Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 17

「エレナ君を離したまえ」

 

 ドクターの通信に割り込んで大統王の声が響く。それはまっとうな要求だ。それも当然だろう。彼女は彼の仲間なのだから。

 

「離してもいい、だが、こちらの話も聞いてもら――」

「即刻治療を受けなさい、大統王」

「――う……」

「せ、先輩、大丈夫です、ナイチンゲールさんのいつものです」

「うん、任せよう」

 

 大統王との会話をナイチンゲールに任せる。この場では彼女の言葉こそがおそらくは最も響くことだろう。

 

「治療? 私のどこが治療が必要だと言うのかね。私はこの通り、意気軒昂だとも!!」

 

 獅子の咆哮が響く。絶叫というかなんというか。耳を塞ぐほどのそれ。耳を塞いでしまったが、ナイチンゲールは一切動くことはなく、それを受ける。

 

「いいえ、貴方は病気です」

「なぜ、私を病気というのかねクリミアの天使よ」

「こうして対面して理解しました。あなたは病んでいます。即刻治療を受けてください。それから、私は天使ではありません。私はただの看護師です。あのような優しいだけの生物と思わないでいただきたい。優しいだけでは救えないのです。私は、全てを殺してでも患者を救います――ですから、エジソン、黙って私の治療を受けなさい」

「ええい、だからどこが病んでいるというのだ! この強靭な四肢。はちきれんばかりの健康。研ぎ澄まされた知性。どこをとってもスタンダードではないか!!」

 

 確かに彼は健康そのものだ。しかし、明らかにおかしいのだ。特にその獅子頭。偉大なりし発明王は間違いなく人だ。

 人であったからこそ、もたらされた雷電を遍く全ての人々に広めることが出来た。断じてあんな獅子頭でもなければ大統王でもない。

 

 だってそうだろう。あのニコラ・テスラがライバル視した男が、理性を保ったまま、アメリカだけを救おうとしている。

 世界だけではなくアメリカを救い、世界を滅びに向かわせようとしている。それが断じて、トーマス・エジソンであっていいわけがないのだ。

 

 だからこそ、彼は病んでいる。

 

「黙りなさい」

「――――!!」

 

 静かなナイチンゲールの声が響き渡る。ただの一言で、全てを静寂が包み込んだ。その言葉には深い慈しみがある。

 殺意にも似た全てを治療するという慈悲がある。慈悲の弾丸にてあらゆる病を殺すという決意がある。そのためにあらゆる全てを殺戮してでも治療するという鋼の意志がそこにはある。

 

 エジソンが放とうとした言葉はすべて頭から吹き飛ばされた。誰もが口を挟めない。ただ静かにナイチンゲールの言葉を待つ。

 

「病人に病を告げることの、どこが無礼ですか。貴方は病気です。甘やかされたいのならば、母親か妻にでも甘えなさい。良いですか、貴方は、病気なのです。世界を救う力を持ちながら、理性を保ったまま世界を破滅に追いやろうとしている。それが、病以外の何なのです」

「違う! 私は――」

 

 エジソンは何を言おうとしたのだろう。その言葉が放たれる前にナイチンゲールの言葉が全てを圧する。

 

「今、そちらに向かいます。大人しくベッドで休んでいなさい――さあ、行きますよ」

 

 ナイチンゲールが城塞の中へと歩いて行く。

 そこに立ちふさがるのは、

 

「やはり来たか」

 

 カルナだった。

 

「無論ですカルナ。貴方も病人です。退散なさい。貴方はここに居てはいけない人だ。望むモノが、あるというのに。僻地での療養をお勧めします」

「……確かにおまえの言う通りかもしれない。オレは忠実であろうという病に罹患している。望んだモノをたちどころに見抜くのは、看護師という職業故か」

「いいえ、貴方がわかりやすいだけです」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なるほど」

 

 カルナが凹んでいるように見えた。わかりやすいと言われたのがそれほど堪えたのだろうか。確かに彼はわかりやすい。

 しかし、すぐに平常通りに戻りながら指摘を感謝する。そして、やはりどいてはくれないようで、彼は構えを解くことはない。

 

 この道を彼は譲らない。なぜならば、発明王に乞われたからだ。先に乞われた。助けを求められた。ならばこそ、英雄カルナは敵対する。

 理由などそれで十分なのだ。先に出会った。ただそれだけ。しかし、得てしてそういうものだ。もし、誰かが先に彼に出会っていればなどという場面は多くある。

 

