「ん、ううぅん、コフッ……」
戦闘は無事終了。金時の拳と玉藻さんの強烈な金的が鬼にヒットして鬼は倒れた。とりあえず、玉藻さん出番もらえたからって張り切り過ぎだと思った。
エリちゃんの大音量の一撃でふっ飛ばされた沖田さんは、吐血していた。吹っ飛ばしたせいではなく、病系のそれだ。
「あ、あれ!? わ、み、みなさん、おそろいで、これはいったい……コフッ!?」
「ああ、いきなり動くから。とりあえず安静にしておいた方が良いよ」
「うむまったく馬鹿よのう。酔って絡んでくるとか」
「へ、私、そんなに酔ってました? というかノッブじゃないですか! 自分だけ出番多い!」
「お主はそれだけ人気じゃろうが」
何やら言い合いが始まりそうなので、間に入る。ここで言い争いをしてもらっては困るのだ。
「で、沖田さん」
「はい、和鯖イベントだと思ってずっとスタンバってた沖田さんですよ! 聞いてくださいよマスタぁ、酷いんですよ、せっかくのイベントだと思って気合いを入れたら平安だし、でも頑張ってお役にたとうと思ったら、オリオンとかいう弓とか孔明さんとか、玉藻さんが大活躍で、私の出番なかったじゃないですかー」
「いや、一体何の話?」
「第四の壁の向こう側の話じゃ!」
――第四の壁?
とりあえず知らない方がよさそうなのでスルーして。
「だからヤケ酒したと?」
「はい……いやあ、さすがに飲み過ぎてさっきまで自分が何をしていたのかまったく覚えていないんですが」
「ほう、ならいいことを教えてやろう」
「え、なんです」
ノッブが今まであったことを耳打ちする。ほとんどが事実のくせして、時々誇張表現で話しているし、それを聞いて沖田さんは青い顔であわあわし土下座してる。
「まあ、ノッブそれくらいで。そういうわけで、沖田さん」
「はい、なんでもするので許してください!」
「話はやっ!? まあ、いいや。じゃあ、一緒に戦ってくれる?」
「はい、それはもちろん。この沖田総司、なにがあろうとも――コフッ」
「無理した反動かな」
さっきまでの反動とでも言わんばかりに病弱が発動しっぱなしでこの先いつ戦えるようになるかわからないお荷物を手に入れてしまったが、先に進む。
「うぅ、すみません、マスター。コフッ……」
「いいよ気にしないで」
ほかのみんなは戦わなければいけないので、オレが背負う。実に素晴らしい感触が背中に当たっているし、素晴らしい御足に触れていられるというだけで男としてはもうこの程度の苦しみなどどうでもよくなってしまう。
あれほどの剣を振るえても女の子なのだなと思ってしまう。背に感じる重みは人ひとり分にしては軽い方で、サーヴァントといってもやっぱり女の子であることに変わりはないのだなと今更いろいろと実感を感じている。
――そういえば、こうやって触れ合うのは初めてか?
