Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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天魔御伽草子 鬼ヶ島 4

「しかし、小太郎くんはさすがは忍者だ。索敵能力も一級品みたいだね」

「ドクターよりも早く気が付いていたもんね」

「同時! 同時でしたよ!? そっちとはタイムラグがある分、ボクの方が不利なんだぞう!!」

「他人の気配には、敏感なので……」

 

 確かに敏感そうである。

 

「とりあえず、情報収集をしよう。全員で動くわけにはいかないから、少数で情報を集めてきてくれ」

「……では、僕が」

「じゃ、遠くはオレっちが見てくるぜ」

 

 二人を見回りとして出す。

 

「さて、マスター、斥候を出したは良いが、どうする」

「とりあえず崖下でも覗いてみる?」

「うむ、それがよさそうじゃ」

「おまかせを主殿。私、視力には自信があります。鞍馬の山育ちですから」

 

 牛若丸に何が見えるか見てもらう。

 

「何が見える?」

 

 鬼と人間が集まっている場所。広場のような空間。雰囲気としては物々しいらしい。強制労働所のようだとマシュは言った。

 鬼が人間を監督させて働かせているように見えると。

 

「本当か?」

「はい。ムチを振るいながら、何かを怒鳴って――どうやら、人語を理解する鬼も中にはいるようですね。つかまっている人々は地面に穴を掘ったり、土や丸太を運んだりしていますが……」

 

 何をしているのかいまいちわからないと言った風情だ。本当に強制労働所なのだろう。なにをしているのかはわからないが、鬼の数だけはわかった。

 働いている人々を解放しようとしたらおそらく先ほどのようになるだけである。人がいるだけあって、聖剣で薙ぎ払うわけにもいかないだろう。

 

 それと同時に小太郎が戻ってくる。いきなり背後に立たれたが、正直清姫で慣れているので、動じることはなかった。心臓に悪いことは変わりないが。

 

「どうだった?」

「……はい、いくつかあちらと似たような集落を見つけました」

「解放するのは、難しいか」

 

 どの集落も同数の鬼がいる。大量だ。鬼を一匹見たらとかいうレベルではない、うじゃうじゃいる。そんな中に突っ込んでいって集落を解放。

 難しいだろう。そうなるとこのまま島を登り、最奥部にいるであろう元凶をどうにかするのが最善だ。

 

「……」

「先輩……」

「ますたぁ」

「大丈夫。わかってるから。なら、急ごう。急いで上に行って、元凶を倒せば、それだけ早くここの人たちは楽になるわけだしね。それで、他には何かわかった?」

「最奥への行き方を」

 

 最奥へ行くにはそれほど難しくはない。しかし、至るためには鬼たちが築き上げた三つの大門を開かなければならないという。

 迂回は不可能。さらに言えばそれは基本的に閉じられているもので、開くには門番らしい特殊な大鬼が持つ鍵を使わなければならない。

 

「三つの大門に、門番の大鬼ですか……」

「鬼たちのまとめ役のような存在らしい……です」

 

 下級の鬼をはるかにしのぐ力を持つ存在で、さらにその鬼たちは恐ろしい用心棒を雇っているらしいのだ。

 

「それ以上は、逃げられてしまい……」

「逃げられた、ですか?」

「情報を引き出すために使った鬼に、です。すみません、尋問は下手なもので。ですが、鬼にしては虚言もなく、良い取引内容だったと思ってましたから……」

 

 その小太郎の言葉に牛若は得心が言ったという表情で手を叩く。

 

「ははあ。無理に追いかけて仕留める気はなかった、と。小太郎殿は優しいのですね。私ならすぐさま追いかけて逃げ出したことを後悔させていたでしょう」

 

 怖い。

 

「いえ、それは時間の無駄なので……」

 

 怖い。

 

 笑顔で残酷なことを言う牛若丸と穏やかに合理的な小太郎。日本の英霊は、見かけは優しいけど、中身は恐ろしいことが多い。

 まあ、ニンジャなら仕方ないのかもしれない。

 

「マスター、考えてるところ悪いけど、どうやら、小太郎君の真心は伝わらなかったみたいだね」

 

