Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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第六特異点 神聖円卓領域 キャメロット
神聖円卓領域 キャメロット 1


 そこはどことも知れぬ場所。いいや、よく知っている場所であったか。どちらにせよ、そこはとても満ち足りた場所であることに間違いはなかった。

 そこはあらゆる全ての夢の果てだとわかっている。遥か遠き、理想の園。そこにサンタオルタ。いや、アルトリア・ペンドラゴンはいた。

 

 誰かに招かれて、そこにいた――。

 

「貴様、何のつもりだ」

「さて、何のつもりかと言われたら旧交を温めようかなと思ったんだよ」

「第六の特異点に向かうその直前にか」

 

 目の前にいる人物は良く知っている。反転しているとは言えど記憶はある。だからこそ、なぜこの場に呼ばれているのかがわからない。

 世界を救う。人理の修復の旅。その第六の特異点。あらゆる意味で、死闘が繰り広げられるであろうと彼女の直感は言っている。

 

 なぜかと言われればわかるのだ。そこに何がいるのか、何が起きているのかはわからないが、それでもひとつはっきりとわかることがある。

 あの場所は、マスターにとって困難ばかりが待ち受けていると。

 

「君は行かない方が良いのさ」

 

 だが、目の前の男は、そちらの方が面白いと彼は言った。

 

「…………」

「おっと、竜の尾を踏むつもりは微塵もないよ。ただ、わかってほしい。これも必要なことなのさ。君がいては、彼の為にならない」

 

 ゆえに、君はおとなしくここで見ていると良い。彼がその果てに何を掴むのかを――。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「とうちゃーく! ここがエルサレムゥウう!?」

「フォーウ!?」

 

 いきなりの砂嵐に見舞われた。視界はふさがれ何も見えない。

 

「え、ここが、エルサ、レム?」

「そんなわけあるかー!」

 

 今回、どうしてもついてくると言ったダ・ヴィンチちゃんが叫ぶ。そりゃそうだろう。今砂塵舞う砂漠がエルサレムなはずがない。

 

「マスター、ダ・ヴィンチちゃん、とにかく岩陰へ!」

「また突風が来るよ! 急いで!」

「あ、ああ」

 

 急いで岩陰へと非難した瞬間突風が吹きすさぶ。砂が舞い、視界が利かない。岩陰かと思ったら巨大な何かの骨だった。竜種と言われても信じられるくらいに巨大な骨だ。

 

「それで、ロマンとの連絡は!? カルデアから、この不始末の弁明はないのかい!?」

 

 しかし、カルデアとの通信は安定しない。ドクターも対処しているようであるが、いつ通り通じない。

 

「とりあえず状況を整理しよう」

 

 まずは全員がいるかの確認から。マシュ、ダ・ヴィンチちゃん、兄貴、清姫、ブーディカさん、エリちゃん、ダビデ、ノッブ、ジキル博士、式、ジェロニモ、金時。

 

「サンタさんが、いない?」

「まさか、はぐれたんでしょうか」

「いいや、それはないね。このダ・ヴィンチちゃんが言うんだから間違いない」

「じゃあ、どこに?」

「さて、私としてはどこにじゃなくていつからが気になるんだよ」

 

 いったい、いつから彼女はここにいなかったんだろうね、と彼女は言った。つまりはアメリカでのエリちゃんや兄貴と同じパターンか。

 もしかしたら敵になって襲ってくるのかもしれないと思うだけで、冷や汗が止まらない。もしもの時の為に、対策を考えておこう。

 

 サンタさんは頼りになるからそれだけ彼女の戦闘スタイルはわかっている。対応できるだろう。だが、それで安心はできない。安心してはいけない。

 そもそもほかにもどんなサーヴァントたちが召喚されているのかわからないのだ。楽観よりも悲観をするべきであり、考えるべきは最善を考えるのではなく、最悪を想定して動かなければ。

 

「サンタさんのことはとりあえず保留して、状況の把握に努めよう」

 

 レイシフトは無事に完了したが、カルデアとの通信は不安定で繋がらない。十三世紀中東がエルサレム。聖都に到着するはずが、現状は砂嵐の真っただ中。

 ここがエルサレムのはずがなく、むしろ、

 

「そうだというのならここは紀元前だね! 帰ったらロマニにスペシャルなお仕置きをだね……うん?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが何かに気が付いたのか計測器を取り出す。

 

