Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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天魔御伽草子 鬼ヶ島 7

 オレはタイミングを見計らって背後から近づいて

 

「すみません。ここに来れば極上のお酒が飲めると聞いてきたんですけど」

 

 と茨木に言った。

 

「ク――クハハ、よくぞ来たな! 是なるは魂すら酔い果てる極上の美酒! 有りがたくカッ喰らえぃ! 血の涙を流してなぁ! ――あ」

「…………愛想笑いとは。それになんか縮んでない? 可愛いよ」

「なっ!? あ、あの時の人間! く、貴様よくも。ぐ……今は、休憩中でって、可愛いだと!?」

「おんやぁ、なんや小僧、ようやく到着したん? 思うたより遅かったなあ? それにふふ、あんたはん、ええこと言うなぁ」

 

 だって、なんというかこれは可愛らしい(いじめたい)の感じが出ているのだ。

 

「あんたとも気が合いそうやわぁ」

「そりゃどうも。だってねぇ」

「ふふ、そうやねぇ。茨木はいじってなんぼやさかい」

「酒呑!?」

 

 というのはほとんど虚勢である。正直、鬼ということで、強大な力がこれでもかと臆病者(センサー)に感じられるわけで、今にも逃げ出したい気分はあるのだが、それでも敵意は感じられないので我慢して話すことにする。

 茨木童子からは殺気が感じられるが酒呑童子がいる限りは暴走はないと思えた。それに、見たところ彼女たちは敵ではないだろう。

 

 なにせ、こんなところで茶屋なんてものをやっているのだ。黒幕なら明らかにおかしい。こんなことなどするはずがないだろう。

 ゆえに、彼女たちは違う。それに何も知らない雰囲気だ。他の鬼と違って話が分かる分、話しやすい。金時がいろいろとありそうであるが、とりあえず座って話をする。

 

 茶屋は好きではあるが、もっと風情がある場所がいいとも思う。

 

「まあまあ、それはうちも思うけど、こんなええ女がおるんやしそれで勘弁してや」

「ふむ……」

 

 改めて酒呑童子の格好を見る。

 

 ――どうして日本のサーヴァントってこんなに破廉恥な恰好をしているんだろう。

 

 清姫はまあ普通だけれど、牛若丸とか凄い格好だし。

 

「そんなに見つめて、うちのこと気になるなら……ほれ、いつでも構へんよ? ああ、でもこの通りうちも鬼やし、噛み砕いてしもたら堪忍な?」

「いや、すごい格好だなって」

 

 かみ砕かれたくないし、怖ろしすぎて無理です。今もインバネスの下で足はがくがくしている。隣に座られているだけで、いつ首をはねられないかとひやひやなのだ。

 それでも友好的に話せるのだから、頑張っているんだから、それを察してほしい。

 

「そんなにおかしぃ?」

 

 おかしいです。

 

「そうはっきり言わんでもええやん。うちの好きできてるんやし。でも、鬼相手にそうあけすけなく言えるあんたはんもなかなかやね。悪ないなあ。そら、もっと顔見せてよ?」

「ちょちょ――」

「しゅ、酒呑んん!!?」

 

 茨木童子が間に入ってきてオレと彼女を引き離す。正直助かった。加減なしでやられて吹っ飛ばされてマッスル弁慶に受け止められてなかったらやばかったけど、立てなかったのだ。

 

「まーたそない角尖らせて、ヤンチャしぃとき? こん人を困らせたらあかんよ?」

「し、しかし、こいつらは人間で、特にそこの男は――」

 

 人間に恐れ敬られてこそ鬼だろうと茨木童子は言う。

 

「へッ、やるってんなら、オレっちが相手になるぜ」

「クハッ、良いぞ、そちらの方が話が早い!!」

「やめときやめとき。茨木、どうせ負けるんがオチやて。なにせ、あちらの旦那はんは大層恐ろしそうやし、玉藻ちゃんもおるし」

「ああ、忘れられてるのかと思ってましたよ」

 

 酒呑童子は、玉藻の前、鈴鹿山の大嶽丸に並ぶ日本中世の三大妖怪の一角。この二人は面識があってもおかしくはないのかもしれない。

 どちらも日本を代表する大妖怪であるし。

 

「忘れてへんよ。うちでさんざんチューハイ飲んで飲んだくれとったやん。どしたん、もう気ぃすんだん?」

「ハイ、バッチリ、良妻巫女狐玉藻ちゃんは出番をゲットです」

「――ほっ、そりゃよかったね。こんあとにもなんや出番ありそうやけども、まあ、ここで消費するんなら、そっちはうちが行こうか」

「え? ああー、それはちょっとというか、玉藻ちゃん的にも出番は多い方が嬉しいと言うか」

「なんや、玉藻ちゃんばかり。うちもええやろ。安心しぃ、マスターはんを骨抜きにするだけやさかい」

「だ、駄目ですよ!? 先輩は骨抜きにはさせません!」

「冗談やて。それに、うちが骨抜きにしたい言うんは良い男の証明になるやろ。好いた男を良く言われるんなら、これくらい聞き逃しぃ、そっちの方が、えろう楽しいしねぇ」

 