 それはオレにもある。もしもっと早く、あのひとに出会っていればなどと考えることは多くある。あの時こうしておけばなどもある。

 だからこそ、それで十分。英雄でなくてもわかる論理。

 

「それに十分であるが、もう一つ。エジソンはオレの知己に似た男だ。賢くありながら愚かであり、傲慢でありながら博愛に満ちた男」

 

 それはかつてカルナを友と呼び、助けた王。そんな王様にエジソンは似ているのだとカルナは言った。だからこそ、放っておけない。

 そう言って彼は微笑んだ。

 

「――驚きました。貴方のような人が、そのように笑うなんて」

「オレとて人の子だ。人並みの感情はあるよ。だが、おしゃべりはここまでにしておこう」

 

 彼の殺気が空間を支配する。びりびりと大気が震えるほどの重圧。これまで戦ったどのサーヴァントよりも強く強大な圧力に膝が震えて勝手に屈しそうになる。

 その時だ、後頭部に衝撃を感じてふっと、圧力を忘れる。

 

「――――!?

「それ、気合いを入れんか」

 

 後頭部にそれをいさめてくれたのは書文さんだった。

 

「あ、ありがとうございます。すみません」

「良い。しかし、ついてきて正解だ――あのような者と戦うことになるとは僥倖だ。それ深く息を吸え、主がそのような状態では、サーヴァントも満足に戦えんぞ」

 

 鬼が笑っているように見えたのは偶然だろうか。しかし、それは恐ろしいというよりも頼もしいと感じた。ふかく息を吸う。

 勝てない相手ではないと思う。いいや、勝つのだ。必ず。そうしなければ前に進めないのであれば、血反吐を吐いてでも無理をしてでも勝つ。

 

 ――いつか、世界を救う。

 

 そのために前に。ただ前に。彼の言葉が胸に焼き付いている。もらった勇気は確かにここにある。だから、前に踏み出せ。

 この特異点で死んでいった仲間たちの為にも。必ず勝利する。負けるわけにはいかないのだから。

 

「――行くぞ!!」

「来い。一度目は様子見だったが、二度目は容赦しない――!」

「一番槍はいただくぞ、竜の娘――!」

 

 城塞を揺らす踏み込み。神速の突きが放たれる。その槍の一撃にどれほどの技術が込められているのだろう。その一撃は見えているのに躱すことができないほどだ。

 それに加えて、

 

「はっはっは! ゆくぞ、マスター、神秘が強い奴らは外におるが良い。このわしの力、第六天魔王の力を見せつけてやろうぞ!!」

 

 地獄が形作られた。

 

 ――固有結界が展開される。

 

 それは彼女の心象。神を焼く地獄。ここではあらゆる神性を持つ者は行動することすらままならない。カルナほどの者ならば当然、現界すらままならないほどになる。

 

「二度目になるが、まさしく神を殺すためだけの心象だ。魔王の心象。確かに魔王を自称することもわかる。確かに、この中ではオレは存在を維持することすら難しい。

 それに、そちらの槍兵。ただならぬ練度だ。まさしく武の鬼といったところか。だが、オレは英霊だ、神仏を殺す魔王も武の頂きに至った鬼を相手取っても恐れはせん――」

 

 暴虐の一撃が書文を襲う。固有結界によって弱体化してなお、その一撃は大地を引き裂き、世界を割りかねないほどの威力を内包している。

 存在を維持することすら難しい。だが、どうした。彼は立っている。カルナは立っている。武器を構えている。意志の力を糧に、根性で立っている。

 

 それがどれほどおかしなことかわかるだろうか。英霊だと言っても限度がある。だが、同時にこうも思うのだ。望外の意志は、世界の法則すらも超越すると。

 だからこそ、諦めず望み続けろと見せつけられている気がするのだ。

 

「患者は患者らしくベッドで寝ていなさい!」

「――そういうわけにもいかぬのでな」

 

 槍を振るいナイチンゲールを吹き飛ばし、とびかかる書文を覇気のみで地面に叩きつける。ノッブの三千世界を鎧で受け、焔纏う槍の一撃にて三千を超える銃火を燃やし尽くす。

 

「そこか――!」

「――!!」

「グリーン!! っ――」

 

 奇襲を狙っていた見えないはずのロビンに放たれた槍の一撃。それをエリちゃんがなんとか防ぐ。

 

「くっそ、見えてなかっただろ!」

「安心しろ、見えていなかったが見えていた」

 

 どっちだ。

 

「強い、これが、カルナ――」

 

 だが、勝つ、そう息巻いて指示を出そうとした瞬間、カルナが姿を止めた。

 