「フォウ! ファウフ―――!!」

 

 何やら音が響いたのかフォウさんの声とともに聞こえて来たのは何かが近づいてきた音だった。敵性体がやってきたようだった。視界は最悪だがやるしかない。

 

「オーケー、任せたまえ! 我が万能、我が叡智、ついにお見せしよう!」

「頼りにしてるよダ・ヴィンチちゃん」

「そうとも頼りにしたまえ。初陣にしてはひっどいロケーションだけど、ま、そこは逆に考えるさ! 砂嵐の中でも至高の美は損なわれない。万能属性美人秘書サーヴァント、ダ・ヴィンチちゃんの秘密兵器に見惚れなさいな」

 

 万能が駆動する――。

 

 サーヴァント各員の判断に任せて、オレは戦場を俯瞰する。視界は悪いが、完全に見えないというわけではない。サーヴァントにとってはそれで十分、戦うことはできている。

 だが――。

 

「なんだ、あれ……」

 

 戦場を俯瞰している方が、相手の容姿を視認しやすい。だからこそ見えたのだが、見たこともないエネミーだった。大きな甲冑の騎士。そうとしか認識できないような代物。

 それが――。

 

「チィ! なんだ、こいつら!!」

 

 砂漠とは言えどクー・フーリンの速度についていき――。

 

「オラァ!! オイオイ、割と本気のベアー号だぜ、なのになんつう硬さだ」

 

 金時のパワーに耐える騎士? 冗談じゃないほどの耐久に速度。

 

「クッ――」

 

 マシュを下がらせるほどの攻撃。

 

 攻防速。まさしくこれが騎士と言わんばかりに高水準であり、隙がない。

 

 特化しているわけでもないため派手さがあるわけでもないが、質実剛健を地で行く万能。ダ・ヴィンチちゃんが聞けば、さすがは万能だと言いそうな感じのアレではあるが、敵としては最悪極まりない。

 あれと真正面から戦えるサーヴァントは少ないのだから。

 

「くっ!」

「ブーディカさん!」

「おっと、させないよ!」

 

 体勢を崩されたブーディカさんに迫る剣をダビデの投石がはじく。

 敵の数は少ないはずが、こちらが不利。足りないのは攻撃力。サンタさんの火力がないことが悔やまれる。こんな時にどこへ行ったのかと思わずにはいられないが、ないものねだりはできないのだ。

 

「…………」

 

 それでも今は観察に徹する。逃げろと本能が叫ぶが、あまり動くのは問題だと直感が感じている。だから逃げることはできない。

 それにこれからさき戦うことになる敵を知る必要がある。恐ろしいからこそ、ここで知っておかなければならないのだ。

 

 逃げるな、視ろ。オレたちはここまで多くの特異点を超えて来たんだろう――。

 

「その意気だ、マスター。刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 槍が穿つは心臓――。騎士にとっての心臓を破壊して倒れる。それに続くように、金時も吹き飛ばす。

 

「――――」

 

 式が殺した――。

 

「まだだ!」

 

 だが、安心するには早い。全身がびりびりする。何か異質なものが来る。

 

「計測器が降りきっている。あの羽の音とシルエットは、まさか――」

 

 人の顔に四肢の体。それは魔獣、幻獣の上に位置するもの。時には竜種すらも上回る最高位の生物。名をスフィンクス。エジプトに伝わる人面獅身の神の獣。

 

「全力で、かかれぇ――!!」

 

 様子見などできないと本能が言っている。様子見なんてものをしてみろ一瞬で消し飛ばされる。汗が止まらない、悪寒が止まらない。

 砂漠の中暑さがあるはずなのに、震えが止まらないのだ。圧倒的な濃度でまき散らされる神獣の威圧に、脚がへし折れそうなほど。

 

 たたきつけられた前足。ただそれだけで天地をひっくり返したように視界が回る。大地の砂ごと持ち上げられたと気が付いた時には、既に前の前にそれは迫っている――。

 スフィンクスの顔に表情はない。この程度余技にほかならず、いまだ真価など発揮していないのだとでも言わんばかりに、ただ生まれ持った己の性能をたたきつける。

 

 身体が宙に浮く浮遊感とともに感じるのは、喉の渇きのようにしみわたる絶望だ。今までとは明らかに敵のレベルが違う。

 

「マスター!!」

 

