Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 23

 ワシントンまでもうすぐ。シャドウサーヴァントの襲撃を乗り越え最後の休息を行う。これが最後だ。ここまで多くの困難があったがもうすぐだ。

 

「首都ワシントンまでもうすぐですね、先輩」

「ん、そうだねマシュ」

「ますたぁ、返事はよろしいので今は休憩なさってください」

 

 進軍は明日だからとどういうわけか清姫の膝を枕に眠らされている。

 

「いや、休むけど、さすがに早いよ」

「駄目です。――でも、どうしてもというのなら良いですよますたぁ。ちゃんと、ここに戻ってきてくださるのなら」

「わかったよ」

 

 ――さて、どこへ行こう。

 

 最初に思い浮かんだのはスカサハ師匠のところだった。ナイチンゲールに治療を受けているが、傷は深く治り切ることはない。

 その一撃は呪いの一撃だからだ。ゲイ・ボルクの一撃。彼女がクー・フーリンと戦っていたことがわかる証拠だった。

 

 用意された治療用のテントに足を踏み入れようとして。

 

「――――」

 

 銃声に止められる。ナイチンゲールがこちらに銃を向けていた。

 

「マスターと言えど、不衛生なまま、このテントに入ることは許しません」

「は、はい!」

 

 すぐに消毒を済ませる。それでもだめでバケツ一杯の消毒液をかぶらされてようやく中に入れてもらえた。

 

「む、お主か、鋼の聖女は相変わらずじゃのう」

 

 スカサハ師匠はどういうわけか、いつもの戦装束姿であったがところどころ装束がない。具体的に言えば腹の部分がなく、臍が出ているし、肩なども出ている。

 損傷した霊基の修復でそうなったらしいが、酷く扇情的すぎて目のやり場に困る。

 

「そ、それで、大丈夫ですか?」

「大丈夫、とはいいがたい。全力でも今のあやつに相手は厳しいというのに、このざまではな。だが、戦うことはできよう。うまく使ってくれ」

「わかりました」

「それとな、クー・フーリンだが、私も知らない技を使う。注意しておけ」

「はい」

「面会時間は終了です」

 

 面会時間の終わりとともにテントの外へ放り出される。

 

「心配しなくとも患者は見捨てません。生きているのならば必ず治療して見せます」

 

 ほかにも多くの要治療者がいる。彼女は必死にそれを治す。邪魔しては悪い。オレは静かにその場を離れる。野営地を歩いていると焚き火の前で座っているブーディカとダビデがいた。

 近づくとダビデが気が付いたのか手招きしてくる。

 

「もうすぐ決戦だけど大丈夫かいマスター?」

「大丈夫。寝るには少し早いからみんなと話そうと思ってね。オレと離れている間、大丈夫だった?」

「それはもう大丈夫さ。なんてたってこのブーディカと仲良くなれたからね」

「はいはい」

 

 肩を組もうとするダビデを苦笑しながら押しのけるブーディカ。どうやらいつも通りのようだ。

 

「マスターこそ大変だったんでしょ。そうだ、お腹すいたでしょ。シチューを作ったんだ、食べていってよ」

「ありがとう」

 

 ブーディカのシチューは久しぶりだった。優しい味のするシチューだ。温かさがお腹から広がっていくようで心地が良い。

 

「あまり無理はしないこと。あと、あたしたちはきっとクー・フーリンと戦えばやられちゃうと思う」

「…………」

「うん、楽観視はできないからね。マスターには辛いだろうけれど、言っておくよ。僕やブーディカは、きっとクー・フーリンとまともには戦えない。出会ったことはないけど、ちょっとレベルが違いすぎる」

 

 それは出自が関係していた。ダビデは王であり羊飼い。その伝承は巨人を倒したというものであるが、武勇を誇っていたわけではない。

 ブーディカもそうだ。女王であり、戦士ではあったが、クー・フーリンと戦えるほどの武勇を持つには至っていない。

 

 同じ英霊であれどそこは大きな差になる。もっとも顕著なのは清姫だろう。だからこそ、彼女はオレのそばを離れる気はない。もしもの時に盾となるべく傍に侍るだろう。

 

「……うんわかってる。でも、死ぬ気でいないでくれよ。勝つ気で戦わないと」

「うんうん、さっすがマスター。いい子いい子。本当に、いい子……」

「大丈夫、僕は遠くからチクチク石投げるからね!」

「はは、頼りにしてるよ。ごちそうさま――」

 

 シチューを食べ終えてまたふらりと歩く。

 考えるのはカルナのことだった。彼は死んでしまった。最後までオレたちを助けてくれた。

 

「……必ず世界を救うよカルナ」

 

 彼が為せなかったことを為す。それがマスターとしての使命だろう。泣いている暇はない。それに、この場でマスターたるオレが泣いている姿なんて見せるわけには――。

 