 ダビデの言葉に視線を上げると、鬼が徒党を組んでこちらに向かってきているようだった。

 

「まあ、鬼は鬼ってところか。倒そう」

 

 全員でかかれば鬼と言えど苦にはならない。何より数がそこまで多くないので倒してしまえば、次はない。そこで終わると言うのは楽でいい。

 

「それにしても金時、遅いな」

「何かあったのかな。……ね、ねえ、マスター、どう思う?」

「ブーディカさんの心配は杞憂なんじゃないかな」

「でも、あの乗り物、大きな音が出ていたし」

 

 うんうんと頷く小太郎と牛若丸。

 

「そうだけど、金時だしなぁ」

 

 鬼のことは熟知しているだろうし、何よりあの鬼ではない本当の鬼と戦ってきたゴールデンだ。平安という魔境で戦ってきたのだから、多分大丈夫だと思う。

 アクセル全開で島の下の方を走り回っているに違いない。なんとなくそんな気がするのだ。

 

「――静かに」

「ジャストだ。小太郎君」

「ええ、金時殿ではないようですが――」

「何か見つけたのか?」

「はい、気配が」

 

 すぐに隠れて様子を見る。

 やってきたのは鬼だった。

 

「ふうー……やれやれジャイ」

 

 ただの鬼ではなくしゃべる鬼だった。人の言葉をしゃべる鬼だ。

 

「疲れた……きつい……ここは地獄なんかのぅ……」

 

 労働所の方からやってきた鬼が疲れた様子で歩いている。見るからに中間管理職の苦労人といった風情だ。数匹の鬼が疲れた様子で話している。

 

「ふぅ……人間を働かせるのは楽じゃないよなぁ。見てなきゃすぐサボろうとしやがるし……」

「かといって少しムチ打ったりすりゃあの世行きだ。オレらの頑丈さを見習ってほしいぜ。普段何食ってるんだよ……岩食えよ岩……胆力マジ鍛えられるからよぅ……」

 

 聞き間違いだろうか。愚痴に聞えるのだが。

 

「まったくだ。正直な話、自分で働きたいぜ……だって、その方が早ぇだろ、城の完成? 頭領もオレたちに任せてくれればいいのによぅ……そうすりゃ二日で済ませて見せるぜ。その後は色町に出かけて豪遊してよぅ、丈夫仲良くやりたいモンだぜ……」

 

 ジキル博士とジェロニモに目で合図して、小声で話す。

 

「どう思う?」

「そうだね。どうやら頭領という存在がいることは間違いじゃない。おそらくそいつが今回のこの異変の元凶だと思う」

「うむ、博士の言う通りだろう。だが、解せんな。鬼の言葉を聞く限り、鬼たちが作業をした方が早いらしい」

「みたいだね。そうなると、城を作ることよりもこうやって人間を虐げる方が目的なのかもしれない」

「マスターの考えに賛成だね。ただ、問題は、虐げて何になるかだ」

「もう少し様子を見るとしよう」

 

 見れば見るほど人間と変わらない。鬼には鬼の生活があって愚痴があるのだということがわかる。

 

 ――倒しにくいなぁ。

 

 人間を虐げている時点でアウトだが、こんな生活感を見せられてしまったら、倒しにくいことこの上ない。

 

「ブーディカさんは、大丈夫?」

「んん、ちょっと、倒し難いかな。ごめんね」

「いいよ。オレもそう思うし」

 

 異形は異形の姿をして、異形らしくしておいてもらいたいものだ。それが人間のエゴだとしても、そうじゃないとオレは戦いにくくて仕方がない。

 敵が、敵じゃないなんていうのは、辛い。まあ、鬼は鬼だから、敵なのは変わりない。

 

「ん? ……この反応、サーヴァントか? 金時くんが帰ってきた訳じゃない。これは……?」

「マスター、あれを!」

「――――!」

 

 ドクターの言葉と小太郎君が何かに気が付いた瞬間、オレが感じたのは、圧倒的な重圧だった――。

 

「何をしているのです、アナタたちは」

 