 清姫に受け止められるが、そこに迫るスフィンクスの攻撃。迫る圧力だけで心臓が止まりそうなほど。それがただ常態で備わっているだけのものであるという事実。

 このままではまずい。吐きそうなほどの悪寒の中で、心眼が告げるは絶対の死。直感は相手と隔絶しすぎていて働かない。

 

「――――!!」

「マシュ!!」

「宝具、展開します!!!」

 

 割り込むマシュ。宝具を発動しスフィンクスの一撃を受ける。しかし空中、一瞬が精いっぱい。防御ごと吹き飛ばされ、砂漠にたたきつけられる。

 

「マシュ!」

「ますたぁ!!」

「よそ見してんじゃねェぞ!!!」

 

 ハイドの一撃が攻撃を逸らせる。

 

「マシュマロは硬いから大丈夫じゃ!!」

 

 三千丁の火縄銃から放たれる弾丸が、スフィンクスへと刺さる。

 

「く、神秘内包しておるくせになんて奴じゃ――」

 

 ノッブは神秘殺しだ。ゆえに神秘が色濃い相手ほど相性がいい。数々の火縄銃を取り換えながら、間断なく放つ火縄=カタが炸裂する。

 

「我が万能の出番のようだ――行くよー!」

「うむ、我が一撃を喰らえ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんとジェロニモの魔術が炸裂し、爆ぜる。

 

竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)!!」

 

 そこに加えられるエリちゃんの宝具による一撃。声量、音量を9の9倍にまで増幅させて相手を吹き飛ばす。それですら、対してダメージを感じていないのか、羽を広げて咆哮を放つ。

 ビリビリと大地を揺らす咆哮。聞いているだけで意識が飛びそうになるそれを必死に耐える。ささてくれる清姫の手をたぶん、痛いくらいに握りながら、

 

「式――!!」

 

 あいつを殺せる彼女の名を叫ぶ。

 

「――もう、おまえの死は、視える」

 

 踊るように、前へ。式の瞳が怪しく輝いたように視える。青く、美しい宝石のように。その視界に映すは、死。あらゆるものの綻び。

 生きとし生けるもの全てに存在する、生命としての死。寿命。結び目の綻んだ場所を断ち切れば、すべては死ぬ。それはたとえ、神であろうとも――。

 

 ――生きているのなら、神様だって殺してみせる。

 

 彼女の宣言通り、神の獣であろうともそれが生きているのならば殺すことができる。死を認識できるまでが厄介であったが、あれもまた生きている獣であるがゆえに死を免れない――。

 死をなぞり、綻びを解く。ただそれだけで、スフィンクスの腕が死んだ。四肢を殺し、そして、穿つ――。それで、終わりだ。

 

「急ぐよ! 殺したとはいえど、すぐに復活するだろうさ。その前に此処を離れよう」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの提案にのってすぐにここを離れる。スフィンクスがあれで終わりなはずもなく、一体とも限らない。

 こういう時の勘は当たる。絶対にあれは一体ではすまない。だから、逃げる。臆病さ(センサー)は全開で警戒している。鳴り響く本能の警報に、気が狂いそうになるなか、ダ・ヴィンチちゃんが見つけた水源へと向かう。

 

「ますたぁ、大丈夫ですか」

「まだ、平気、平気……」

「駄目です、先輩、唇はカサカサで顔色は真っ青です」

 

 無理は禁物だと言われて、

 

「乗りな大将」

 

 ベアー号へと乗せられる。そのまま全力で移動する。既に十キロは移動している。もう少しだとわかっているが。

 

「…………」

「…………マシュ? どうかした? そんなに見つめて」

「い、いえ別に。金時さんが羨ましいとかそういうことではありません。別に、盾に乗っていただいて縄で引っ張るとかしたいとかそういうことでは」

「そ、っか……」

 

 その言葉に対して思うことがあるはずがだ、思考は回らない。くらくらとする。息苦しい。なんだ、これ――。

 

「はい、これをつけるんだ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが酸素ボンベを渡してくる。

 

「これ、は?」

「急ごしらえだが、魔力遮断マスクだよ。ここの大気は人間にはちょっときつい」

 

 なにせ魔力濃度が濃いからと彼女は言った。濃すぎる魔力は酸素と同じで毒だ。今の人間はそれに耐えられない。息苦しさはそのせい。

 

