「やぁああああ!!」
マシュの気合いが攻撃を防ぐ。苛烈さを増すクー・フーリンの攻撃を受け止める。大地に根を張るかのような防御。
クー・フーリンはそこに白亜の城を幻視する。
「――ハッ まだだ!! そんなんで世界が救えると思うなよ嬢ちゃん!! いつも言ってんだろうが、腰を落とせってな!!」
解放される原初の18のルーン。
「
北欧の大神オーディンが手にしたルーンの力が一時的ではあるが解放される。莫大な魔力の波動がたたきつけられ、あらゆる全ての守りと攻勢の加護が消えせる。
「くぅう、舐めるな、馬鹿、弟子!!」
それでもなおスカサハは踏み出す。殺されることも良しとした。だが、オマエには殺されてやらない。
「刺し穿つ――」
ゲイ・ボルク――!
腕に構えたその一撃はしかして同質の爪にて防がれる。
「――」
だが、それでいい。本来の投擲法は――。
「足だ!!」
蹴り上げられた朱の魔槍。上空で三十に分裂し降り注ぐ。
「死ぬ気か、テメェ」
「私が死ぬわけがないだろうが、馬鹿弟子――」
降り注ぐ槍はクー・フーリンにのみ突き刺さる。投擲者を殺す槍などなし。そも、これで死ねるのであればとっくの昔に死んでいる。
これで決めるのではなくこれは単純に制限するだけ――。
「これで、最後だ。令呪を以て命じる――」
最後の令呪を切る。これが最後ゆえに。
「クー・フーリンを救え!!」
「心得た――」
「はい」
ラーマとシータ。同一の存在。そこに存在するのは同じ宝具。同一存在ゆえに宝具も同一であれば、力も堕ちている現状において、二人同時に放てばそれはただ一つ最強の一を体現する。
シータが持つ弓にラーマの持つ剣をつがえる。一人では足りぬ。だから二人で。
「ラーマ様」
「なんだ」
「こうやってともに戦えたこと嬉しく思います」
「ああ、そうだな。マスターには感謝してもしきれない」
「だから――」
「ああ、だから――」
この一撃はマスターが誇れるものに。自らの命を賭けた彼に報いるために、今ここに最強の一撃を顕現させる。
「これこそが羅刹王すら屈した不滅の刃」
謳いあげるは伝説。
朗々とシータとラーマが謳いあげる愛の
魔性を滅ぼす絶対の刃を弓に番える。
「出会えぬ我らを再び交わらせてくれた我らが主の為」
出会えたとて別れてしまう。それを良しとして、言葉を交わすだけで良いと思った。
だが、それでは駄目だとその身を厭わず
かつては愛する者の為。今は、彼の為に。
「「今こそ、我らは、魔を滅ぼす刃を放つ――」」
魔を滅し、今こそ、その願いのままに彼を救おう。
受けるが良い。
これこそが、創造神ブラフマーが持つ必殺の投擲武器。
「「――羅刹を穿つ不滅《ブラフマーストラ》!!!!」」
その一撃はまさしく羅刹王を屠った一撃にほかならず、現状制限された動きによって、その一撃を躱すことなどできはしない。
ゆえに――
「全種開放――
真っ向から打ち砕くべく自らの宝具を全開放する。
ぶつかり合う力と力。
「おぉおおおおぉおおお――!!」
だが、負けるはずなどない。ここに至るまですべての者たちの意思を手渡されているのだ。ここで負けるはずなどない。
「――はは」
ブラフマーストラが彼を貫く瞬間、確かにクー・フーリンは笑ったような気がした。
「霊基の崩壊を確認! クー・フーリンの現界が崩れます」
「勝った……」
「ああ、これで終わりだ。だが、最後に、聖杯を守護する者を呼ばなくちゃな。気張れよマスター、これが最後だ。なに、あんたなら大丈夫さ。こんなオレを倒せたんだからな」
顕現せよ、牢記せよ。
これに至るは、七十二柱の魔神なり!
