――翌日。
「――――」
強烈な倦怠感で目を覚ました。誰よりも早く。魔力を消費しすぎた反動。それから無理やりに魔術回路を励起させて魔力を生み出しつづけた反動。そして、無理なサーヴァント使役。
無茶をしたツケ。昏倒するように眠ってもそれはどうにもならない。ドクターから送られてきた霊薬でどうにかこうにか回復してようやくだ。
身体の感覚も多少どころかだいぶ悪い。魔術回路の異常。慣れないことはするものではない。おかげであまり無茶はできないだろう。
「だいじょーぶ?」
「ああ、アストルフォ。うん、まあ」
「そっか、ならよかったよ」
「ああ、うん。それは良いんだけど、ひとつ聞いていいかな」
「うん、良いよなに?」
「なんで、オレの寝床に? というか――」
全員、なぜオレの寝床にいるんですか。横になっていたから目の前にはアストルフォ。背後には清姫の匂い。うん、いつものやつだと理解するのに働いていない頭ではちょっと無理だった。
「キミが眠っちゃったあとにいろいろあったんだよ」
「いろいろ、ね」
確かにそのあたりにいろいろな寝床があるからいろいろやったのは間違いなさそうだった。
「そうなの。で、ホントに大丈夫? 見るからに顔色悪そうだけど」
「なんとか」
「んーなんとかっていうのは駄目っていう感じに思えるなぁ。そういう時は素直に駄目って言った方が楽だよ?」
アストルフォの言う通り。素直に駄目って言えて一日でも休めたら楽なのだろう。
しかし、時間は有限であり、休んでいる暇はないのだ。重い身体でも引き摺って、四肢が引きちぎれても這いずってそれでも前に進まなければならない。
休みたいという思いが心の大半を占めている。それでも休むわけにはいかないのだ。最後のマスターだから。世界を救うためには、前に進むしかない。
「そうなんだけどね。そういうわけにもいかないんだよ」
本当、泣きたい。眠って明日から本気だすとか言いたい。だが、それでは駄目なのだとわかってしまう。五つ目の特異点を超えて来たのだ。
鍛えられた心眼は、この状況が長く続かないことを告げている。それに――ジキル博士と式との繋がりが消えた。
それはつまり二人のこの特異点からの脱落を意味している。暗殺は失敗したのかもしれない。つまりそれは、彼らの死を意味している。
また、人が死んだのだ、自分の判断で。心が痛む。また会える。カルデアで会える。それがわかっていても死は死だ。
悲しい。心に罅が入りそうだ。
「……我慢しても良いことないよー。ほーら、ボクの胸でないちゃえー」
「いや、うん……ありがたいんですけど――」
アストルフォがオレの頭を抱え込み胸へ。その様子だけ見れば非常に羨ましい光景なのだろう。
――でも、この子オトコノコなんだよね!?
つまりは、アレがあるわけなのだが、どういうわけかとてもいい匂いがする。
――いやいやいや!?
――落ち着け、落ち着くんだ。
――落ち着いてマシュマロを数えるんだ。
――マシュマロが一、マシュマロが!
――ああ、全然落ち着けない!
