Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 4

 招き入れられた広間の中でその男は玉座に座っていた。褐色の肌に黒い髪、黄金の如き瞳が全てを見通しながら微睡の中にある。

 だというのに、圧倒された。目にした瞬間、視線を外すことなどできやしない。どんな人間でもサーヴァントでも視線を外すことなどできないだろう。

 

 カリスマとはこういうものだと言わんばかりに、ただ自然体のままあらゆる全てをひきつけてやまない。ただ一目見るだけで何もかもを悟った。この御方は違うのだと――。

 自分のような卑小な人間とは、格が違う。それはサーヴァントだからという話ではない。古い時代の人間だからというわけでもない。

 

 人類としての性能が、格が根本からして異なっているのだ。あらゆるものが輝いている太陽のような男。彼が太陽王と呼ばれる所以を肌で感じる。

 見続ければ目がつぶれてしまうのではないかと錯覚するほど。きらびやかな空間の中で最も輝いているのが装飾ではなくこの部屋の中の主であるこの男であるという事実が全てを物語っている。

 

 目に宿る光の密度、王たる自負、どれもが桁はずれであり、どんなことをすればこれほどの領域に至れるのか見当もつかない。

 ああ、こんな御方を見ることができて、幸せであるという興奮による胸の高鳴りが止まらない。間違いなくオレというひとりの人間は太陽王オジマンディアスに魅せられていた。

 

 だが、同時に叫びだしたいほど恐ろしくなる。彼と同じ空間にいるだけで、ただただ自分の卑小さだけが降り積もり、我が身の矮小さを嫌でも自覚させられてしまうのだ。

 そんなただいるだけで全てを圧倒し魅了しつくす男は、

 

「――ふぅむ。眠いな。余は、とても眠い――」

 

 睡魔の中を微睡んでいた。

 

「やっと来ましたね。怪しき旅の者ども! ちょっと遅かったのは気にしていません! スフィンクスの試練を越えた貴方たちは、畏れ多くも王への謁見を赦されました。さあ、そこに平伏するのです! さすれば王は倦怠から身を起こし、貴方たちにお言葉をおかけになるでしょう!」

 

 もはや王本人でなく、ぽんこつっぽいニトクリスの言葉であろうとも逆らう気力などない。この場についた瞬間から、ただただ圧倒されてしまっていたのだから。

 オレは自然に平伏していた。

 

「ふっ……! 良い光景です、我が事のように胸が弾みます!

 さあ、その耳でよく聞くが良い。この御方こそ、勇壮にして、最も広くその威光轟く太陽にしてファラオの中のファラオ――太陽王オジマンディアス。この終末の地を平定し、救済する理想の王です!」

 

 告げられる口上。それとともに、微睡んでいた男の瞳に更なる光が灯る。

 

「……珍しいな、ニトクリス。そなたは大鳥とはいえ、そのように大声をあげる気性ではなかった。よほど、その者たちが気に入ったと見える。はは。それは喜ばしい。実に。実に」

「も、申し訳ありませんファラオ。昂りのまま、貴方の真名を語り告げるなど……それは本来、貴方さまが為すべきことでございました。……ニトクリス、反省いたします」

「そうだな。余の愉しみを奪った罪は重い。後程、片腕を切り落とし、瓶に詰めよ」

「はい。温情、ありがたく……」

 

 普段のオレならばそんなものは温情ではないと食ってかかるだろう。だが――今は無理だった。顔を上げることすら不可能。

 屈服してはいないが、逆らうという気力も沸いてこないほどに隔絶されている。彼がこちらに気配を向けただけで、逃げ出したくなるのだ。

 

 危険を告げるオレの勘は、心眼は、全力で逆らうなと告げている。本能が叫ぶのだ。何もするな、小さくなっていろと。

 

「……さて」

 

 完全にこちらが捉えられる。その瞳がこちらを捉え、言葉を発した瞬間。それは些末な言葉であったが、ただそれだけで打ちのめされる。

 ただただ荘厳。言葉ひとつでわかる彼の王としての次元(レベル)。まったくもって隔絶している。今まで接してきたどんな王よりも、これは違うのだとわかる。

 

 ファラオという存在の格の違いに汗が止まらない、震えが止まらない。視界すらその仕事を放棄してぐるぐると回るほど。

 意識しなければ呼吸すら忘れてしまうのではないかと思うほどだ。

 

「おまえたちが、異邦からの旅人か。我が名はオジマンディアス。神であり、太陽であり、地上を支配するファラオである」

 

 過去、現在、ともにそれは変わることのない事実。ゆえに、ライダーだのと呼ばれるのはいささか飽きもしたのだと彼は告げる。

 

