Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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星の三蔵ちゃん、天竺に行く
星の三蔵ちゃん、天竺に行く 1


 ――気が付けば石の下。

 

 などという状況をどうすればいいのだろうか。はて、またこれはいつものやつだなと超速理解してしまえるほどにはすっかりと慣れてしまったことに嘆けばいいのか笑えばいいのか。

 そう言えば何か大事なことを忘れているような気がする。とても大事なことだったような気がするがはて、何を忘れているのかオレにはわからない。

 

 とても大事な、それこそ世界が終わってしまったと思うほどの何かがあったような気がするのだが――。いいや、それを考えるのは後だ。

 今は、この状況。どういうわけか石の下にいるということをどうにかしないといけない。だんだん締まってきたというか。重さで死にそうというか。

 

「――ようやくか。うん、大丈夫そうね。――こほん。気が付いたみたいねあなた」

 

 ――誰だ?

 

 声がする女性の声。聞いたことのない声だ。少なくともオレの仲間のサーヴァントの声でも職員の声でもない。誰だろうか。

 声の方を見る。そこにいたのは錫杖を手にした少女だった。どこかで見たような、そんなに扇情的だっただろうかよくわからない法衣を身にまとった僧侶のようだ。

 

「なに、誰、ここは? てかどういう状況?」

「此処? ここは楼蘭の北、哈密の西。大唐の国がはて、高昌の地の始まる場所。天にも届かん山々の吊らなぬ、五行の山のふもと。そして、あなたはとーっても重そうな石の下」

「それなら助けて」

「もちろん、すぐに助けるわ。きっとあなたこそ探し求めていた相手だわ。この出会いこそ御仏のお導き……!

 あたしの名前は玄奘三蔵。――あなたは?」

 

 玄奘三蔵!? 紀元7世紀、唐代の法師。仏典の原典を求めてシルクロードを旅し、中央アジアからインドへと至り、六五七部に及ぶ経典を唐へと持ち帰って法相宗の開祖となった人物だ。

 西遊記に出てくる三蔵法師のモデルとも言われている人物のはず。

 

 ただ、驚いているとどんどん苦しくなってきたので早々に名乗る。元気よく名乗ってしまったのは余裕がなかったからだと信じたい。

 

「うんうん、いいわ。元気の良い弟子は好きよ! っとと、まだ弟子と決まったわけじゃないのよね。まずはそこから出してあげる。あなたに御仏の御加護を!」

 

 ――観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。

 

 唱えられた般若心経。正確には摩訶般若波羅蜜多心経の一部。それを唱えることによって生じる御仏パワーにより岩が吹っ飛んだ。

 

「……どう、無事? けがはない? バンソーコー貼ろっか?」

「いや、大丈夫、みたい? なんだか頭がふんわりするというか。なんか嵌ってるし」

 

 なんか取れないわっかみたいなものが頭に嵌っているっぽい。それに服装もカルデアのものではない。目の前の三蔵さんのそれに似たようなものだけど、どことなく動きやすいというか。

 どこかで見たような服装だった。それになんか棒があるし。これもどこかで見たというか――。

 

 ――孫悟空だこれー!?

 

 明らかな孫悟空のコスプレ! しかも岩の下。まさに孫悟空! どうやらまた厄介ごと。さすがになれてきた厄介ごとだ。

 これまた何やらレイシフトやらなにやらに巻き込まれたおかげで、変なところに来てしまったようだ。おそらくは西遊記っぽい特異点に。

 

「でも、大丈夫そうね! いきなりあたしのこと見直したでしょー! それじゃああらためましてっと。あたしは玄奘三蔵。こう見えて出家の身よ。こう見えてとってもすごいんだから!

