Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 5

「神たるファラオの武勇を見せるとしよう」

 

 今ここに 、ファラオの中のファラオが、その身に宿す威光を放たんと猛る。

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉無し。

 

 まさしく、正しく、神王の名をほしいがままにするファラオがここにその武威示さんと、進軍を開始する。

 たった一歩。ただ一歩前に出ただけで戦場全てを支配する。この場、この戦いの場における上位者とはだれかと雄弁に告げるのだ。

 

「ファラオの力、その目に焼き付けるが良い――」

 

 降り注ぐ熱線、光線。雷電を纏った太陽光が降り注ぐ。凄まじい攻撃。まともに受ければ無事でいられる保証などありはしない。

 掠るだけですら、致命的な破壊をもたらす死の熱線は、嵐のように降り注ぐ。遍く降り注ぐ太陽の光その全てが貴様の敵なのだと告げるように。

 

 どうした、この程度余技にすぎんぞ、と言わんばかりの余裕。あくびを噛み殺しながらただ腕の一振りで、光線は降り注ぐ。

 莫大な熱量に空間そのものが焼けただれていく。その場にいるだけで猛毒を浴びせられているかのよう。

 

「マスター、下がって!」

「マシュ!!」

 

 守るため、マシュが前に出る。震える足を前に、盾を構えて熱線を受ける。数多の攻撃を防いだ盾の英霊。余技の熱線を防ぐことができる。

 だが、それがどうした。この程度片手間の余技に他ならない。そも、戦闘という場において近づけなければ、意味がない。攻撃が当たらなければ意味がないのだ。

 

 莫大な量の熱線が途切れることなく降り注ぐ。まさしく神の威が如き所業。降り注ぐ光は何よりも輝いており、それだけで見る者すべての意思を挫く。

 

 平伏せよ。自らの死を受け入れよ。

 

 たたきつけられる神威が如きファラオの権能。この大複合神殿において彼はまさしく無敵だ。

 

「ノッブ!」

 

 だからこそ頼るは信長。神を殺すべくして存在する第六天魔王。その力ならば、オジマンディアスにも通用するのではないかと思ったが――。

 

「おう、無理じゃ!」

 

 神殺しの固有結界すら発動する兆しがない。この神殿の効果だろうか。ともかく宝具の真名解放が行われなければ、アレを使うことはできず。

 

「く――」

 

 このままではじり貧で削り切られる。何とか、接近し熱線を止めなければならない。神々の神威の如き熱線が降り注ぐ。

 空間に熱の猛毒が広がっていく。サーヴァントですら蝕む神々の熱量。雷電が帯電し、空間で綺羅綺羅しくはじけている。

 

 方法はひとつだけだ。

 

「マシュ」

「はい、先輩、大丈夫です!」

 

 マシュの盾で防ぎ一気に肉薄する。彼女の盾ならば、あの熱線すらも防ぎえる。それが盾の英霊であるがゆえに、そもあの盾こそ、何があろうとも砕けぬものであるがゆえに。

 足が震えている。恐ろしいのだろう。オレも怖いのだから、彼女はもっと怖いはずだ。でも、ためらうことなく彼女は頷いた。

 

 必ずや防ぐと。

 

「行くぞ!」

「はい、マシュ・キリエライト、突貫します!」

 

 英霊の身体能力の全てを駆使して一歩を踏み出す。

 

「フッ――」

 

 良い、ならば来るが良い。

 

 来る光輝の洗礼。降り注ぐ光線は紫電を纏い、何よりも強く光り輝いている。莫大な熱量が空間を侵食し、あらゆる全てを拒む不可視の猛毒となり、雷電は近づけばはじける機雷と化す。

 しかし、マシュは躊躇わない。信じてくれる人がいて、信じる人がいるならば怖いけれど、前に進めるのだから。

 

 重要なのは速度。いかに素早く近づくことができるか。またそれだけでなく防御も重要だ。速度だけではだめであり、この攻撃を全て完璧に防がなければならない。

 いかに経験を積んだとは言えど、マシュにその見切りはできない。ゆえに――。

 

「右だ!!」

 

 その声だけをマシュは聞いていた。

 

 文字通りの光線。もはや見てからでは防ぐことすらできないのであれば、見ない。ただ背後から聞こえる声だけを信じて防御する。

 言葉の通り、右からくる光線を防ぐ。

 

「上だ!」

 

 聞こえた瞬間には盾を上へと構える。踏ん張ると同時に訪れる衝撃。腕を焼くかのような暴虐の熱に耐え、前へと進む。

 金時、クー・フーリン、信長。彼らが辿りつけば、必ずや勝てると信じて、盾の英霊として防ぐ。

 

「正面!!」

 

 光を受け止め、

 

「やあああ――――!!!」

 

 前へと進む。

 

「ほう」

 

 オジマンディアスは、その様を見ていた。

 

「五つの楔を越えて来ただけのことはあるということか」

 

 ならば、これはどうだ――。

 

「――っ!」

 

