Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 15

 最短ルートで合流ポイントまでやってきた。そこには疲れた様子のロビンがいた。

 

「おう、来たか」

「ロビン……何があったんだ?」

「そうよ! いったい何があったって言うの!?」

「……そうだな。要点だけ報告するよ」

 

 ロビンが告げたのは、暗殺組の最後だ。圧倒的なまでの戦力差で一瞬のうちに全滅していた。それもほとんどクー・フーリン一人にだ。

 それだけでもまずいどころの話ではないというのに、カルナと並び立つアルジュナまでいる。ほとんど一瞬もかからずに全滅。

 

 式がいなければ逃げることすらできなかった。さらに言えば、スカサハ師匠が助けてくれなければロビンはここに来れていなかっただろう。

 

「……ってわけだ。すまねぇ、マスター」

「…………いや、伝えてくれてありがとう、ロビン。……マシュ、ちょっとトイレ行って来る」

「……はい、先輩」

 

 みんなから離れひとりになる。

 

「…………」

 

 式とジキル博士が倒されてしまった。いいや、彼らだけではない。陛下も、ビリーも、ジェロニモもみんなやられてしまった。

 悲しかった。一緒に旅をした彼らが殺されたのは悲しかった。英霊と言ってもやはり話をした彼らと別れるのは悲しい。それが、別れではなく死別ならばなおさらだった。

 

 思わず空を見上げる。そうしなければ泣き出してしまいそうだから。今は、まだ泣くべき時じゃない。まだなにも解決していないのだ。

 

「泣いていいのよ、マスター。今だけはね」

「エリちゃん……」

「そして、今度は倒すのよ! 必ず、必ずね!」

「ああ、必ず」

 

 必ず世界を救う。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「遠見の魔術か、趣味が良いとは言えんな。性根もなっとらん」

 

 戻るとスカサハ師匠にドクターが罵倒されていた。

 

「こ、これはどうも――」

「さて、初見の者らもいることだ。自己紹介だ。我が名はスカサハ」

「お久しぶりです、師匠」

「ふむ、さて、どこかで出会ったかな――冗談だ、そんな悲しそうな顔をするな。教えを授けた弟子の顔を忘れる師匠がどこにいる」

 

 良かった。本当に忘れられていたらどうしようかと思った。

 

「――よき出会いがあったようだな。あのころとは見違えた。あのころの方が、まだマスターらしいと言えばそれらしかったが、今の方が魅力的だぞ」

「師匠のおかげですよ」

 

 マシュとともに久しぶりの再会を喜ぶ。

 

「ま・す・たぁ? 実はずっと聞きたかったのですが、そちらの方はますたぁのなんなのでしょうか。わたくし、あのマンションで戦った以外なにひとーーーつ、知らないのですが」

「ああ、そうか。会ったのはオレとマシュだけだし、マンションで会っていない人もいたっけ。彼女はスカサハ師匠。一度夢で出会って助けてもらったことがあるんだ」

 

 スカサハ師匠との出会いを手短に話す。そういえばだれにも話していなかったのだなと今更ながらに思った。そうなると当然心配する人も出てくる。

 

「いや、君そんなことになってたの!? そういうことは言ってよ!? 君の身に何かあったら、どうするんだい!?」

「いや、ごめん、ドクター。なんとかなったし、言わなくてもいいかなって」

 

 あの時は、正直みんなに心配かけないようにするためにマシュにも黙っているように言っていたのだ。誰かに言えば心配する。そうなるともう立ち上がれないと思っていた。

 あの時のオレは弱かった。今も弱いけれど、あの時よりは強くなっていると思う。みんなが言ってくれたことをしっかりと意識して、エドモンから勇気をもらったから。

 

「言ってよ!? 僕そういう時の為にいるんだから!? 眠れないときとかは、きちんと薬だすし、悩んでいるときは話聞くよ!? というか、それが本業だからね!?」

「ふむ、性根はなっとらんが、なかなかどうして、良き大人ではあるようだ」

「はい、ドクターは良い人です。それにしてもスカサハさんは、その、ケルトの英霊ですよね」

「ああ、マシュが言いたいことはわかる。だが、私の出自は知っていよう。人ならざる身になったせいか、あの聖杯による支配は効果がなかった」

 

