Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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星の三蔵ちゃん、天竺に行く 3

 蓮華洞。それは金角と銀角の住まう場所。平頂山に存在する場所。西遊記において、魔王とされる妖怪の住処である。実際は妖怪でもなんでもないが、正しく三蔵一行に試練を与える存在である。

 現在、この西遊記においては最悪の女神たちが当て嵌められている。曰く、愛されるだけの女神。

 

「怖れを知らぬ憐れな唐僧が、私たち蓮華洞の縄張りにまんまと踏み込んできたようだわ、銀角(わたし)

「可愛くて美味しそうな唐僧が、この平頂山の芳香に誘き寄せられてきたようね、金角(わたし)

「男なら、骨の髄までとかしてしまいましょうね」

 

 嬲って、虐めて、呑み込んで。

 

「女なら、懇ろに弄んで懐かせましょう」

 

 緩々と飲み干してしまおう。

 疼いて堪らない。女神としての本能。あらゆる全てを魅了する愛され女神としての本能が駆動する。

 

 ただ、それはそれとして役柄としてまったく違和感がないというのはどういうことなのだろう。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 西へ西へ。されど行けども荒野ばかり。隊商が通る道を進んでいるはずなのだが、オアシス一つ見えてこない。そろそろ腹も減ってきた。喉も乾いた。

 

「おお、ブッダよ! お買い物中なのですか!」

 

 三蔵ちゃんが喉が渇いた、腹がすいたとブッダに叫んでいる。

 

「しかし、本当に西遊記なのかな」

 

 妖魔の存在は、まあ置いておくとして西遊記としての特異点よりも玄奘三蔵が生きた時代に来たというのが正しいはずだ。

 レイシフトは過去にしかいけないのだから。

 

「玄奘三蔵の生きた時代にレイシフトしたんじゃないかって? ないない。空にあの光帯は見てないだろう? 僕らサーヴァントの現界に必要な魔力もどこかからか供給されている」

「師よ。何か思い当る節は? 経典を得たことで何か感ずるところがあったのでは?」

「……うん、一つ思い、出した……。どうしてかわからないけど、弟子には……悟空たちには、暇を出したの。三人の弟子たちは、みんなあたしの下を去っていったわ」

「ほう」

「任期満了による整理解雇かな?」

 

 本当、王様というより社長とかの方が向いてるよねダビデ。即そう言う言葉が出てくるあたり。王様などは経営者といっても過言ではないから間違いじゃないのだろうけれど。

 

「まあ、僕なら退社はさせないけどね! ブタは太らせてから食えというじゃない!?」

 

 この最後の一言がなければね。

 

「ん……でもそうかも……だから彼らも今、ここにはいないんだわ……」

「……落ち込むことはないですよ。いつかまたみんな、戻ってくるさ」

「そうかなぁ……それは、それとして、あたし、なんだか……気持ち悪い……お腹に掌打をくらったみたいに……」

「お師さん!? 何か病気!?」

「心配するでないマスター。食を取らぬからだ」

「……」

 

 ――ああ、腹が減りすぎってことね……。

 

「それ見たことか。やはり獣の生き血を飲ませるしかあるまい」

 

 うん、本当、オレって慣れたよねー。ああ、オルレアンが懐かしいなぁ。狩りまくったワイバーンを焼いて食べたっけ……。

 全て現地調達。ドクターからの支援が隔離してからは携帯食料とかだけど、少しでも消費を抑えるためにワイバーンを食べたっけ。

 

 不覚にもおいしかったけどネ。他にもいろんなものを食べたなぁ……。兄貴が焼けばなんでも一緒だとか言っていろいろ焼いて食べたけど……。

 キメラだけはない。キメラだけはないよ。うん。あれはない。兄貴の調理が良すぎて美味しいんだけど、キメラだけはない。あの何とも言えないいろんな肉の味が混じったあの奇妙奇天烈な味をオレは一生忘れられないだろう。

 

 ここにきても食料がないということで書文先生が捕まえて来た獣を捌いて食べたりしていた。獣というか妖魔だったような気がするけど食えば同じ。今では吐くことなく食べられてしまう。自分の成長が悲しい。

 

「それだけはやめてー……ほんとにやめてー……」

 

 その時呂布が声を上げる。

 

「お師さん。この先に洞窟があるって。水場があるかも」

「……ねえ、一つだけ、聞いていい」

「なに死にそうなこと言ってるんですか。大丈夫ですって」

「マシュって、誰? 石の下でうなされているときに、ずっと呼んでいたよ」

「大切な、人ですとても……でも、なんだかとても大切なことを忘れているような気がして」

「………………そう……」

「お師さん?」

 

