Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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星の三蔵ちゃん、天竺に行く 2

「――足がほしいわね」

「また何を言っているんですかお師さん」

「だって、このまま長い道程を歩くのよ!」

「確かに、我ら弟子はともかく、この先の厳しい遠路、このまま師にあるかせるわけにはいかんな」

「では、僕の上に乗ってみるのは? あいにくポニーテールじゃないけれどブヒ」

 

 だから王としてのプライドはないのかと突っ込みたい。それとブヒブヒ言い過ぎだろダビデ。

 

「何を言うんだいマスター。こういう場だ。郷に入っては郷に従え。君の国にはそういう格言があるんじゃないのかい?」

「いや、あるけどさ……」

「今の僕は猪八戒。ならブヒブヒ鳴いても問題ない。そう問題ないのさ。マスター、こういう時は楽しまないと損だよ」

 

 肩を組んでそう言ってくる。この状況の何を楽しめと言うのだろうか。

 

「まずは美人でおっぱいの大きなお姉さんの身の回りのお世話をすることができる」

「…………」

「この意味がわからないマスターじゃないはずだ。お師匠さんの身の回りの世話。どんなことをやるかわかるかい?」

 

 ――い、いや。

 

 だが、思わず生唾を飲み込んでしまった。

 

「まず食事の用意がある。それから美人との楽しい食事だ。それだけで嬉しくないかい? そして、ここからだよマスター。洗濯だ。お師さんの衣を洗うのは弟子たる者の役目。いや、義務と言ってもいいはずだ。それに入浴のお世話。わかるかい」

 

 ダビデは語る。

 旅をする。歩いての旅だ、馬を使っていたとしても必然的に動くし、太陽の下を歩くとあれば汗もかく。一日の終わりに弟子が風呂を用意するのは当然だろう。

 どんなに苦労するとも用意しなければならない。

 

 旅の垢を落とすと同時に服の洗濯。お師さんの脱ぎたての服を思う存分くんかくんかできる。蒸れた女性の体臭をきっと感じることができるはずだ。

 

 彼は力説する。

 

「それにお風呂だよお風呂。師匠の体を洗い清めることも弟子の務めだ。それに修行にもなる。煩悩を封じる修行だ。そう言えばお師匠様も文句は言えないはずだよ」

 

 ――汚い、さすがダビデ汚い。

 

「どうだ。夢が広がるじゃないか」

「…………」

「ここには誰も止める者はいないんだ。御仏が見ているが、これもまた修行だとも。わかるかい。楽しむんだよ。任せてくれ。僕がうまいことやる。必ず君に、素晴らしい体験をさせてあげるよ!」

「…………」

「そこまでにしておけい――なにやら師が気が付いたようだ」

 

 書文先生の言葉に顔を上げると、何やらこちらに向かって疾走してくる大きな影が見えた。

 

「この韃靼の国は名馬を産する地だと有名よ! きっと名馬に違いないわ。どうにかして連れて――」

「■■■■――!!!」

 

 現れたのは馬ではなく、呂布だった――。

 

「…………帰りましょう。ここには何もなかった。ノー・ウエストよ」

 

 赤兎馬ではなく呂布本人が来てしまったようだ。

 

「まあ、問題はなかろう」

 

 問題は大ありだと思うけれどここにいてもこれ以上足は手に入りそうにないことを考えればこの大きな武人は優良物件なのかもしれないと思えてきた。

 なにせ、強いし力強いし。普通の馬よりも良い気がする。

 

「いやーッ! 無理、無理ぃ……!! なんかこの馬こわ――い! 助けて一番弟子ぃ――!」

「ちょ、お師さん!?」

 

 縋りついてくるお師さん。そんなに怖くないって。大丈夫だってとか説得する前に。胸が当たって非常に、良い。たわわに実った桃源の果実がオレの胸に押し付けられてふにょんとつぶれる。

 柔らかい。とても柔らかい。マシュのマシュマロも柔らかいけれど、彼女のもとても柔らかい――。

 

 ――あれ、マシュ……何か大事なことがあったような……。

 

「ふむ、しかし――何かもっているな」

「顔に似合わず几帳面だな。大事に持っているようじゃないか」

 

 呂布が持っているのは経典だった。

 

「楽しんでいるところ悪いけど兄貴(マスター)? その巻物を、お師匠さんにお見せしてみては?」

「あ、うん。ほら、お師さんこれ見てこれ」

「……こ、これは! 失われた経典だわ! こんな荒野で、一人で守ってくれていたの?」

 

