Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 18

 トーマス・アルバ・エジソン。それが彼の名前だ。彼は、まぎれもない英雄だ。人々に光をもたらした英雄だ。彼は、天才がもたらしたものを広く普及させる天才だった。

 彼の偉業は、彼の発明は、神代の時代から見ればちっぽけなものだろう。だが、歴史を視るが良い。焼けた人類史を紐解いてみるが良い。

 

 彼のおかげで人類はどうなった。光を手にしたのだ。枯れない光を手にしたのだ。遍く世界を照らす雷電の光が全世界に広がったのだ。

 それだけではない。彼は、大量に生産した。より安価でよいものを作った。新しき時代を確かに彼は牽引したと言えるのだ。

 

 だからこそ彼は病に浮かされている。大量に生産する。より安価で良いものを作る。それがトーマス・エジソンの天才性であり英雄としての本質。

 それに拘ってしまったのだ。その仕組みにおいて彼は紛れもない天才であったがゆえに。大量生産という大量に何かを生み出すということに関してはまさに天才であったがゆえに。

 

 その美学があったがゆえに、ケルトを相手にして勝てぬと知りながら彼は同じ土俵で戦おうとした。これが非合理的でなくて何だというのだ。

 それは人間が英霊に挑むのと同じことだ。非合理的だ。マスターが死ねば全てが終わるというのに前線に出て戦う。それは非合理的だろう。

 

 それはエジソンもまた理解できることだった。見せられてしまったがゆえにそれが非合理的であることがわかってしまった。

 それをエジソンは否定できない。ナイチンゲールが粛々と告げていく言葉の数々を否定できないのだ。自らのホームグラウンドで戦うこと自体を敗北と知りながら、戦っていた。それを否定できない。

 

「確かに、私は、生産力に拘っていた。資源も尽きるというのに、最終的には勝つから良いのだ! などと……」

「まったくです。生産力だけで勝ってどうするのです。そ、し、て! 何より最大の過ちが貴方自身の肉体です。エジソンが獅子の頭を持っていた記録など存在しません。ましてや、これほどまでに強大な力を持っていたわけがない」

 

 そう彼はおかしいのだ。獅子の頭もそうだが、何よりその肉体だ。戦士ではないためいろいろと及ばぬ部分もあるが、それでも発明家の肉体ではない。

 であるならば、何か別の力がある。エジソンを王たらしめようとする何かが。

 

「あの、それは聖杯では?」

 

 マシュがそういう。

 

「いいえ、違います。聖杯は願いを叶えるものであって、願いを生み出すものではないのです。道具は願いを生み出しません。願いを生み出すものは、常に人なのです」

 

 ならばこそ、何かに与えられたはずなのだ。その力を。いや、王であれという欲望(ユメ)を。ならば、それは誰だ。

 

「誰なのです。貴方にそのような病原菌(もの)を植え付けたのは」

「…………それは簡単だよ女史。このアメリカという国の王だ。過去、現在、未来に至り、この国家に君臨するであろう者たち。君臨した者たち。君臨している者たち。

 そうだ、この合衆国を率いるただ一人の者――大統領だ」

 

 彼らは合理的に判断した。ただの大統領たちが全てサーヴァントとして召喚されたとしてもケルトには敗北する。

 だからこそ、一人に力を集積すれば良いと考えた。大統領ではなく、世界的に知名度を誇る英雄に。彼らは託したのだ。アメリカという未来を。

 

「――このトーマス。エジソンに!!」

「それは、つまり、大統領という座についた者たちの思念あるいは怨念と呼ぶべきものが憑依していたということか!!?」

 

 ドクターの言う通りだとナイチンゲールは言った。

 

「それは病です。我々にはアメリカだけではない。この世界を癒さなければ、救わなければならない使命(オーダー)がある」

 

 イ・プルーリバス・ウナム。

 多数の民族から成立した国家。

 なればこそ、その国家に住む者はあらゆる国家の子供たちだ。だからこそ、救わなければならないのだ。救わなければ嘘だ。

 

「貴方がたには救う義務がある。世界を救う、義務があるのです。そこから目をそらし、自国だけを救おうとするからエジソンは苦しむのです」

 

 ――そして、そんなだから――同じ発明家としてニコラ・テスラに敗北したのだ。

 