背負われたりはあったかもしれないが、誰かを背負ったりするのは初めてな気がする。あんなに遠かった英雄たちを身近に感じた。
彼らもまた、生きている人間だったのだと――。
「……マスターの背中、おっきくてとても温かいです」
「そう? みんなと比べたら、普通だよ。小さいかも」
「いえ……やっぱりとってもおおきくて、温かいです、マスター」
それはきっと体温とかそういう話ではないのだろうと彼女の言葉を聞きながら思った。何を想って彼女がそう言ったのかはわからない。
そう思っただけなのかもしれないし、何かもっと別の意図があったのかもしれない。
「そっか……」
「…………」
ただ、清姫の視線が怖いから、これ以上は考えないようにする。沖田さんも眠ってしまったことだし、そのまま起こさないようにあまり揺らさないように坂道は後ろから清姫などに支えてもらいながら登っていった。
頂上に近くなると島は装いを変えた。雷雲轟くまさしく鬼ヶ島の最奥とでも言わんばかりの様相を呈す。見晴らしは良いものの、酷く不吉な気配に包まれている。
ここにいるとはっきりと感じた。黒幕の気配。強大な存在がいるのだ。
「天候も悪くなってきました。南無」
「いよいよ鬼ヶ島らしくなってきたじゃあねえか」
「まさしく。主殿の鬼退治もここが最高潮。いよいよ大詰めといったところでしょう」
ゆえに現れる黒幕の姿。広場の中央にありし禍々しい杯とその前にいる頼光さんの姿。それを目にした瞬間、心臓が跳ねるのを感じた。
表情は柔らかく微笑んでいるだけというのに、そこに感じたのは圧倒的な斬意。立ち居振る舞いは何一つ変わっていないと断言できるが――はっきりとわかったのだ、中身が違うのだと。
いや。いいや違う。中身だとかそういう話ではなく――。
「先輩、頼光さんです。酒呑さんたちを追い掛けていたはずですが」
「勝負はついたのでしょうか、主殿……?」
だらりと冷や汗が流れる。これはまずい。
「大将も気が付いたか」
「金時……」
「ああそうだ。不用意に近づくんじゃねえ。アレは違ぇぞ」
違う。そう違うのだ。
「ふふ、金時ようやく来ましたか」
ぞわりと怖気が奔った。ただ口を開いただけ、まったくなにひとつそのしぐさも声も、声色も声量すらも何も変わっていないというのに、ただただ異質さだけが浮き彫りになる。
「――ち。そうかよ。酒呑のヤロウが出張ってきたのはそう言うことか」
今までの情報をもとに急速に答えが組み上げられていく。酒呑童子はなぜ、ここにいた? 彼女のことを良く知らないが、彼女が享楽的であり、刹那主義であることはよくわかっている。
そんな彼女が、鬼の
「そうだ、大将。あのヤロウが無視できねえ相手なんざ、鬼の中でも特上の鬼だけだ」
それはすなわち、目の前の彼女こそがそうであると言って――。
「ふふ、ふふふふ、うふふふふふふふ! わかりますか、やはり、それは愛ですね!」
「――――ぃぁ」
「くっ――こ、この邪悪な気配はっ……?」
紫電の猛りとともに、放たれる圧倒的な邪気。心臓を掴まれている。ただそれを見ているだけで、息苦しさすら感じる。清廉な気配を感じさせる外見とはかけ離れた気配に圧倒される。
危険度を感じ取るメーターが振り切れてぶっ壊れているかのような感覚。特異点を超える上で幾度もあったこの最悪の感覚に足元がぐらついているように感じる。
「おま、えは、誰だ!」
「うふふふ、私ですか? 私は、鈴ヶ森の丑御前といったらわかりますでしょうか」
鈴ヶ森の丑御前。牛頭天王の化身。伝承においては源頼光の兄弟として生まれた鬼子である。最終的には頼光が退治したという説話があるということをドクターが説明している。
つまりは――同一人物だったということだ。最後のピースが嵌ったと感じた。
「ああ、そうだぜドク。頼光様の兄貴にあたるお方だぜ、丑御前は」
同一人物で兄であった。それが鬼子であったのならば当然のように追放されたはずだ。少なくとも人間の中に鬼子が混ざっていては到底、正気ではいられない。
天神様の子供として生まれた子供が、その力から鬼子とされ、寺に預けられることになった。だが、こうも思われたはずだ。
――惜しい。
総じて力がある者を人は遠ざけるが、同時に惜しいとも思うのだ。それに利用価値があるのならば。