 呂布がそうだとでも言わんばかりの咆哮をあげる。

 

「ごめんなさい、悲鳴とかあげちゃって。アナタは立派な従者! そしてお馬さんだわ! 怖いけどこれも修行だし! 立派な赤馬よ、その肩を貸しなさい!」

「肩車、だって……!?」

 

 ダビデがいかにも羨ましいと言った風にブヒブヒ鳴く。

 

「あ、乗り心地いいわ、これ。アナタもしかして、肩に人を乗せるの慣れてる?」

「僕だって慣れてるのだけどね! それか兄貴に乗るというのはどうだろう! というか交代でみんなに乗るというのは!?」

「え、この経典、妖魔たちが持っていた? ほかにもたくさんあるはずだ、ですって? ……怪しいわ。とても怪しいわ。……この経典を読んでいると頭のモヤが晴れていく……経典ってそういうものだったかなまあいいや。

 ――悟空! 悟浄! ダ八戒! 記念すべきあたしからの最初の命令よ! あたしたち三蔵一行はこれより! 天竺に向かいながら、この経典を集めます! 拒否は認めないわ!」

 

 反論したら頭に輪つけて締めるとか言ってる。もしかしなくても三蔵ちゃんって鬼?

 

「うむ。それでこそ儂の知る三蔵法師よ!」

 

 立ちはだかる外道は倒す。改心した外道も倒す。悪逆非道の三匹すら頭を抱える天衣無縫。これこそが三蔵。それこそが玄奘。

 

「これからどうするもとりあえずは経典か。よし、集めよう!!」

 

 経典集めの旅が、始まる――。

 

「で、どっちだっけ? 一番弟子?」

 

 は、始まる――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ようこそ、ダ・ヴィンチちゃんの素敵なショップへ。何がお望みかな」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの素敵なショップにやってきたのは我がカルデアのサーヴァントたち。

 

「何人か足りないようだけど、どうしたんだい?」

 

 訪れたのは清姫、ブーディカ、ジキル博士、ジェロニモとその他大勢か。ふむふむ。なるほどなるほど。ダ・ヴィンチちゃんはそれだけで悟ってしまったよ。

 

「霊基の強化を行いたいんです。ますたぁの為にも」

「オーケーオーケー。上昇志向は実に心強い。マスター冥利に尽きるもんだろう。そして、君たちは実にタイミングが良い。なんとダ・ヴィンチちゃんはこんなこともあろうかと種火をせっせと集めていたのだ」

 

 霊基を行うために必要なものはそう多くない。なにせサーヴァントは魔力体が基本だ。このカルデアにおいては半受肉状態と言っても良いが、それはそれ。基本は魔力でできている。

 つまり霊基を強化するのもまた魔力ということだ。カルデアの召喚式はおおざっぱでどんな英霊でも呼ぶことができるし基本的に制限がない。

 

 それほどがばがばになったのやっぱり人理崩壊が原因なのだろうと考えているが、如何せんサポート優先で時間がないのが悲しいところだね。

 ダ・ヴィンチちゃんとしてはそういうこともつまびらかにしていきたいものなのだけれど、まあそれは良しだ。ともかくカルデアに召喚されたサーヴァントには伸びしろが存在する。

 

 大ざっぱな召喚のせいか、多少なりとも霊基が真の力とやらを発揮していない状態で召喚されてしまうのだ。それはマスターが未熟ということじゃなくてこのカルデア側の問題。

 人理崩壊を瀬戸際で食い止めているというこのカルデアの立地もある。だからそんなサーヴァントたちを全盛期の力に近づけるためのものがこの種火だ。

 

 カルデアゲートと呼ばれる特殊な特異点もどきに繋がった場所。それがこのカルデアにおいて様々な資材の入手経路だ。

 暇なときはマスターがよく行っている。訓練にもなるし、こちらは素材が手に入ってウハウハだから実に良いものだ。

 

 まあ、何が取れるかはまちまちだし、全然安定しないのが玉に瑕なのだけれど、種火だけは別だとも。これだけは必ず手に入る。

 サーヴァントの霊基を強化するための魔力(エーテル)の塊。これを霊基に食わせることでサーヴァントの能力を引き上げることができるのだ。

 

「さて、まずは誰からやるかい?」

 

 如何せん面倒なのは一人ずつしかできないということだ。

 

「では、わたくしから」

「はいはい、それじゃあ、そこに入ってねー」

 