 唐の皇帝の勅命により、はるか西天の地、天竺をめざして旅のとちゅう! 目的は……えっと…………」

「ありがたいお経とりにいく?」

「え、なんで知ってるの?やだ、あたしの徳の高さにじみでちゃったかしら……」

 

 いや、玄奘三蔵と言ったらもう西遊記しか思い浮かばなかっただけです。決して拳銃撃ちまくるバギーにのって旅してる生臭坊主ではない。

 アレ意外に西遊記の原典のエピソード拾ってるんだよな……。

 

 そんな戯言はさておいて、

 

「――そう、貴方の言う通り! 経典よ! あたしには経典を集める使命があるの。天竺へ続く道のどこかにある経典を集める使命がね! 調伏した道案内妖魔に逃げられ――こほん。はぐれちゃって、乗馬もうっかり獣に食べられ――こほん。しばらく暇を与えて、もう幾日も一人で道にまよ……孤軍奮闘していた折に! あなたと出会ったの! うう、怖かった……」

 

 この人旅とか早すぎたんじゃないだろうか……。

 

 口を滑らせまくっているけれど、調伏した道案内には逃げられ、乗馬もうっかり食べられ、何日もひとりで迷っていた。

 これが本当にあの玄奘三蔵なのだろうかと思う。そもそも玄奘三蔵とは男ではなかったのだろうか。などといろいろと思うことはあれどこの人に助けてもらったのは確かだし、こちらも一人だ。心細さはわかる。

 

「…………うんうん」

「なあに? 拙僧に何かご意見でも?」

「なにもないです」

「そう? じゃあ、あなた自身の話を聞かせて!?」

「わかりましたオレは孫悟空です」

「さっき名乗った名前と違うじゃない!」

「冗談ですよ――」

 

 とりあえず状況を理解するためにいろいろと話した。カルデアのこと。これまでのこと。何か大事なことを忘れているような気がするが、とりあえず話せることは話しておいた。

 

「…………ふむ……ふむふむむむ。灼爛した地球……聖杯の特異点……人理の守護者たち……とても壮大で、信じがたい話だけど……信じるわ、あなたの話。まさしくこれは御仏のお導きだから……きっと、そう」

 

 えらく簡単に信じる人だなと思ったが、御仏は時間と空間を超越した存在。未来から過去へと使者を遣わすことだってあるという彼女の言葉に納得した。

 神やら仏やらいろいろとすごいとは聞かされていたので納得だ。

 

「それで、そのカルデアへ帰還する手段は? 救命信号を発する道具とかもってないの?」

「このひたすら如意っぽい棒しかないです」

「迷子! やだ、あなたったら迷子なのね! 善哉善哉、あたしたち気が合うわ!」

 

 ――はいそうですね。

 

 でも、とりあえず無防備すぎるし近い近い!? 尼僧なのに扇情的すぎる格好しているのになんでこの人こんなに無防備に近づいてくるの!?

 手を取ってぶんぶん振って胸元にもっていくのやめてくれる!? やばいって、いろいろとヤバイって!? 眼福です!!

 

 やっぱり人間正直が一番だよ。我慢してオレ、まったく興味ありませんからーとか駄目駄目。エドモン、教えてくれてありがとう。オレ、今幸せだよ――。

 

「……なんか邪な気を」

「いえ、何も思ってません!」

「そう? でもあなたと出会った意味がわかったわ」

「本当ですか?」

「いつか偉くなったときのあたし曰く。善は急げ。悪は(しば)け。三蔵には従え」

 

 えらく自分勝手だなー。

 

「というわけで、あなた、あたしの弟子になりなさい!」

「……なぜに?」

「うっ……」

 

 なぜそこで言葉を詰まらせるのか。三蔵さんは、なにやらいじいじとし始めて、

 

「だって……あたし……まだ旅の途中だし……この先すっごく遠いし……」

 

 ――ああ。

 

「食べ物もないし……ぽんぽんぎゃーてーだし……諸行ムジョーだし……とにかく弟子が必要なの!」

 

 ――心細いんですね。

 

 なんというか悪い人ではないようだと思う。助けてくれたし、なんというか可愛らしい人だ。ほっとけないというか。

 

「……実を言うとね。あたしもぼんやりと記憶がある。天竺を目指す旅を、一度経験している気がする。けど、具体的に思い出せないの。あなたが此処では右も左もわからないように。とても奇妙だけれど、あなたとあたしにとってこれは縁があり、意味のあることだと思う。西天を目指す旅は、御仏の試練。だとしたら仏様は応えてはくれない。何もしない。

