ですが、それを認めて、それを誤魔化さずそれでも前に進んでいます」

「良い出会いがあったんですよ」

 

 ――それは少し羨ましいという彼女の言葉は、風に乗って消えていった。

 

 ファラオにとっては、問題のある発言ゆえに。

 

「さあ、行さない。エジプト領を出ればそこは終末の地の真っただ中。気を付けておいきなさい」

 

 そう言って彼女は去っていった。

 

「で、ダ・ヴィンチちゃんはさっきからなにやってるの?」

「よくぞ聞いてくれました! どうやら今回は長時間の肉体労働になりそうだからね。オジマンディアス王から木材をわけてもらってぇ……じゃ――ん!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが取り出したるは、

 

「砂漠移動用車! 名付けて万能車両オーニソピプター・スピンクス! さ」

「…………」

 

 どこからどうみてもバギーを木材で作っていた。オーパーツ甚だしいが、この時代の技術レベルで作ってるのが、どこからツッコメばいいのか。

 

「――――」

「マシュ?」

「なんとい……おお、なんという……Mr.レオナルド! 運転免許は必要でしょうか!?」

「マシュ!?」

「必要ない必要ない。だって、エンジンとかないし! 基本的に自転車と一緒さ!」

 

 ただし、魔力をガソリン代わりにしてあるから、最大時速60キロ出るとか。

 

「ダ・ヴィンチちゃんって、馬鹿だよね」

「ますたぁ、馬鹿と天才は紙一重といいますわ」

「こらこら、せっかく作ってくれたんだからそんなこと言わないの」

「これがあればナンパ、成功するかもしれないね」

「だよな、やっぱり車はあったほうがいいぜ」

「オレっちのベアー号の方が速度でるが、そいつもいいなァ!」

「はいはい、そんなことよりさっさと行くとしよう」

 

 時間は有限だ。みんなで乗り込み、さっそく出発。瞬く間の間に砂嵐地帯を抜けてしまう。

 

「ヒャッハーァ!!」

 

 その速度、まさに最高速度!!

 

「この世の理はすなわち速さだ! 物事を速くなしとげればそのぶん時間が有効に使える、遅いことなら誰でも出来る、20年かければバカでも傑作小説が書ける! 有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家、週刊よりも日刊、つまり速さこそが有能さであり、速いことは文化の基本法則!」

 

 頬に当たる風が気持ちがいい。遮るものがなく最高速度でぶっ飛ばせるのは実に気持ちがいい。あの息苦しさから解放され、あの生き苦しい空間から解放された今、オレを止めるものはいない!!

 

「ま、ますたぁ?」

 

 清姫が目を白黒させているがスルー。

 

「ハンドル持つと性格が変わるってやつ? いや、ストレス、かなぁ」

 

 ブーディカさんがなんか悩んでいるがスルー。

 

「先輩先輩! ところで、運転は快調ですね。……と、ところで、ですね。先輩、運転はお疲れでは、ありませんか? 何でしたら、わたしが代わりましょうか」

 

 マシュがとても変わってほしそうな目でこちらを見ている。

 

 ――代わる。

 ――代わらない。

 

「いいよ、マシュ」

「お任せください! 先輩はどうぞ。ピット休みを。順位はこのマシュ・キリエライトが死守します!」

 

 一度車を止めてから運転を代わる。

 

「ふぅ」

「お疲れ。一時間以上のドライブは危険だからね。さあ、食事にする? それともマッサージ? それとも私にするかい? ああ、冷たいジュースも作っておいたよ?」

「…………」

 

 一瞬、いいお嫁さんだなぁ、とか思ってしまった自分を殴るべきか、そのまま流されるべきか迷ってしまった。

 

「けっこう世話焼きですよね」

「フォウ、フォーウ」

「そりゃそうだよ。私は基本、お節介焼きだからね。甲斐甲斐しく注文をつけるのさ。あと、そろそろマスクは外していいよ。あの先はこことは違う魔力濃度だ。きっと、この時代の本来の風景が見られる」

