Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 24

 異界化したホワイトハウス。悪趣味極まりないそこ。足を踏み入れればそこにはクー・フーリンと女王メイヴがいる。

 ここが目的地。ようやくたどり着いた最終決戦の広場だ。

 

「……クー・フーリン……」

「女王メイヴ……」

「ちょっと、そこのデミ・サーヴァント。人の名前を気安く呼ぶものではなくてよ? 気分が悪いから殺しても構わないかしら」

 

 女王から放たれる邪悪な波動。このホワイトハウスを異界化させたそれと同質のそれ。ここは彼女の願いの園。彼女が願ったからこそ生まれた光景。

 こここそが彼女の世界。聖杯に願い、ただただ王であれと愛した男を座らせる為の玉座。それが此処だ。

 

「退きなさい」

 

 だが、それでもナイチンゲールは退くことはない。真っ向からその波動を受けながら立ち向かう。そこにあるのはただの意志だ。

 必ずや治療するという意志。その全てはメイヴではなくクー・フーリンへとまっすぐに向けられている。

 

「もう一度言います。退きなさい。あなたの邪悪は生まれついてのもの。健康優良児そのものです」

「は?」

 

 この女は何を言っているのだろう。メイヴが理解できないでいると。

 

「退け、メイヴ。そいつはオレに用があるらしい」

「……クーちゃんをどうする気」

「どうするもこうするも。私は看護師です。ただ看護師としての役割を全うするだけ」

 

 そうただ、治療する。それだけだ。単純な理屈。ゆえに、その意志は鋼だ。

 だからこそ、クー・フーリンの理屈も単純だ。敵だから殺す。看護師だろうが何だろうが、それが敵であるならば撃滅する。

 

「どうぞご自由に」

 

 矛盾しているが、ナイチンゲールがクー・フーリンを治療する。クー・フーリンがナイチンゲールを殺害する。その在り方は、妥当だ。

 

「ただ、一言だけ。あなたは病気です(・・・・・・・・)。自害するか、敗北することをお勧めします」

 

 相変わらず言っていることがめちゃくちゃだ。殺してでも治す。その矛盾こそがナイチンゲールが狂っている証拠。静かに狂った鋼の天使だ。

 それは治療機械。ただ全てを治療するだけの機械。それは狂っている。歪んでいる。ひどくいびつで人間として破たんしている。

 

 だが、彼女はそれでよかったのだ。彼女の体は鉄で、鉄の意志で駆動する治療機械。それでよかったのだ。ただ広めることが出来ればよかった。

 それこそが彼女の覇道。殺してでも治す。治療することの喜びを伝える。快癒する歓喜を伝える。その全てがあの世界には必要だったのだ。

 

 全てを擲ったとしてそこに後悔などありはしない。

 

 だが、目の前の患者(クーちゃん)はどうだ。王という機構の中に身を置かなければ。愉悦を封じて機械のようにならなければ王として在れない。

 それはナイチンゲールよりも歪だ。歪んでいる。ゆえに、彼女は問うのだ。

 

「この支配に、必要性はあるのですか?」

 

 未来への展望は? 行きつく果てはあるのか。

 

 全ての行動原理たる目的。いわば夢、野望、求道、王道、覇道。あらゆる道を進むとしてその行く末は必ずや未来へつながっている。

 それがなければおかしいのだ。例えば王になりたいという願いがあったとして、それが目的であるならばその未来は王となり支配して、どうするかという展望を必ずや持つものだ。

 

 だが――。

 

「さてな」

 

 この男にはそれがない。ゆえに病だ。

 

「だから貴方は私とは違う。私の血は夢の為に熱く滾る。貴方の血は野望の為に冷えて濁る。それは病です。私に治療させなさい、クー・フーリン。私は死んでも、貴方を治療しなければならない。何より――マスターが貴方の帰還を待っている」

 

 だから治療させろ。そんな理屈。そんな言葉。しかし、

 

「……話はそれで終わりか? 突拍子もない話で聞き入っちまった。なるほど病か。病気なんてもんにはかかずらったことはなかったから、目から鱗だ。確かに、治療を受けりゃ正気に戻るのかもなァ――だが、そうは問屋がおろさねぇ」

「――――っ!」

 

 聖杯から汲みだされた願いは強い。それをどうにかしたいのならば推し通れ。それが戦場の習わし、ケルトの習わし。

 

「行くわよ、クーちゃん。我こそはコノートの女王メイヴ! 貴方たちなんかに遅れはとらない!」

 

 敵が来る。

 