「く、まだあるとは!」
「クー・フーリン強すぎたか」
「まったく馬鹿弟子、なぜそれだけできて殺しに来ない」
「くそ!」
疲弊しすぎた。これ以上の戦闘は厳しい。
「いいえ、まだです」
その時、天使の声が響いた。
「我はすべて毒あるものを、害あるものを絶つ――ナイチンゲール・プレッジ!」
彼女の宝具が展開される。あらゆる傷がふさがる。
「さあ、マスター! 救命の時間です。傷は私が癒します。何もかも全て元通りにします。何度でも何度でも何度でも。理不尽を踏みにじり、絶望を踏破して。そのために、私の全てを捧げましょう」
「ナイチンゲール!」
同時に顕現する魔神柱。
「七十二柱の魔神が一柱。序列三十八。軍魔ハルファス」
この世から戦いが消えることはない。
この世から武器が消えることはない。
魔神の言葉が響く。それは人間はそういうものだと言っているようであった。
「いいえ! いいえ! 否と幾千幾万と叫びましょう! 失われた命より、救われる命の方が多くなったとき、螺旋の闘争はいつか終端を迎えるはず! いや、迎えさせる。それこそがサーヴァントたる私の使命。だから、この世界から退くが良い魔神。千度万回死のうが、私は諦めるものか!」
そうだ。あきらめるものか。たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも。たとえどれほどの絶望が待ち受けようともマシュがいる。
だから、絶対にあきらめない。彼女がいるからオレは前に進める。いいや、彼女だけじゃない。散っていった仲間たち、ここにいる仲間たち。みんながいるからオレは前に進める。
前に進み続ける。
「闘争を与える魔神なんかに絶対に負けない!!」
決死の覚悟で向かう。
宝具も撃ち尽くし魔力も切れかけている。だが、それでも必ず勝つと誓って前へせめ立てる。
「ボクに任せて!! クー・フーリン相手にはほとんどなにもできなかったけど!! キミの真の力を見せてみろ――
放たれるアストルフォの宝具。ヒポグリフの力を完全開放。そのまま魔神の攻撃すらものともせずに突撃する。大きくその身体を揺るがし、霊基に罅を入れることになる。
それでもなおアストルフォは歯を食いしばり突撃を続ける。魔神の攻撃にあらゆる全てを持っていかれそうになってもなお、負けるかと。
なぜならば、
「ボクだって、英雄なんだ!!」
だが――。
「ああ、くそ……やっぱり、弱いな、ボクは……」
突き穿つには少しだけ足りない。
力が抜けて落ちる身体。それを掴んだのは――。
「いや、そうでもない。先の一撃、実に見事だった。ならば、こそ、我が槍は是、正に一撃必倒。神槍と謳われたこの槍に一切の矛盾なし――!!」
現れる男の姿。
アストルフォ一人では足りなかった最後の一撃。そこに書文の極められた神の槍が放たれる。
それは魔神柱を突き穿ち、その身体を消滅させた。
「かっこよすぎ」
「うむ、まったくだ」
「ラーマ様の方がかっこいいです!」
「うむ、まあ、今回はまこといいところ取られた」
だが、倒せた。それによって聖杯の回収も終わった。
「聖杯、回収……ですが、犠牲も大きいものになってしまいました」
「何を言っておる。我らはサーヴァント、戦うために召喚され、救うために戦うが定めだ」
まして、時代規模の戦い。途中で倒れる無念はあるだろう。だが、戦いそのものを忌避する者などいない。ただ笑って見送ればいいのだ。
そうラーマはマシュに言った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はー、疲れた!」
「だな。しかし、まあ、我らがマスターもようやるわ。ここで五つ目だろ。どんだけ修羅場くぐってんだ」
五つ目。数えきれないほどの修羅場をくぐってきたのだろう。きっと恐ろしいことも心を砕かれるような出来事もあったに違いない。
だが、それでも届かぬ星に手を伸ばし続ける様は実に好ましい。
「さて、じゃあ
「おーう」
エリザベートは一足先に帰った。カルデアでマスターと合流することだろう。