「……ダ・ヴィンチちゃん、楽しそうだね」

「そう? それなら君もだよ。まったく、私たちの強がりも中々になったよね。君はマスター、私はモナ・リザ。笑みは絶やしてはいけないからね。どんなに不安でも笑っていないと。まあ、私の気苦労もじきに解消される。エジプト領を抜ければロマニと通信がとれるようになるからね」

 

 忘れていたが、ドクターも気が気じゃなかったはずだ。

 

「はは、そうだろうねぇ。でも、本音をいうと良かったよ」

「良かった?」

「ああ、これで少しはロマニも休めただろう。ロマニのやつ、グランドオーダーが始まってからほとんど不眠不休だったから」

 

 むしろ、この原因を何がなんでも調査しようとさらに無理をしている気がするのだが。

 

「というか、ドクターが不眠不休?」

「そりゃそうだよ。事故で失われたカルデア所員は60名以上。その欠損をどうやって埋めていると思ったんだい? ロマニの仕事は健康管理だけじゃない」

 

 残った機材の運営。シバのメンテナンス。カルデアの炉の制御。作戦方針にレイシフト運用。カルデアの食糧事情についての改善とそれについての様々なアプローチ。

 

「知っているかい? 増えていくサーヴァントの息抜きの為の食事と所員とキミのための食事。どれだけあっても足りない物資。一度はカルデアの食料備蓄が付きかけたことだってあるのさ」

 

 それを人知れずどうにかしようとダ・ヴィンチちゃんをたきつけて奔走していたのがドクターだとダ・ヴィンチちゃんは言った。

 それに加えて本業もある。日々まいっていくカルデアスタッフのメンタルケア。外からの補給ができない以上、中の人間でどうにかするしかない。

 

「それを、ドクターが……?」

「ああそうさ。こんな大仕事、ひとりでやれるのは天才だけだ。でも、ロマニは天才じゃない。英霊でもない。ただの人間、凡人だ。そんな人間が天才の仕事を任されたとき、まず時間と体力を犠牲にする」

 

 それはオレでもわかった。オレもどうしようもなく凡人であるから、少しでもマスターとしてしっかりと指示ができるように多くの英霊について学んだし、マシュとトレーニングをしたり、いろんな英霊たちに教えを乞うた。

 

「それでも足りなくなったらさらに無理をする。薬で思考精度を上げて、肉体疲労を誤魔化すのさ」

「知らなかった……」

「フォーウ……」

「鋭い君には特に気が付かれないようにしてたからね。僕如きが彼の邪魔をしてはいけない、彼に背負わせているんだからこれくらいやってみせるさ、ってね」

「…………」

「それにね、カルデアからの通信もただの通信じゃない」

 

 特異点は現実でもあり、もしもの世界でもある。ここにいる、というだけでオレの存在は曖昧になる。なぜならば、十三世紀の時代にはオレという存在は存在しないのだから。

 世界の観点で言うと、意味不明なものとしてうつるのだ。だから、カルデアはオレという人間が意味消失しないように、存在証明をたてている。

 

 オレという最後のマスターの実在を常に証明して、レイシフト先での存在を確かなものにしているのだ。それがなければ、何かの拍子にたったひとつの数値でも違うもしもの存在なんてものが現れてしまえば2016年、現代には戻れないのだ。

 

「だから、カルデアでは常に君をモニターし、あらゆる数値をチェックして、少しでもブレそうな箇所があれば、正常値に戻している。これはわずかな差異、わずかな予兆すらも見逃してはいけない作業だ。ロマニ含め、カルデア管制室のスタッフは文字通り、全身全霊でキミの旅をサポートしているのさ」

「…………」

「みなさん、飛びます! 対ショック体勢!」

 

 言うや否や、砂丘を大ジャンプ。そして、その先にあった光景は、想像を絶していた。

 

「―――――」

 

 焼けた大地がそこには広がっていた。黒く変色し、焼けただれた傷跡が如く、膿み続けている大地。もはや手遅れ。

 暑さを感じる前に、こんな光景が広がっていることに対して体が冷えていくような感覚。この光景を作り出した何かがいるということに対して無条件に感じる恐怖にただただ身体が冷えたような感覚だけが襲う。