「わふっ!?」

「んふふ、マスターつーかまーえたー」

 

 いきなり誰かに抱きしめられる。声はアストルフォのものだった。そして、そのまま誰もいない少し離れたテントに連れていかれる。

 それでもアストルフォは離してくれない。その胸にオレの頭をしっかりと抱きながら、

 

「泣いていいよ。我慢しなくていい。確かにマスターはみんなの上に立っているからみんなの前では泣けないのはわかってる。でも、ここなら泣いても良いよ。誰もいないし、笛吹いたから、この辺には誰もこない。だから、思いっきり泣いていいんだよ」

 

 カルナが死んだのは悲しい。クー・フーリンと戦うことは辛いし、恐ろしい。だから、泣いていい。アストルフォはそういう。

 覚悟を決めても辛いし、悲しいことはある。そういう時は泣いてすっきりしてしまうのが良い。我慢しても良いことはなに一つないのだから、泣きたいときは泣けばいい。

 

「……ありがとう……」

 

 だから、アストルフォの好意に甘える。泣けないけれど、こうやって誰かに抱きしめられているというのは安心するしリラックスできた。

 マシュや清姫だとこうはいかない。なぜならば、彼女たちに少なからず好意を抱いているから。リラックスするよりも先にドキドキが勝ってしまう。

 

 こういう状況であってもだ。それは男の子だから仕方ないないこと。その点をアストルフォはよくわかっているのか、それとも本能的な行動なのか。

 ただ、ありがたいことには変わりなかった。オトコノコという点を無視すれば。ただ、もういいかなと思えてきた。

 

「――」

「よしよし。マスターは強い子だねー」

 

 ぽんぽんと頭や背中を叩いてくるのがくすぐったい。本当にオトコノコなのかと思ってしまうほど。ただただ今は感謝するばかりだった。

 

「ん、もう良い、ありがとう」

「落ち着いたかい?」

「まあね。アストルフォのおかげで」

「えへへ、どういたしまして……明日は決戦だね」

「ああ」

 

 明日はワシントンで決戦だ。これが最後になるだろう。総力戦になるだろう。これに勝てば人理を修復できる。

 

「マスターとは明日までか。少し寂しいな」

「……そうだね。でも、またいつか会えるさ」

「はは――そうだね。よーし、頑張るぞー。マスターもしっかりね!」

 

 再度アストルフォにお礼を言う。そろそろ清姫たちのところに戻ろうかと思っていると、少し離れたところで二人で座っているラーマとシータが見えた。

 悪いと思って立ち去ろうとしたら、

 

「気にせずとも良いマスター。おぬしも座れ」

「そう?」

「ええ、お気になさらずに」

 

 二人がそう言うならと座る。

 

「……もうすぐ決戦だなマスター。だが、カルナはいない。相手は強大だ。だが、マスター、おまえがいるならば勝てないはずはない」

「あまり頑張りすぎないでくれよ」

「もっともだな。だが、頑張りすぎということはないぞ」

 

 ラーマは夜空を見上げながら言う。

 

「余の限界はまだまだ先だが――限界に達したとしても、さらにその先に行ける気がしているのだ」

 

 そう彼は言った。

 

「なにせ、ここにはマスターがいる。シータがいる。マシュがいる、ナイチンゲールがいる。みんながいる。余は皆が好きだ。小僧っこにしかみえぬ余の命令をきちんと聞く兵士も好きだ」

 

 そして、何よりも――。

 

「シータが好きだ」

「もうラーマ様ったら。私も好きです」

「好きだからこそ守りたいし、好きだから恐怖に屈せぬ。それはマスターもだろう?」

「うん……」

 

 好きだから守りたいと思っているし、好きだから恐怖に屈せずにここまで来た。好きだから、前に進もうと思った。

 

「オレはマシュが好きだよ」

「そうだ」

 

 だから守りたいし、恐怖には屈さない。今も、膝をついてしまいそうだけれど、みんながいる。みんなが好きだから。何よりもマシュが好きだから前に進めるのだ。右手を伸ばし続けることができるのだ。

 

「突き詰めれば、英雄とはそんな小さな想いから出発する者なのだ。だから――マスターもまた英雄だということだ」

「――――」

「そ、そういうわけだ、だから、な――」

「もうラーマ様ったら」

「し、仕方ないだろう。余とて、思い出したばかりなのだ」

「だから、余たちに気を遣う必要などない。案ずるな。行けるさ――」

 

 ――英雄なのだから

 

「おまえはいつか世界を救える」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「そろそろ来るわね、王様。身体は大丈夫かしら?」

 

 メイヴがクー・フーリンへと問う。

 