 しかし、いろいろとメンツがおかしいのではないだろうか。日本を代表する妖怪が今目の前に二人もいる。茨木童子もかなりの大妖怪であることに間違いはない。

 この島くらい本気出したら滅びそうな気がする。それに入っていけるマシュってすごい。

 

「それは君もだと思うけど。その心配の方は、大丈夫じゃないかな」

「ジキル博士?」

「サーヴァントである限り、彼女たちも本気は出せないだろうからね」

「ああ」

 

 サーヴァントの器の問題。いかに強大な力を持っていてもサーヴァントの器以上の力は引き出せないということ。

 

「それでも強力なことには変わりないよね」

「それよりマスター、そろそろ本題に入ったらどうだい? あ、僕にもいっぱい頂戴? それよりももっとおっぱいの大きい従業員はいないのかい? いやいや、チッパイを否定するつもりはないんだけど、やっぱりほら、こういうのは大きい方が得だと思うんだよね。得なのはいいことさ。何事も得はあってしかるべきだと思うんだけど」

「全裸は黙っておいた方が良いぞ。そんなだから、誰も寄ってこないんだ」

「だから、全裸じゃないって!?」

 

 後ろのコントに対するコメントは控えるにしても、本題に入るのはいいことだろう。

 

「それで、二人は……まあ、なんか違う気がするけど、この島造って何か企んでたりします?」

「――フッ」

 

 ――あ、茨木ちゃんがなんか勝ち誇った顔した。これは間違いなくかかわってないな。

 

「愚昧なり、愚昧なり! 吾らは汝らの大敵よ! そんな問いに答えるはずも――」

「そうやそうや。うちらはなーんもしてへんから答えへんよ」

「しゅ、酒呑ー! そんなに素直に教えなくともよいのではないかっ?」

「だって、もう既にバレバレやし、そこは勿体つけへんでもええやん。相変わらず、茨木は遊びのツボがわかってへんのやねぇ」

「う、く……だ、だが、我らは敵同士なのだし……壺などと言われても、陶芸とかわからぬし……」

 

 本当、怖いのにカワイイナー茨城ちゃんは、弄り甲斐がありすぎる。怖いけど。いや、本当、鬼ってだけで怖いけど。

 鬼の覇気的なあれ、抑えているっぽいのに溢れだしてくるありえない覇気ってやつが異常に怖いんですけど。他の鬼がそんなの全然ないだけに怖すぎる。

 

「ま、茨木は置いておいても、うちらの知らん間にこの島できておったし。ここまでやられたら見事と思うんやけど、まあ普通に(あたま)に来たし、潰しきたんよ」

「つまり、この島は君たちにとっても敵なのか」

「そうや」

「じゃあ、なぜに茶屋なんか?」

「んふふ。やるなら楽しくやらんとなぁ。ただ暴れて殺すだけとか、無粋やないの。相手が醜い(・・)鬼ならなおさらや」

 

 愉しく、華やかな終わりが好き。だからこそ、彼女たちは島の宝物庫に侵入し、面白い盃を見つけたのだと言う。

 そこまでで感じるのは圧倒的な既視感(デジャビュ)。なんというか盃と聞くと一つのことしか思い浮かばないのは、きっと彼女たちがすでに前科を犯しているからだろう。

 

 当然のように酒を注いだら覚えのある味になった。そうかつて京を包んでいた酒気の源泉。つまるところ聖杯に行きついたと。

 それで彼女たちはこれはうちらだけでなんとかするんのは良くないなと思い、金時を待っていたという。

 

「まあ、そんなわけでここで酒宴や」

 

 酒が手に入ったら宴。上の様子はわからないが、下の鬼や人間を丸ごと蕩かしてしまおうとしているらしい。相変わらず鬼らしい、いや、酒呑童子らしいというべきなのだろう。

 

「そこでや――」

 

 酒呑童子が提案をしてくる。その内容は手を組まないかということ。酒呑たちはこの島の鬼をつぶしたいし、酒杯に対しての借りもある。

 利害は一致している。ならば争うよりは、ともに戦うのはどうやと彼女は言っているのだ。鬼という種族の力を得ることができるのは大きい。

 

 普通に考えれば破格であり、即決しても良いと思うが――相変わらず危機管理センサーがぶっ壊れたように嫌な予感ばかりを伝えてくる上に金時も反対する。鬼と人が一緒にいても良いことはないと。