 

「気温48度、相対湿度0パーセント、大気中の魔力密度0.3ミリグラム……酷いありさまだ。とても人間の生きられる環境じゃない」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉が、乾ききった大地に空虚に響き渡る。

 

「まったく私の予想通りか」

「予想?」

「これが魔術王の仕事、ということだよ。魔術王は人理定礎を乱すことで特異点を生み出した。その結果、人類史は不安定になり、魔術王は過去にわたるまでの一切を燃やすという、偉業を行った。逆に言えば特異点にだけは人理滅却の波はこないということだったんだが」

 

 もはやそんなことは関係ないのだと理解した。人理が乱れすぎて、もはや特異点という例外すら例外にならなくなったということ。

 この大地はいずれ燃え尽きてしまうのだ。オジマンディアスが聖杯を使わない理由もこれなのだろう。聖杯を使うことなく、この大地は滅びてしまうのだから使う必要がない。

 

「そんな……この時代に、何が……」

「マシュ、それはあとだ」

「ますたぁ、頭を下げてくださいまし」

 

 囲まれている。ただの敵ではない。

 

「食べ物……食べ物、だ……水も、あるぞ……うまそうな……女も……あ、ああ」

「ヒッ、ヒヒ、太陽王の人食い獣どもから、逃げて来たんだろうなぁ……ヒヒ、ヒヒヒヒ!」

「ありがてぇ……ありがてぇ……オレたちの為に生き延びてくれて、ありがてぇ……」

「殺せ……、殺せ!」

「肉だ、肉だ、肉だ――!!」

 

 たたきつけられるはただただ、圧倒的な思念だ。俺たちの為に死ね。持っているものをヨコセ。オンナ、オンナ。全てを犯して蹂躙して、略奪という殺意。

 それはサーヴァントでも、幻像でも、獣でもない。ただの人間だった。目を血走らせて、狂ったような声を上げ続ける人間だった。

 

 いいや、事実狂っていたのだろう。隠すまでもない、サーヴァントでもないために、読みやすい彼らの根底が一目見ただけで透けて見える。

 半ば屍鬼(グール)化したヒト。人間。あまりの絶望の中で、それでもなお生きるために、ナニカを食った、堕ちた人。

 

 ニンゲンはここまで堕ちることができるのだとオレに見せつけてくる。憎み、妬み、傷つけることでしか生きられない。生きていても長くない。

 

「先輩……!」

 

 マシュの声が震えている。オレにどうすればいいのか求めてくる。オレだってわからない。彼らはここで生きていた人間なのだ。

 

「倒すんだ。それしかない。可能な限り峰打ちでいいが、可能な範囲でだ。コレはもう助からないし、助ける余裕もない。ココはそういう時代になってしまっている」

「だが……」

「マスター、テメェが言えば、オレたちはこいつらを蹴散らす。蹴散らして前に進む。オレたちはそのために来たんだろうが」

 

 兄貴の言う通りだ。やるしかないのだ。それに敵は待ってくれない。

 

「出来る限り峰打ちで倒せ!」

 

 戦闘は一方的だ。サーヴァントに人間は敵うはずもないのだから。それは屍鬼化していても同じこと。戦闘は短時間でもって終了した。

 いいや、戦闘というものでもない。ただ虫を蹴散らした、そんなものと同義だった。

 

「いてぇ……いてぇ……ちくしょう。ちくしょう――」

「せっかく、上等な肉にありつけると思ったのによぉ」

「クソが、クソどもが……」

 

 なんで、大人しく殺されないんだ。

 

 そう憎悪とともにたたきつけられる言葉。

 

「…………」

「痛みで逃げたのが大半、それでも襲ってきたのが一割だね。大丈夫? マスター。きついなら、言ってよ。溜め込んじゃ、また……」

「大丈夫、大丈夫だよブーディカさん」

「……悲しいよね。考える頭があるのに、動くからだがあるのに。自分を止める方法が、死以外になくなってしまうとこうなってしまうんだから。人間ってのは――」

 