 だが、それでは召喚されるのはおかしい。彼女は、死を超越している。いや、超越といういい方は彼女は好まないだろう。

 死ねない。だからこそ、英霊にはなれない。召喚もされない。それがスカサハというサーヴァントのはずなのだ。

 

 だが、ここにこうして存在しているということは、召喚されたということになる。その理由もまた特別なものになっているはずだ。

 

「そうだ。おまえの言う通り、英霊として現界できた理由も特殊だが、単純だ。私の国もまた燃え尽きた」

 

 人類史の全てが燃え尽きるということは、彼女の国もまた燃え尽きるということ。その結果、死んだものとしてこの場に召喚されたということらしい。

 まっとうな歴史であれば、彼女は生きている者とは話すことすらできない。そのことは、この状況において唯一感謝できることであると彼女は言った。

 

 しかし、無論、感謝できないことはある。阿呆な弟子の、更に阿呆な姿を見る羽目になったとスカサハはこぼす。

 狂王クー・フーリン。クー・フーリンオルタとでもいうべき魔性。世界を焼き、全てを灰燼に帰した先にある誰もいない大地に王国を築こうとする狂った王様。

 

 カルデアにおける霊基を核として聖杯によってあらゆる王であれという願いによって武装した存在。ゆえに、このカルデアのことについて詳しく、ジキル博士も式も倒された。

 

「さすがに見逃せん。だから、首輪をつけてでも連れ帰ろうと思ったが、そんな時に見えたのがお主たちだ。あやつの本来のマスターであるおぬしがいるのに、私がでるわけにもいくまい。それに、この戦いは英霊の手で解決してよいものではない。人間であるおぬしが解決せねばならない戦いだ」

「わかってる。ロビンもそのためだから助けてくれたんだろう。ありがとう」

「うむ、良い目だ。前にもまして強くなっているようで何より。なぁ、マシュ」

「はい、自慢のマスターです」

 

 そんなオレとマシュとスカサハが話しているのを見て、

 

「むぅ……」

 

 不満そうに清姫は声をあげた。話に入れない。どうして、自分はあそこにいないのだろうと思う。そりゃ、マスターとマシュは特別だ。

 あの二人が始まりなのだから。それはわかる。わかるし、仕方ないと受け入れもしよう。良妻としてすべきことは、そこを受け入れずわがままを言うことではない。

 

 しかしだ、それと感情は別問題。

 

「どうしたよ」

「ああ、緑マントですか」

「だから、どうしてみんなしてオレを色で判断するかね」

「……なんですか」

「いや、オタクこそどうしたよ。話に混ざりたいならまざりゃいいんじゃね?」

「そう、簡単に行きません」

「そういうもんかね」

「そーだよー、ボクだって話に入れないんだよー。やっぱりあるのとないのじゃ違うからねー」

 

 アストルフォが言っていることが正解だ。経験があるのとないのでは大違い。まさしくだ。スカサハ師匠と会ったことがある。

 それで三人で何かしらの事件を解決した。その経験があるのとないのでは雲泥の差がある。

 

「そんなこと気にしてちゃなにもできないわよ! さあ、グリーン、まずはあなたが言って、場を整えるのよ!」

「オタク、さっきまで落ち込んでなかったか? いや、まあ、って、なんでオレだよ。オレ疲れてんの。そっちの夫婦にお願いしろよ」

「夫婦の団欒を邪魔できるわけないじゃない!」

「いや……そりゃ、ああ、そうだけどよ」

 

 そんな話をしていると、

 

「おーい、何してんの清姫も、アストルフォも、ロビンもエリちゃんもこっち来なよ。どうしてそんな離れてるんだよ。みんながいないとこれから先の話もできないでしょ? 思い出話しちゃったけど」

「はーい、マスター、ただいま!」

「ああ、うん、近くに来てとはいったけど、背中に張り付いてとは言ってないんだけど。しかもアストルフォも!? あー、うん、まあいいや。なんかそっちの方が安心するし。で、師匠は、クー・フーリンには勝てない?」

