「ん? 今、何か聞こえなかったか?」
何か聞こえたのか森色のマントを羽織った男がそういう。それに応じるように金髪の男が耳をすませて戦いの音を耳に捉える。
「あー……何か、戦ってるみたいだね。援軍が到着したかな?」
「風向きが変わったな! ジェロニモのオッサン、やってくれるじゃねえか!」
「……ねえねえ、グリーン。ジェロニモってさ、背中に子供担いで医療バッグと拳銃を振り回す女性だったっけ?」
「……は? なんだその夜に遭遇したら失神確実なの。うちの
グリーンと呼ばれた男が見たのは、何やら赤髪の少年らしきものを背中に抱えて全力で、まとめて消毒するのです! と叫びながら戦う女だった。
「あー、おっかねえ」
それから、
「マシュ・キリエライト、突撃します!」
巨大な盾を持った女のサーヴァントだった。
「とりあえず、ありゃあ味方ってことでいいのか?」
「いいんじゃない、僕としてはタヨリニナリソウだし」
「棒読みしてんじゃねえよ。とりあえず、オレは隠れて見とくから確認してくれや」
「あいよグリーン」
あらかた戦闘が終わったところで、話しかける。
新型の魔物やらなにやらとの戦闘があったが、駆け付けた援軍が強いおかげで楽ができたほどだ。特にナイフ持った着物の女性。彼女がナイフを一振りすればそれだけであらゆるものが死んでいく。
規格外にもほどがある。さて、味方なら頼りになるけど、敵だったらどうしようかな――。
「おーい、君たちは味方でいいんだよね」
ともかく話しかけるのみ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「血が出てるよナイチンゲール」
「はい、それが何か?」
「いや、だから……」
血が流れてるから治療したらいいとナイチンゲールに言うが、彼女は聞き入れてくれない。自分が血を流す代わりにほかのみんなが血を流さなければいい。
確かに尊い思いだと思う。けれど、
「オレは心配だから、治療させてもらうよ」
魔術礼装を用いて彼女の治療をする。
「必要ないと言いましたが、ありがとうございます。ですが、もしこの一回が次の一回が必要な時に響いたらどうするのです。適切な時に適切な治療をするのもマスターの仕事でしょう」
「うん、だからそうした。今が適切だとオレが判断した」
「…………」
「すごいです先輩!」
「うん、ありがとうマシュ。それに大丈夫だよ婦長。魔力さえあればどうにかできるのなら、オレは何とかしてみせるさ」
出そうと思えばいくらでも魔力は出せる。そのあとどうなるかなど知ったことではない。足りないのだから。どうせ才能も能力も足りない。
だったらそれでもどうにかするためにかき集めるのだ。絞りつくすのだ。それでようやくオレは、みんなと並べる。
「で、そっちの二人は?」
「よ。とりあえず味方ってことで良いんだよな?」
「そうだと思うよ。ジェロニモが言っていたアーチャー」
「そ、孤軍奮闘の二人ですよ。オレの真名は……面倒くさいから言っちまうか。オレはロビンフッド。クラスはアーチャー」
ロビンフッド。えっと、イギリスのノッティンガムの近く、シャーウッドの森に潜んだと言われる義賊だっけ。圧政者であったジョン失地王に抵抗した反逆者。
姿を、正体を隠し、徹底して奇襲、奇策に走った戦いをして、ただ一人軍隊と戦い続けた男。まさに英雄。
「光栄だ」
「おおっと、オレのこと知ってんのか」
「勉強したからな。できることとか少しでも増やしたくて」
ロマンには僕の仕事がへっちゃうじゃないかと言われたけれど、それでも英霊について調べるのはいろいろ価値があった。
どんな英霊なのか。どんな逸話があるのか。どんなことを好むのか。そういうことを知っておけばいざ遭遇したときにどういう風に戦えばいいかわかる。
本来の聖杯戦争はそういうのを隠しているけれど、この
だから英雄のことはデータベースにあるだけ調べてみた。まあ、途中から純粋に楽しくなったってのもあるんだけど。
うん、あと、まあ、うん。
しかし、そんなオレの発言を聞いてロビンフッドは苦笑して頭をかいている。
「んー、まあ、あれだ。そんないいもんじゃねえぞオレなんてな。ただ反骨心で動いていただけの殺人者でね。別に、何かを救ったワケでもないんだよ」
「……そういうことにしておくよ」
「おい、なんだよそりゃ」
「ねーねー、そろそろ良いかい? 僕も自己紹介しておくよ。僕はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んで」