 悲しい生き物だよね。

 

 ダビデの言葉が、なぜか鮮明に響いた。

 

「ま、オマエはよくやったよ」

 

 式が周りを視て言う。

 

「こんな連中、殺しちまえば楽なのに結局死傷者はひとりもない」

「甘いのう、甘々じゃ。じゃが、それでこそマスターと褒めてつかわすぞ。よくぞ、その信念貫いて見せた」

「……結果論だよ……」

「マスター、そう言った心の余裕があることは悪いことではない」

「ジェロニモの言う通りだよ。それはとても大きなことだ。余裕がなくなると、人はどうしても大変な間違いを犯してしまう」

「ジキル博士……」

「大将、とりあえず移動しようぜ。こういう連中には他に仲間がいるかもしれねぇ」

 

 それでも悶絶している人たちをこのままにしていきたくはなかった。偽善かもしれない。けれど――。

 

「エリちゃん、食料ってあったよね」

「ええ、いっぱい。マスターが捉えたあの、たこっぽいの? が」

「ますたぁ、いっぱいありますよ」

「……やれやれ、本当にマスターは。どう思うマシュちゃん。私はもちろん反対だけど、キミは?」

「はい、賛成です!」

 

 これはただの気休めにしかならない。

 

「でも、誰かのやさしさが、誰かの為にと思った行動は、きっと間違いなんかじゃないんだ」

 

 きっと彼らは明日には忘れてしまうのかもしれない。それでも、きっとこの食料と水は彼らの人生を少しだけいいものにしてくれると信じて。

 

「ダ・ヴィンチちゃん」

「オーケー、オーケー! さあ、持っていきたまえよ、心を失った諸君!! 明日には忘れるだろうが、なに、たった半日ばかりの蘇生ということさ!」

 

 水と食料を振る舞う。食べられるタコっぽいあれで悪いが、食べられるし栄養満点だ。

 

「ぁ……やったぁ!」

「水だ、水だぁ――!!」

 

 押し合いへし合い。食料と水に群がる人々。

 

「さあ、今のうちに撤収だ! スピンクス号に乗り給え!」

「フォーウ!」

「……………………待ちな」

 

 群がる一人が、こちらに気が付いて声をかけてきた。

 

「アンタら、東に行くのか。……まさか。聖都に?」

 

 それはただひとりの気まぐれ。いいや、いい方に考えるなら、この気休めが彼らに少しばかりの余裕を取り戻させたのだと信じたい。

 

「ああ、その聖都に行くんだ。何か問題があるのか?」

「ああ、聖都は唯一の都。ああ、そうだ、あそこには何もかもがある夢の国だ。だから、これは、あんたらへのせめてもの、礼だ。行くな」

 

 あそこには怪物がいる。世界を焼き尽くそうとした十字軍を皆殺しにした騎士(バケモノ)と、その主、聖都に遍く威光輝く偉大なりし獅子王がいる。

 だからこそ、行くな。美しいものほど恐ろしいということはああいうことを言うのだ。壁には絶対に近づくな、死にたくないのなら砂漠に戻れ。

 

 そう男は言って、食料と水の争奪戦に戻ろうとする。

 

「待ってくれ」

「なんだ……」

「ほら」

 

 一本のボトルを渡してやる。水の入った、冷たいボトル。

 

「助言、ありがとう」

「………………」

 

 男はそれを大事に抱えて、食料争奪戦へと戻っていく。

 オレたちは、今度こそ出発した。彼らが行くなといった聖都へと――。

 




偽善とわかっていてもやらずにはいられない。それがきっと何かいいことに繋がるだろうと信じて。
あとここに来て、タコっぽいアレの肉が役に立ちました。
オジマンからもらったのも併せて原作よりもかなり量が多くなっております。無論、その理由は在ります故。

さて、次はついに、円卓の騎士どもが来る。
糜爛した地獄の歯車は回り続け、加速度的にぐだ男を奈落の底へと落下させていく。
その中でぐだ男は――。

てな感じで、次回、絶望《円卓の騎士》が来るぞ。

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