「俺もまた呼ばれるのかね。時代と場所に応じた効果的なトラップで勉強しておくか」
次はいつ呼ばれるかはわからないが、きっとあのマスターはまた呼ぶだろう。その時にもきっちりと活躍するためにロビンフッドは今日も罠について学ぶ。
「やれやれオジサンも疲れちゃったね。さすがに」
「ははは――そうですな。私も疲れました」
「まあ、こんどもまた呼ばれるならこっち側がいいねぇ」
「私もです」
ヘクトールとレオニダスも満足げに消える。
「いやー、疲れたのうサンタ」
「…………帰ってターキーでも食べましょう」
「そうじゃのう。帰ろう帰ろう。そんでまた世界を救いに出かけるとしよう。どうせマスターも勝ったんじゃしな」
「…………」
サンタとノッブもまたカルデアへ帰還する。
「ミスタ・エジソン。良かったわね。世界は救われたわ」
「うむ……そうだな。これで良かったのだ。我々は
「……いいんじゃないかしら? 結果的にそうやって抵抗したからこそ彼らが駆けつけてくれるまでこの国は、保たれた。過程を間違えるのはいつものこと。それでも正解を拾い上げるのが、エジソンでしょう?」
「……そうだな」
納得したところにやってきていつものように馬鹿にしたような言葉を吐くのはこの男だ。
「――ハッ、これだから実戦派の凡骨は。理論もわからないまま、闇雲に挑むから、無駄な苦労を重ねるしかないのだ」
「……机上の空論というのだったかな。誰かさんのようなタイプは」
「あん?」
「なんだ?」
「あなたたち還る時くらいは仲良くなさいな」
でも楽しかった。それでいい。縁は繋がったあとはいつかまた召喚される時が来るだろう。できることなら、あの怖がりで見栄っ張りで、それでいて頑固で誰よりも優しい男の子に召喚されるのが良いなと思う。
それはこの場にいる誰もが思うことだった。
そして、誰もが座に還る。次に呼ばれて、その人の力となって戦う時を夢見ながら――。
願わくば、やはり震えながら戦う優しい男の子の力になりたいと願いながら――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「たはー、情けないなぁボク」
「そうでもないよ」
「うむ。あの一撃は実に見事であった。そうでなければ儂の技でも届かぬからな」
「そっか――うん、マスター、ボクは君の役に立ったかい?」
「うん、とても」
アストルフォには随分と助けられた。いろんな意味で。なんかいろんな扉が開きそうになった気がするが。
「そっか、それならいいかー。あまり無理しないでね。それと、あまり悲しまないように。死んでいった人たちは確かに悲しいけれど、君はそれを背負いすぎる。耐えることも大事だけど、帰ったらちゃんと泣いたりするんだよ」
「わかってるよ」
「じゃあね――」
そう言ってアストルフォはこの時代から還っていった。偉大な英雄。シャルルマーニの騎士。貴方には助けられた。
貴方の言葉を抱いて最後まで歩いて行こう。
「さて、スカサハ!!」
「応!」
「あ、やっぱり戦うんだ」
「そうだ。といってもほとんど力を使い果たしているからもう一撃のみだがな」
「私もそうだな。一撃だけ。その一撃を見届けよマスター」
「ああ、立会人は任せる」
ひゅうと風が吹き、清廉な気が立ち上っていく。荒々しくも静謐な武人の気。その武勇にどれほど助けられただろうか。
その知啓にどれほど教えられただろうか。彼らとの思い出を振り返りながら、掲げた手を振り下ろし勝負の開始を告げる。
「いざ尋常に――始め!!」
紛れもない武の頂きの一撃をその目に焼き付けた――。
「ナイチンゲールさん!」
「はい」
「もう少しで膝を突きそうになったとき、あなたの声が、わたしを立ち上がらせてくれました。ありがとうございます」
マシュがナイチンゲールに感謝の言葉を述べる。それはオレも同じだった。諦めかけたその時、ナイチンゲールの言葉が力をくれた。
「感謝は無用です。元より、そういう契約ではじまったものですから。治療は終わりました。ようやくです」
「君のおかげだよ」