 特別なマッシーン。ダ・ヴィンチちゃんの強化ラボ。そこに清姫を寝かせてあとは霊基に種火を食わせていく。数値としてどんどん能力が上がっていくが無論際限なしとはいかない。

 必ず霊基、英霊を収めた器としての限界が訪れる。

 

「おっと、限度が来たね、それじゃあ、再臨と行こうじゃないか」

 

 霊基再臨。霊基を強化し、その先へ。生前へと近づかせるとマスターには説明したが実はそうではない。それについては少し英霊というものについて語る必要があるのだが、それは割愛だ。

 そんなものを聞きたいわけではないだろうから単刀直入に言う。英霊というものは実に強大なものだ。ここでいっておくのだけれど、英雄ではなく英霊だ。

 

 この違いは大きい。死後、後世の人間にその功績を讃えられ、語り継がれ、時に信仰されるのが英霊。生前に為したこと、手に入れたものしか使えない英雄ではなく、実際にはその英雄は持っていなかったがそのように語り継がれるたことで後付で得た宝具なんてものを使えるスーパーな英雄。それが英霊だ。

 そのため英霊というものはとても強い。発明家のはずのダ・ヴィンチちゃんですら、魔物と戦えるレベルなのだからその強さがわかるだろう?

 

 だが、英霊は強力であるために普通には使役することなんてできない。だからこそ、クラスなんてものに当てはめる。

 知っての通りのセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー、ルーラー、アヴェンジャー。そんなクラスに英霊を当てはめてサーヴァントとして現界させるのである。

 

 でも、そんな召喚は無論、本来の英霊なんてものを呼び出すには足りない。クラスという器が小さすぎるわけだ。

 簡単にいってしまうと英霊を海とすると、サーヴァントのクラスはコップだ。どう見ても英霊の全てをおさめることなんて不可能だとわかる。

 

 だが、その小さな器を少しでも大きくすることはできる。それが霊基再臨というものだ。本来の英霊としての能力を発揮できるようにサーヴァントという器を再構築する。

 簡単に言えば限度いっぱいに入った水入りのコップをバケツとかに変えるようなもの。そうすることでサーヴァントをより強くすることができる。 

 

「それじゃあ、やるよ――」

 

 限界を迎えた清姫の器を新しいものへと再構築する。そのさいに姿も代わるが些細な事些細な事。寧ろ飽きが来ない変化だと自負しているとも。

 まあ、マスターのいないところでやるとわかりにくいのだけれど。

 

「さて、どうだい?」

「はい、力が溢れてきます。どうやら……わたくし、竜のようですわ。これならどんなに逃げ足の速い大ウソつきでも燃やしてしまえそうです」

 

 髪は白く染まり、角は黒く染まっている。服も一転して黒色が強くなっている。まるで喪服のようである。前までが白無垢ならこちらは喪服。

 ずいぶんと印象ががらりと変わっているが中身だけは変わることはない。そんなへまをダ・ヴィンチちゃんがするわけがないのだ。

 

「オーケーじゃあ、次の鯖はこっちに来てねー」

 

 順次、強化して霊基再臨。皆、新たな装いとともに力が満ちていく。一部、装いを変えない輩もいるが、そいつらはそいつらだ。

 ダ・ヴィンチちゃんの知ったことではないし、確実に強くなっているから問題はないのさ。

 

「これなら頑張れそう」

「よしよし、それじゃあ、また何かあったら来ると良い。ダ・ヴィンチちゃんはうまくやる。今も、うまくやっているからね――」

 

 ダ・ヴィンチちゃんに不可能なことはそれほどない。万能の人に任せたまえの言葉通り、霊基再臨したサーヴァントたちの霊基やそこに付随しているスキルを強化していく。

 このまま聖杯の解析が終われば更に上の位階に彼らを上げることもできるだろう。

 

「マスターの為に頑張ろうね」

 

 激化する戦いに備えてダ・ヴィンチちゃんも頑張っているのだ――。

 




霊基強化やら霊基再臨やらいろいろ書いてますが、全部無視してもらって結構です。
彼らがそんなことやってると言うことだけわかってもらえれば。

さて、三蔵御一行の経典集めの旅が今始まります!
とりあえずほぼ原作通りなのですが、三蔵御一行のメンツが増える可能性があるとだけ。
といってもカルデア組は今回ダビデくらいしか登場がないのですが。
それもこれもラストに待ち受けるあの兄弟が悪い。

今回は短いし、ダビデという超ド級に書きやすいキャラがいるので筆が進みまくるので、20日0時くらいにまた更新あるかもです。

では、また次回。

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