 凛とした女性の声が響く。ただそれだけだというのに、心臓に刃を突き立てられているかのように感じる。圧倒的すぎる強者の覇気だ。

 心臓を掴まれている。ただそれを見ているだけで、息苦しさすら感じる。清廉な気配を感じさせる外見とはかけ離れた気配に圧倒される。

 

「マスター!!」

「ますたぁ! お気を確かに!!」

「っ――――」

 

 マシュと清姫の声で、跳びかけていた意識が戻る。呼吸も戻り、揺れていた視界が戻ったとき、目の前に広がっていたのは血だまりだった。

 鬼をいともたやすく屠ったのがわかる。あれだけの血が海のように広がっているというのに、彼女が持つ刀にも彼女自身にもまったく血が付いていない。

 

 すさまじい技量、人智を越えた太刀筋。鬼を容易く屠ったそれは、はっきりと慣れていると感じた。少なくともこういった類の調伏を生業としていただろうサーヴァントなのだろうことはわかる。

 既に一瞬だけ感じたあの気配は感じない。戦闘が終わっているからか、あるいは気のせいだったのか。

 

 ――それにしては、リアルすぎる。

 

「――もう出てきても大丈夫ですよ。おや……」

 

 隠れていた岩かげに彼女が近づいてきて後ろへと回ってくる。オレたちを虐げられていた人間と勘違いしていたのだろう。

 サーヴァントがいることに首をかしげている。

 

「な、なんておっぱ、い、いや――」

 

 ――ドクター……。

 

「おやおや? どこからかお声が……? 繊細で慎重、小心ながらも理を以て万事にあたる……そんなお人柄を感じますが……?」

「……あなたはいったい?」

「うふふ……お気になさらず」

 

 気になさらずと言われても気になる。なにせ、呑み込まれそうな母性を感じるのだ。ほとばしる母性というべきか、すさまじいまでの母といった雰囲気。

 鎧武者でありながら、柔らかい女といった風情は、きっとおっぱいだけが理由ではない。彼女自身がそうあろうとしている証拠だろう。

 

 ゆえに一番最初に感じた、彼女から立ち上った異質な気配に思わず一歩しらず後ずさっていた。

 

「私はただの鎧武者ですから」

「鎧武者?」

「はい。では、こちらからもよろしいでしょうか」

「あ、はい」

「珍しい出で立ちですが、どうやってこの島に? 港に船が来るのはまだ先のはずですが――あら? あらあらあら? そこの可愛らしい武者は、どなたでしょう?」

「み……いえ、牛若丸と申します。鬼どもを相手に一歩も引かぬ姿、感服いたしました。ただならぬ太刀筋に佇まい。さぞや名のある武人の方とお見受けしますが?」

「まあ……ふふ……」

 

 なでりなでりと女性は牛若丸の頭を撫でる。

 

「う、うらやましい!」

「ダビデ、ややこしくなるから黙っていよう」

「君は羨ましくないのかい! あのなんかすごい人妻臭のする美人のなでなでだよ!」

「オレはマシュから撫でてもらったことあるし」

 

 羨ましくはない。そう断じてダビデほど羨ましいわけではない。ただ、懐かしいと思う。あの母親らしい雰囲気からなでなでされるというのは否応なく母を思い出す。思い出してしまう。

 

「ふふ、あら、あなたもしましょうか?」

「………………………………いえ、それよりもあなたのことを」

「あらあら、こんな私のことなど気にせずともよいのですよ。今回のこれも、私は私の為すべきことをしたまでです。さて、では私は行きます。また縁があれば会うこともあるでしょう。それでは、私はこれにて失礼」

 

 そう言って女性は行ってしまった。名前くらいは知りたかった。

 

「………………」

「………………」

「マシュ? 清姫?」

「いえ、行ってしまわれましたね」

「ああ」

 

 ドクターがしきりに引き留めてよ! と言ってきたが、あれは引き留められないだろうと思われた。立ち居振る舞いが常人とは違う。

 明らかに人の上に立つ者の気配。貴族的。あの時代風にいうのならば貴人というべきだろう。おそらくは何を言っても止めることはできなかったに違いない。

 

