牢獄の中にその少女はいた。シータ。ラーマにそっくりな女の子。
「シータ!」
「ラーマ、様!?」
「会いたかった、会いたかった。本当に、本当に会いたかったんだ。
僕は、君がいれば、それだけで良かった……!! 迎えに来たぞ!」
感動の再会だった。これが視たかったんだ。だが――。
――ラーマがナイチンゲールの背にいてシータを見れていないという状況じゃなければね!
――ナイチンゲール空気読んでよ、ここは空気読んで降ろしてあげてよ! なんかシータ困惑してるじゃん!?
「早速ですが治療を開始します」
――あ、やっぱり婦長だ。
空気をまったく読まずナイチンゲールは治療を開始した。一瞬にして麻酔で眠りにつかされるラーマ。今までさんざん暴れたので、そのあたりしっかりと学んで今回は麻酔で徹底治療に入るようだった。
「では、奥方、ご協力をお願いします」
「は、はい――」
そして、これは実際は幸運だったのだ。
事情をシータに説明し、治療の最中、ふと呟いた。
「それにして、似てるなー」
「当然です。私はラーマです」
「はい?」
治療中、シータがそういった。
「ええと、どういうこと?」
「はい、異邦のマスター様。ラーマ様にかけられた呪いはご存知でしょうか」
「一応」
ラーマの呪い。バーリという猿を殺した際、背中からだまし討ちをしてしまった。その猿の妻からかけられた呪い。ラーマとシータは出会えない。より正確に言えば、たとえ后を取り戻すことができても、共に喜びを分かち合えることはない。そういう呪い。
それは英霊となった今でも変わらない。聖杯戦争に召喚されるのであれば、ラーマかシータどちらかしか召喚されない。同時に召喚されることは決してない。
「それじゃあ。ラーマが君を見ても?」
「はい、今は治療で眠りについていますから、大丈夫なのでしょうが、彼が私を見たのならばどこかへと消えるでしょう」
「それは――」
――悲しすぎる。
せっかく出会った二人だというのに、このまま言葉を交わすことすら許されないというのか。
「そんなの、認められない――」
――考えろ。何か、ないかを。
「――でもいいのです。それでいいのです。私は手を握ることができて、こうやってあのひとの眠った顔を見れています。それだけで……ただ、それだけで幸福です」
「そんなわけない!」
「そうよマスターの言う通りよ! 心からの謝罪は? 全霊をこめた愛の誓いは? そういうのがほしいと思わないの? この人、あなたを一度裏切ったのでしょう?」
「この人は、私を求めて14年間戦い続けました。
短くも幸福な恋をした。だからこそ、彼女はそう言えるのだ。だが、認められなかった。たとえ、それに納得していようとも、認めるわけにはいかなかった。
恋人たちは幸福になるべきだ。これまで待ち続けた。今、ようやく叶った奇跡がある。なら、もう一度だけ、奇跡が起きてもいいはずだ。
考えろ。思考しろ。戦うことができないのならば、考え続けろ。
――それがおまえにできることだろう。我が仮初のマスター。ならば諦めずに前に進め
――待て、しかして希望せよ。
誰かの声が聞こえた気がする。希望を諦めずこの右手を伸ばし続ければいつか届くと信じて。だから、届かせるのだ。
「ドクター」
だから、ドクターに一つの頼みをした。
「ああ、いいとも。キミからの初めての頼み事だ。だったら、全力で叶えるとも」
「ダヴィンチちゃんにお任せおまかせ。こっちの調整はうまくやる。聖杯探索《グランドオーダー》の為に世界中から集めた触媒もある。さあ、お任せあれ必ず私たちで君の希望を叶えてあげるとも」
「そういうこと。だから、君は全力でやりたいことをやると良い。尻ぬぐいくらいは僕らにやらせてよ。そうじゃないと君たちに申し訳が立たないからね。職員一同、全力でやるさ」
「ありがとう」
通信を終えるとどうやら治療の方もほとんど終了したらしい。
「修復は終わりましたが、巣くった何かが厄介です」
「ゲイ・ボルクの呪いでしょう」
「元気になったとしても戦力としては見込みがないかもしれません。……残念ですが」
「ならば、私がこの身を捧げましょう」
「……!?」
「私のこの身を以て、この呪いを解きます。私がこの呪いを背負い、消滅すればいい」
ラーマとシータは同一。ゆえに、呪いの肩代わりも容易。
「それだと、本末転倒です! ラーマさんはあなたのために――」
「……はい。ですが。私は、その気持ちだけで、私は満たされました」
それに、いま必要なのは強い戦士だ。ラーマは世界で最も強い。ならばこそ、ここでシータが消えるのが最適なのだ。
「では、
「ええ、お願いします」
「――私は生涯独身でしたが。それでも、誰かの為に尽くす想いは理解しています。短い間でしたが、貴女と語らえて光栄でした。さようなら、ミセス・シータ」