 ぞくりと走り抜ける悪寒。吐き気すら催すほどの嫌悪が背中を登る。オジマンディアスの上、そこに収束する光。強烈な一撃の予感。

 

「マシュ!!!」

「――っ!!」

「気張れよ嬢ちゃん!!!」

 

 クー・フーリンのルーンが輝く。与えるは防御の加護。あの一撃を防げば届くのだ。放たれる一撃を前に、大地に根を張る大樹のように盾を構える。

 必ず防ぐという意気をたぎらせている。ならば

 

「――」

 

 魔術によるサポートを行う。強化、強化、強化。マシュにあらゆる強化を重ねがけしていく。彼女が無事で済むように、祈りを込めて魔術礼装を起動する。

 

「――――」

 

 放たれる大熱光線。視界の全てを白に染める一撃がマシュへと放たれた。

 

「く、ああああああああ!!!」

 

 じりじりと後ろへと下げられる。踏ん張ったはずの足はずるずると後ろへ。押し切られるその瞬間――。

 

「いっくぜ、ベアー号!!!」

 

 轟音が爆ぜ、ベアー号が疾走する。雷電をたぎらせ、大熱光線の横、壁すらも走り抜けてついにオジマンディアスへと肉薄する。

 

「来たか勇士」

 

 普通ならば迎撃される。だが、今、その熱線はすべてマシュが防いでいる。彼の疾走を阻むものはない。その背に、クー・フーリン、ノッブを乗せて疾走した彼はそのままオジマンディアスへと突っ込む。

 しかし、その一撃は、躱された。それのおかげで熱線は止まる。

 

「マシュ!」

「だ、い丈夫です!」

「いい、休んでくれ」

 

 既に熱線を放つ余裕などないだろう。オレたちの中でも屈強な三騎のサーヴァントが、彼へとたどり着いたのだから。

 まず突っ込むのはクー・フーリン。獣の如き敏捷さで、まっすぐにフェイントを交えながら突っ込んでいく。

 

「行くぜ!」

 

 放たれる朱槍の一撃。空間を刺し穿ち、神速でオジマンディアスへと向かう。しかし、オジマンディアスは揺るがない。

 放たれた槍に向かい、短刀を抜く。それから払うような動作で槍を打ち払い、その背後に迫っていた金時の拳を受け止め、放たれたノッブの弾丸を全て短刀で切り払う。

 

 続けて放たれる槍の薙ぎを上方へ逸らすと同時に、掴んだ金時をクー・フーリンへと投げ、ノッブの火縄=カタを最小の動作のみで全ての弾丸を交わし、時には短刀で火縄銃をはじく。

 

「チッ」

 

 速度のギアをさらに一段階クー・フーリンが上げたとしても、

 

「嘘だろ、オイ」

 

 それに追従してくる。速度が速いのではなくまるで未来でも見切っているかのように、クー・フーリンの一撃を全てはじき落してしまう。

 

「惰弱惰弱ゥ!」

 

 お返しとばかりに放たれる短刀の一撃。

 

「金時!!!」

「応!!」

 

 放たれる一撃に合わせたカウンターの一撃。雷電を纏った金時の拳が短刀へと横殴りにたたきつけられる。

 

「おっと」

 

 大きく腕が弾かれたところに放たれるは、

 

「ノッブ!」

 

 ノッブだ。統計学により計算された火縄=カタが今度こそ決まる。

 

「まだだ、兄貴!」

 

 それに合わせるように朱槍の連撃が叩き込まれる。突き、薙ぎ。縦横無尽に放たれる流麗な槍の連撃がオジマンディアスへと放たれる。

 決まったかと思われた瞬間、オジマディアスはその腕で槍をはじく。放たれる残像すら伴う槍の連撃を逸らすことによって火縄=カタの弾丸を全て打ち落とさせたのだ。

 

 更に金時の雷鳴が奔るがそれすらも軽いステップで躱されてしまう。だが――。

 

「マシュ!!」

「はい!!」

 

 走り込んでいたマシュのシールドバッシュが仲間の攻撃の合間に差し込まれる。彼女ならば防げる。同士討ちにはならない、オジマンディアスは必ず防ぐという信頼がマシュに突撃を敢行させた。

 読み通り、オジマンディアスはノッブとクー・フーリンの攻撃を防いだ。金時の雷鳴を軽いステップで躱す。その瞬間、わずかな隙。中空という蹴りだす部分がないその一瞬にマシュの一撃が炸裂する。

 

 それも短刀で受けられダメージにはならないが。

 

「フッ――」

 

 王から戦意が消える。全ての動きが止まった。

 

「遊びと言いつつ熱が入ったわ。おかげで首の調子も戻った」

「ファラオ、いったいなにが……いえ、この者たちを処罰されるおつもりですか……?」

「無論だ。この者たちの目的は聖杯。その聖杯は今や、余の持ち物。であれば、いずれ殺し合うは道理。余はこの者たちを活かして帰す気はない」

「な……では、私はファラオの敵を、この手で御前まで引き入れてしまったと……?」

「そう、引き入れてしまったのだ。だが――ニトクリス。そなたには聖杯と、この特異点に関する知識は伝えておらぬ。それは余の過ちだ。そなたの罪ではない。というのも」

 

 そう言って、こちらを見る。再び戦闘が始まるのかと警戒して。

 

「……ふん、正直、第四あたりで息絶えたものと。そうでなくとも、完全に精神すら壊れたものと思っていたがな。余の憶測も笑えぬわ」

 

 要らぬ誰かのお節介でもあったか?