「行くぞ!」

「ああ、マスター、指示を。――余はコサラの王ラーマ。これは志半ばにして倒れた者たちから手渡された使命である」

「その妻シータ」

「おまえたちが世界を滅ぼすものである限り――余の戦意、余の闘志に揺らぎはない」

 

 戦端が開かれる。ここから始まるは最後の戦。最終決戦。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「オラァ!!」

 

 振るわれる剛槍。強大な力にて振るわれる槍の一撃をマシュは受ける。

 

「くぅううぅ!!」

 

 その一撃は李書文のように流麗なそれではない。スカサハのように極まったそれではあるものの、そこに存在するのはただ敵を滅ぼすという必滅の意思だけ。

 滅尽滅相。ただ敵を廃絶するという強大な意志が乗っている。そのために並みのサーヴァントでは受けることすらできないだろう。

 

 だが、マシュは受けた。シールダーというエクストラクラスだからというわけではない。彼女はただ守りたい一心でその盾を振るう。

 その意思に盾は応えてくれる。宝具の名すらもわからぬというのに、盾は砕けず、マシュもまたただまっすぐに立ってその攻撃を受け続ける。

 

 攻撃を防げば次はこちらの攻撃だと言わんばかりにラーマが走り込む。卓越した武術によって放たれる剣技は槍技に負けておらず攻撃をマシュが防ぎ、彼が攻撃を放つ。

 

「ぐっ――」

 

 クー・フーリンですら押すことができる。だがもっともその趨勢に関わっているのは――。

 

「上段からの突き入れ。――ルーン。投擲。される前に潰せ!」

 

 的確な指示の有無だ。まるで行動を先読みしているかのような――クー・フーリンの思考を先読みしたかのような指示によりサーヴァントたちを動かすことによってクー・フーリンを封じる。

 

 ――わかる、おまえがどう動くのか。

 

 魔術師であったころの彼とどれほどの時を過ごしただろうか。槍を持った彼を知りはしない。だが、彼の夢の中で彼の戦いを知っている。

 サーヴァントの生涯をマスターは夢として見ることがある。そこで見た彼の生きざま、彼の規格外さ。ゆえに一切合切把握している。

 

 彼の全てを把握して狂った王としての側面を今、目の前で見ながら情報に加えていく。その精度はもはやある種の未来予知にすら届こうとしている。

 スカサハは思う。

 

 ――今、どんなにすごいことをしているかわかっているのだろうか。なあ、マスター。

 

 数多の特異点を超えて来た。その中で培われていった直感、心眼、あらゆる戦闘眼。彼の中にあった才能が、特異点を超えるうちに開花していった。

 

「スカサハ師匠!!」

「心得た!」

「チ、ィ――!!」

 

 放たれる槍の一撃。それをクー・フーリンはそれを躱すだろう。弱ったスカサハ師匠の一撃に当たるほどクー・フーリンは弱くない。

 ゆえに避けたその場所にナイチンゲールの拳が入る。まるで吸い込まれるように直撃する彼女の拳。轟音と共に吹き飛ぶ。

 

「マシュ!」

「はい、先輩!!」

 

 同時に突っ込むのはマシュ。盾を構えてまっすぐに放たれる槍の投擲を盾で防ぐ。だが、その威力を殺しきることはできずに吹き飛ばされる。

 持ち上がる盾。その下から飛び出すラーマとスカサハ。盾の陰に隠れて見えなかった。攻撃を放った瞬間だ。槍は遠い。戻るにはまだ時間がかかる。

 

「ルーン魔術だ。スカサハ師匠!!」

「応!!」

 

 ならば使うのはルーン。しかし、それも予測済み。スカサハのルーンがクー・フーリンのルーンによる魔術の効果の大半を消し去る。

 

「そこだ――」

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 魔王ラーヴァナを倒すために、ラーマが生まれた時から身につけていた不滅の刃が投擲される。それは魔性の存在に絶大な効果を及ぼす刃だ。

 

「クラァァ!!」

 

 投擲される死棘の魔槍。

 

「チィ――」

 

 全力で投擲された魔の槍はブラフマーストラに匹敵し、これを打ち落とす。だが、これは好機。一気呵成に攻め立てる。

 

「ブーディカさん!」

「わかった!」

 

 メイヴの鞭を盾で防ぎ剣で切り付ける。それで距離をとるなら彼女の約束されざる勝利の剣より放たれる魔力塊が打ち出される。

 それは小ぶりであり、威力もサーヴァントを一撃必殺とは行かないが連発が可能だ。また真名を解放すれば、複数の魔力塊を同時に放つことができる。

 