「はい。……ラーマ様……ラーマ。あなたが背負ったものを、私が少し肩代わりできる。……少しだけ、あなたの戦いに役立てるね。私、それだけで幸せなの。大好きよ、……本当、本当に大好きなの……」
そして、シータは消えた。
「描けた」
同時に血の魔法陣は完成した。自分の血しかなかったから、だいぶきつい。だが、これでいい。自分の身を削ってでも為す。
「うん、大丈夫だ。それと触媒は来たかい」
「ああ、問題なく。行けるよ、ドクター」
「成功を祈ってる。こちらも聖杯の準備は完了だ。だけど、良いかい。もってその特異点を救うまでだ。その特異的な状況に重ねて聖杯戦争を引き起こす。それ以上引き延ばせば、どうなるかわからない」
「わかってる」
「あの、先輩? いったいなにを」
「これだよ――セット」
そして、高らかに咒を紡いだ。
敷設した魔法陣が励起され発光する。次いで、サーヴァントを構成するエーテルが集う。銀河のごとく、あるいは夢の奔流のように緩やかに渦を巻き、輝きを強めていく。
「――告げる。
汝の身は我が下に、わが命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
紡ぐ、紡ぐ、紡ぐ。咒が紡がれる。数度の聖杯戦争において、形式化された英霊召喚の儀式における咒が紡がれ、魔法陣が駆動する。
はるか遠くカルデアに敷設された聖杯の機構が駆動し、夢の果て、世界の果て、英霊の座へと咒を飛ばす。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者」
来い、二人の離別など認めない。呪いなど知らない。そんなものどうでもいい。ただ愛する二人に幸せになってもらいたいと思うから。
その気持ちだけは否定したくないから。だから、全力で言葉とともに魔術回路を励起する。
「我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
――呼び出す英霊は決まっている。触媒はある。だから、来い。
来い、来い、来い。
一心不乱に願い続ける。英霊の座まで届けと。深く、深く、希う。
「我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」
最後の咒を結び、これにて詠唱は終わる。莫大な光が爆ぜる。
だが、召喚はならない。
「ドクター!」
「まった、調整する! よし」
「もう一度!」
成功するまで何度も、何度も。何度でも紡ぐ。
魔術回路を限界まで酷使して、魔力を絞り出す。
届け、届けと。
その祈りが英霊の座まで届けと。
それは純粋な祈りだ。
ゆえに、どこまでも届く。
願いは聞き届けられる。
そして、二十を超えた頃、召喚は成る。
「サーヴァント、ラーマ、召喚に応じ――」
「よっしゃああああああ!!」
シータを召喚できた。
「やりました先輩! すごいです、奇跡です!」
「さすがマスター!」
「よくやったわ子イヌ!」
「すごいや、こんな無茶やっちゃうなんて」
本当に奇跡だった。成功する確率なんてなく、失敗する方が多い。魔術回路の酷使でなんだか、倒れそうなほどだ。
だが、それでも、この光景が視たかった。
「これは夢か……」
「ラーマ、さま……」
「シータ!」
異常な聖杯戦争に聖杯戦争を重ねたうえでの召喚。だからこそ、二人は再会した。再会できた。この先、もう一度あるかもわからないほどの奇跡だ。
「ふぅ、賭けだけど成功してよかったよ」
「ドクターもありがとう」
「頑張ったのは君だよ。こっちはサポートだけさ」
「いいや、違う。ナイチンゲール、マシュ、エリザベート、アストルフォ、清姫、ドクター・ロマン、そして、マスター。心より感謝する。みなのおかげで、こうやってシータと再会することができた。こうやった、互いに抱擁を交わすことができた。心より、感謝する」
「はい、私からも同様の感謝を」
「そして、ここに誓う。マスター、余はあなたのサーヴァントだ」
「私もあなたのサーヴァントです」
「シータと二人、あなたの為に戦おう」
これでそろった。
「戦える?」
「無論。身体は万全だ。シータもいる。ならば、余に敗北はない。ケルトの大英雄だろうと、誰であろうとも。約束しようマスター。余は、もう敗北しない」
「これで我々の任務は完了です。早速ですが東部に向かいましょう」
「ようやく本来の治療行為が開始できます」
「治療だけどー、具体的にはどうするの?」
アストルフォの言う通りだ。具体的な案がなければ治療も何もない。ただ、今のナイチンゲールに聞いたところで、
「もちろん、ケルトの戦士を粛清します。徹底的に」
こういうことしか言わない。