 そう彼女は言った。その言葉が何よりも彼を強く穿った。ゲイ・ボルクと同じほどの威力だったのだろう。倒れてぴくぴくと痙攣するほどに。

 

「あーあー、言っちゃった……」

「少しは手加減してほしかったな……」

 

 エレナはそう言いつつもどこかすっきりしたという顔だった。少なくともこれでエジソンは正気に戻るのだから。まったく苦労させられる。彼女はそう言っているようだった。

 

「さあ、答えなさいトーマス・エジソン。貴方は、どうしたいのですか」

「……ぐ……む……そうだな。認めよう。フローレンス・ナイチンゲール。私は歴代の(キング)たちから力を託され、合理的に勝利できないという事実を導き出し……自らを、道をちょっとだけ踏み間違えた……愚かな思考の迷路を、彷徨っていたようだ……」

「……ちょっとだけ……ちょっとだけ、ですか。まあいいでしょう。病を癒すには、病であることを認めることから始めます。迷ったとしてもかまいません。貴方はいま、スタート地点に戻ってきたのですから」

「そうか……ここまで市民たちに犠牲をしいておきながらやっとスタート地点とは」

「それでいいじゃないか」

「…………」

 

 オレはそういう。それでいいじゃないかと。別に市民たちの犠牲がそれでいいということではない。そういうことを言うようなオレではないとみんなが信じてくれているから何も言わない。

 だからオレは言葉をつづける。こんなオレが言う台詞ではないかもしれないけれど、それでも言う。

 

「迷って、迷って、スタート地点に戻ってきた。それはまだやり直せるってことだ。犠牲になった人たちの為にも、エジソンはやり直さないと。またはじめからやれば良い。何度だって立ち上がって、諦めないで前に進めばいい。エジソンはそんな場所に戻ってきたんだ。だから、きっと犠牲になった人たちにも意味があった。いいや、意味を与えるんだ。誰もが犠牲になんてなりたくなかったはず。だから、その犠牲になった人たちの為にも、エジソンは諦めたらいけないんだよ」

「――しかし、私は、何をすればいいのか」

「エジソン……本当にわからないの?」

「ブラヴァツキー……君には、わかるというのか?」

 

 エレナさんは笑みを作る。

 

「ええ。簡単なことよ? 彼が言った通りのことをすれば良いの。だって、あなたは三千回駄目なら、三千一回目に挑戦する。何度失敗してもへこたれず、周りにさんざん苦労を強いて、自分だけはちゃっかり立ち上がる。それがあなたでしょう? トーマス・アルバ・エジソン」

「…………」

「まだわからない? あなたの長所って、今言ったところでしょう? そういう才能だったはずでしょう?」

「いや、正直、おだてられているようにも、けなされているようにも聞こえるが……ありがとう。キミはやはり私の友人だ。最終的に上回れば良い……それが私の人生(けつろん)だったな。久しく忘れていた……。

 キミもだ、異邦より来たマスター。ありがとう。君の拳がなければ私は、私がやっていることにも気が付けなかっただろう。いいや、気が付きたくないといつまでも滅ぶまで思っていたはずだ」

 

 だが、それもここまで。こうしてエジソンは正気(じぶん)を取り戻した。

 

「しかし……私は負け猫だ。臆病者だ。告訴王だ。もう一度、この国を導くなどとても――」

「それは違う」

 

 カルナの声が響く。

 

「間違えるなエジソン。おまえは道に迷ったが、おまえが目指していた場所は正しいのだ」

 

 名も知らぬ者を救うこと。

 闇の世界を光で照らすこと。

 

 それらは自信をもって良いことなのだ。カルナが断言する。それは間違いなのではない。正しいことなのだと断言する。

 どれほど負い目があろうとも、屈折した自己嫌悪があり、時に小心から悪事をなすことがあるとしても。

 

「おまえの発明は、あらゆる人間を救ってきた」

 

 何かを打倒することでしか救えなかった英雄と違って――。

 

 最終的にトーマス・アルバ・エジソンは世界を照らす光になったのだ。

 

「その希望を、その成果を糧に立ち上がれ。現状は最悪だが、終わったわけではないだろう?」

 

 そう、終わっていないのだ。

 