「だから、頼光様の親父は、新しく生まれた息子として、幽閉した娘を家に戻した」
そして、源頼光は武士として京を守った。
「でも、それじゃあおかしい。逸話では、源頼光は丑御前を退治したと――いや、それが同一人物ってことは――」
「ドクター……もしかして」
「ああ、そうだと思う。君の想像は僕と一緒だろう」
封じたはずとも言っていた。
「ああ。源氏の棟梁になるにあたって、頼光の大将はその異形の側面を切り離そうとしたのさ」
だが、同一人物である以上、自らを切り離すことなどできはしない。結局のところ、丑御前として暴走して自害に及ぼうとした頼光を金時が食い止めて失神させ、無理くり深層へと押し込めたというのが金時の語る真相。
それが今回表に出てきてしまったのだという。そして、聖杯を手にして、この島を作り出した。国産み、島産みの権能が必要なその所業も、牛頭天王の化身としての力に聖杯をくわえれば問題なく行使できたということ。
それからは鬼を生み出し、鬼の帝国を作った。まつろわぬものどもの復権。いや、そんなことすら彼女はどうでもいいのだろう。
それはまったく違う話だ。鬼が嫌いという彼女が鬼のために国を作るなど間違っている。彼女の行動原理はまったくの別だ。
頼光と丑御前。同一人物である。表裏一体。裏表など実際はないに等しく、その源泉にあるのはきっと、愛なのだとオレは看破した。羅生門すら彼女の手引き。
その全てはきっと、金時のためなのだと理解する。しかし、実際はまったくもって深い愛情の空回り。挙句の果て、金時のためというそれすらもない。
彼女は狂っている。本来の性質から著しくゆがめられたバーサーカー。本来あるはずの慈悲、慈愛は持ち合わせがなく、ただただ邪気を放つ悪鬼羅刹。
ゆえにこれ以上の語らいは無意味だ。金時は既に彼女を退治することを決めており、こちらもまた同じ気持ちだ。
「ああ、まったく。これではどちらが鬼かはわかりませんね。なにせ、人の世を守ると言うことは、人以外の頂点を赦さぬということでしょうに」
それはきっとヒトのエゴなのだろう。しかし、目の前で起きているこの暴虐は見逃せるはずもなく。
――ああ、くそ、こんなに怖いのに。
これから鬼の首魁と対決しようなどという無茶をやらかさなければいけない。
「安心しな大将。ここにはオレっちがいるからな。――丑御前」
「はい、なんでしょう金時」
「これからオレはお前をぶっ飛ばす。だが、勘違いすんなよ。それはオレが頼光の大将の四天王だからでも、
「……!」
それはきっと彼女の琴線に触れたのだろう。
覇気が放たれる。全てを圧潰させる覇気は何よりも強く。
「行くぜ、手加減して勝てる相手じゃねえ」
「ああ!」
もとより臆病者として、手加減など微塵もするつもりなどなく、オレたちは全力で源頼光に挑んだのだ――。
そして――。
「ほうら、あとはうまくやりぃ――」
酒呑童子の決死の策が嵌る。腹を裂かれて死んだふりして、機をうかがっていた彼女の一撃が丑御前へと叩き込まれた。
「酒呑!」
斬り殺される酒呑童子。だが、彼女が作り出した隙はまさに千載一遇のそれであり――。
「ったく、敵のくせに、かっこつけんじゃねえよ! 行くぜ、大将! コイツが最後の、
黄金が疾走する。強く、何より強く最後の一撃が、丑御前を貫いた――。
「あ、あぁあ――」
鬼気が消えていく。勝ったのだろう。
「…………」
「金時……」
「気にすんなよ大将。それに大丈夫だ」
彼女は意識を失っているだけだ。丑御前を殺すということは、頼光を殺すということ。ゆえに、どちらかだけを消すことなどできず、意識を奪うことしかできない。
それでは目覚めた彼女が頼光ではない可能性もあるが、問題はないだろうと金時は言った。あれだけ暴れればいろいろと発散もできただろう。
「うう、私は、いったい」
「ほら見ろ、鬼の欠片もねえ」
「あら、あらあら! 金時ではないですか。久しぶりですね!」
どうやら彼女は丑御前の時のことを覚えていないらしい。なら、そのままにしておくのが良いだろう。
「えー、せっかく人妻に」
「ダビデ?」
「冗談だよ。そんな風に弱みを握っても面白くないからね」
「まったく」
しかし、彼女は周囲の状況を見て理解したようだった。