 お師さんは何を言いそうとしたのだろう。何も言わず、呂布に乗ったまま洞窟に入った。そこは甘い匂いがしていた。

 果物の匂い。食料があるようにも思える匂いが充満している。ただ、それと同時にこの感覚をどこかで感じたような、いやぁな予感がしていた。

 

 具体的に言えば、第二特異点のセプテムにあったあの島と同じような、いやな気配が。果物もこれ見よがしに置いてあるのがまた何とも言えない。

 

「とりあえずお師さんを押さえてと」

「ちょっと、なに、放しなさい一番弟子!?」

「いや、お師さん今にもあの桃を食べそうだったので」

 

 呂布から降りて今にもかぶりつかんという三蔵ちゃんを後ろから羽交い絞め。ダビデが視界の端でグッジョブと言わんばかりにサムズアップして、そのまま胸を揉む動作をしているのをとりあえずスルーしつつ腕の端で感じる果物の感覚に神経を集中させておく。

 そうしていると、現れる予想通りのサーヴァントが現れた。

 

「あら、真っ先に口にして人参になると思ったのに。お話し通りにはいかないものね」

 

 ステンノ様。ずいぶんと昔に思えるけれど、第二特異点でお世話に……お世話に? なった女神様だ。シャトー・ディフ以前の特異点の記憶は実はさほどなかったりする。

 思い出したら駄目なくらい嫌なことや辛いことがあったらしく、記憶を封じているらしいのだとドクターに言われた。

 

 それでも辛いことには変わりないから、何かあったらちゃんとメンタルケアに来ることと言われて毎週ドクターと二人でいろいろなことを話したり、英霊(アイドル)談義したり、している。

 そういえばドクターっていつ寝ているんだろう。いつ医務室とか管制室にいってもいる。

 

 ――まあ、ドクターのことだしちゃんと体調管理はしているよな。

 

「ちょっと、何、無視してるのかしらこの蓮華洞に来たのだから、ちゃんとしてくれないと」

 

 ――おっと、そうだった。

 

「すごく悪そうなゴルゴン姉妹が出たんだった」

「ふむ、ふむ……蓮華洞と申したな。となれば、金角大王に、銀角大王か」

「属性が同じ過ぎたんだね。悲しいことだ」

「ダビデ、彼女たちはアビジャク認定しないの?」

「いやー、さすがにあんな人を破滅させる女神に戻ってる彼女たちとはお近づきになりたくないなーと。だから、マスターが」

「いやいや、ここはダビデが。オレお師さんの世話で忙しいし」

「あ、ズルいよマスター。僕だって巨乳のお姉さんがいいに決まってるじゃないか」

「ともかく、金角銀角と言えば、あれよ。名前を呼ばれて応じてしまえばたちまち吸い込まれて生きながら溶かされる、というヒョウタンだ」

 

 確かにそうだった。だが、それは見当たらない。

 

「宝具なんて必要ないの。私たちの毒が回れば、何度も何度も名前を呼んで懇願するようになるの」

 

 なるほど。この洞窟そのものが既にヒョウタン池であり、オレたちは既に水面に堕ちた蝿ということらしい。

 

「なんということだ。自分からは何もせず、敵を倒したいなんて。なんて悪辣さだ! 恥を知り給えこの毒婦!」

 

 ――それを、おまえが言うのかダビデ……。

 

「でも、アレだ、此処にいること自体が危険なら、戦闘担当に任せよう!」

「ええー、ダビデって、あれじゃん割とえげつない宝具もってるじゃん」

「持ってるけど、ほら、ここは役柄的に兄貴の出番じゃないか」

「オレコスプレしているだけの孫悟空なんですけど。魔術礼装ないから支援魔術の類も使えないんですけど!」

「ええ!? だって、毎日クー・フーリンとルーンの練習してたんじゃないの?」

「いや、オレ致命的に、才能がないんだと」

 

 魔術回路はそれなりにあるらしく質も一代だけと考えたらかなり良い部類には入るらしいのだが、肝心の魔術を使う才能とやらが皆無らしい。

 かろうじて使えそうになっているのが身体強化くらいで、それもかなり心もとない。ただ魔術礼装を扱う才能だけはあったらしく魔術礼装があれば割といろいろとできるくらいになったし、複数の魔術礼装を切り替えて使うこともできる。

 

 だが、それもなければ一緒だ。覚えたルーンだって焚き火に火をつける程度にしか使えないアンサズくらい。これでどうやって戦えというのだろうか。

 

「ああ、自分で言ってて悲しくなってきた……」

「確かに武の才能もないからなぁ」

「そんなぁ……」

 