 連続で放たれる魔力塊。それをメイヴは防ぐ。防がざるを得ない。なぜならば、防ぐ以外に方法がないようにしているからだ。相手を観察し避ける方向を予測してそこにあらかじめ魔力塊を放つ。

 そうすることによって、相手が防がざるを得なくする。必然的に足は止まる。一度止めてしまえばアストルフォが敏捷性を活かして近づき、触れれば転倒によって転倒させる。

 

 一時的に霊体化した彼女の両足これで機動力は完全に封じた。そこをダビデの必中が穿つと同時に――。

 

燔祭の火焔(サクリファイス)――神の意にて焼き尽くされると良いよ、美しい女王。美しいから妻に迎えたいけど、世界の為だからね次の機会にするよ」

 

 ダビデが宝具を発動する。メイヴの前に香炉の幻が現れる。薫香がたかれ、紫の煙がメイヴを取り巻いた。それで終わりではない、シナイの山を思わせる雷雲が立ち込める。

 轟音の鳴りは神の怒りを示していた。天より遣わされる業火がメイヴへ穿たれる。神の意に従わぬ全てを焼き尽くす業火は祭壇を形成し、その中のメイヴを焼き尽くしていく。血液すら残しはしない。

 

「あ――く――」

 

 それにはクー・フーリンも戦闘を止めた。

 

「……チッ、酷いありさまだなメイヴ」

「ええ、クーちゃん、私、今にも死にそうよ。でも、役割は果たしたの……。本当、本当よ。……褒めて、くれる?」

「――そうだな。おまえさんにしては、よくやった。女王として国を守る。やればできる女だよ、おまえは」

 

 その言葉を聞いて死にそうなメイヴは表情をほころばせた。やっと悲願がかなったとでも言わんばかりの笑顔を浮かべる。

 

「……うれしい。私、その一言が聞きたかったの」

 

 その様は恋する乙女そのものだった。ただそれだけを願って、それだけで救われた。ゆえに、彼女の願いは今まさに成就した。

 

「やっと、幾星霜願い続けて、やっと……貴方は、私のものになってくれた」

 

 ゆえにもう何の憂いもなく、全てが終わるのだ。

 

「私、の最高傑作をご存じ?」

 

 メイヴの最高傑作?

 

「まさか――二十八人の戦士(クラン・カラティン)か!」

 

 ドクターの声とともに肯定という彼女の声が響く。

 それはかつて彼女が生み出した怪物の名。稀代の英雄クー・フーリンを殺すためだけの集合戦士。

 

「それがおまえの切り札か? ならば召喚してみせろ!」

 

 ラーマが猛る。たとえどのような化け物であろうとも倒して見せると言っている。

 その様をメイヴは笑う。ちゃんちゃらおかしいというように嗤う。

 

「違う、全然違う――」

 

 否定だった。それは否定の言葉だった。こちらに召喚はされない。ならば――。

 

「まさか、北部戦線に?」

「な、な、こんなことが可能なのか!?」

 

 ドクターの悲鳴のような声が響く。

 

「北部戦線に二十八体の魔神柱が確認された――」

 

 二十八人の戦士の枠に当てはめて無理やりに召喚された二十八柱の魔神柱。恐ろしいのはその存在ではなく、その存在すら召喚して見せる彼女の願い(イノリ)だった。

 その深度まさしく超級。クー・フーリンの為ならば自らの身すらも擲つという覚悟の証。それが二十八の魔神柱に繋がった。

 

「みんな――!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ――地獄が、広がっている。

 

「なに、……コレ……」

 

 目の前に広がる二十八の魔神柱。もはやその暴虐は単純な倍という話ではない。

 

「なんで、こんなのがこっちに来るのよ! 子イヌは!?」

「通信が来た。あっちは無事だ」

 

 つまりこれは北軍をすりつぶすために送られた敵ということになる。

 

「勝ち目はねえな。こいつぁ、魔神柱の集合体だ」

 

 サーヴァントの手に負える代物ではないとベオウルフが言う。二十八の魔神柱が融合したそれ。まさしく正しくそれは魔神だった。

 サーヴァントがどれほど集まろうとも勝つことなど不可能。逃げることすらも不可能。ここで全ては終わるのだ。

 

「終わりだ……」

「エジソン?」

「終わりだ! 見ろ、一体だけでもサーヴァント複数でかからねば決して倒せぬ相手が二十八体だ!」

「エジソン! 落ち着きなさい! あなたがパニックにならないで!」

「正義は……敗れるのか……」

 

 アレが動くだけでこちらはすりつぶされる。どうにもできはしない。

 

「少しだけ時間を稼ぎましょう」

「レオニダス一世……」

「なぁに、守ることは得意です。なに、敵は二十八体。十万人のペルシャ軍よりもマシだと私の計算がはじき出しました」

 