 

 そう問うオジマンディアスに思い浮かぶのはひとりの男だった。恩讐の彼方にて、オレを導いてくれた相棒の姿――。

 

「だが――遅すぎる!」

「は、え?」

「遅い遅い、遅きにも程がある! カルデアのマスターよ! 貴様らが訪れる前に、この時代の人理はとっくに崩壊したわ!」

「なん……だって……」

「言葉通りの意味だ。この時代――本来であれば聖地を奪い合う戦いがあった」

 

 一方は守り、一方は攻める。二つの民族による、絶対に相容れない殺し合い。その果てに、聖杯はどちらかの陣営に渡り、聖地は魔神柱の苗床となっていたはずだった。

 

「――おまえたちが、もう少し早くこの地に到達していれば、な」

 

 それはつまり、そうはならなかったということ。現に聖杯は、ここにある。オジマンディアスの手の中にあるのだ。聖地奪還の争いは起こらなかった。

 

「オジマンディアス王、キミはおそらく十字軍側の誰かに召喚された。そして、君は当然のように彼らと敵対した。そして、聖地を己がものとした。それによってエジプト領を召喚したのかな。これで人理崩壊を?」

「……何者だ。中々の知恵者のようだが……」

「レオナルド・ダ・ヴィンチ。しがない万能なだけの天才だよ」

「ほう。その名であれば余も知るところだ。人類史に輝く才人のひとりだとか。成るほど、成るほど。天才と変人は紙一重というヤツだな!」

「いやいや、偉大なる太陽王に比べれば、私の知性なんてちょーっと上ぐらいさ」

 

 ――あ、そこは上って言っちゃうんだ。

 

 その傲岸不遜というか、(ファラオ)をも恐れない言い方には本当に敬服する。さすがはダ・ヴィンチちゃんと言いたいところだった。 

 オレではどうやっても、そんなことは言えないだろう。

 

「それで? こちらの見解は正しかったかい? この時代の特異点はキミということでいいのかな?」

「フ――フハハハ、ハハハハハハハ! 残念ながらそれは違うぞ、異邦からの賢人よ! この余が! 太陽王たる万能の余が! 聖杯などという毒の杯を使うとでも思ったか! 余は聖杯の持ち主であり、聖杯の守護者である! 聖地になど、余は全く興味がない!」

 

 故に――

 

「心して聞くが良い。この時代を特例の特異点とし、人理を完膚なきまでに破壊した者は、貴様らが目指したエルサレムの残骸、絶望の聖都に座している。通り名を獅子王。純白の獅子王と謳ってなァ!」

 

 純白の獅子王。ニトクリスも呟いていたその言葉。それが今度の敵なのか。わからないが、やるべきことははっきしりしたのだと感じた。

 

「さて、遊びのあとは腹が減った」

「ファラオ、既に用意は整っております」

「うむ、ではそなたらも来るが良い」

 

 言うことを言った後はもう彼は語らず、それどころか豪勢な食事を振る舞われる。

 

「…………」

 

 豪華すぎる食事。

 

「どうした、食わぬのか?」

「あ、いえ」

「遠慮などはいりません。オジマンディアス様の慈悲、感涙しながら受け取るが良いでしょう」

 

 戦って、この世界の真実を聞いて、その後、どうするかとかそういうことではなく食事。嵐のように展開が過ぎていく。

 何をどうすればいいかなんて考える暇などなく、流されていく。

 

「まあ、食べればいいんじゃない? 毒はないしね」

 

 ダビデは遠慮なんて言葉なく既に食べている。

 

「…………」

 

 たしかに美味しそうである。ここを逃せばきっと食べられないであろう豪勢な料理。喉が鳴る。かぐわしい香りをかぐだけでも最早我慢なんてできるはずなく。

 

「いただきます」

 

 食事に手を付けていた。

 

「う、まい……」

 

 ――うますぎる。なんだこれ!?

 

 わけがわからなくなるほどの美味さ。こんな料理食べたことがない。

 

「はっはっは。良い食べっぷりである」

 

 料理も酒も何もかもが別格。王様というのはさすがというか、ここまで別格過ぎるのは初めてだった。ローマに行った時は戦争していたから、さほど豪遊もできなかったが、これはもうなんというか――。

 

「はぁ、うまかった……」

「そうか、じゃあ、帰れ」

 

 そして、オレたちは神殿から追いだされた。

 




オジマンディアス戦終了。緒戦ですし、こんなものでしょう。

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