「この小さき玉座も、所詮は余にとって無聊(ぶりょう)の慰みの一つにすぎぬ。そして。そして、だ――今、余は眠い。老人が死の淵から目覚めたばかりのように、だ。よって、言葉は最小限にとどめる。我が玉音、心底に刻むがごとく、拝聴せよ」

 

 否応なく刻まれるオジマンディアスの言葉。

 

 カルデアからの使者であること。

 これまで五つの特異点を修復した者であること。

 そして、ついにこの第六の楔――砂の聖地に現れたこと、すべて承知している。

 

 響く言葉は驚愕の事実を以て伝えられる。洗練された美しさは正しく破格であり、並ぶものなし。

 疑問すら挟む余地などありはしない。もとよりその疑問の答えすら彼の口から発せられるものゆえに。

 

「何故ならば、おまたちの探す聖杯は、この通り、余が手にしているからだ」

 

 手にある黄金の杯。聖なる杯。

 

「ああ、言っておくが、魔術王なぞに与していない。これは余がこの地に降臨した際、十字軍めから――」

「――――!?」

「フォ――ウ!?」

 

 その瞬間、ありえないことが起きた。彼の首がズルリとズレたのだ。そして、何事もなく元に戻る。見間違えたのだろうか。

 あまりにも凄まじすぎる重圧についに精神が変調をきたし、あらぬ幻覚でも見てしまったのかと思う。しかし、周りの反応がオレと同じものだ。

 

 つまりそれは見間違いなどではないということであるが――。

 

「――十字軍めから没収したものだ。真の王たる余に相応しいものとして、な」

 

 彼はまったくもって何もなかったという風に話を続けている。誰か聞けよという雰囲気。否応なく視線はオレに刺さるが、オレは顔を上げられない。上げたくない。無理、絶対に無理。

 顔を上げるだけでも苦痛だというのに、その上で首がズレたことを指摘する? 絶対に漏らす自信がある! 大小ドッチモダ! 

 

 ゆえに――誰か頼むと思った。だれか頼むからアレを指摘してくれと思った瞬間、

 

「ねえ、オジマンディアス王。ひとつ聞いていいかい?」

 

 ダビデがその口を開いた。

 

「いま、貴方の首がするっといかなかったかい?」

「――ありえぬ。イスラエルの王。旅の疲れであろう。不敬であるが、そなたも王だ。一度だ。一度のみ、許す。余の首は何ともないのだからな。

 そして、聖杯を手に入れたことにより余は――おっと」

 

 再び首がずるりとズレる。

 

「…………」

 

 場を沈黙が支配する。見てはならないものを見てしまったそういう沈黙であり、彼は無言で、見たか? と問うてくる。

 ただただ、オレたちは目を逸らすフリの沈黙すらできず。

 

「ニトクリス!」

「は! 何用でしょうファラオ」

「余は調子が出ん! よって体を動かそう! 眠気覚ましに火の精どもを呼ぶがよい! では行くぞ、カルデアのマスターとやら! 先ほどの沈黙、余は気に入った!」

「――――!!」

 

 意味不明な理由での臨戦態勢。圧倒的な戦意がオレたちをつぶしにかかる。

 

「ああ、やっぱり。想像通り……ッ! この王様、完全に自分ルールで生きて来た困ったちゃんだ!」

「本当だね。困ったものだよ。僕を見倣えばいいのに」

「それはないな全裸」

「だから、全裸じゃないって!?」

「テメェら! さっさと戦闘態勢をとりやがれ!! マシュはマスターを守れ! 前衛はオレとゴールデンテメェだ! ほかの連中は、火の精をどうにかしてろ。気を抜いたら一瞬でとられんぞ!!」

 

 兄貴の言葉で、オレたちは正気に戻る。戦闘になったら体の方が勝手に動いだ。恐怖、畏怖、威圧、あらゆる全てを受けて逆らう気力もなかったはずが、戦闘になれば、戦闘の空気を感じた瞬間にオレの体は動いていた。

 清姫に手を引かれるようにマシュとにかく一度、後ろに下がる。同時に始まる戦闘。オレの思考もまた戦闘になると同時に高速で回転を始める。

 

 ここまで積み上げて来た経験が、相手に気圧されていても、戦闘になった途端に勝手に思考を回す。恐怖のままに、恐れのままに思考は回る。

 敵は否応なく襲ってくるゆえに、それを排除、迎撃しての離脱――。

 

 まずは火の精。魔力によって形作られた炎のソレ。それに相対するには、魔術師が良いゆえに――。

 

「ジェロニモ!」

「心得た。精霊の相手ならば、こちらも負けてなどいられん」

「ジキル博士、ジェロニモと精霊は任せた! ブーディカさん、エリちゃん、ダビデ、ダ・ヴィンチちゃんは彼に従ってくれ! ――行くぞ、マシュ!!」

「はい、先輩!!」

 