「んもう、マスター、くすぐったいよー」
ああ、なんだろう、なんかもうそんなこと関係なくても良いような気が――
「ま・す・た・ぁ」
「ぁ――」
ぞくりと背中に戦慄が走り抜けた。背中を冷や汗が伝うのがわかる。それに合わせて背中を滑っていくひんやりとした指の感覚がぞわりと駆け抜けていく。
何度も何度も背中を往復する細い彼女の指。ひんやりとした指はだんだんと熱を帯びて燃えているかのような熱気を発するようになる。
「ま・す・た・ぁ。わたくし、妾くらいはいてもよいかなぁー、とかマスターのことを想って、想って、想って、想って想って想って想って想って想って、必死に自分を変えてきたのですが、さすがに、オトコノコは、承服しかねます。ねえ、ま・す・た・ぁ」
「は、ハヒ、い、イヘ」
うまく声が出せない。久しぶりに感じる駄目な空気。どこで選択を間違えたのか。最近、清姫に対して配慮が欠けていたかもしれない。
舞い上がっていたのだ。なんたるミスか。信じがたいミス。そうだ、少しばかり有頂天になっていたのだ。引き締めなければいけない。そんなことでは特異点など救えない。
それどころか命も危ない。
「ま・す・た・ぁ?」
そうだ、ここははっきりと言わなければ。
「――ごめん、清姫。大丈夫、オレ、オトコノコ属性はないから!」
「そういって淫乱ピンクの胸に顔を埋めたままなのですが、説得力ないですよ、ま・す・た・ぁ?」
「…………」
「………………」
――…………。
「サーヴァント反応! これは、フィン・マックールとディルムッド・オディナだ! って、なんだい! 人が徹夜して聖杯の調整に苦労してるってのに、良い身分だよね! 僕もそういう役得がほしいよ!」
天の助けとはこのこと、ナイスなタイミングで通信が来た。
「ロマニー、調整、私がしてるんだけど―? おやおや、いいのかなー。寝ぼけて、私の膝を枕にしていたことマスターに言っちゃうぞー」
「ま、待って、ダ・ヴィンチちゃん! そ、それはノーカンだから! 寝てないし!?」
「まあ、美少女二人に挟まれるとかとんだご褒美だよねぇ」
「そうだそうだ! 麗しの美少女二人に挟まれるとは何たるご褒美。是非、私も仲間に入れてくれ給えよ! なあ、ディルムッドもそう思うだろう!」
「い、いえ、私は、その――」
「て、敵襲!?」
慌てて飛び起きる。反応と同時に全員飛び起きていてどうやら、オレが最後だったようだ。ラーマなどはとっくに臨戦態勢でフィンとディルムッドの二人とにらみ合いとしていた。
「さて、あの時の約束を果たしに来た。最後のマスター。何名かいないようだが、準備は良いかな?」
「ああ」
「マスター、続きは、また」
「は、はい――」
清姫への埋め合わせはまた今度するとして今はマシュを賭けての決闘だ。マシュは絶対に渡さない。
「では尋常に一騎打ちと行こう。これは私と君の決闘だ。ディルムッドにも女王の兵にも邪魔などさせぬとも。さあ、私と戦うのは誰か」
「……ラーマ、頼めるか?」
「良かろう。余の力を見せる良い機会だ」
「では名乗ろう。フィオナ騎士団、フィン・マックール。今は、そう名乗ろうとも」
「コサラの王、ラーマ」
「音に聞くラーマーヤナの主役殿と戦えるとは光栄の至り」
「立ち合いは、この私が引き受けましょう。では、王よ、存分に」
「ああ、では、行くぞ――」
「――――」
互いに睨み合う。交わされる殺気。渦巻く魔力は周囲に風をまき散らし、そして凪ぐ。停滞。一瞬、起きた空隙。刹那、踏み込んだ。
動いたのはラーマ。受けるはフィン。
振るわれた剣戟を槍で受ける。まき散らされる衝撃と破壊。超常の技巧でもってサーヴァントの決闘が始まった。
防がれた一撃。地面へと押し付けるように力を込める。それを槍の柄で流し、穂先付近に持ち替えたフィンの一撃がまっすぐにラーマの頭へと放たれる。
身体をそらしてその一撃を躱す。目の前を通り過ぎるマク・ア・ルイン。戦神ヌアザの司る水を放つ魔の槍。
即座にそらした身体に回転を与える。背後へと流れようとする力を回転に巻き込み剣を振るう。