「カルナ、君――」

「だから目を覚ませ。偉大なる発明の王よ。その頭脳にはまだ、多くの資源が眠っている」

 

 その言葉にエジソンは胸を打たれた。

 

「……そうか。そうか……。発明などには程遠い、私たちの世界とはかけ離れた世界の君が、そういうのか」

「そうだとも」

「バベッジ卿!?」

 

 現れる機関の鎧。チャールズ・バベッジがそこにいた。変わらぬ浪漫溢れたかっこいい姿で玉座の間に現れる。各地に散っていたサーヴァントたちが集結していた。

 途中からいなくなっていたブーディカとダビデが連れてきたようだった。

 

「バベッジ君」

「エジソン卿。破産するまでは負けていない。であれば、君のやるべきことは決まっているのではないかな?」

「――そう、であればッ!! 大統王は死なぬ! 何度でも立ち上がらねば!」

 

 エジソンは立ち上がった。繁栄の世界の夢はここに復活を告げる。

 

「ブラヴァツキー嬢、カルナ君、すまなかった、迷惑をかけた!」

「いいのよ、友達でしょ」

「……そうだな。さしでがましいが、友人だな、ここまでくると」

「――ふ。私はいつも、いい友人に恵まれる。こればかりはあのすっとんきょうも及ぶまい。私だけの財産というワケか」

 

 それからエジソンはオレに向き直る。

 

「改めて謝罪し、感謝する。君の助けにとなるサーヴァント諸君もだ。正直、私にはまだ思いつかない。世界を救う方法も、ケルト(かれら)を倒す方法も。だが――」

「ああ、一緒に考えよう」

 

 これから始めるのだ。世界を救うために何をするべきなのかを考えて世界を救うのだ。死んでいった仲間たちの為にも。

 犠牲になった全ての人たちの為にも。そして、囚われている兄貴を救うためにも。考えて、考えて、考えて。必ずや世界を救う。

 

「ありがたい。そして頼もしい。そうだ。私はたいへんな忘れ物をしていた。大統領の傍らには常に副大統領がいるものだ。時に、大統領自身よりも有能な、ね」

「エジソン氏……では!」

「うむ。私はトーマス・アルバ・エジソン。アメリカの繁栄、その礎を担った一因。であれば、今度こそ――世界を救う大発明を成し遂げたい! 無論、君のサーヴァントとして、だ! マスター!!」

「もちろん、喜んで――」

 

 エジソンの言葉を聞いて、ようやくここまで来たと思った。それで安心したら気が抜けたのか。

 

「先輩!?」

「ますたぁ!」

「ああ、大丈夫。安心したら思わず」

 

 思わずがくりと倒れそうになってしまった。すぐに清姫が支えてくれたから大丈夫だけど。

 

「うむ。本当、迷惑をかけ続けて済まない。だが、これから私の全てを君に捧げる。我がマスター。必ずや世界を救おう」

「ああ――」

 

 それからこれからのことを考えるために会議をすることになったが、これまでの長旅もあるので一時休憩することになった。

 今度はきちんとした部屋に案内される。ゆっくりと少しでも休もうとしていると――。

 

「あの、どうしてここに?」

 

 ナイチンゲールさんが付いてきていた。部屋に入るなり鍵を閉められる。

 

「あの?」

「治療です」

「はい?」

「治療です」

「いやオレは――」

 

 そのまま強引にベッドに座らされた。彼女と目が合う。

 

「我慢せずに怖いなら泣きなさい。恐ろしいなら震えなさい。我慢は身体の毒です。何よりも害悪です。さあ」

「むがっ――」

 

 強制的にその豊満な胸に顔が押し付けられる。

 

「よく頑張りましたと褒めるとでもお思いですか。違います。何を焦っているのです」

「いや、焦ってなんか――」

「いいえ、焦っています。私が二番目に嫌いなものを覚えていますか?」

「治る気のない、患者……」

「貴方は治る気のない患者ですか?」

 

 ――…………。

 

 今更になって身体が震える。涙が流れ出す。恐ろしかった、怖かった。書文さんにロビンと一緒に突っ込んでいったのも。エジソンに殴りかかったことも怖かったし、恐ろしかった。

 でも、世界を救うためだとやった。それは、確かに彼女の言う通り焦っていたのかもしれないと振り返って思う。

 