「牛若、あのひと知ってる?」

「んー、いえ、初対面なのは確実なのですが……どことなく見知った雰囲気があると言いますか、匂いが……なんというかこう……懐かしいような……ううん……?」

 

 要領を得ないが、初対面であるが懐かしいということは、少なくとも牛若丸の縁者に近しい人物なのかもしれない。知り合いでなくとも、懐かしいと感じるのであれば何かに重ねているということなのかもしれない。

 

「――悪ィな、ちと遅れたぜ」

 

 話していると、爆音を響かせながら金時が戻ってきた。

 

「ベアー号の調子がゴキゲンすぎたモンでよ! 予定より遠くまでカッ飛ばしちまった」

 

 どうやらけがなどなく無事らしい。まあ、ベアー号で走り回っている金時に近づくことはほとんど自殺行為なので、止まらない限りは何かが起きることはないと思ったので心配はしていなかったのだが。

 金時は、周りを見て鬼の死体を見つける。

 

「なんだよ、一戦やらかした後かよ。チ、暴れ損ねたぜ。ズリィぞ、お前ら」

「いや。これはオレたちじゃない」

「あ? じゃあ、誰だよ」「ほとんど通りすがりの鎧武者が片付けたんだ」

「鎧武者ァ? ンなもんがいたのかよ?」

「そうだよ金時くん! すさまじい腕前に、凄まじい胸部体積……いろんな意味で母性のカタマリみたいな」

 

 ドクター全然説明になっていない気がするよ。とりあえずオレの方でも補足してなるべく感じた人物像を伝える。あの異様な気配のことはわからないので、とりあえずオレの中にとどめておいた。

 その説明を受けて金時は何かに気が付いたようだった。

 

「どういうことだそりゃあ。いや、まさかな……」

「何か知っているのか、金時」

「ああ、いや、なんでもねぇ……」

 

 何か知っているような気配だが、話してはくれなさそうだ。

 

「わかった。とりあえず情報の共有をしよう」

 

 こちらがわかったことを金時に伝え、金時がわかったことを教えてもらう。

 

 目標は二つ。鬼を倒し鍵を手に入れる。それと金時が見つけた人間の集落を調査する。

 

 この二つだ――。

 




さてさて、進めていきますよー。
鬼退治鬼退治。
清姫覚醒フラグの話をしようかと思ったけど、六章の粛清騎士戦でやった方がいいなと思ったので、やめました。清姫とぐだ男の接吻によるスーパー清姫ちゃん爆誕させようかなとか考えております。

まあ、そんなことしてたら、夏イベも終わりました。
次回はどんなイベントなのか。また高難易度か、あるいはプリヤコラボが来るのか。
さすがに連続しすぎだから、配布なしの高難易度でも良いな。
しばらくは休みながらサーヴァントの育成に力を注ぎたい。

育ててないサーヴァント多いので、育てたいんですよね。種火が足りないし、素材も全然足りない。もっとドロ率あげてくれぇ……。
なにより配布サーヴァントを育てて私も七章は配布鯖縛りをしようかなとか考えているので。
まあ、その前にグラップ――マルタさんを最終再臨させたいので、そちらが先ですが。
術玉藻さんも育てないといけないし。

もっと林檎を、もっと種火を。そろそろ星5種火出てきてもいいと思うの。
あと星3フォウ君は恒常でいくらでも交換できるようにしていいと思うんじゃが。

まあ、それはさておき、400日ですよ400日。私の場合はたぶん二日にずれ込むんですよねぇ、連続ログイン。メンテで入れなかったのを考えると。

ともかくささやかながらもらえるものはもらっていくとして、とりあえず、ランサーアルトリア目指して引くべきかスルーすべきか。
欲しいのは単体槍なんだよなぁ。
全体槍でも強力なアルトリアならいいかなぁ。
なにより鎧かっこいいし。上乳も良いけど、鎧姿の方が私は好き。

ともあれ当たってくれ、書文先生でもいいから槍がほしいんじゃぁ……

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