弾かれた槍。本来であれば取り落とさぬよう踏ん張るところをフィンは逆に緩めた。持ち手の輪の中を滑る槍。穂先から遠ざかり柄の中間をつかむと同時に弾かれた力を回転に変換しラーマへと逆襲の一撃を放つ。
ラーマは更に一歩踏み込む。姿勢とともに刃を引き戻し振るわれる槍を受ける。刃をすべらせ地へと槍を落とす。大地が砕け破片が舞う。
神の刃が槍を道にフィンの首へと迫る。
「マク・ア・ルイン!」
魔力が槍に集まり、超常を引き起こす。戦神ヌアザが司りし水が迸り遍く流れが槍の穂先へと大地へと放たれる。
跳ねあがる槍。槍を道としていた刃もまた同様に跳ね上がる。
「くっ――」
そのままの勢いで吹き飛ばされ距離が開く。
「やるな。さすがはコサラの王」
「其方もな」
「しかし、私としてもここで負けるというのは騎士団の名折れだ。勝って更なる箔としよう」
「余とてマスターの願いを背負っているのでな。負けはせん」
さらに魔力が上がる。戦闘の速度は更なる域へと達していく。もはやただの人間では追いつけない速度域へと達していた。
「ああ、よい。強者との闘い。命を削り、魂を刻む。それがあるからこその聖杯戦争だ! さあ、決死の覚悟で来るが良いコサラの王。もはや、この私にその刃は届かぬと知れ」
下方向から上へと突き上げるように出された槍の突き。全身のバネを使った神速の突きだ。大気を抉るような刺しこみは当たれば肉を抉り取られるだろう。
放たれた突きを弾き、ラーマは再び距離を詰めるべく動く。
槍は長い。近接武器の中でも最も長いリーチを誇る。リーチの差はそれだけで戦力の差となりうるのだ。如何に剣の達人であろうとも、刃が届かなければ斬ることができないだろう。
すさまじい速度域の中、相手は巧みだった。接近しようとするラーマの足を払うように突きを放つ。機動力をそがれることはリーチ差がある以上許容できないラーマはそれを躱すか迎撃する以外に選択肢がない。
しかし、少しでも別の動きを加えてしまえばそこで接近は止まる。
たとえ一瞬であろうとも、動きが止まればフィンは距離を保つ。槍が届く槍の間合い。フィンの領域を保つ。領土には侵入させんと槍の領主が告げている。
「――――」
それでもラーマは前へと出ていた。鍛え上げた武が最適を選択する。槍の突きはその性質上、点の攻撃となる。その為に少しでも軌道をずらせば当たらない。
無論、そうさせないようにフィンは突いているが、ラーマもまた巧みだ。うまく剣を槍に絡めてその軌道をズラす。
あと一歩、その一歩が遥か遠い。
「シータがいるのだ。余が負けるわけがなかろう――!」
されど、そんなもの越えられないようなものではない。シータとの再会に比べたらそのような距離などないに等しい。
「――――!」
振るわれた剣の一撃はフィンへと届く。それを槍の柄で受けて横へと流す。それと同時に突き入れ。ラーマの心臓へ向けて槍を突き放つ。
それに対してラーマは一歩下がることで僅かな距離を稼ぐ。その隙間に剣を振り戻して迫りくる穂先を打った。穂先先端、長物の常として働く、てこの原理によって少しの動作で攻撃をいなす。
それを回転運動で引き戻し槍の薙ぎが放たれる。それを受ければ、再び距離が空く。
「――凄まじいな。ああ、ゆえに――」
渦巻く魔力。際限なく高まっていくのは宝具を開帳するつもりだということ。
「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃――その身で味わえ!!」
「ならば、羅刹王すら屈した不滅の刃――その身で受けてみよ!」
「
「
戦神ヌアザの司る「水」の激しい奔流を伴う一撃が槍より放たれる。
魔王ラーヴァナを倒すために、ラーマが生まれた時から身につけていた不滅の刃、魔性の存在を相手に絶大な威力を誇るそれが投擲される。
ぶつかり合う力と力。凄まじい衝撃に大地が砕け木々が薙ぎ払われる。
「先輩!」
あらゆる災厄をマシュの盾が防ぐ。
「余の勝ちだ」
そして、全てが晴れた時、立っていたのはラーマだった。
「ふっ、駄目か」
「王よ!」
「はは、いやいや、存分に戦った。戦いつくした。ディルムッド。私は満足だ」
「はい、良い戦いでした王よ」
