Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 9

「ああ、くそ、まったくついてないねこりゃ」

 

 ――オジサンもついに年貢の治め時ってやつかねぇ。

 

 召喚された途端に敵、敵、敵。

 そんで、とりあえず一つの街を守って奮戦してみたわけなんだが。倒しても倒しても湧き出てくる敵。敵はギリシアかよと思ったが、まあ、そういうわけではなくケルト。

 やれやれ困ったねこりゃ。万事休すってやつだ。こちとら朝から夜まで戦い詰めでボロボロだってのに。

 

「ふむ、満身創痍か」

 

 この期に及んでサーヴァントの登場とはついてないね。

 巨剣を持った偉丈夫。名乗った通りならフェルグス・マック・ロイ。ケルトの大英雄様じゃないの。いやはや、会いたくないときに会いたくないのに出会うとはこのことだね。

 

「そういうあんたは元気満々ってやつじゃないの」

「ふむ、しかし手加減はせぬ。戦士であれば、いついかなる時も全力これがモットーでな。それに性欲を封印して禁欲している身としては盛大に暴れたいところなのだ」

「いやはや、本当ついてないね」

 

 これで相手が全力でもなけりゃ、まだどうにかなったんだけどね。どうも相手さんは全力のようだ。そう全力。それも本気だ。

 戦に全てを賭けているっていう目だ。ああ、いやだいやだ。オジサンの相手っていつもこれかよ。泣けてくるねぇ、まったく――!

 

 だらりと弛緩したそこから槍の突き入れを放つ。名乗りもせずに挨拶もせずの一撃。完全な不意を衝く一撃だったが。

 

「チィ――」

「おいおいその程度か?」

「あーあ、最悪だ」

 

 完全に相手の意識の隙間に差し込んだはずの突きは完全な形で防がれた。

 槍を回して、穂先での切り上げも難なく躱され、休むことなく石突の追撃すらも防がれる。

 

「いや、本当、最悪だね」

 

 ここまで消耗してなけりゃと思うが、

 

「ままならんねこりゃ」

 

 どうにもならない。撤退もできないとあれば、もはやここは死地だ。どうにか逃げようにも、敵に囲まれている。こんな気分はあのアキレウスとの一騎打ちだけで十分だってのに。

 

「頭を下げておれ――」

 

 やられそうなその瞬間に、響いた女の声。とっさにオジサンが従えば、休むことのない銃撃がケルト兵たちを蹂躙していく。

 

「お、なんだ!」

 

 フェルグスは相変わらず巨剣で器用に銃撃を防ぐ。だが、それでも後退しないわけにはいかなかった。そこに突っ込んできたおかしな奴がいたからだ。

 格好は季節外れのサンタクロース。だが、手にしている剣は聖剣の王と言っても過言ではない。聖剣の代名詞。誰もが一度はその名を聞いたことがあるだろう剣だ。

 

「ぬお、良い腕だ」

「ふん、貴様もな。だが、遊んでいるひまはない」

 

 極黒の光を聖剣が纏いそれを振るう。

 

「ぐおお」

 

 フェルグスを吹き飛ばし、そこに火縄銃の追撃が入る。

 

「やれやれ、いきなり軍を進めるからどうしたのかと思ったじゃない。大丈夫かしら」

 

 そうしていると今度は魔術師。サーヴァントのオンパレードだ。

 

「まあ、大丈夫じゃないのかね。それよりオジサン状況説明がほしいところだねぇ」

「ええ、もちろん説明はするわ。でも、その前にトロイアの英雄さん、あなたはこちらについてくれるのかしら」

「つくもなにも、オジサン、ケルトもあんたらも敵に回して勝てるとは思えないんでね」

 

 ――そうかしら。

 

 目の前の少女のような女サーヴァントは言う。

 

「トロイアの英雄なら、案外やれるかもしれないわ」

「オジサンを買いかぶりすぎだよ。オジサンはただのオジサンだから」

 

 ――隙がない。魔術師だからって油断はできないねこりゃ。

 

「はいはい、オジサンの負け負け。そっちにつくよ」

「よくってよ。さあ、立って、私たちの拠点に案内するわ」

 

 さてさてこの戦争、どうなるか――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「もー、敵多すぎ」

 

 ボクが可愛いからって寄ってたかってくるのは勘弁してほしいよ。

 

「でも、退くわけにはいかないかなぁ」

 

 西に避難しているという一団。逃げ遅れた無辜の民がいるのであれば、逃げるわけにはいかない。なにせ、ボクは英雄だから。

 弱いって言われようとも、ボクは英雄だ。英雄であって――。

 

「――シャルルマーニュが十二勇士、アストルフォだ!」

 

 ならば退くわけにはいかない。もう少し時間を稼ぐ。

 

「幸い、サーヴァントがいないなら、どうにでもなるからね」

 