 たぶん、この出会いは俱有因なんだわ。あなたをカルデア? へ送り返すこと――それがあたしに与えられた試練であり、あなたへの利益よ。だから……ね……だからあたしを師匠と呼ぶように!」

 

 師匠は、かぶるな。だったら――

 

「わかった、お師さん!」

「うっ、そんな風に呼ばれたこともあったような……ううん。ちゃんと師匠と呼びなさいっての!」

「いえ、かぶるんで。かぶると面倒くさいというかあのひと割と拗ねそうな気がするんで」

「――まあいいわ。ついてきてくれるんでしょ?」

「もちろん」

 

 そう言うと華もほころぶ大笑顔。太陽のような人だと思った。この人はまるで太陽のように全てを温かく照らしてくれるような人だと。

 

「そうと決まれば長いは無用! いざ旅立たん西天の地! 遥かなる天竺へ! GO WEST! GO!!」

「ちょ、待って、そっち違う逆、逆!?」

「…………」

 

 先が思いやられるなぁ……。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 お師さんと二人旅。西へ西へ。とりあえずお師さんに任せているとあっちへ行き、こっちへ行きになるので、オレが先導する羽目に。

 道がわからないのに先導とはどうすればいいのやらと思ったけれど、西へ行けばいいのなら太陽を見ながら街道を行けば良い。

 

 特異点を超えてきた経験と旅の経験が役に立つ役に立つ。ただ、それだけではどうにも済まない。

 

「お師さんお師さん」

「なあに一番弟子?」

「とりあえず、この化け物の群れはどうしましょう」

 

 何やらお師さんを狙ったであろう妖魔? の群れが目の前にずらり。ここにいるのはオレとお師さんだけ。

 

「お師さんの力みたいなー、なんて……」

「一番弟子の力がみたいなー、なんて……」

「「…………」」

「オレ戦えないよ!?」

「あたし、あんな群れとか怖いんだけど!?」

 

 ――ああ、クソ!

 

「逃げろおおおおおお!?」

 

 三十六計逃げるに如かず。とにかく逃げろ逃げろ。

 

「弟子を探しましょう!」

 

 何とか妖魔の群れを撒いてのお師さんの一言。

 

「賛成。でも何か当てが?」

「あるわ! 思い出してきたの。あたしには三人の弟子がいたんだから」

「ああ、猿と豚とカッパですね」

「カッパ……? カッパ……って……カパ、カパパ……知らない」

 

 沙悟浄ってかっぱじゃなかったっけ?

 

「でもそう、猿と言えば思い出したわ、孫、孫悟空よ! 頼れる一番弟子!」

 

 ――どうせオレは頼りない一番弟子ですよー。

 

「でも、問題ね。弟子が誰もいないわ」

「その代わりオレはいますけどね」

「……………………。い、いえ、違うわ。舞い上がってないから。ないから――あとあまり無理はしないこと。まだ入門したばかりなんだから。しっかりと御仏に祈りを欠かさずに。天竺への旅はジャクニクキョウショクよ。油断すると妖魔に頭からガブリされちゃうんだから!」

 

 さっきされかけたのでそれは理解している。どう考えてもあの妖魔たちはサーヴァントとまではいかないが、それなりに強い。

 お師さんもそれなりに強いけれど、あの数を相手には出来なさそうであるし、オレは論外。ここは味方を集めるのがいいと思われる。

 

「ブヒー、ブヒー」

 

 さてー、どこかで聞いたことのある声が聞こえるなー。ブヒーって鳴き声になって。キコエルナー。

 

「……これは!? どこからか憐れな豚ヤロウのボイスが!」

「ああー、気がついちゃったよ」

 

 どこかで聞いたようなブタの鳴き声の真似。しかも全然似せる気のない豚ボイス。どこから聞こえてきているのかさぐらずともよくわかる。

 あの妙に大きく目立つ岩の下から聞こえている。

 

「僕はブヒるよ~。かなりブヒる!」

「やっぱりダビデか……」

 

