Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 25

「ハァ、ハァ、ハア……」

「――弔いの樹よ、牙を研げ! 祈りの木(イー・バウ)!!」

 

 ロビンの一撃ですら魔神柱には効果を及ぼさない。ノッブの固有結界の中であれは存在すら維持できないほど弱体化するはずなのだが、そうは問屋が卸さないのだろう。

 弱体化はするが、それほど弱まっているとは言えない。騎士王の一撃ですら決定的にはなりえない。

 

「マネージャー、水ちょうだい! 喉かれそう!」

「マネージャーって、俺かよ!? いやまあ、持ってますけどね!?」

「負けないんだから!」

「おー、おー、やる気だねお嬢さん、だったらオジサンも頑張らないとね――」

 

 槍を構える。標的確認、方位角固定――。

 

「貫きな――不毀の極槍(ドゥリンダナ・ビルム)!!」

 

 宝具の貫通力を重視した真名解放。貫通力だけを高めたそれはヘラクレスの試練すらも突破し、それごとアステリオスすらも貫く。

 だが、その一撃すら魔神柱には通用しない。

 

「おいおい、そりゃないぜ――」

「……エジソン、ミスタ・エジソン」

 

 それを見てエレナがエジソンへと言葉を放つ。

 

「わかっているでしょう。立ちなさい。立って、戦いなさい」

 

 それは激励だ。

 

「あなた、アメリカ人じゃないの? 剣の代わりに斧と銃を手にした開拓者じゃないの?」

 

 神秘を信じながらもその力に縋ることを否定した男。それがこんなところで神秘に負けていいのか。

 

「あなたは、未知を拒絶し、未来を望むのでしょう。さあ、だから――」

 

 その時、エリザベートに危機が迫る。

 

「あ、ヤバ――」

「おい、お嬢!?」

 

 その時、雷光が爆ぜた。

 

「あれ、(アタシ)、無事?」

「――立って、戦うことのなんと難しいことか」

「そうね、難しいわよね」

 

 立って戦うことは難しい。一度膝を屈してしまえばそれを持ち上げることは、戦う決意をした以上の勇気が必要だ。

 だが、人間は膝を屈してもいつかは必ず立ち上がる。その数多の絶望を踏み越える者こそ英雄。

 

「すまない小さなお嬢さん。君にばかり負担を強いるなどアメリカ人の名折れ! ふはははは、見せてくれよう! 真・発明王の雄姿!! W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!」

 

 それは彼の三大発明である電球、蓄音機、映写機による幻想支配宝具。闇を照らし、ありのままの音を写し取り、現実をありのままに映し出すことによる世界信仰強奪。

 隠されていたからこそ意味を持っていたものを暴きたて、エネルギーでは計れないものを零に固定し、民衆からの信仰を存在しないと無へと貶める。

 

 これはそういう宝具。彼の宝具が輝き、魔神柱に僅かならもダメージを与える。

 

「すごい」

「ふははは、そうだろうそうだろう!」

「それがあれば、(アタシ)のライブがより一層輝きそう!」

「……そういう使い方は想定してなかったな……」

「エジソンは立ってくれた。でも、このまま戦ったとしてもあと何分もつかしらね」

 

 もう一つ、何か決定的な何かがほしい。

 

 

 そうエレナが願ってた時。

 

 後方に座し苦渋の想いでヘルタースケルターを生み出し続けていたバベッジがどこかへと通信を送る。それが希望になると信じて。

 莫大な不安を抱きながら――。

 

 

「ガっ……」

 

 ロビンフッドが吹き飛ばされる。

 

「緑! ――ちぃ!」

 

 裸マントの信長も吹き飛ばされ。

 

「く――」

 

 騎士王が放つ極光も鈍りを見せる。

 

「回復を……きゃ!」

「く! さすがにこれほどの巨躯では気を叩き込むのも難しいな」

「皆、ここまでか……。せめて、私以外は撤退を――」

「してどーすんのよ馬鹿!」

 