 電光石火の速さで戦場を駆けぬける。無論駆け回るだけではない。宝具を使用する。相手は魔術も持たない相手、それでタフネスがある。

 使用するのは触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)。カタイの王子・アルガリアが愛用した装飾も見事な黄金の馬上槍。

 

 ランスとしての攻撃力は備えているが殺傷することを前提にした武器ではない。真価は、まさしく真名を解放することで現れる。その効果は、こうだ――。

 

「!?」

「そこで転んでてねー」

 

 触れたものを転倒させることができる。

 

「んで、これ! 恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)!!」

 

 恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)。音色を聞いた妖鳥が恐怖で逃げ出すという角笛。大きく吸い込んだ息を角笛に向けて吐き出す事で、龍の咆哮、巨鳥の雄たけび、神馬の嘶きに比肩するほどの魔音を発生させることができる。

 これは純粋な音波による広域破壊兵器。

 

 こういった軍勢相手には有効。特にサーヴァントでないのならば一瞬にして破滅させることができる。いかにケルトの兵士が屈強であろうともサーヴァントではない。ゆえに有効。

 

「ほう、良い音色だな」

「…………」

 

 だが、そうサーヴァントには心もとない。

 

「うむ、しかし。良いな! 戦でなければお相手を頼みたいところではあるが――」

「ボクとしては遠慮願いたいね」

「うむ、そうか。それは残念だ。まあ、ここで死ぬのだからあまり関係はないな」

 

 ――ああ、最悪だ。 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ふん、ふん、ふふ~ん、ふぅぅぅん……よし、こで土台はできたな。現状の町並みでは、残念なことにウェスタンしか撮影できないが――なに、余のたぐいまれなる名演技を以てすれば、西部劇とてアカデミックな賞をゲットであろう!」

 

 それを見た瞬間、オレはドクターに場所を聞いた。

 

「ドクタードクター、もしかしてここって現代だとさ」

「ああ、うん。君の予想通りハリウッドだよ」

「ですよねー」

 

 だって、エリちゃんと同じような匂いがしますもの。体臭じゃないよ、そういう匂いじゃない。体臭は、たぶん、薔薇の香りがするんじゃないかな。

 マシュとかミルクみたいな匂いするし。清姫は、お母さんって感じ。家事とか料理の匂いっていうの中。畳とかの匂いもあるかも。

 

 ブーディカさんも同じだけど、どこか甘いというか。サンタさんは、ターキーの匂いかな……。ノッブは、なんか甘いお菓子の匂いがしてるあと硝煙ってやつ? 硝煙の香るいい女じゃろ? とか言うのが口癖だけど火薬臭いだけ……。

 式は怖くて嗅げません。エリちゃんは、花の香りがしてる。たぶん、香水の匂い。

 

「先輩! 先輩!」

「――はっ!? オレはいったいなにを」

 

 なんか思考が盛大に変な方向に吹っ飛んでいたような気がする。

 

「さて、ぷろでゅーさーと、でぃれくたーと、脚本と、音楽と、主演は余が兼任するとして……」

「どんだけ兼任してんだよ!?」

 

 いかん、思わず突っ込んでしまった。

 

 だが、その瞬間、何かが吹っ飛んできた。

 

「カッ――!?」

 

 それは人だった。

 いや英霊だ。

 

「あれ、この子は……」

 

 見たことがある。確か、クリスマスの時にフランスで――。

 

「アストルフォ!?」

「けが人ですね! 治療します!」

「だから、余を降ろせと――いや、待て!?」

 

 その瞬間、凄まじい剣戟が振り下ろされた。

 

「宝具、展開します!!」

 

 マシュが宝具を展開して防ぐ。砂じんが晴れた時、そこにいたのは見覚えのある偉丈夫だった。かつてオレたちを助けてくれた師匠の1人。

 

「なんだ――フェルグスの、叔父貴」

「おう、なんだ、いつぞやの幼子か。うむ、良い成長をしたと見える。男になっているな。語り合いたいと思うが――俺は今こちら側だ。ならばやるべきことは一つ。本命を引いた。好都合にセイバーもいるとなれば。ここでつぶしてしまうのが良いだろうよ」

「む、なんだ、おまえたちは余の映画を見に来た客というわけではないな」

「ああ、どうしてこうなんですかねぇ」

「む、おお、ロビンではないか」

「はいはい、ロビンですよ。それよりも――」

「うむ、色々と語り合いたいが、殺気立ったのがおる。まずはこいつらからだな。初見であるが、よろしく頼むマスター」

「……ああ」

 

 何をするにもまずはこのケルトの軍勢とフェルグスの叔父貴を倒さなければならない。

 

 ――大丈夫だ。大丈夫。

 

「先輩……」

「大丈夫だ。マシュ。行くぞ、おまえら!!」

 

 ――敵の動きがわかる。彼がどう動くのかがわかる。

 

 

 それはオレが彼を知っているからだ。

 