「修復は完了した。アルジュナが裏切ったならちと厄介だが――」

「もしもの時は、こっちにアレを持ってくるわ」

「……必要ねえ。オレ一人で十分だ。連中はすべて、北部戦線に叩き込め。それで戦争も世界も終わりを告げる」

「――そうね。あーあ、楽しい女王ごっこもこれでおしまいかぁ」

「楽しいか?」

 

 クー・フーリンにはわからない。少なくとも、クー・フーリンにとっては楽しいということはないだろう。メイヴが楽しいことがクー・フーリンが楽しいとは限らない。

 

「クーちゃんは楽しくないのよね」

 

 それに対してクー・フーリンは勝手に楽しめばいいと言ってくる。無関心。クー・フーリンはただ王として在り続けるだろう。

 そうメイヴに願われた通りに王として在り続けるだろう。それが願望器が叶えた彼女の願いゆえに。

 

「クーちゃん、愛してるわ」

「そうかい」

「さあ、終わりの戦いをはじめましょう」

 

 

 みっともなくあがいて、もがいて、立ち上がって。

 

 決意のまなざしを向ける敵を造作もなく踏みつぶす。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「着いたぞ」

「あと一歩です!」

 

 ワシントンへと入る。そこに待ち構えていたのは女王メイヴだった。

 

「あーあ、やっぱりシャドウサーヴァント程度じゃこんなものか」

 

 でも、と彼女は前置きを置く。王に全てを任されたのだ。ゆえに、ここで退くことなどありはしない。ここで倒すのだ。

 そう彼女は言っている。

 

「そう、あなたたちは逃がさない」

「もとより逃げるつもりなどない」

 

 両雄は激突を果たす。無限に現れ続けるシャドウサーヴァントや竜種。その全てをラーマを筆頭にサーヴァントたちが倒していく。

 ヘルタースケルターに機械化歩兵が足止めをし、縦横無尽に駆け巡るアストルフォが転ばせて、ダビデが撃ち抜く。必中の宝具がここに猛威を振るう。

 

 放たれる五つ石。正確に敵の眉間を撃ち抜く。倒せずとも動きは止まる。止まってしまえばあとは倒すことはたやすい。

 無論、攻めだけではない。守りの要をマシュとして守りを得手とするブーディカの車輪によりオレたちは守られている。

 

 その中で指示を出す。戦場を俯瞰し弱いところを探り、そこへ清姫を竜へと転身させて火力で焼き払う。無限に増え続ける兵士といえどそれは時間をかければのはなし。

 

「ここまで来れば減速の速さが勝る」

「追い詰めたぞ!」

「はは。ハハハハ! 追い詰められている? この私が? 逆よ、逆。追い詰めているのが、私なの。ホワイトハウスにいらっしゃいな」

「チィ! 間合いに入らなんだ」

「ええ、私たちの宝具が投擲武器ということを知っているようです。私はアーチャーですし」

「それは良い。今は急ぎましょう」

 

 ナイチンゲールがせかす。彼女は言った。彼らには切り札があると。あの笑みは嘲笑ではなく、略奪の笑み。何かを奪う時のそれだと。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「――ぐ」

 

 ベオウルフの体が揺らぐ。一撃を決めたのは書文。

 

 ――八極拳絶紹猛虎硬爬山(もうここうはざん)

 

 数千年の間、練り上げられた功夫。ただの殴り合いが拳闘に昇華したように。殺し合いの技に昇華した八極の絶紹。

 

「この国もそれと同じよ。おまえたちが手を伸ばして良いものではない」

「へ……まったくだ」

 

 ベオウルフはただの殴りだ。そこには技術の欠片もない。拳闘の技術などない己の力にのみ頼ったもの。そんなもの李書文にしてみれば、武術家にしてみれば倒すことなど容易い。

 それでも彼は強かった。その拳打の一つ一つが必殺。捌くことを怠れば最後、自らの肉体が引きちぎれていただろう。

 

 それほどまでに強大な相手であった。

 

「次までに、拳闘の技術を学んでおくがよかろう」

「お断りだ。殴り合いの最中にものを考えるなんざ手前(テメェ)で夢から覚めるようなもんだろう」

 

 そう言って彼は倒れた。前のめりに。背中からは倒れぬと言わんばかりに。見事あっぱれ。しかし、余韻に浸るひまなどありはしない。

 

「下がって!!」

 

 戦域にエレナの声が響く。誰もがその理由を介さない。しかし、全員が感じたある予感が後退させる。

 

 同時に訪れる地面の揺れ。生じるは――。

 




決戦前から決戦。
ぐだ男の才能。なんか凄いことしてますが、凡人が天才(英雄)に並ぶために犠牲にするものはなにか忘れてはいけない。
ただ、ここまで培ってきたものが実を結んだのは確か。

FGOマテリアル買わねば。
では。

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