 倒れたエリザベートが立ち上がる。

 

「そう、じゃ、まだ、まだよ」

「ああ、まだだ――」

「いかん、動くな、君たちはもうこれ以上は」

「脱走とか……叛逆とか、口答えとか! ソレ、(アタシ)が一番嫌いなモノ……だから!」

 

 まだ、やれる――。

 

 その言葉がエジソンを動かす。

 

「仕方あるまい! ブラヴァツキー! 彼らを頼む!!」

 

 宝具を暴走させる。それによって、自爆する。そうすれば彼らを逃がす時間を稼げると信じて。

 

「それでどれほど持つかもわからんぞ!」

「それで構わん」

「――チッ。行くよ、撤退だ、オジサンに続きな!」

「ちょ、離しなさいよ!」

 

 それでいいとエジソンは頷く。

 

「私には、彼らを――おまえたちをほんの少しでも長く守る義務があるのだ」

 

 たとえ一分であろうとも構わない。それはアメリカ大統領としてでもない。発明王だからではない。トーマス・アルバ・エジソンだからでもない。

 

「私が人間だからだ!」

 

 遠い未来。この土地を開き、この国を作り上げた人間として――

 

「その責務がある!!」

「駄目、エジソン!」

「ふふ、さらばだ友よ。何、案ずることはない。マスターを信じよ。彼ならば必ずや勝利を――」

 

 エジソンが爆発しようとしたその刹那。雷電がはじけた。

 それはいつか見た輝きだった。

 それは蒼色をした輝きだった。

 

 空の彼方に見えるもの。雷の輝き。

 その輝きの中で腕を組む男が一人。手には機械の篭手(マシンアーム)が。

 纏った服にわずかに紫電が迸る。

 彼は雷電だった。遠き空を駆ける光り輝く雷電であった。

 

「直流ばかりの凡骨よ、おまえのくそ情けない声を聞いた。ゆえに、私は――嫌がらせのために――来たぞ。ははははははは!!」

 

 それは男の声だった。もっともエジソンが聞きたくない男の声だった。

 

「こ、この忌まわしい声と……無駄な高笑いは……まさか、まさか、おまえは!」

「そのまさか、だ! この真の天才、星を拓く使命を帯びたる我が名は――」

「すっとんきょう! ミスター・すっとんきょうかぁ――――!!」

「ニコラ・テスラである!」

 

 ニコラ・テスラ。雷電の男。ゼウスの雷霆を地上に顕した男。壮絶にして華麗なる叡智の魔人。

 

「うそ、ニコラ・テスラ!?」

「ぐ、ぬ、ぬぅぅぅぅ!! このタイミングでこの出現、いつもながら、なんと……なんと美味しい男なのだ貴様はァァアアア!」

「バベッジ卿に呼ばれたのだよ。貴様が大変そうだからとな」

「ぐぬぬぬうぅぅう!!! この私を助けてさぞいい気分だろうな!」

「ヴァカめ! 何度召喚されようとも、貴様など助けるものか! 私が救うのはこの時代であり――そして、借りを作った彼らだ」

 

 英国ではいろいろとあった。迷惑をかけたがゆえに、ここでその借りを返す。

 

「そこの旧き神代の遺物は、この私が拓いた雷電の力によって消えゆく定め。エジソン。貴様はただ、この大雷電の美しさに臥せるがいい……! はははははははははははははははははは!!」

「ええい、なんて無駄な高笑いだ。このために練習してきたとしか思えんが――ふざけるなテスラ! 貴様など、所詮は突出した異常者にすぎん」

 

 真の天才とはつまるところ、それを普及化したもの。つまりはエジソンである。それにエジソンは既婚者。テスラは独身。

 人類としての優劣でもエジソンが勝っている。

 