 みんなの了承とジェロニモの頼もしい言葉を聞きながら、オレは、一歩前に、ただ視界にオジマンディアスだけを捉える。

 同時にジェロニモによるシャーマニズムを基とする魔術が行使される。

 

 シャーマニズムとは、超自然的存在――霊、神霊、精霊、死霊に働きかける思想であり、魔術においては精霊を使役することによってさまざまな現象を引き起こす術式のことだ。

 その魔術を使用する者のことをシャーマンと呼ぶが、ジェロニモはまさにそのシャーマンであり、精霊統御者型と呼ばれる精霊を使役し様々な役割をこなす魔術師だ。

 

「水の精よ――!」

 

 呼び出すのは当然、水の精霊。火の精霊に対して、相克を為すものであり、呼び出された四体の水の精霊がそれぞれ火の精霊へと向かって行く。

 放たれる水と炎。有利なのは当然水のようであるが、過信することはできない。相性とは一方通行のものではないからだ。

 

 火が必ず水に負けて、水が必ず火に勝つとは限らない。水は火を消すことができるが、同時に火は水を蒸発させることもできるのだ。

 一方通行に有利不利が成立することは現実ではありえない。常に変動するのだ。あらゆる外的要因によって相性は容易にひっくり返る。温度が高く、水の量が少なかったりすれば火が水を蒸発させるように。大量の水があらゆる火を消すように。

 

 だからこそ、ジキル博士は次の指示を出す。

 

「ブーディカ君、エリザベート君、ダビデ、ダ・ヴィンチちゃん、いまだ!!」

 

 精霊同士のぶつかり合いは一瞬の拮抗を生む。完全に動きが止まった。その瞬間を、各サーヴァントで攻撃するのだ。

 

「了解!」

「行くわよー!」

「まあ、任されたことはやらないとね」

「ふっふっふ、ウォモ・ウニヴェルサーレと呼ばれた私の実力を見せてあげよう」

 

 ブーディカさんの約束されざる勝利の剣から放たれる魔力塊。威力は一撃で精霊を倒せるものではないが、その勢いをそぐことができる。

 それに連射が可能。水の精霊を援護する形で放たれる一撃一撃で炎を散らして、水の精霊が有効に攻撃できるようにしていく。

 

「精霊に聞かせるなんて初めてだけど、最初からノッていくわよーー!!」

 

 超音響兵器(エリザベート)がその性能を発揮する。魔力を帯びた指向性を持った爆音が炎の精霊にぶち当たった瞬間、あらゆる炎がかき乱される。

 その隙に水の精霊が攻撃すればいいのだが、それすらも巻き込んでエリちゃんのメドレーは続く。最後まで聞けばきっと昇天間違いなしだ。

 

「さって、これでいいかな」

 

 五つ石を投擲し、その精霊の核となっている部分に命中させる。水の精霊による足止めなど必要ない。正しくそれは必中なのだから。

 規格外でない限り、その石はかならずや敵の急所へと当たる。背を向けていても必ずや当たるのだ。ゆえに、結果など見ずとも良い、炎の精霊は消え失せていた。

 

「さあさあ、万能をご照覧あれ――」

 

 籠手から放たれる冷気。如何なる業火であろうとも、凍り付かせるような冷気の中で燃えることはできない。万能と謳われる才能の輝きが焔を蹂躙する。

 この程度余技とでも言わんばかり、その神髄になど一瞬たりとも届いていない。簡単なことだと言わんばかりにレオナルド・ダ・ヴィンチは精霊を消滅させる。

 

 ここに前座の戦闘は終わりを告げる。

 

「行け、クー・フーリン、金時!!」

「おう!」

「任せな大将!!」

 

 そして、戦闘は本命へと移る。本命オジマンディアスへと。

 

「神たるファラオの武勇を見せるとしよう」

 

 今ここに 、ファラオの中のファラオが、その身に宿す威光を放たんと猛る。

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉無し。

 

 まさしく、正しく、神王の名をほしいがままにするファラオがここにその武威示さんと、進軍を開始する。

 




さあ、行くぞ! オジマンディアス戦だ。気張れぐだ男。
まあ、それはさておき、ようやくジェロニモさんが活躍させれた。シャーマニズムだからずっと六章の炎の精霊との闘いで活躍させようと思っていたのがようやく実現。
だが、ここから先は絶望である。
いささかも揺るがぬ真なるファラオの武威を見るが良い――。

というわけで、次回こそオジマンディアスとの決戦。相手は宝具を使わないのに、いろいろと圧倒するシーンしか思い浮かばない。
ノッブの相性ゲーの中でもなんか生き残りそうなんですよ、この神殿の中だと。
とりあえず気分は既にラスボス戦。


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