 嘘だと誰もがわかる。だが――。

 

「信じています。我々が犠牲になっている間に必ずや打開策を大統王がひねりだすことを――行くぞ、これが……スパルタだぁあ!!」

 

 兜を脱ぎ捨てレオニダスが駆ける。その背後に付き従うは、300の重装歩兵。かつてペルシアを相手に戦った決死の300人。

 

「――炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)ァァァッ!!!」

 

 天高らかに、炎を纏いし、紅蓮の兵隊がここに顕現する。

 その名はスパルタ。

 かつて、ペルシアの軍勢10万を相手に戦った至高の守護者の名なり――!!

 

「オオオオオオオオオオオォォォォオォォ!!!!」

 

 魔神柱とスパルタが激突する。

 もって数分だろう。だが、この数分が世界を救うことになると信じて彼は退くことはない。

 

「……ちょっと獅子頭!!」

「し、獅子頭? 獅子……獅子などどこに……あ、私のことか! な、何かな角の生えたレディ?」

「あのねぇ――」

 

 すぅと息を吸い。

 

「泣き言言ってんじゃないわよ!!」

 

 マイクのハウリングが響く。

 

「うぉ、耳が!?」

「確かに大ピンチよ、でもねえ、あの子イヌだって、あそこで今まさにすりつぶされてる筋肉だって(アタシ)たちに託したのよ! ここを守り切れば(アタシ)たちの勝ち! ここで(アタシ)たちが諦めたら戦線は崩壊でしょ!?」

「そりゃそうだが、コイツはケタが違いすぎる。っつーか、オレたちの攻撃、効くのかアレ?」

「効果がなくても生きていれば、それでいいんでしょう! 誰が何と言おうが(アタシ)は負けない!

ううん、負けてなんかやるもんか!」

 

 宿敵(ともだち)だったネロを殺した奴らには絶対に負けてやらない。

 

「よく言った」

 

 漆黒の騎士王が言う。

 

「未だ体が動くのであれば戦うのみだ」

 

 黒の極光を聖剣が纏う。ここには聖剣がある。ならば勝利は約束されているのだ。敗北はありえない。

 

「おうおうよく言ったさすがはドラ娘じゃ」

 

 ここには信長もいる。第六天魔王が魔神柱なんぞに負けるはずもなし。何よりも。

 

「相性ゲーじゃ。あれは魔“神”柱なんじゃろう。このわしに神が殺せぬはずがないわ」

 

 展開される第六天魔王の心象。それこそが彼女が抱くもの。神仏を殺す地獄。

 

「あんたたち……」

「はいはい、なんか感極まっているのは良いが、そこどいとけ――」

「きゃぁ!?」

 

 雷撃が降り注ぐ。

 

「上は見ろよ。ったく」

「わ、わかってるわよ! 気を取り直して(アタシ)たちもやるわよ緑色!」

「おまえいい加減俺の名前覚えろよ! ――で、エジソンの旦那はどうするよ? 逃げるんなら逃げてもいいぜ?」

「………………」

 

 エジソンは動けない。

 

「――行くわよ、この(アタシ)の極上のナンバーでイカせてあげるわ!!!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「……逝くか」

「ええ、逝くわ。聖杯は貴方に託しますクー・フーリン。さようなら。いつか、まだ、どこかで――」

 

 そう笑ってメイヴは逝った。

 

「やれやれ、寄り道が過ぎるのはオレの起源かね。いい女には縁がない。早々に分かれちまう。逆に悪い女ほど絡みついてきやがる。特にメイヴは茨以上にしつこい女だったんだが……まったく。良い女になった瞬間、満足げに消えちまった」

 

 雰囲気が変わっていた。いつものクー・フーリンのようであった。感じられる魔力も弱まっている。おそらくはクー・フーリンを王にと願ったメイヴが消滅したことによってその強制力がなくなり、時代の修正力が強まったのだろう。

 可能性が強まった。この世界を救うには北部戦線が崩壊する前にクー・フーリンを倒すしかない。

 

 話し合いはできない。なぜならば、クー・フーリンは未だに戦意をたぎらせているからだ。

 

「――うし。それじゃあ、殺し合うとするかマスター」

「……聖杯を渡す気はないみたい、だな……」

「欠片もねえな。坊主のことや盾の嬢ちゃんやらいろいろと戻ってきたわけなんだが――これは誓い(ゲッシュ)だ。メイヴって女は全くどうしようもない悪女だったが時代を支配できるだけの願望器を、俺一人の心を奪うために、躊躇なく使いやがった。あれにとっちゃ飽きれば捨てるはずの玩具だろうが、心意気だけは買ってやらねェとな――だから、全力でテメェらを殺すことにする」