「――愚かな。私について行ける女がいなかっただけのこと。天才は生涯孤独。やはり貴様は凡骨だ」

「凡骨ではない! 社長である! 私は天才など見飽きている! ベルくんとかな!」

 

 天才たちをうまく使ってこその社長。

 

 それから始まるのはまったく子供じみた言い合いだ。まったくこれでは話が進まない。ただでさえ大ピンチには変わりないのだから、さっさと行動しなければならない。

 

「――はいはい、そこまで。どっちが天才とかどうでもいいから。天才なら、この状況をなんとかしてくれないかしら」

 

 そして、NGワードを言った。

 

「――いくら電気の力でも、この怪物を倒せはしないでしょう」

 

 その時、エレナにカチンという音が聞こえた気がした。

 

「――おいすっとんきょう」

「ふん、今回だけだ」

「あ、あれ、なんかもしかしてヤバイこと言ったかしら――」

 

 言った。だが、結果的にそれは世界を救うことになる。

 

「――人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!」

 

 それはいつか見た輝き。

 いと高き蒼穹で輝く神々の閃光。

 人々にもたらされし第二の力が今ここにその神鳴りを轟かせる。

 

「これこそが、新たなる人類の雷霆、その身で味わうが良い!!」

 

 悲劇(ゼツボウ)は終わりだ。

 世界の全てを満たす暗闇を輝ける英雄が幕を引く。

 これより始まるは英雄譚。

 二人の英雄が背負う雷霆に遍く全ては見果てぬ希望(ユメ)の先を見るのだ。

 

 だが、それでは足りぬ。

 

「なに――、加減が過ぎたか!」

「――フン。そんなだからロクに伝記も書いてもらえんのだ。私はマスターにすら尊敬されるほどの伝記が世界規模で流通しているぞ。それ行くぞ――」

「フン――」

 

 それは、至高にして究極。

 主神が持つべき神々の槍。

 世界を穿つ轟きの名を知るが良い。

 その名は雷電。その名は雷。

 

 これより先に、神はいない。

 

「ついて来れるか凡骨!」

「ほざけすっとんきょう、おまえがついてこい!!」

「――これより先に神話などありえない。不死の怪物だろうと未来永劫にわたって殺し続けることのできる雷をくれてやる」

「――宝具、起動!!」

 

 雷電よ降臨せよ。

 闇に閉ざされた世界に光よ降り注げ――。

 

 創世せよ、天に描いた光り輝く世界の夢を。

 

 これこそ、我らが夢見た無窮の輝きだ――。

 

「「――W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!

 ――人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!」」

 

 電子の檻。未来永劫、魔神柱を封じ込める檻が完成する。

 あとは、旧き神話が、ことを為す――。

 

「――神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定」

 

 莫大な魔力(エーテル)を観測する。

 祈りとともにあふれ出すは神の破壊の序説。

 これより訪れるは神話の具現。

 

「魔力収束及び加速に必要な時間を推定」

 

 あらゆる全てのことごとくよ消え失せろという言葉。

 それは圧倒的な言葉だ。

 否、言葉などと生ぬるいものではない。これは命令だ。これこそが、世界の意志である。

 

 世界の意志が純度をあげて駆動する。

 

「――消費開始(カウントダウン)

 

 神々がもたらした破壊の力。

 世界を灰燼へと帰す理。

 七度世界を破壊することのできる神罰の執行がここに具現化する。

 

「さあ、今のうちに退避を」

 

 神話の終わりを告げる鐘の音が響く。それが止まる時、世界の破壊するほどのエネルギーが巻き起こるだろう。

 

「何しろ、この身を犠牲にしての一撃。手加減などできませんので」

「神代の……神造兵器……!?」

 

 理解した瞬間、全ての者が逃げだす。神代に作られた神の兵器が、その暴威を露わにしようとするのだ。誰もが逃げる。

 

「シヴァの怒りを以て、汝らの命を此処で絶つ――破壊神の手翳(パーシュパタ)!」

 