「ありがとう……」

「なに、そのための私だからね。でも、ありがとうの言葉は嬉しいのでジャンジャン言ってくれたまえ!」

「はは……」

「……苦しいかい?」

 

 多少楽にはなったが、根本的に息苦しさというのは変わらない。それに肌を突き刺すような異質な気配が強まっている。吐きそうだった。

 恐怖カウンターはもう振り切れっぱなしでぶっ壊れたように警報を鳴らして頭痛を感じるほどであり、それはこの先に行けば行くほど強くなっていく。

 

「ともかく水源に急ごう。砂嵐の向こうに大きな建物が見えないかい? きっとあれは神殿だ。あそこまでいけばとりあえず落ち着――」

「だ、め、だ……」

「大将?」

 

 その神殿を見た瞬間、水源なんてものはどうでもよくなった。あらゆる全ての優先順位は滑り落ち、ただここから逃げろ、逃げろと本能が叫ぶ。

 

「ああ、うん、マスターの言う通りだ。こっちはダメ。引き返そう」

「ダ・ヴィンチちゃん!? なぜですか!? あともう少しなのに!」

「ああ、うん、僕もダ・ヴィンチちゃんに賛成だ」

「ダビデさんも!? ですが、先輩が!」

「マシュ、見てごらん、建物と砂漠の間を」

「ブーディカさん? 何が……!!」

 

 神殿と砂漠の間には、何かが徘徊している。二十から数えるのをやめるくらいにはいっぱいいる。とにかく逃げろ、逃げろと本能が叫び、転げまわりたいほどになる。

 あそこに行くくらいなら、砂漠を彷徨っていた方がマシと思えるほどの恐怖。あれはすべて、スフィンクスだ。

 

「な――」

 

 ここを進むのは自殺行為。たった一匹のスフィンクスですら、オレたちを蹂躙できるほどの強さを持つ。式がいれば戦える? 馬鹿を言え。

 そうだとしても、もつはずがない。ゲイボルク、式の直死の魔眼でどれほどが殺せるか。二十を超える放し飼いのスフィンクスが、一斉に襲ってくるのだ。

 

 そんなものに十二騎と足手まとい一人で挑むなど自殺行為でしかない。

 

「理解したかい。よろしい、別の避難場所を探そう。ついでに言うとあの神殿の主が誰なのか大凡の見当もついた」

「…………」

 

 だから、神殿には入れないというダ・ヴィンチちゃん。だれであろうとも、スフィンクスを放し飼いにできるほどの人物だということに間違いはない。

 だから別のルートを探そうとしたとき――。

 

 霞む視界が髑髏の面を捉えた。

 

「…………誰か、来る」

「敵ですか!?」

「何かわからないが、今すぐ逃げよう!」

「いや、待って……」

 

 あそこにいるのはスフィンクスではなく人間のように見えた。

 

「ああ、速すぎる。もたもたしてるからこっちに来ちゃったよ。って、魔力量が少ないし人間だコレ!」

 

 フードをかぶった者たち。

 

「――チ、先回りされたか! 兵士を差し向けているとはさすがは太陽王よ。女王を捕まえておれば怪物どもは手出しせぬが、相手が人間であれば魔除けも効かぬ。時間がない片付けよ! ただしひとりは生かせ、情報源になる!」

 

 目測推定十。みな人間。そのうちの一人は、手足を縛られた女性を抱えている。

 

「助けるぞ」

 

 なんか褐色系のお姉さんだ!

 

「わっ、マスターが急に元気に」

「ふっふっふ、これが僕の教育の成果さ」

「なんでしょう。こう、元気になるのは良いのですが、こう、くいっと? そうくいっとひねり潰したくなってしまいます。どこをとは言いませんが」

「ひ……」

 

 ともかく、縛られている女性を助けるべく、サーヴァントたちに指示を出した――。




ヒャッハー我慢できねぇ! 投稿だ!
昨日書いたやつ。夜に投稿しようと思ったけど我慢できないので昼休み中に投稿!

魔の六章。何人生き残れるか。ぐだ男は果たして五体満足で帰還できるのか!
難易度が地味に原作よりあがっているぞ! エネミーの強さとか! 魔力濃度とか!

サンタさんは、べディ卿辺りがアレになるからマーリンが拉致。
大丈夫、最後の最後とても良い時に青くなって登場します。

あ、プリヤイベとりあえず完走しました。あとゆっくり素材と交換アイテム集めにいきます。

ではまた次回

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