「しかし、まあ、此度も負けか。ふむ。残念ではあるが仕方あるまいな。ここは素直に敵を称賛するとしよう。あとは、マシュ殿を妃にできなかったことだけが悔やまれるな。ふむ、そうだディルムッド。私が消えた後はおまえが娶るというのはどうだ?」
「いえ、王よ、それは――」
「はは。冗談だ。許せよ。――フィオナ騎士団、ディルムッド・オディナ。後は任せる」
「は! 我が王に必ずや勝利を」
「フッ、最後までまじめな奴め――」
フィン・マックールは消滅した。そして、ディルムッドとケルトの兵団が槍を向ける。
「王の命により、これより貴方たちの首を貰います」
「させぬよ」
「フィオナ騎士団ディルムッド・オディナ、参る!!」
ケルトの兵団はアストルフォと清姫が潰し、ディルムッドはラーマとマシュで倒した。
「く、やはり強い……しかし、良い戦であった。できることならばやはり王に勝利を捧げたかったが。これもまた良い。騎士として最後まで戦えたのだ。私は満足した。では、王の下へ参らねば。秩序の守り手よ、また縁があればどうか再び王とともに召喚していただきたい。必ずや力になりましょう――」
そう言って彼も消滅した。
「霊基の消滅を確認。最後の最後まで鮮やかで、軽くて――心地のよい二人でしたね」
「あら、振ったのに結構脈ありなの?」
「振ったとはどういう意味ですかエリザベートさん?」
「だって、あのひとに求婚されていたんでしょう! それを相手にしなかったんだから振ったってことじゃない!」
「いえ、あれはマスターが」
「あら、やっぱり! 愛されてるわね! それにしてもこの軍勢ってことは、暗殺は成功したのかしら」
その時、通信が入る。
「通信だ。ジェロニモじゃなくて、ロビンか……」
悪い予感を感じながら通信をオープンに切り替える。
「――悪ぃ。しくじった」
「……式とジキル博士とのつながりが切れたのはそういうことか――ロビン、きみ、だけか?」
「すまねえ。オレ以外は、全員やられちまった」
「――――え、ちょっと、アンタ、なんていったの?」
「今、西部、アメリカ軍が廃棄した基地に向かっている。座標はわかるか? 悪いがすぐに来てくれ」
通信が一度切れる。
――予想していたとはいえ、そうなってみるときつい。
式とジキル博士、陛下にビリー、ジェロニモ。みんなやられた。その事実が心に重くのしかかってくる。
「ねえ、嘘よね、アイツの冗談よね……」
「…………」
エリちゃんのつぶやきに同意したい。けれど、それはできないとわかっている。ロビンが冗談を言うワケがない。
この状況で冗談など言っているひまはないのだ。
「…………とにかく、行こう。確認しないと」
「治療しますので、手を出してください」
見れば握りしめた拳が赤に染まっている。握りすぎたようだ。
「ごめん……」
「何を謝るのです。患者を治療するのが私の使命です」
治療をしてもらい、ドクターに座標を教えてもらってオレたちは、ロビンの待つ地点へと向かった――。
フィンとの闘いはぐだ男が決闘をやると言ったので一対一の尋常な決闘になりました。
さて、続いてはロビンと合流。
全滅を知りますが、それでも前に進まなければいけないのが悲しいところです。
そのうち四章までの圧縮を解除したいと思います。余裕があればなので、いつになるかはわかりませんが。
さて、雑談。
みなさん星5確定ガチャ引きました? 私引きました。ランサーほしかったので、三騎士の方をね。それでアルトリアは出たんですよ。セイバーだったけどね!
いや、うん、いないからよかったんだけどさ……沖田、アルテラ、ラーマ、デオン、リリィってメンツがいる中で青王。
素直に喜べない! でも仕方ない、青王は育てるとして、あとは五章ピックアップまで待つとします。
エレナママとナイチンゲールを引きたい。
鳳凰の羽根が、足りない……。あと12枚くらい足りない。最終再臨できない……くそう。
スキル石も足りない。QPも足りない。足りなすぎる
くそう……。
あと宣伝
小説家になろう版のスライム君とニンゲンさんと美しの森という小説を投降したので良ければ読んでもらえたら嬉しいです。
http://ncode.syosetu.com/n2355dl/