 己の霊基すらも顧みずその一撃は二十八の魔神柱を消し飛ばす。

 

「……うそ、やっちゃった……?」

「これが――せめてもの償いになるといいのですが。カルナ……そうか……おまえの気持ちが……今になって、やっと……」

 

 言葉と共に全てを出し尽くしたアルジュナは消滅した。

 

「勝った――」

「そのようだな」

「やったわよロビン!」

「……同じ弓兵(アーチャー)としては複雑な気分ですけどね。あー、世界広ぇなー」

 

 だが、勝った。それだけは確かだ。

 

「……ふむ。こちらの役割は果たした。儂は、あちらに行くとしよう」

 

 スカサハが死んでは困る。あちらの援護に行く。あわよくば強敵とやり合うことを目的に書文は駆ける。

 

「はっはっは――止めを刺したのは彼の宝具だが、それを押しとどめたのは私の電気技術だな」

「妄言も大概にするものだエジソン。貴様のはあくまでバックアップ、補助にすぎん。あの怪物を封じたのはニコラ・テスラの雷電だ。いや、或いは全力であれば大陸ごと消し飛ばせたぞ?」

「……ふうむ。反論しようと思えばできるが……。今の私は非常に気分がいい。そういうことにしておいてやろう」

「あん?」

「……なんだ、貴様。やるのか」

「――やるわけなかろう。凡骨如きの戯言に私が耳を貸すはずも――」

「おっと、手が滑った」

「おっと、電気が滑った」

「…………」

「…………」

 

 そうして始まる殴り合い。そんなこともできるのも戦争が終わったからだ。

 

「やれやれまったく元気だねぇ、オジサンすっかり疲れちゃったよ」

「……助かったわヘクトール。いろいろとね」

「…………そうかい。まあ、今回であいつらに借りを返せたし。オジサンもこれでいいかねぇ」

「まったくそんな風に言うのなら最初から素直に協力なさいよ」

「それもオジサンの性分でね」

「そう……」

 

 でも、とエレナは思う。それでもこうして勝てたのだと。

 ウィリアム・ハーストの記事でも、こんな冗談みたいな光景はなかっただろう。今、殴り合っている二人は同じ道を歩いているというのに、狭いから殴り合いをしてしまう。

 

 けれど、その成果を見ると良い。剣も取らず、ただ知恵だけで、全てを成し遂げた英雄の姿を。

 

「ったく、こりゃぁ、悲しいねぇ」

「いいえ、悲しくはないのですよ」

「なんだ、テメェ生きてやがったか守護の英雄」

「それは貴方もでしょうに竜殺しの英雄。なんとかギリギリ、また私が最後になってしまいました。――力の時代はとっくの昔に終わったのですよ。現代は計算と知恵の時代になった、ということです」

「それこそあんたの国からは遠いだろうに」

「何をおっしゃいますかスパルタにも知恵と計算はあるのですぞ!」

 

 前に進むということは何かを失うということ。

 華やかな英雄譚は消え失せて、残ったのは地味で面白みのない三流小説のような登場人物(ニンゲン)たち。名も知らぬ誰かの為に、自らの情熱でだけで思いもよらないことを引き起こす変態たちだ。

 

 だが、それでいいのだ。ただ一人、孤高に生きて、死後すらも殺して殺して殺す英霊なんてものは生まれなくていい。

 ただ誰かひとりでも多くの人間を幸せにできる者たちがいればいい。それはきっと英雄なんていうものよりもはるかに素晴らしいものだから。

 

「マスター、こっちはやったわ。だから、そっちも頑張って――」

 

 エレナの言葉が空へと上った。

 

 




北軍決着――。
テスラ登場は別世界のテスラをリスペクト。その他ネタを仕込みながら決着です。
あとはクー・フーリンを倒すだけ。

今日の十二時くらいに予約投稿しておきます。


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