 とりあえずとばかりに書文先生に武術を教えてもらっているわけなのだが、そっちの才能もない。

 

「やられる才能だけはあるな」

「そんな才能いらないです」

「なに、案ずることはない。生命を失いかねない常識を超えた修行と努力さえ怠らなければ凡人であろうとも達人に迫ることはできるとも」

「…………」

 

 この旅の間、死なないか心配です。ドクター、マシュ……死んだら、ごめんね……。

 

「まあ、妖怪退治は西遊記の華よ。さあ、ゆくぞ」

「「ふふふ、やる気ね。ならこっちも戦闘担当を出すわ。さあ、来なさい――銅角!!」」

「ん?」

「あの………………はい、銅角、です……」

 

 現れる長身のお姉さん。ゴルゴン三姉妹の末っ子。

 

「…………」

「よし! 銅角ちゃんは僕の守備範囲外だ! 遠慮なく倒してしまいなさい!」

「……いや、儂も武人だが、鬼ではない。これほど悲しい姉妹愛、正視に堪えん……。師よ、ここはまず、あの銅角を救うべきでは?」

「いいえ、妖魔倒すべし慈悲はないわ! あれは妖魔どものいつもの手、だから悟空、悟浄、やっておしまい!」

「……お師さんを助けるため、助けるため。あの、適当に殴るんで、倒れてくれれば」

「あ、はい、お気遣い、痛み入ります……はい……」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ふぅう、満腹満腹」

 

 適当に振るった如意棒に当たって、あーれー、と銅角が倒された振りでどうにかこうにか乗り切った。金角と銀角は逃げてしまったが、追い打ちはしなかった。

 

「賢明な判断だよ。今は財宝管理さ。金銀財宝は任せて。うまくやるよ。だから、兄貴(マスター)はそっちの銅角ちゃんをよろしく」

「…………どうぞ、処分はいかようにも。もうどうにでも」

「お師さん、どうします?」

 

 見るに堪えないというか。金角と銀角はとっくの昔に逃げてて、すっかり置いていかれてしまった銅角が憐れで仕方がない。

 

「改心するのね! 偉いわ。……っていうか、あなた悪行値ゼロじゃない。えーっと、ヒンズースクワット一万回と般若心経の写経一万回、どっちがいいかしら……」

「あのお師さん」

「なにかしら?」

「この人旅に同行させてはもらえないですか?」

 

 なんというか、この展開的にあまり戦力が必要ないような気がしないでもないのだが、今後どうなるかわからない以上手助けしてくれそうなサーヴァントはひとりでも多くいた方が良い。

 現状戦えるのは書文先生と呂布だけで、ダビデはなんか戦わないので、もうひとりくらい戦える人がほしい。

 

「でも、それが罰になるかしら」

「高僧である三蔵法師の旅に同行しこの苦難を助ける。これ以上の徳の積み方はないかと」

「そうね。一番弟子がそういうのならそうかもしれないわ! そういう方向だけどいいかしら」

「……わかりました。最高ではありませんが、姉様たちのところにいるよりはマシですので」

 

 というわけで銅角もといメドゥーサが仲間になった。

 

「じゃあ、雇用条件の話からしよう」

「はい?」

 

 いきなりどうしたダビデ。眼鏡かけて。

 

「まず休みだけど、基本的にはないネ。というか別段仕事としては突発的なもので、戦闘がないときは基本的に休暇みたいなもので、戦闘が起きたら戦ってくれればいい」

「は、はあ……」

「一回の戦闘ごとに報酬が出て、これくらいかな」

「こんなに、ですか?」

「そうそう。君たちから奪った財宝を増やすからね。資産運用なら任せて、これでも失敗したことはないんだ。で、どうかな」

「あの、何ももらえずに同行することになると思っていましたので、ありがたいです。この条件でお願いします」

「よし決まりだ――。決まったよー」

 

 だから、おまえは何なんだダビデ。

 

「さすがねダ八戒。おかねに関しては右に出る者はいないわ!」

「それでいいんですかねお師さん……っと、そうだった。はい、経典ですお師さん」

「本当、今回の弟子は働き者ね! みんなありがとう。さあ、天竺への旅を続けましょう!」

 

 新たに銅角という妖魔を仲間に加えた三蔵一行の旅はまだまだ続く――。

 




というわけで、ぐだ男の倒した敵が仲間になりそうなら仲間にするを発動。
戦力を集めてインドに備えます。

それにしてもアレだ、ギャグイベのダビデ動かしやすすぎるでしょ……。

そういえば夏イベ第二部の予告が来ましたね。

私の狙いはミートウォーズです。それ以外に興味などない。だから、頼む、来てくれ!
エレナの水着姿、とてもよかった――。

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