「感謝は無用ですが、謹んで受け取りますマスター。その代わりといってはなんですが……どうか握手を。連れ添った患者が退院するとき、こうやって手を握り合うのが私のひそかな楽しみだったのです」
「もちろん、喜んで」
彼女の力強く優しい手を握る。
「ああそうだ――もしよければこの手袋をオレにくれないだろうか? あなたと過ごした記念に」
「ふふ、そうですね。どうぞ、いつまでも壮健で、私のマスター」
「いいところですまない。聖杯回収により、そろそろ時代の修正が始まるぞ」
ドクターが言ってくる。
「わかった。――ラーマ、シータ。ありがとう」
「それはこちらのセリフだマスター。再びこうやって二人寄り添うことができた。それだけでも十分すぎるほどだ」
「ええ、それもこれもマスターの献身のおかげです。我らはもう去りますが、どうかいつまでも愛する者と健やかに」
「ではなマスター――また会おう」
ラーマとシータが還っていった。
「彼らはまた再び出会えるでしょうか」
「ああ、きっといつか出会えるさ」
「そうですね。先輩――それでは、ナイチンゲールさん。わたしたちはこれで――」
「ミス・マシュ。その前に一つ。私の願いは世界中から病院をなくすこと。各家庭で充分な医療が得られることでした。百年たってもそれが果たされていないとは思いませんでしたが――それでも、私は確信していることが一つある。いつか、病気は根絶されるでしょう。絶望、怨嗟の内に亡くなる患者は存在しなくなる。自分の靴に接吻した兵士が、苦悶の内に死ぬのを看取ることもなくなるでしょう」
彼女はそのために戦ったのだ。それは今も、これからも変わらない。
「だから、貴女が後ろめたく思うことはありません。私は私の目的のために。貴女は貴女の目的のために。
――これからの時間を生き続けなさい」
「……はい。ありがとうございます、婦長」
「ミス・マシュ。夢と願いは違います。私の願いは夢ではありません、夢という単語にした瞬間、人はそれを遠くにあるものと勘違いしがちです。限りなく現実を睨み、数字を理解し、徹底的に戦ってこそ願ったものへ道は拓かれる。嗚咽を踏みにじり、諦めを叩き潰す。
――それが、人間に許された唯一の歩き方です」
その言葉を胸に刻もう。これからも戦いは続く。そんな時、歩き方がわからなくなったとしても、きっと歩いて行けると思うから。
「マスター。私は貴方に同志シドニー・ハーバートと等しい信を置いていますどうか、ミス・マシュへの助力を。貴方たちの進む道に、どうか光がありますように」
「うん、ありがとうナイチンゲール」
「では、さようなら。またお目にかかる日を、待ち望んでいます」
彼女が消えるのと同時にレイシフトが起動する。完全に彼女が消える前にオレたちは時代から切り離された。だから、手袋はまだここにある。
「……願ったものへの道は……戦ってこそ拓かれる。……」
「マシュ?」
「いえ、いろいろなことを思い出しまして」
「そっか。今回はどんな旅だった?」
「はい。とても良い旅だったかと」
レイシフトが終わる。
「――やあ、今回も何とか成功だったね」
これによってアメリカ合衆国という歴史に必要不可欠であろう国家が成立した。
「聖杯はこっちで保管しておくよ。まずは部屋に戻って一息だ。今後の方針はまた改めて伝えるからね。ああ、それとみんな帰ってきたのと、新しいお客さんが来ている」
「新しい?」
「ああ」
「サーヴァント、キャスター。……ジェロニモ。今度こそ、君の力となろう」
「ジェロニモ!」
新しい仲間にジェロニモが加わった。これからの特異点を巡る旅できっと力になってくれるだろう。
「ジェロニモさん、また会えてうれしいです」
「うむ。さあ、まずは再会を喜ぶよりも休むと良い。疲れただろう」
「はい」
マシュと二人廊下を歩く。
「先輩、一つ良いですか? 今回の旅も、悲しい出来事がたくさんありました。ですが、先ほども言いかけた通り、素晴らしい旅でした。不謹慎かもしれませんが、楽しいです、わたし。マスターとともに世界と次代を駆け巡り、様々な人間、そして英雄と出会う。今回はアメリカに行き、その土地の英雄であるジェロニモさんやビリーさんと出会いましたし……ナイチンゲールさんの凄まじい執念を見ることが出来ました。敵で会った方々も皆――良い悪いは別として、鮮烈な人ばかり」