「ご迷惑をおかけしたようですね。私の弱さに恥じ入るばかりです。しかし……よもや、人の身でこのような偉業を為すとは。このたびは本当に申し訳ないことをしました」
彼女はオレを見てそう言った。母性溢れる表情で。
――ああ、懐かしいな。
本当に懐かしいと思う。母の姿が、思い浮かんで――。
「ハグしてくれたら許します」
「!?」
「あー、やっぱり……」
全員の驚愕が伝わる。思わずなんか口走ってしまった。なんかブーディカさんだけは納得しているんですが、どういうことなのか。
「ふふ、そうですね。それくらいはご褒美があってもいいかもしれません。金時なんて、この頃は抱擁もしてくれませんし……」
「そりゃ、いくつだと思ってんだよ……」
「では……あらあら」
しかし、時間切れ。
「仕方ありません。では、抱擁はまた今度」
「では、何かいただけませんか?」
「そうですね。こちらの鈴を。それを鳴らせば、母がいつでも助けに来ますよ。ああそれと不肖の金時を連れて行ってください。頼りになるはずですから」
「ありがとうございます」
そう言っていると、小太郎も消え始める。
「ああ、僕もですか」
「鬼の因子を持つ者として集められたのでしょうから」
「そうですか……金時殿、お会いできて光栄でした。足柄山の金太郎、それはもはや僕たちにとっては伝説でしたから」
「おうって、オマエまさか同山の後輩かよ!? そういうことは早く言えよ!」
「……すみません、いろいろというタイミングが。それに、生のあなたを視れてとても良かったです」
「そうかい。そいつは重畳だ。宝具名もイカしてたしな」
「ありがとうございます」
それからとオレに向き直る。
「一時の主とはいえ、素晴らしい采配でした。幾度の戦場を越えて来たのでしょう。ご用命があればぜひお呼びください、このクナイはその証ということで」
「ありがとう」
もらったクナイを大事にしまう。
「いやー、なんか出番もらったんですが、あまり出番なかったような気がしますね」
「玉藻さんも行くんだ」
「はい、そろそろ良妻を必要としてくれる方が待っていそうですし。ああ、でもほら、良妻巫女玉藻ちゃんの力が必要ならいつでも読んでくださいね、はい、これメアドです」
メールで通じるのかどうかはまあさておき、有りがたくもらっておくとしよう。やったひとり増えた。
――そう言えば、メール、ここに来てから全然使ってないな。壊れたから新しいのドクターにもらったんだけど、全然使ってないな。
というか、今一人目登録だよ……。
「マシュ、携帯を持とう!」
「は、はい!?」
とりあえず二人目はマシュは確定だ。
「さて、行くぞ弁慶」
「はい、牛若丸様」
「では、主殿我らもまた」
「うん、また」
羽飾りを貰って主従は寺の後ろに入っていく。
「さあ、飛べ弁慶」
「ははいぃ!」
なんか、そんなことが聞こえているような気がするがまあいいだろう。羽根飾りももらったし。
「はっ! なんかまったく役に立たなかった!」
「安心せい、まったく立っとらんわ」
沖田さんがようやく目が覚めたらしい。
「って、消えそう!? あ、そうだ、マスター、どうぞこれ羽織です」
「あ、ありがとうって、どうして?」
「いえ、今回本格的に迷惑しかかけてないなーって、思ったので、それを使ってもしもの時にでも呼んでもらえればと」
「ありがとう」
「今度こそ、最期まで戦うことを誓います、マスター」
「うん、ありがとう」
「別れは済んだかい? それじゃあレイシフトを開始するよ」
彼らが消えると同時にオレたちもレイシフトする。やっぱりタイミングを上手くするともらったものを持ち帰ることができるらしい。
自室にそれを置いて行きながら、いつかまた出会える日を待つ。
鬼ヶ島の鬼退治、これにて一件落着――。
これにて鬼ヶ島編終了。
これより、我は災厄の席に立つ!
ということで行くぞ六章! 死屍累々、最後のマスターの将来が確定、ピラミッドパワー、お前の信じる仏を信じろ、ステラァァ! な感じで行こうかと思います。
あと、プリヤイベントとりあえずなんとかなりそうです。
そして、気がついたらイリヤがフォウマになっていた。ただしレベルはあげてない。
追記
ミッション終了。あとは素材集めだ