「……む。戻ってこいとはおかしな命令を。だが――そうか、自らの手で決めたくなったか。そういうところが傲慢だが仕方あるまい」

 

 彼が槍を収める。

 

「戦わないのか?」

「そうだ。異邦のマスター。主からの指示でな。玉座に戻れとのことだ。ここより先、玉座の間にておまえたちを待つ」

「わかった。待っていてくれ」

 

 そう言って彼は去っていった。

 

「先輩、おそらくは……」

「そうね。あなたのサーヴァントの言う通りよ。この先にはエジソンとカルナが待ち受けている」

「話し合いで解決、はできそうにないなぁ」

「そうですねマスター。どう考えてもエジソン氏は倒れないと話を聞いてくれそうにありません」

「なら行こう。マシュ」

「はい、先輩!」

 

 玉座へと突入する。

 

「よくも来たな……!! 嘆かわしき裏切者たちよ! エレナ君を離したまえ!」

「そのまえに、どうしても治療を受ける気はないのですね」

「愚問だ女史よ。私は正しい。なぜ私の正しさを信じられないのだ! さては、陰謀説にでも浸かっているのか!? エジソンは資本主義の権化だ、とか! 真の天才は商売などに傾倒しないのだ、とか!」

 

 そんなことはなく、どちらかといえば、陰謀説に傾倒しているのはエジソンの方だろう。今の彼に知性の光はない。だが、

 

「私は、貴方の発明が素晴らしいものであることを知っています」

 

 だからこそ、ナイチンゲールは彼が病んでいると診断した。彼女の判断を信じる。彼女の言葉を信じる。だからこそ、

 

「マスター。オペの準備を」

「ああ」

 

 全員で、エジソンを倒す。

 

「――」

「おっと、動くなよ」

「ヘクトール……」

「マスターの命令でね、嬢ちゃんは動くだろうって言っていた。だから、オジサンが見張りってわけ」

「そう……」

 

 エレナさんが動くことはわかっている。なんだかんだ言っても彼女はエジソンの味方なのだ。わかっていても、味方してしまったように。

 だから、ヘクトールが彼女を動けないように牽制する。飄々としていながら狡猾なのをオレは知っている。オケアノスの海でオレは彼を見たのだから。

 

 だから任せた。敵で力を知っているからこそ、任せられると思ったから。だから、こっちはエジソンに集中できる。

 カルナをノッブと書文さん、マシュ、ラーマ、シータ、ロビン、エリちゃんに任せこちらはエジソンに相対する。

 

「行くよ、ナイチンゲール」

「はい、いつでもマスター」

 

 初めて心が通った気がした――。

 

「ええい、なぜだ。なぜわからんのだ!」

「エジソン、あなたの言っていることは正しいとオレは思う。けれど、オレはアメリカだけじゃない。世界を救うんだ。それにオレは英雄を信じてる。英霊ってやつに憧れてる。サーヴァントたちを尊敬してる。

 オレは彼らにはなれないけれど、君たちの力を知っている。オレは弱い人間だから――だから、エジソン、あなたがそんな状態なのを見過ごしたくはないんだ!!」

 

 直流の輝きが煌き、雷電が飛翔する。白びく雷光に目がくらみそうになる。あれこそが彼の輝き。発明王エジソンがその生涯において為した偉大な功績。

 遍く雷電を人々に広めた。だからこそ雷電が猛る。直流こそがナンバーワンと信じて疑わぬ獅子の咆哮が雷電となって大気を焼き尽くすのだ。

 

「これより、ますたぁを援護します。行きますよ、淫乱ピンク」

「いっくよー!!」

 

 竜と変じた清姫とヒポグリフにのり突撃する。

 

「ぐ、おおおぉおお」

 

 エジソンのクラスはキャスターだ。彼は戦う者ではない。いかに雷電が優れていようとも、戦う者でないのならば勝機はこちらにある。

 突撃を雷電が防いでいる隙にナイチンゲールは疾走する。固めた拳は硬く、一直線に向かい殴りつける。鈍音が響き獅子が床に打ち付けられる。

 

「おお……おおおお!! ――まだだ」

 

 だが、彼は立ち上がる。

 

「私は、敗北しない! 私は屈さない!」

 

 ここで屈してしまえば、彼を信じてついてきてくれた全ての民の思いを踏みにじることになる。それはできなかった。

 それだけはしていけなかった。敗北はしてはならない。必ずや勝利する。それこそが、大統王だ。アメリカの全てを背負い、アメリカを救う者、それこそが大統王なのだ。

 