「貴方は確かに世界を救わなければなりません。プレッシャーは相当でしょう。焦ることもありますが、ずっと貴方を見てきました。何を焦っているのです」

「……式とジキル博士、みんな、みんな死んだんだ。だから、オレは必ずこの特異点を修正して世界を救わないとって……」

「……仲間が死ぬことは辛いです。悲しいことです。戦場では常にその危険があります。しかし、貴方がやっていることは、貴方の仲間にも同じ思いをさせるかもしれないことです。考えてください。貴方が危険を冒し、もし死んでしまったらどうなりますか」

「それは……」

 

 世界が救えなくなるだけじゃないだろう。そういう答えを彼女は望んでいない。彼女が求めているのはもっと単純な答えだ。

 初めに浮かんだのはマシュの泣き顔だった。次に浮かんだのは清姫の泣き顔。オレの死を悲しむみんなの顔。

 

 みんなが死ねば悲しいように。オレが死ぬとみんなが悲しい。いいや、オレが危険を犯せば犯すほど。自分を大切にしないほどみんなは悲しむのだ。

 

「わかりましたか。わかったのならば、落ち着くことです。焦っても良い結果、良い治療はできません。良い治療をして患者を癒すにはまず私たちが落ち着かなければならないのです。そうして初めて良い治療ができるのです。焦っても何も良いことなどありません。逸る気持ちはわかりますが、まずは深呼吸を。そしてまっすぐに向き合うのです。焦らずに一歩ずつ積み上げましょう。そうすればきっと救えます。いいえ、きっと、ではありません。絶対に救えます」

 

 彼女の言葉は強く殴りつけるように響いてくる。絶対に救うという意志がそうさせる。まさしく鋼の聖女。()は何度彼女に救われるのだろうか。

 

「……ごめん」

 

 彼女の言葉に、それから泣いて汚れた彼女の服を想っての言葉だった。

 

「何を謝るのです。痛ければなく、苦しければ泣く、怖ければ泣く。患者の常です。それでなぜ、謝られるのです」

 

 けれど彼女はその言葉を受け取らない。

 

「……でも」

「そういう時は、ありがとうと、言ってください。その言葉を聞くことが私たちにとっては何よりも素晴らしい報酬なのですから」

「わかった、ありがとうナイチンゲール」

「はい、こちらこそありがとうマスター」

 

 救われてくれて、ありがとう。彼女はそういうのだ。

 

「さあ、行きましょう。世界を救うために」

「ああ、世界を救うためにみんなで考えよう」

 

 世界を救うための会議が始まる――。

 




世界を救うという言葉に拘るとヤバイ。
焦って自分を危険にさらし始めたマスターの異変をきちんと婦長は見抜くわけでして。
そこらへんにずばずば切り込んでいけるのも婦長でしょう。

さて、エジソンも正気に戻り、サーヴァントたちも集結した。
ここから最終決戦まで一気に行きますとも――。

水着イベ、とりあえず自然回復に以降。休みだからってやりまくってしまった。林檎がない。林檎をくれ、林檎、林檎――。
とか林檎中毒になりかけておりますが、それはさておき、アンメアが可愛すぎて辛い。
なにあの絆台詞。2までしかまだ聞けてないんですけど、ものすごい、デレデレが透けて見えて可愛いんですが。

嫁パーティーがこれで完成かな。きよひーが来れば、きよひーが入ったんじゃが、来てくれないのは縁がないということ。届かぬから美しいということで、届いた縁を大事にしたいので我が嫁パはこんな感じ。
エレナママ、沖田さん、キャット、アンメア、マシュ。

相性はほどほど。アンメアの男性のスター発生率アップが使えないけど沖田さんで星出せばいいだけだし。それがなくともバフは強いから行ける。単体と全体宝具のバランスも良いしキャットとかはマシュで守れば問題なし。

あとはアンに星を貢パも作るためにイモータルでカオスなブリゲイドさんを育てないとな。

それからフレンドのみなさん、お願いだからサポートの礼装をイベント仕様にしてくだせぇ。
あと槍王とか、乳上持っている人はサポート設定してくださせぇ。鉄が、鉄が集まらんのじゃぁ。
鉄だけは礼装がないんじゃぁ。
お願いします!


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