だが、この提案で間違いないのだ。全てのケルトの戦士を倒す。そうすることで、ケルトを打倒することで、世界をあるべき姿に戻すのだ。
「行こう。東部へ」
世界を救うために――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……どうだ?」
虚空から突然ロビンフッドが現れる。
「偵察終わったぜ。ったく、顔のない王を酷使しすぎだっつーの」
文句を垂れるが、仕方あるまい余が斥候になど出かけてはひと騒動だ。
む、なぜそこで全員が納得するのだ。心外だ。
「で、緑マント。さっさと見て来たことを言いなよ」
「オタクまで色で人を判別するのやめてくれますかねぇ」
「まあまあ、式はいつものことだから。とりあえず、どうだったんだい?」
ロビンフッドが見てきたことを説明する。
「なるほど、パレードか」
「なにそれ?」
「あちゃー、なんと残念な男たちよ……。良いか? パレードとは権力者たちのお披露目だ。良いぞ、パレードは。余の名を歓呼する民、整然と一糸乱れず行進する兵士たち。余が手を一振りするだけで、素敵! 最高! 万歳! ネロ様抱いて! の雨アラレ」
――うむ、思い出してきたらもう一度やりたくなってきたぞ。
しかし、ジェロニモはこれを好機と見た。誰もが浮足立つパレード。暗殺の絶好の機会である。狙うはパレードでもっとも高い位置にいて、目立っているサーヴァント。サーヴァントではないかもしれぬが、まあとにかく一番目立っている奴を狙う。
一番目立っている者が王ないし女王なのだ。権力の頂点に立つ者が最も目立つことこそがパレードでは重要なのだ。
民に見せるためのパレード。最高権力者がおかざりだろうとも、それは変わらない。一番目立つ位置で手を振らせて民衆にアピールするのだ。
それゆえに暗殺には絶好の機会。
「ふぅん、目立ちたがりも大変だ」
「ロビン。サーヴァントたちは潜伏しているか?」
「知覚できたサーヴァントは二騎。それ以外は、少なくとも、オレが探知できる範囲ではいなかった」
その二騎の周囲はケルト戦士が固めている。ならば間違いなく王や女王といった連中だ。
「どうするよ、ジェロニモ」
「やるしかないだろう。千載一遇の好機だ。我々はまったく戦わずにここまで来た。一方、マスターたちは西部で派手に動いた。そのことについて彼らが知らない訳ではないはずだ。何かあるかもと思っても、サーヴァントがここまでそろっているとは思わないだろう」
「ふふん。ならば動くのならば余の宝具の出番であろうな」
そして、作戦を話し合い、余たちは行動を開始した。
「みんなー! 今日はメイヴの為に集まってくれてありがとう!! この国は永遠王の国! 私とクーちゃんの、私とクーちゃんによる、私とクーちゃんのためだけお国!」
その瞬間、ロビンの宝具を解除し、
「女王メイヴよ! なかなかに愛くるしい容姿だが、あいにくと貴様の天下はこれにて終わりだ!」
余の宝具を発動する。
「春の陽差し、花の乱舞! 皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで――開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!!」
黄金の劇場を展開する。
「! まさか、固有結界……!? いえ違う。これなんていうか、すごく迷いのない魔術!」
「貴様には過ぎたる宝具だが、今宵は大盤振る舞いだ! 覚悟するがよい!」
「コノートの女王メイヴ! 悪いが、その
「――行くよ!」
「生きているのなら、神様だって殺してみせるさ」
「行こう――」
「あらやだ、こんなにたくさん! この結界のせいで私の兵士も弱り果ててるし! 大ピンチ! 大ピンチよ、私! 大ピンチだから――助けて、王様!」
そして、
ご都合主義だろうとなんだろうとラーマとシータのラブコメのためなら許容した。あとはISHIの力とOMOIの力です。ぐだ男もぐだ子と同じ系譜だということを忘れてはならいのだ。
文句があるなら、神々の黄昏放つんで乗り越えてきてください。
そして、暗殺組はついに王様と対決です。式とジキル博士がいますが、果たして結末はどうなるのか。
まあ、間違いなくあのひとが出てきます。
では、また次回。
そして、みなさん月曜日オジマンですよ、オジマン。
竹箒日記によるとすごい無敵感らしい。気になる。
あと、モーセは拳で海割るらしい。某所での発言のせいかモーセのイメージがなぜかヒロアカのオールマイトになってしまった。
あと噂のポケモンGOをインストールしてみた。よくわからない。楽しいのか? 私の琴線にはあまり触れない。というか個体値まであるという話にいま、戦慄してます。