「まったく、そう言いにくいことを随分と言ってくれるな」

「話ははっきりさせたくてね。そうじゃないとみんなを集めた意味がない」

 

 クー・フーリンはそれほどの相手。あの()が倒された。アルジュナというもうひとりの戦力がいたとしても倒されたのだ。

 そのことを理解しなければならない。そして、スカサハ師匠ですら倒せないということで、みんなの危機感を上げなくてはならない。

 

 何をしても油断しないように。最初から全力でことにあたるように。彼らにそのゆるみがないことはわかっている。けれど、心配や不安は消えてなくならない。

 何度も何度も確認しておかないと気が済まない。今こうやって確認していることすらも不安をさらに倍増させているだけなのかもしれないが、それでもだ。

 

「私を出汁に使うか、まったく。――ああ、そうだ。忌々しいことに、あのクー・フーリンはクー・フーリンであってクー・フーリンではない。狂王としての願いを聖杯に受けて強化されている。いや、強化ではないな。必要のないものをすべてそぎ落とした結果がアレだ」

「うむ、道理で伝承に聞く戦士とは違う訳だ」

 

 ラーマが戦った時のことを思い出しながらいう。

 

「なんと、哀れな」

 

 ナイチンゲールが言う。確かに哀れだろう。棘の一本ですら手に余るのに千本。正気の沙汰ではなく、狂ったままに狂ったまま敵を蹂躙する様を哀れと言わずなんといおう。

 そこにはかつての威光などなく、誇った伝承すらもない。ただ敵を屠る、狂った王としての側面しかない。哀れだろう。築き上げた全ては聖杯によって否定され、ただ狂ったのだから。

 

 それだけに今のクー・フーリンは、スカサハ師匠を超えているのだ。強くなったということはできるだろう。確かにかつて勝てなかった相手よりも強くなっているのだから。

 しかし、ナイチンゲールはそれを否定する。それは強くなったのではないのだと。それは、人生を檻に閉じ込めただけなのだと断じる。

 

「なんという破綻。外に開かれない夢は、ただの妄執に過ぎないというのに」

 

 内にのみ存在し、ただ狂った羅刹が自らを檻の中に閉じ込めて暴れている。アレはただそれだけだ。夢はもっと開かれていなければならない。

 ただ一人の夢であろうとも、それは、必ずどこかに繋がる道があるのだ。ナイチンゲールのたどった道がそうであったように。

 

 彼女は全てを救わんとした。たとえ、何があろうとも救わんとしたのだ。相手にとってはそれが独りよがりに見えたとしても、それはどこまでも広く遍くとどろいた。

 だからこそ、遥かな未来がそこには広がっているのだ。

 

「夢とは未来につながるべきなのです。どこにも繋がらない夢など夢であるはずもありません」

「ああ、そうだ。だが、だからといってクー・フーリン一騎を倒して終わりとするわけにもいかぬ」

 

 優先すべきはメイヴ。あれから聖杯を取り上げなければ被害が増える。そして、それはスカサハ師匠に期待できない。

 なにせ、スカサハ師匠に任せると聖杯ごと両断してしまうだろうからだ。聖杯そのものを破壊されてしまっては人理定礎の修復そのものが困難になる。

 

 ゆえにスカサハ師匠には頼れない。あくまでも最後の手段。いや、それすらも考えてはいけない。オレは、弱い。弱いからすぐに頼ろうとする。

 今も、縋りたくて仕方がない。だから、背中に張り付いた二人の存在は本当に助かっていた。動けないから、縋ることもなし。それに、二人の体温が不安を和らげてくれる。

 

 ただ――、これ見よがしに押し付けてくるのはやめよう。

 

「まずは、オレたちでメイヴをどうにかしないとな――」

「あ、あのすみません。お話し中ですが、敵です」

 

 シータがそういうと同時に空にワイバーンの影が見え始めた。

 