「ぬ――」

「マシュ、そこで防御、式、そこは危ないから右に避けて、ジキル博士は今攻撃――ビリー、ロビン射撃」

 

 攻撃の一手を封じる。回避した先に射撃を打ち込む。防御したら背後から。

 相手の動きが手に取るようにわかる。彼の力を間近でみたことがある。それでこれなのだ。

 

 ――なにもさせない。

 

 ここで気を緩めたらだめだ。そうすれば、その分、誰かが死ぬ。それは嫌だ。敵を殺したくもない。けれど、それ以上に、もう誰かが死ぬをの見るのは嫌だ――。

 だから、叔父貴を倒す。倒さなくちゃいけないんだ――。

 

 必死にそう言い聞かせながら指示を出す。相手に何もさせない。相手が宝具を発動するのなら、こちらも宝具で対応する。

 マシュが防ぎ、式が攻撃。そこにエリちゃんが加わる。ランサーのクラスで限界したことによって可愛い衣装になったが、それ以上に動けるようになっている。そこにロビンとビリーの援護。

 

 全員に対してジェロニモが支援の魔術。突っ込むナイチンゲールが今はアストルフォの治療をしている。だから全員が指示を聞いてくれるのが大きい。これでナイチンゲールが突っ込んでいたら面倒なことになっていた。

 それにセイバー。皇帝ネロ陛下。彼女はオレのことを覚えていない。彼女はサーヴァントではなかったのだから当然だ。けれど、彼女の戦い方はオレが知っている。

 

「清姫、頼むよ」

「はい、マスター」

 

 魔術礼装で彼女の力を強化し、宝具を発動する。強化された炎がケルトの軍勢とフェルグスの叔父貴を包み込む。これではまだ終わらないだろう。

 

「ロビン、ビリー、頼むよ」

「さぁ、早撃ち勝負だ。先に抜いてもいいよ? 僕の方が速いから。 ……ファイア!!」

「なんの勝負だよ。――任された弔いの木よ、牙を研げ。祈りの弓(イー・バウ)!」

「ぐ――」

 

 炎、二人の宝具。それですら倒せたとは思わない。何があろうとも、油断などせずに。

 

「式――」

「ああ――」

 

 ここまで弱らせれば、直死を使って式が死を視ることができる。

 

「これで終わりだ――」

 

 式のナイフがフェルグス叔父貴の霊核を破壊する。

 

「なんと――圧倒的ではないか」

「あなたの動きはわかる。あなたの勇士をオレは見せてもらったから――」

 

 それだけに、心が痛む。痛みで泣きそうになるほどに心が痛い。

 

「泣くな。勝ったのならば勝者らしく笑え。気にする必要などない。良い戦いだった!」

「ああ、ありがとう叔父貴」

「ふっ――」

 

 叔父貴は笑って消えた。

 

「ふぅ……」

「先輩……」

「ん、大丈夫……ああ、いや、ごめん少しきついな……ちょっと胸借りていい?」

「はい、先輩、どうぞ。わたしの胸ならいくらでも」

「マスター! わたしの胸でもいいですよ!」

「ごめん清姫、さすがにマシュには勝てないかな」

「ガーン」

 

 これだけは譲れない。マシュのマシュマロに勝てるサーヴァントはいない。ああ、そういえばドレイクの姐御とかブーディカさんも良いおっぱいをしていたなぁ……、

 

「あの先輩?」

「大丈夫、ありがとうマシュ。落ち着いた。さて、これでケルト側のサーヴァントを一騎倒したことになる。けれど、まだ敵は多い。油断せずに行こう。それから皇帝ネロ。あなたもついてきてくれるかな」

「うむ、さすがに映画だのなんだの言っているひまではないことくらいわかるぞ。余の力が必要なのだろう? 任せよ」

「頼もしいよ。で、聞きたいんだけど――なぜに花嫁衣裳?」

 

 なんというか花嫁衣裳と言っていいのかよくわからないけれど、花嫁衣裳っぽい何かを身にまとっている。はて、彼女はローマでは、なんか赤い男装? な服装をしていたように思えるのだが。はて。

 

「なぜ花嫁のドレスに着替えているのかだとぉ? ふっふっふっ…決まっていよう! それはぁ、余が! そういう気分になったからである!」

「アッハイ」

 

 ともかく賑やかになったのは確かだ。

 

「…………アレ、ボク盛大に出遅れてない?」

「けが人は黙って治療されてください」

「ちょ、痛い、痛い!?」

 

 ――あ、アストルフォ、忘れてた。

 




というわけで主人公側が勢ぞろい。アストルフォを新たに加え、フェルグスの叔父貴を下し、さあ、行くぞ!

オジサンとよくってよの絡みはなんか個人的に好きかもしれない。
裏でいろいろと隙のない二人が表向き友好的にしながら腹の探り合いしてるのとかなんか楽しい。


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