「いいえ、貴方は敗北します。マスターの手によって」

「なにを! 私は戦士ではない。だから、及ばないというのであれば! この身を科学に捧げるまで!」

 

 ――雷音強化(ブーステッド)

 

 超人薬をエジソンが取り出して飲もうとする。それは確実に彼を滅びに向かわせる。それが直感的にわかった。

 

「馬鹿、野郎!!」

 

 気が付けばオレは走り込んでいた。左の拳を握る。ドクターに新しく送ってもらった義腕。

 機械の左腕。左腕を伸ばす。伸ばすのは右腕ではない。伸ばしたのは右腕ではない。機械の左腕。

 

 ――その機能を、解放する。

 

 弾丸の激発が音となる。それは古き良き火薬の音色だ。

 伸ばした左腕が加速する。

 二度の激発でさらに加速する。生じる激発の痛みは歯を食いしばって耐える。一発で良い、殴らなければと思った。

 

「――――ごぁ」

 

 三度目の激発によってエジソンの顔面を殴りつけるに至る。それは大したダメージにはならないだろうが、その手の薬を落とすことには十分だった。

 そして、四度目だ。ダ・ヴィンチちゃんが作ったこの義腕は多少の神秘を内包しているらしい。ゆえに、エジソンを押し倒すくらいはできる。

 

「な――」

 

 人間に倒されたのが驚きなのだろう。驚愕の表情のまま、ぽかんと尻餅をつくエジソン。

 

「ここまでですミスタ・エジソン」

 

 そして、告げられる終了の言葉。

 

「――はっ!? ま、待て、まだだ! ここで踏みとどまらなくて、誰が、この国を守るのだ!!」

「守る、ですか。その割には随分と非合理的な戦いぶりですね」

 

 ナイチンゲールの言葉がエジソンに突き刺さる。それは先ほどの拳よりも強く響く。

 

「な、に……? 今……今、私を非合理だと言ったのか?」

「ええ、非合理です。先ほどマスターがやったのと同じように」

「さき、ほど……」

「ええ、貴方がやっているのは先ほどのマスターがやったことと同じことです」

 

 そうだ。彼は非合理だ。ケルトは死ぬまで、戦いに明け暮れた怪物である。この時代の人間はスタート地点からして引き離されている。

 それは、先ほどのエジソンとオレの特攻にも言えた。人間に英霊は倒せない。先ほどのように一撃を与えることくらいはできるだろう。

 

 しかし、ダメージはない。いくらやっても意味はないことは明白だ。エジソンはなぜならば尻餅をついただけでダメージなど一切負っていないのだから。

 驚愕から醒めて、攻撃をすればその時点でオレは死ぬ。考えただけで震えるが、必要なことだった。なぜならば、それは今の現状と同じだからだ。

 

絶対に勝てない相手(・・・・・・・・・)()絶対に勝てない方法で(・・・・・・・・・・)戦っている(・・・・・)

「な…………!?」

 

 その現状をエジソンに示すために行ったことだった。

 




今回はカルナ戦をぱぱっとやってエジソン戦まで。
またぐだが無茶してますが、ナイチンゲールが治療を円滑にするためにやらせました。
きっと後で震えて倒れることでしょうがそろそろナイチンゲールのターン。マスターの精神治療もしっかりやってくれますよ、たぶん。

バーサーカーなのが不安だけどネ……。
あとなんかぐだ男が男前に見えるけど、これ上げてるだけネ。五章のあとに何が待っているのか、思い出すが良い(愉悦)。

それにしても、水着イベ楽しいです。みるみるうちに林檎が減っていきます。あれほどあったリンゴは何処へ。
それから、鎖ください。なに、あのアンメア(弓)の要求量。こんなの絶対おかしいよ……。

てか、アン可愛くないですか? なにあれ、シャワーサンドイッチが良い文明すぎるんじゃが。ライダーアンメア持ってないからいろいろとわからなかったんですが、めちゃくちゃこいつら可愛いです。
私はアン派なので、当たって良かったと今は思っています。宝具レベル4になったしね……。

え、きよひー? はは、届かないから美しいのさ――(泣)
ランサーの配布はよ、お願い運営。単体ランサーの配布は、まだか――。

さて、周回に戻ろう。既に三周終わったので、島を理想の状態にしたからあとは交換アイテムの為の素材集めと羽根と宝玉を集めるんじゃー。
今回もいいイベだ。楽しい。
ではまた。

地味にIFでエレナとのいちゃいちゃ書いてるんで読んでない方は良ければ読んでみてネ。
そして、感想とかもらえると嬉しいです。

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