 いつもならば即決して組もうと言うところだとはわかっている。何か自分らしくないとも思うが――。ここで組んでしまうと取り返しのつかない(・・・・・・・・・)事態が発生しそうな気がしてならないのだ。

 

「……大将、人間は損得勘定で裏切る。だが、こいつらは違うんだ」

 

 鬼はある日、理由なく裏切る。理屈ではないのだ。ただ、息をするように寝首を掻き、大事なものを盗み、自分たちが大切に思っていたものですら、二度と取り戻せないものですら、壊してしまう。

 刹那を喰らって生きる者。

 

「それが鬼だ。鬼ってのはな、分かり合っちゃいけねぇ怪物なんだよ」

「うちに首輪でもつけたい言うんか? ふふ、小僧、意外とあぶのーまるやなぁ……」

「バッカじゃねえか!? 首輪つけてても安心できねぇっつう意味だ!」

「ほぉん……なら逆にしよか? あんたに首輪をつければええんかもな、小僧。それなら仲良しこよしの同盟関係ができるわぁ。それかそっちの旦那(マスター)はんに首輪をつけるんもええかもなぁ。それなら、みんな仲良しこよしできるやろ? 一緒に歩いて、戦って。飲んで喰って骨抜いて――ヤリたい放題。うん、アリやなぁ。そうしよか」

「くは。こやつらと手を組むなど冗談ではないと思っておったが――そういうことなら別か」

 

 つまりは逆。酒呑童子たちが上でオレたちに首輪をつけるということ。この人数差であろうとも勝てるという圧倒的な自信からくる、鬼としての余裕。

 抑えていた鬼気が解放され、大江山の鬼としての覇気が静かに放たれる。その威圧、何よりも強く。その輝き、太陽の如く何者において凌駕するものなどありはしない。

 

 茨木童子にかつてほどの力がない? だからどうしたよと、彼女は言うだろう。酒呑童子がその力を持っている。ならば問題などありはしない。

 たとえ、どのようなことになろうとも、我らは勝つ。勝てぬなら逃げ延び生き延びる。元より――。

 

「ヤツラの骨をしゃぶりながらこの島をつぶすのは楽しそうだ」

 

 犬歯をむき出しに嗤う鬼。茨木童子。

 

「これこれ茨木、そう言うもんやないよ。最後のマスターなんて、珍しいもの大事にせな勿体のうてしゃあないわぁ」

 

 流し目でつややかに笑みを作る鬼。酒呑童子

 

 対極に座していた鬼が、一斉にオレの方を見た。

 

「ぐ――」

 

 押しつぶされそうな重圧が襲う。

 磨き上げられた直感が叫ぶ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 鍛え上げられた心眼が叫ぶ、不可能。不可能。不可能。

 

 鬼よりは逃げられぬ。だが、何よりも恐ろしいのは、酒呑童子がいまだに、本気ということではないということで――。

 

「なぁ、どないする? 金時と茨木はああいうてるけど、うちは手を組んでもええと思っとるよ? 何より、あんたはんは臆病やろ?」

 

 内心を見透かしたような物言い。事実なのだから反論はない。それでも前に進むと決めているのだが――。決意しているとは言え度、毎度毎度強大な敵を前にすると逃げたくなる。

 みんながいるとは言え度、鬼は別格。ここにいる全てのサーヴァントを凌駕するその覇気がただただ恐ろしい。竜種の暴虐の覇気と似てはいるが、怖ろしいと感じるのは人型でそれほどまでの覇気を内包しているという事実。

 

 人型の暴虐という異形は何よりも強く、怪物が怪物の姿をしていないことが、違和となり覇気を強めるのだ。

 

「それだけの仲間に囲まれてもまだ安心なんてしてない。心の奥底では、常に恐怖で怯えた自分がおる。なんなら、令呪を使ってくれても構わんよ。それを使われたら、サーヴァントはどうしようもないんやし、あんたはんも鬼の力を得れて安心やろ?」

「ああ、そうだったぜ。確かに大将が令呪を使えば、裏切るもくそもねえか。もっとも、テメェのひん曲がった根性じゃあ、うちの大将に頼られもしねえだろうけどよぉ」

 

 戦闘覇気が増大する。これより先、妖怪と人間の戦いが始まらんと滾っていく、その時だった。

 

「そこまでです――」

 

 凛とした声が響き渡った――。




さて、今回の話、鬼ども書くの楽しいです


プリヤイベですが、なんと呼符でイリヤを引いてしまいました。
まさか引けるとは思っていなかった。寝起きだったのに眠気が一瞬にして吹っ飛びましたよ。これは沖田以来の感覚でした。

いやー、激戦区たるキャスタークラスに新たな星5追加とか、もうどうすればいいんだと嬉しい悲鳴を上げております。
イベント終わったら育てるとします。まだ玉藻の再臨も終わってないけど、単体宝具キャスターですし、育てて損はないでしょう。

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