 

 圧倒的な覇気が放たれる。そうしてしまえば世界が滅んでしまうというのにクー・フーリンには迷いがない。やるしかないのだ。

 

「ああ、やるかしない。気を抜くなマスター! 来るぞ!」

「行きます! マスター、どうかわたしたちに勝利を!」

「ああ、行くぞ!」

 

 より通常のクー・フーリンに近づいたということはそれだけ読みやすいということ。気を抜くな。読み続けろ。思考を回せ。

 あらゆる情報を処理し、クー・フーリンの動きを予測する。

 

「まずは、一番厄介なマスターからだ――」

 

 多対一の場合まずは弱い奴から処理していく。この場合はマスターであるオレだ。最も弱いが、もっとも厄介な相手。だからまずは全力で屠る。

 同時にこれは最善手だ。屠ることができたのであれば、その時点で全ては終わるからだ。無論、それが容易でないことくらいわかっているだろうが、クー・フーリンにとってはその程度のこと何ら問題にすらならない。

 

 マシュの盾の一撃を流れるように躱し、放たれるスカサハの槍を自らの槍を投擲することによって相殺する。一直線に向かうクー・フーリン。

 この場合、守るのは。

 

「ますたぁの敵を燃やします――」

 

 竜へと変化しクー・フーリンへと突撃する。青き焔の龍はクー・フーリンへとかみついた。避けることはしなかった。避けられるはずなのに。

 

「――来ると思ったぜ。龍の嬢ちゃん。だが、そいつは愚策だ。こいつは見たことがねえだろ――」

 

 ――宝具封印。

 ――転身。

 

 彼の姿が変わる。

 

「清姫、逃げろ――!」

「遅せぇ!!」

「が――」

 

 清姫を突き穿つ鎧の爪。全身の火傷、その他の傷を無理やりにルーンで治癒させながら清姫を爪に突き刺したまま彼は突撃する。

 それは盾だった。清姫が消滅するまでの一瞬の間、こちらは攻撃できない。仲間だからだ。

 

「でも、このま、ま――」

「させるかよ」

 

 清姫が何かをしようとした瞬間にその頭をねじ切る。

 消える刹那、それを剛腕で投擲、ブーディカがそれを受けて吹き飛ばされる。

 

「ブーディカ!」

「よそ見してんじゃねえぞ、イスラエルの王様よォ――」

「しま――」

 

 爪の一撃がダビデの体に大穴を穿つと同時にブーディカごと地面に爪をたたきつける。

 

「ガァ――」

「まずは、王様と女王様。それから龍娘だ。テメェらから減らせばマスターが動きにくくなるよなァ」

 

 この三人は基本として守りだ。彼らがいるからこそオレは自由に動ける。

 だが、それが一気に崩される。攻防の要であるマシュがオレの防御に回らざるをえなくなり、スカサハ師匠とラーマ、シーター、アストルフォ、ナイチンゲールで崩さなければならない。

 

 それに、あの姿だ。あれは生前ですら見たこともない。当然、スカサハ師匠もなく対応が思いつかない。

 それにまたやられた。オレのせいで。

 

「く――」

 

 ――いや、諦めるな。

 

 初見の敵なんていくらでもいた。思考を止めるな。泣き叫ぶのは、あとだ!

 

「ラーマ!!」

「わかっている!!」

「スカサハ師匠!」

「応!」

 

 やれることをやるのだ。やれることを――。

 

 その決意はいともたやすく踏みにじられていく。

 

「くっぉぉぉお――」

 

 ラーマが吹き飛ばされる。シータの援護射撃が弾かれ、スカサハ師匠がたたきつけられる。

 

「なんだ、前よりも力が――」

「聖杯だ!」

 

 ドクターが答えを出す。

 

 聖杯が力を与えている。この場合はより優れた王。ケルトの場合、それは――より強い王になるということだ――。

 




長めのお盆休みなのをいいことに一日中執筆している。それで何とかラストまでもっていきます。

てなわけで、決戦だよ! マテリアル買ったので即座に反映。
ダビデの宝具とか、ブーディカさんの剣とか。

オルタニキはそれでも強い。ちなみにオルタニキの成分はキャスニキが核ですので、無論、あの宝具も出てくるかもです。

次回は、北軍の方です。

さて、そろそろ五章も終わりですね。五章が終わったらどうしようかな。
まあ、まずは六章に向けて三蔵イベですね。
それから六章をやって順次イベントをやっていきたいと思います。

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