 やっぱりそこにいたのはダビデだった。

 

「彼はダビデ……というの? とりあえず岩の下敷き!」

「いやいや、僕はかっこいい猪八戒さ。この場所ではね。そういうことになっているらしい。本当どういうわけなのやら。僕はダ・ヴィンチちゃんの実験の結果だと思うけれどね。タイミングが悪いというか。いや、或いはいいのかな? まあ、何はともあれありがたいことだね、法師のおかげでマスターも大丈夫そうだし」

 

 どういうわけか彼もオレと一緒に巻き込まれているらしい。

 

「……そう……とにかく助け出すわね!」

 

 ――観自在菩薩。行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空。度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。

 

 御仏パワーによって岩は消し飛んだ。

 

「ふぅ、助かった……ありがとう。自分ではどうにもならず、獣の餌になるところだった。それにしても君、アビジャク、アビジャクじゃないか! 噂に違わぬお美しい出で立ち。ドレスがまたつややかで、婚礼の技に相応しい。この出会いを予見して? なら話は早い僕と結婚しない?」

「まっ、なんて淫蕩なのかしら! それとこれは如来さまからもらった大切な袈裟よ。う、ウェディングドレスと一緒にしないで?」

「こいつの話は、無視してください。それよりダビデ、よかったよ会えて」

「うん。僕もさ、マスター。いやぁ、いろいろと心配したよー。超心配したよー。資産運用の決済をしてもらおうと思ったらこんなところにいるんだもの! まあ、でもここはこうだろうね! 僕は猪八戒ダビデ! 麗しき黒絹の髪のひと。喜んで弟子になりましょう。だから、僕の妻にならない?」

「仏門に入ろうって人がなにいってんだ」

 

 ともかくとしてこうやってダビデが仲間になってくれたのは心強い。

 

「ふふ、喜ぶのはまだ早い。なにせ、そちらの岩陰にもう一人心強い弟子役がいるからね。僕みたく鳴くのはプライドが許さなかったらしい。自尊心じゃ飯は食べられないのにね」

 

 もっとプライドを持ってほしいと思う。ただ、こんなな癖にまじめな時はイケメンなのだから、手に追えないのだ。

 

「話はあとよ! そこへ案内して!」

「ええ、こっちですよ」

 

 そして、岩陰で下敷きになっていた李書文を助け出した。

 

「書文さん、なんて、早い再会」

「苦役よりの解放、痛み入る。李書文と申す。つまらぬ刺客の徒だ。この地では三蔵の三番弟子、沙悟浄……となるようだな。以後なんなりと申しつけられい」

「なんてあっさりとした弟子入り」

「なに、サーヴァントも、歌舞に興ずる京劇役者もどこに違いがあるというのか。変わりあるまい。知徳優れ子名高き高僧の頼み。どうして断れようか。何より。幼き日にお伽噺で読んだ三蔵法師殿にこうして直にお目にかかれるとは、まさしく幸甚の至り」

「あ、そんなに褒めないで。お師さん調子乗るから」

 

 今もすごい褒められてデレデレしてるし。

 

「すごい心強いわ!」

「師の為ならば、幾人とて敵の素首ねじ切って首級を捧げる次第」

「だ、だめよ、無駄な殺生は禁止、禁止!!」

「では、一番弟子(マスター)に指示を任せよう」

 

 ともかくとして、これで弟子もそろった。

 

「さあ、行くわよお、いざ、西天! いざ天竺!!」

 

 こうしてオレたちの西への旅は始まった――。

 




強化週間終了ということで、ゆっくり更新していこうと思います。

なお、この三蔵イベと並行してカルデアではサーヴァントたちの霊基強化やら再臨が行われる予定です。
独自設定のオンパレードになる予定なので、生暖かい目で見てね。

三蔵イベのあとは個人的に金時さんの力がほしいというか足がほしいので金時さぁーんをお呼びするために羅生門イベと鬼ヶ島イベをやりたいと思います。

六章はその後にしたいと思います。

最近、ツイッターの影響により金時×玉藻にハマってます。

あとマテリアル読むのとても楽しいです。

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