Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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天魔御伽草子 鬼ヶ島
天魔御伽草子 鬼ヶ島 1


 日本から戻って翌日。久しぶりに昼までゆっくりと眠ってしまった。特異点は見つかっていないというドクターの言葉を信用してすっかり遅くまで眠っていた。

 二度寝は素晴らしいとオレは思う。どうして二度寝はあんなにも気持ちが良いのだろう。特異点では二度寝なんてできないし、睡眠時間は短くなるばかりだ。

 

 それに慣れたとは言えどやはりゆっくり眠れるのは幸せだ。ただ、昼まで眠って起きてしまったのは問題だ。このまま寝るにはお腹がすいている。

 昼であるから食堂に行けばなにかあるだろう。そう思って、自室(マイルーム)をでる。あくびをしながら扉を開くとちょうどブーディカさんが通りかかったところだった。

 

「ぁ……」

「ふぁ~あ、あ、おはようブーディカさん」

「お、おはよ、う……」

「ん?」

 

 ――なんだろう?

 

 ブーディカさんからはどこかいつもよりもよそよそしい感じがした。いつもなら、おはようと返してくれるはずなのだが、今日はとぎれとぎれだ。

 何かやっただろうか? 特に覚えはないような――と思ってひとつ思い至った。日本での泥酔騒ぎである。大人なブーディカさんなら酒が絡んだこととあまり気にしないだろうと思っていたけれど、ブーディカさんも気にするのかとちょっと意外に思う。

 

「大丈夫ですよ。オレ、全然気にしてませんから」

「っ――う、うん、えっとあたし、部屋に戻るところだから」

「そうなんですか? オレはこれから昼食に。それじゃあ――」

 

 そう言ってオレは昼食に向かうことにした。今日は誰の当番だったか考えながら食堂へと向かった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 カルデアにいるサーヴァントにはひとり一室の部屋が与えられている。元はマスターたちの部屋なのだが、大半のマスターが冷凍保存されている今、使われないより使った方が良いとサーヴァントたちの部屋になっている。

 もちろん、あたしにも与えられている。自分の部屋。あまりものはないけれど、ちょっとごちゃごちゃしている。

 

 片付けようと思っているのだけれど片付かない。他の人のことが気になって自分のことがおろそかになってしまっている。

 時々マスターに片付けられるのが恥ずかしいけれど、こればかりは性分なのだろう。自分よりも他人。なによりマスターだ。

 

 そう、マスター。あたしのマスター。頑張り屋の男の子。優しいやさしい未来の英雄。きっといつか世界を救う人。

 今、あたしがこうやってベッドで顔を枕にうずめている理由。じたばたはさすがにしない。しないけど、もう少し若かったらしていたかもしれない。

 

 きっと顔赤い。熱でもあるように。サーヴァントだから風邪はひかないけれど、生前ならきっと――。

 

「ああ、あたし馬鹿だなぁ、ほんとう……」

 

 気にしないように、マスターが気を遣ってくれた。それがわかる。あたしもいつものようにそれに合わせればいいのにあんな反応。

 旦那に悪いなと思うからなおさら。年下の男の子に甘えて、何をしてるんだろう。お酒のせい? ううん、自制できなかったあたしが悪い。

 

「ああ、あたしのばかぁ――」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「今日のお昼の当番は誰だっけ。確か、マシュだったよな」

 

 マシュの手料理。今日の献立はなにかな――。

 

 そう思いながら食堂に入ると――。

 

「な、なんだ?」

 

 死屍累々だった。誰もかれもがそこで死に絶えている。いや、生きているのだが、全員が机に突っ伏してぴくぴくと痙攣している。

 その原因となる物は目の前にあった。赤い料理だった。ただただ赤い。どうしてこんな赤い色になるのだろうという疑問すら生ぬるいほどに赤い。

 

 嫌な予感がした。それはかつてテロと称してキッチンに立ち入りを禁止していた少女(サーヴァント)の姿を幻視する。

 カボチャ料理だけはまともに見える? いやいや、あれこそが罠。あの中身は、吐くことすら生ぬるい地獄が待ち受けている。

 

 そう、誰だかもうお分かりだろう。エリザベート・バートリー。血の伯爵夫人が、今、牙をむいたのだ。

 

「アラ、マスターもごはん? 食べていくわよね!」

「遠慮します」

「なんでよ!」

「それより当番はマシュじゃなかったかな?」

「そうよ。でも気分が悪いから代わってあげたのよ!」

 

 気分が、悪い?

 

「それは大変だ、今すぐお見舞いに行く!!!」

 

 だから、サラバだエリちゃん。いやー、残念だなー、食べられなくてザンネンダナー。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「うぅ……」

 

 不覚です。体調管理を怠りました。

 

 現状、わたしは、覚醒からの原因不明の頭痛に苛まれています。どういうことなのでしょう。特異点で戦った記憶はあるのですが、まったくもってこの頭痛の原因がわかりません。

 ドクターに相談すべきなのでしょうが、朝からドクターの姿が見えません。

 

「フォウ、フォーウ」

「すみません、フォウさん、できれば、その声のトーンを落としていただけると――」

 

 フォウさんの声が頭に響きます。うぅ、頭が割れそうに痛いです。なんでしょう、この痛み。デミ・サーヴァントなので風邪などはひかないと思うのですが。

 