それはきっとどんな魔術師であっても体験できなかった旅だ。
この旅は、決して歴史に残らない。オレとマシュの記憶にだけ刻まれる旅だ。
「うん、この思い出を大切にしたいな」
「はい、わたしもそう思います。それではわたしはここで。あ、疲れているからといってすぐに横になるのはダメですよ? まずはシャワーを浴びて、清姫さんにでもマッサージを頼んで身体をほぐしてから睡眠をとって下さい」
「ああ、マシュもお疲れさま」
「はい、次も是非よろしくお願いしますね、先輩」
その時、マシュがふらつく。
「マシュ?」
「あ、れ……?」
「フォウ?」
「せん、ぱ……? おかしい、な……わたし、立って――」
「……マシュ?」
「フォウ、フォウ、フォ――ウ!!」
マシュが倒れた。マシュが、倒れた。その事実をうまく認識できない。どさりと音がした。
「マシュ!!」
漸く駆け寄る。
「マシュ、マシュ!!」
名を呼ぶどんなに名を呼んでも応えてくれない。目を覚ましてはくれない。息は在る。だけど、応えてくれない――。
深い絶望が目の前に広がっているのを感じた。何が悪かった、何があった。なぜ気が付かなかった。あらゆる全てを見て来たんじゃないのか――。
一瞬にして後悔が駆け巡る。
「フォウ!!」
「そ、そうだ――だ、だれか、ドクターに、ど、ドクター!!」
フォウさんの一鳴きで正気に戻り、服を折りたたみマシュの枕にしてインバネスをかけて、ドクターを呼びに行く。
疲れはあるが必死に走った。
「ドクター! ドクター!!」
「どうしたんだい、そんなに血相変えて――」
「マシュが、マシュが」
「――落ち着くんだ」
「これが落ち着いていられるか! マシュが」
「いいから落ち着くんだ!!」
「――――っ」
ドクターの大きな声を初めて聴いた。冷や水を当てられたかのように頭が冷えていく。
「ごめん――でも落ち着いてくれ。何があったのかわからないと僕でもどうしようもない」
「…………マシュが、マシュが、倒れたんだ。オレ、どこで……」
「……マシュは? 医療チームを呼ぶ」
「こっちに……」
ドクターを伴ってマシュの下へ。
「……ゆっくりと、そうゆっくりと。すぐに精密検査を」
「はい」
医療チームに担架に乗せられてマシュは運ばれていく。
「……ドクター、ましゅ、は……」
「大丈夫だ」
「オレ……むり……」
「君のせいじゃない。軽く診察はした。君のせいじゃないことだけは確かだ。ほら、君も休んで。ひどい顔だ」
「……はい……」
マシュ、マシュマシュ、マシュ。
部屋にたどり着いてからも、ずっとマシュのことばかり考える。どうして気が付いてあげられなかったのかと後悔ばかりが心を満たしていく。
悲しくて、悲しすぎて涙すら出ない。どうすればいいのかわからない。何をしていいのかもわからない。何が悪かったのかもわからない。わからない、わからない、わからない。
「…………マシュ」
その名前を呼ぶ。ただ、呼ぶことしか、できない。マシュの声は聞こえない。先輩と呼んでくれた、後輩の声は――聞こえない。
視界がゆがむ。視界が反転する。
全てはそして、黒へ――。
長かった五章もこれにて終了です。お付き合いありがとうございました。
みなさんの感想があったからここまで来れたと思います。ありがとうございました。どうかこれからもよろしくお願いします。
とりあえず、五章を書くにあたりテーマとして設定したことは、このわちゃわちゃなサーヴァントたちによるストーリーの多少の変化とぐだ男の成長を見せたいということでした。
四章までは砕かれるだけのぐだ男もエドモンカウンセリングを経て成長しているのだと言いたくて、この五章で結構いろいろとやらせました。
圧縮もやりませんでしたからね。いや、長かった。
成長したとは言え度、エドモンのいつか世界を救うだろうという言葉からぐだ男にはいろいろと焦りとかもあってそこら辺をナイチンゲールさんに諫めてもらうというのが大まかな内容の展望でしたね。