「ビリー・ザ・キッド!?」
拳銃王ともよばれる拳銃の名手だ。
「正解。この国を守るためにこの国のサーヴァントである僕が選ばれたみたいだね」
「二人とも生きていてくれて何よりだ」
話しているとジェロニモがやってくる。
「こちらは此度のマスターとその仲間たちだ」
マシュ、清姫、式、ジキル博士、そしてオレを二人にジェロニモが紹介する。
「おお、こりゃ助かるね。孤立無援の状態からは脱出だしな」
「ええと、それじゃあ、マスター、これから僕らは何をすればいいのかな」
「はい、状況を説明します」
マシュが二人に現在の状況を説明する。
ラーマを治療する。戦力の拡充。敵の親玉を暗殺する。
「いいんじゃない。妥当な手段でしょ。それ」
「さすが顔のない王として戦ってきただけに躊躇いががないねぇ」
「汚れ仕事専門はお互いさまだろ、少年悪漢王さんよ
「あっはっは、当たり前じゃないか。無限沸きする連中なんて、相手してられないよ」
「クラスの偏りを考慮するとこちらの仲間にセイバーかランサーがほしいところだな」
前線に立っているのはマシュと式、突っ込んでいったナイチンゲールがほとんどだ。清姫とジキル博士はオレの護衛兼援護要員。
ここにアーチャーの二人が加わってさらに援護が厚くなるが、確かにセイバーかランサーはほしいところだ。式は強いがそれでもアサシン。
クラスとしては暗殺者のクラスであるからもっと直接戦闘を専門にしたクラスが合流してくれるのは助かるところだ。
「僕の知り合いはいないみたいだし」
「この世界に足りないのは看護師です。その次に足りないものは医者です」
「…………」
「ロビン、どうかした?」
「ああ、いや。会ってるんだわ。ビリーと合流する前にセイバーとランサーに」
「それならすぐに会いに行けばいいんじゃ」
「いや、うん。それがね、ウルトラ問題児なんだけどね」
――ウルトラ問題児?
マシュとともに首をかしげる。
「狂化している、あるいは反英雄ですか?」
「一人は確かに反英雄だが、両方とも言葉は通じるぜ。だが、ありゃ、なんつーか……とりあえず会ってみればわかる。会ってからオレを責めないでくれよ。ああ、でも片方はマシになってたなどういうわけか」
「現状を考えるとどんな問題サーヴァントでも戦力としてほしいところです。いざとなれば先輩がまとめてくれます」
「ええ、ますたぁなら、絶対にまとめてくださいます」
マシュと清姫が期待してくれている。
素直に嬉しいと思う反面。やっぱりその期待に応えられるかどうか不安だ。でも、マシュの前だ。たとえ無理だろうとも無理だなんていうものか。
「なんとかしてみせるさ」
「そりゃ頼もしい。よっぽど困った連中と戦ってきたんだな。アンタ」
「うんまあね。それじゃあ、行こう」
セイバーとランサーを迎えに。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
晴れ渡った空。広い大地。美女と2人戦車旅。しかも人妻。実に素晴らしいシチュエーション。
「だってのに、どうしてこう空気を読んでくれないのかな……」
後ろには絶賛ケルトの大軍勢。どこもかしこもケルト、ケルト、ケルト。せっかくの美女との二人旅もこれじゃ台無しだ。
「そういうのいいから、しっかりつかまってて!」
「了解!」
まあ、しっかり美女と密着できるのは役得で良い。それだけ意識されてないってことなんだけどね。それはそれで思うところはあれど、人妻の身体に合法的につかまれるのであれば、ノッブ風に言うのなら是非もなしってやつだ。
それにしてもマスターはうまいことやっているのだろうか。僕らの任務は各地にいるサーヴァントの回収。
ノッブが言うにはマスターたちは十中八九戦力を増やしながら暗殺に動くだろうから、その妨げにならない程度に各地に散っているサーヴァントがやられないように保護して来いとのこと。
さすがは戦国で天下をとりかけた英雄だ。マスターの動きを的確に予測しているしうまいこと戦力動かして敵を誘導している。戦下手だって話だけど結構やるじゃないか。
厄介なのは敵がひとつじゃなくて複数で動いているってところか。
「さてさて、こちらとしてはさっさと見つかってほしいね」
とりあえずライダーであるブーディカの戦車で戦場を縦横無尽に走っているわけなんだけど、いまだにサーヴァントのさの字も見つかりりゃしない。
「――と思っていたらこれは正解かな」
「見つけた?」
「たぶんね」
前方で戦闘。戦っているのはアメリカ軍ではなさそうだった。どちらかといえば古い。ケルトよりは新しいのかもしれない。