「ありがとうシータ」

「敵はアーチャーです」

「ふむ。機械仕掛けの連中にはきつかろう」

「よし、迎撃するぞ!」

「ええ、任せて、今、割とムカついてたから全員くびり殺してやるわ!」

 

 エリちゃんやっぱりムカついていたのか飛び出していく。ナイチンゲールも同様だ。あの人は話を聞かないのはいつものことだ。

 

「さて、私は見せてもらうとしよう。どれほど成長したのか」

「わかった」

「良い返事だ。さあ、行け!」

「行くぞ、みんな!」

 

 ラーマが先陣を切る。迫りくるのはワイバーンだけではない。キメラもだ。ラーマやマシュ、清姫にはあちらの相手を。シータ、エリちゃん、アストルフォ、ロビンにはワイバーンの相手をしてもらう。

 戦場を俯瞰し、的確に指示を出す。スカサハ師匠が見ている。けれど、少しでもいいところを見せようとは思わない。

 

 調子に乗れば死ぬ。もう誰も死ぬところを見たくない。だから、集中する。相手の一歩先を読む。相手を観察し、どう動くかを予測する。

 戦うことができないのなら、頭を回せ。思考を回せ。全てのサーヴァントの動きを把握し、敵の動きを把握して、礼装での援護、指示を出す。

 

 敵を倒せばケルトの戦士の上位の者らが現れる。サーヴァントにも匹敵する。だが、匹敵するだけだ。冷静に見ろ。サーヴァントはもっと早く――。

 

「もっと、強い!」

 

 ――こんなところで止まってはクー・フーリンは倒せない。

 

「絶対に、救うんだ!」

 

 誓いはここに、全てを救うのだ。犠牲になった者たちの為にも――。

 

「ふむ、良い。しかし次はシャドウサーヴァント。どうする」

 

 英霊になれなかった者たち。強い相手だ。だが、負けるわけにはいかないのだ。

 

「――ん?」

 

 だが、指示を出そうとした時、シャドウサーヴァントたちが消えていく。

 

「――ハァッ!!」

 

 裂帛の気合いによってシャドウサーヴァントたちが消え去られていく。戦場を駆け抜けるのは冴えわたる技。中華のサーヴァントのようだった。

 

「見事な技の冴えよ」

 

 天賦の才と地獄のような修練を潜り抜け、肉体に技を浸透させなければ到達できない局地。あらゆる時代で、あらゆるサーヴァントの技を見て来たが、ここまでの冴えはついぞお目にかかったことはない。

 純粋に思ったのだ、凄まじいと。そして、そこには至れないのだともわかってしまった。

 

「実に良い。ああ、そこの者! 名はなんと申す!!」

「ランサー、李書文!! よくぞ現れてくれたな二つ槍のサーヴァントよ! 貴様を見た時から我が心中は嵐の如し。もはや倒さねば収まらん。いざ、立ち合いを所望する!」

「――ほう、私とか」

「無論。儂が召喚された理由は知っている。しかし、自分はやはり――どうしようもなく、我欲に満ちた存在でな。己の槍が神に通じるかどうか、試したくてたまらんのだ」

「なるほど、飢狼という奴か」

 

 ――なんたる覇気。これが人類の極致か。至った最高の武か。

 

「――駄目だ」

「ほう」

「魔拳士とも言われた伝説的な八極拳士。あなたが戦いたいのもわかる。だが、させない。スカサハ師匠には悪いけど、なりふりなんて構っていられない。力がいる。だから、オレたちが勝ったら、オレと来い!」

「――はは。良い啖呵だ」

「行くぞ、マシュ!」

「先輩が望むのなら、勝ちます!」

 

 決闘が始まる。

 




誓いろ新たに。犠牲になったサーヴァントたちに誓う。
絶対に救うと。
だからこそ、ぐだ男君、なりふり構わず力を求める為、書文先生と戦って、勝ったらオレと来いとか言ってます。
スカサハ師匠は強すぎて聖杯すら駄目にしてしまうので頼れませんが、それ以外なら全力で頼る気満々です。

さあ、書文先生は仲間になるのか。
ぐだとマシュのコンビネーションが今、試される。

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