「原因不明です。調査の必要性ありです。ですが、動いてよいものなのでしょうか。ぅぅ、いたいです」

「マシュ――!!」

「ひゃぅ!? せ、せんぱい!?」

「大丈夫かマシュ! 具合が悪いって聞いて飛んできたんだ!!!」

 

 先輩の大きな手が私の体を触って大丈夫かどうか確かめていきます。その、なんでしょう。嬉しいのですが妙に恥ずかしいと言いますか。

 

「だ、大丈夫です、ちょっと頭が痛いだけで」

「頭!? 熱!?」

「い、いえ、体温は正常です。昨日眠ってから、朝起きたらこんな感じで」

「………………………………」

 

 先輩がなにやら思案なさっています。何かわかったのでしょうか。さすがは先輩です。今季ナンバーワンマスターです。

 

「はぁ……良かった」

「良かった、とは?」

「ああ、うん。大丈夫ってこと。たぶん二日酔いかな」

「二日酔い、ですか? お酒をいっぱいのんだ後に来るという噂の?」

「そう」

「しかし、変です、先輩。わたし、お酒をのんだ記憶がありません」

 

 特異点で戦っている間はありえませんし、こちらに帰ってきてからも記憶の断裂はありません。自意識の連続性は保たれています。

 昨晩はすぐに眠ってお酒など飲んだ記憶はありませんし。

 

「ああ、それは――」

 

 先輩が話してくださいます。どうやらわたしは先の特異点の空気に混じったアルコールで酔っぱらってしまったようなのです。

 なるほど。サーヴァントすら酔わせる聖杯の酒気。ならば納得というものです。ですが、そうなると一つ困ったことというか、気になることが。

 

 わたしは、先輩に対して失礼をしていないか、ということです。きちんと戦っている記憶はありますので、問題はないとは思うのですが、それ以外があいまいで、わたしはいったい何を話し、どんなことをしてしまったのでしょう。

 どうにも先輩はそのあたりのことをぼかしているご様子。わたしに気を遣ってくださっているのはわかるのですが、もしかしてと思ってしまいます。

 

「あ、あの」

「ん、どうしたのマシュ? きついならジキル博士とかダ・ヴィンチちゃんに薬もらってくるけど」

「い、いえそうではなくて、です……ね。あ、あの……」

 

 わたしは一度深呼吸をします。こういう時は深呼吸だとドクターに聞きました。深呼吸。あとは人という文字を掌に書いて飲み込むのもいいでしたっけ。

 ともかくそれらを実践し、落ち着いたところで、先輩に切り出すのです。

 

「ま、マシュ?」

「ひゃ、ひゃの!」

 

 いけません、噛んでしましました。も、もう一度。

 

「あ、あの先輩!」

「は、はい!?」

 

 今度は語尾が強く。いけません、ですが、この勢いのまま行くしかありません。

 

「わ、わたしはそ、その何かご迷惑をおかけしなかったでしょうか。あいにくと記憶がなくて――」

「大丈夫だよ。マシュ、とても、素晴らしかった」

 

 それはとても素晴らしい笑顔でした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 マシュに起こされて、サンタさんに忘れるが良いトナカイと脅されながら管制室にやってきた。

 

「ドクター、先輩をお連れしました。それで、お話とは?」

「うん。いきなりで悪いけど、また事件だ」

 

 また事件。カルデアはいつも大忙しだ。特殊な特異点の発生が観測された。場所は日本。

 

「またですか?」

「そう。さらには時代も、この前京に跳んだときとそれほどズレてはいない」

 

 珍しいと言えた。今まで、特異点が発生した時代は様々だった。それこそ現代付近から、ローマまでさまざまだ。同じ時代になったのは初めてじゃないだろうか。

 しかも、本来であればこの時代の日本には人理定礎は存在しない。つまり特異点になり様がないとドクターは言う。

 

 しかし、現に特異点の発生は観測されている。更に言えばこのまま放っておけば最悪の事態に発展するとかしないとかいうレベルの特異点だと言うのだ。

 明らかに異質。様々な特異点の中でも特大。トップクラスだとドクターは言う。

 

「でも、行かなきゃ」

「実に心強い。もう新人マスター、なんて言ってられないな」

「もう特異点は五個。他にもいろいろなところに行ったからね」

 

 最初こそ本当に情けないありさまだったと思う。だが、今ではだいぶ成長したのではないかと思っている。だが、慢心は駄目だろう。

 この帽子とマント、手袋に誓っていつか必ず世界を救う。そのためには、頑張らないといけない。でも無理をしてもいけない。

 

「うん。今回も頼りにしているよ。さあ、行こう!」

 

 レイシフトする。待ち受けているのは鬼か蛇か。今度はいったい何が待っているのだろうか。そう思いながら、オレたちはレイシフトした――。

 




さあ、鬼ヶ島イベの開始だ。
その前によっぱらいのその後を少しだけ。
イベントクエストは相変わらず戦闘は端折ってサクサク行くとしましょう。

あとは、そうですね。きよひー酔っ払いはもう書いたので、門番どもは変更します。きよひー門番のところは別の誰かを入れます。
具体的に言うとキャットか天草か沖田。

それから、ありえたかもしれない歴史と称して配布鯖縛りを解禁したぐだ男の冒険をIFの方で書こうかなと思ったりしているので、活動報告でサーヴァントのアンケートを取っているので、ぜひ回答をお願いします。

エレナとか超おすすめだから。超おすすめ。キャットとかもオススメ。超おすすめ。

期限は土曜日までです。

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