「落ち着けっ! ……我々には、知恵がある!」
な声も聞こえているから十中八九こちら側のサーヴァントだろう。
「三百人くらいの軍隊がケルトと争ってるね。どうやら苦戦しているみたいだ」
「三百人?」
「そ、三百人。これはあれかな。マスターに聞いたスパルタってやつかな」
テルモピュライの戦いにおいてペルシア軍約10万相手に100分の1である約1000人の連合軍で3日間も戦った王の話を聞いたことがある。
マスターと暇なときに見てた映画だったかな。なんだったか。そう300。あれはなかなか面白い映画だったね。まあ、それは置いておいて、300人の軍隊と聞いて思い浮かびそうなのは彼くらいのものだ。
そうであることを願いたい。だって、かっこよく予測したとはいえそれで外れていたら格好悪いじゃないか。人妻の前では僕格好つけるからね。
「とりあえず突っ込むよ!」
「おう、しっかりつかまる!」
あとはテキトーに五つの石を投擲して援護しつつ、三百人の軍隊の前へと出る。一番先頭にいた男。明らかに他とは存在感が違うマッチョ君へと告げる。
「さあ、乗ってくれたまえ」
「君たちは――」
「さささ、早く時間はないよ。それとも後ろの兵士たちは宝具だろう?」
そうでないとこんなところに軍隊なんて召喚できないはずだ。うん。まさにおあつらえ向き。これでこちらも軍勢を指揮できる上に強い軍隊を得ることができるんだから。
「援軍とは助かりましたぞ。なにせ、こやつら倒しても倒しても沸いてくる。かのペルシアのようだと思っていたところ。それか、もしくは幽霊なのかと。触れられる幽霊などないとは思ったのですがあまりにも減らないもので」
「うん、とりあえず乗ってくれないかな」
「ええ、是非」
マッチョ君を乗せる。うわ、暑苦しい。やっぱり乗せない方がいいだろうか。今更後悔してきた。
「ブーディカ」
「行くよ、しっかりつかまっててよ!」
マッチョ君を乗せると同時に戦車は発進。背後では軍勢が消えていく。やはり宝具だったようだ。
高速で戦域を離脱。大統王がいる城塞へと向かう。
「いや、助かりました」
「それほどでもないよ。それより君は? 僕はダビデ。こっちがブーディカ」
「私はランサーのサーヴァントレオニダス。なに、召喚されたただのスパルタ王です」
「やっぱりスパルタ王だったか」
「なんと、私をご存じとは」
「うん、映画にもなってるよ君」
うらやましいよね! こんなマッチョ君が映画になって、なんで僕みたいなイケメンが映画にならないんだろうね!
「全裸だからじゃないかな」
ブーディカが何か言ったようだけど、知らないね。僕は全裸じゃないったら全裸じゃない。あんな彫像作ったやつが悪いんだよ。
「それよりも状況を聞かせていただけますかな?」
「そうだね説明しよう。僕らと僕らのマスターの置かれた状況をね。でもその前に――ブーディカ、速度はもう上がらない?」
「これが精いっぱい」
「わかった、ちょっと何とかしてみるけど、無理だったらごめんね」
敵が追ってきている。それが普通のケルト兵士ならいいんだけど。
「サーヴァントだ」
この国で見た三騎目のケルトのサーヴァント。ドリルのような剣を持った偉丈夫が追撃してきている。こちらは三人乗っているからそれほど速度が出ないのが恨めしいね。下手したら追いつかれそうだ。
「でも、追いつかせるわけにはいかないんだよね」
さて、足止めしてその間に逃げ切るとしますか。
アンケート結果が出ました。
バベジンはもともとアメリカにいるようなので合流。てかバベジン合流したら彼の固有結界で魔力続く限り大量生産すれば拮抗はできそうなんだよなぁ。
そこでそれ以外を集計した結果。
ヘクトールおじさんとレオニダスが登場することになりました。レオニダスは既に本編に出てきましたね。
ヘクトールおじさんも次回以降出る予定。ヘクトールとレオニダスはノッブ側に合流予定です。
そして残りの一騎ですが、同数の票の中から独断と偏見で選びました。アストルフォです。こちらはマスター側に合流してマシュ、清姫、それからなぜか師匠やエリちゃん、嫁王を加えて修羅場る予定。あくまで予定は未定だが。
そんな、マスターたちもアーチャーたちと合流。これから陛下とエリちゃんを迎えに行きます。
さて、順調に戦力が整ってきてますね。そういうわけで、暗殺班ですが、アサシンがいっぱいるよね。
というわけで、必須の嫁王とロビン、式、ジキル博士がこちらから出る予定。
さあ、楽しくなってきました。
ではまた次回。