あとは書きながらというかでした。ただ意識したのは全員に見せ場をあげたいということでした。
戦闘にしろ、その他にしろ見せ場はあげたいなと。反省はやはりジキル博士かな。
彼はいろいろと悲しいことになってしまいましたが、彼の見せ場というかはぐだ男の代わりにリーダーをやれるというところ。
まともな常識人枠であり、サーヴァントではありますが、それなりにあの濃いサーヴァントをまとめることができるのではないかと思ったからですね。それは今回加入したジェロニモも言えます。
今後ぐだ男がいない場合のまとめ役としてはジキル博士とジェロニモの二枚体制になるのかなと思っています。
ただやはりキャラの数が増えると描写が足りないとかありますので頑張らねばいけませんね。大勢のキャラを動かすのはやはり疲れる仕事ではあります。
ちょうどいいので配布サーヴァントたちの役割を整理していきましょうか。
キャスニキ。兄貴枠。ダビデとともに気兼ねなくぐだ男と一緒にいろんなことができる悪友的な役ですが、ダビデと違うのは彼は兄貴というところ。何かあれば責任は兄貴が持つという感じですね。例えるなら一緒に覗きとかやるけど最後のストッパーでもあります。女の扱いとか人生経験からのアドバイスをしたり、戦士としての心構えやルーン魔術など兄貴としていろいろとぐだ男に教える役でもあります。
今回のオルタニキになってからの全力戦闘もこれからの厳しくなる戦いを予感してのことです。
ダビデは悪友。大学生のノリでぐだ男と一緒に馬鹿やれるのが彼です。ただし王でもあるため、時には真面目になってぐだ男を導けるという非常においしいポジジョンに納まっています。何よりこいつキャラ的にシリアスやってよしギャグやってよしとホントに使いやすいんですよ。
清姫。マスターラブ。狂化が抜けてすっかりと良妻になっていますが。やっぱり嘘は嫌い。ハーレムも良しですが、自分を見てほしいとは思っている。自分の何が悪かったのかをぐだ男に真正面からぶつかられて考え始めている。私の中ではマシュに次ぐヒロイン。水着は来てくれないので泣きたい。
ブーディカ。親戚のお姉さんであり、ぐだ男をいつも心配している優しいお姉さん。ガレット食べる? マシュや清姫にない母性パワーを持つカルデアのお姉さん担当。親戚のおばちゃんとか言ってはいけない。ガレット食べる?
エリちゃん。アイドル。ぐだ男が倒れた時はさすがにヤバイと思ったのか自分を顧みりだしたので、ガチのアイドルになれるかもしれない。個人的にエクストラを経由しているけど、ザビとの絡みはそこまでなかったという感じのふわっとした設定だから、デレても問題ない。
前向き系アイドル。後ろ向きが多い女性陣の中において前を向いてまっすぐ進もうとする頑張り屋さん。ただしそれでも過去はトラウマだったりする。
ノッブ。統治者枠にしてぐだぐだ枠。気張ることなくギャグ要員としてメタネタとかやれるのでコハエース出身は偉大。統治者でもあるので時々まじめになるとギャップでいい。なお本人はそのギャップ萌えを理解しているらしい。
サンタさん。サンタというかもうアルトリア・ペンドラゴン・オルタ。オルタの霊基を分けていないので原則同一人物。ただし槍オルタとは別人。厳しくぐだ男に接してぐだ男を甘やかさない厳しい王様。だが、その実結構心配性でツンデレな王様である。
暗式及び剣式。暗式は、言わずもがな。根が優しく面倒見が良い。女性にしては珍しい男性口調役。剣式、なんでもあり。根源接続なんていう設定を利用してそれはもう暴れてもらうことも可能だが、本当にそれは最終手段。割合動かしやすいもののキャラのセリフや性格などは気を遣う。
とりあえずこんな感じの役割です。
次に来るであろうベディさんですが、六章後に一緒に来る予定の純真無垢なリリィのお目付け役であり、いろいろと破天荒なカルデア組の中で苦労人枠に就任してもらう予定。
次回ですが、とりあえず三蔵ちゃんイベをやって三蔵ちゃんとのフラグを建設してから六章に行きたいと思います。
では、長くなりましたがまた次回。
お付き合いありがとうございました。