Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 6

 クー・フーリン。キャスターとしてオレとマシュの旅に同行してくれた最初のサーヴァント。

 光の御子と呼ばれたアイルランド屈指の大英雄。

 

「…………」

 

 それはつまり、彼が敵になったのか。だが、どうして。いいや、普通に考えれば彼はこちらで召喚された別のサーヴァントと考えるのが普通かもしれない。

 けれど、それならなんでオレたちと一緒に旅をしたクー・フーリンは今、ここにいないんだ。明らかにおかしい。それはつまりそういうことなのか?

 

「…………」

 

 だとしたら、どうする。彼を倒したとして、カルデアに戻る保証は。だが、彼を倒さなければこの世界を救えない。ラーマももとには戻せない。

 

 ――オレは、僕は……どうしたらいい……。

 

「マスター、迷わなくていい」

「ジキル博士……けど……」

「ドクター。マスターとクー・フーリンの契約は生きているかい?」

「あ、そうか。大丈夫さ、それは問題ない」

「なら、倒しても問題はない。彼は、必ず君のところに戻ってくる。問題は、どうしてそうなったのかさ」

「……ありがとうジキル博士」

「いいさ。僕らはマスターを支える。さて、ジェロニモ」

「ああ、戦線の維持も大切だが、彼の治療も優先したい」

「おい、おまえたち話すのも良いが、敵だ」

 

 空から現れる斥候。

 

「清姫、式、ジキル博士、頼む」

「はい、ますたぁ」

「はいよ」

「うん、任せて」

「マシュは防御」

「はい、先輩!」

 

 その間に治療の結果、これからどうするかを考える。

 斥候は彼らがどうにかする。

 

「それで、ナイチンゲール。どうかな?」

「現在、少年の治療は叶いません。先ほど修復したはずの心臓が、すでに十パーセント以上損壊しています。底の抜けたバケツ……ほどひどくはありませんが、絶えず治療を続けなければすぐに死に至るでしょう」

「そんなにか」

「これが、ゲイボルグの呪いってやつなのか……」

 

 クー・フーリンが槍があればといつも言っていたが、確かに心臓を刺し穿つ呪いの槍があればとはオレも思う。だが、今は、それをどうにかしないといけないんだ。

 敵になっている今……。

 

 ――考えろ。考えることをやめるな。超えるべきは、クー・フーリンだ。

 

 彼のことは、オレが一番よく知っているだろう……。

 

「――ですから、マスター。教えてください。彼を救う方法。私が知らない、その技術を!」

「ドクター、救う方法はあるかな」

「そうだね。これは呪いだ。ゲイボルグの呪い。手っ取り早いのは、クー・フーリンを倒すこと。しかし、それは不可能。

 だが、好都合なこともある。本来なら死んでいないとおかしいんだ。ラーマだからこその奇跡だ。だから、それを利用する。世界の因果は彼が死んでいることを正しいとする。死んでいない今の状態はぐらついた状態だ。だから、違う何かで存在力を強化すれば因果が解消されるか、それに近い状態に戻るはずだ」

 

 つまり、生前の彼を知るサーヴァントと接触を図ること。それによって、彼の存在を補強する。生前の彼という設計図(にくたい)を知っているなら、ナイチンゲール女史の治療も効果が上がるとロマンは言った。

 それに対して、彼の生前を知っている人物を探す必要がある。目標はラーマの妻であるシータ。どこかに捉えられているという。それを探すためにラーマはクー・フーリンに挑んだ。

 

 ――ならば、探さないと。

 

 愛する二人が引き裂かれて良い理由なんてない。

 

「探そう。君の愛する人を」

「無論です。地の果てだろうとも、天上の何処であろうとも。どこまでも探し、必ずや私は貴方を治療して見せます。さて、ではラーマ君、失礼します」

「な、なんとぉ!? 余を軽々と抱き上げたな!? いや、これは余がシータにした抱き方!」

 

 つまりお姫様抱っこという奴だ。

 

「おおー」

「おおー」

 

 何やらマシュと清姫がその様子を見て頬を赤らめている。

 

「……マシュもやっぱりああいうのに憧れるの?」

「ええと、憧れないといえば嘘になります……」

「ますたぁ! 私は憧れます! ぜひ、ぜひに! わたくしに!」

「いまは、そんな状況じゃないだろ蛇女、とりあえず早く焼いてくれ」

 

 斥候を清姫が焼き払い、再び落ち着いて作戦会議を行う。

 

「さて、ラーマの治療と並行して、エジソンとケルトの戦士たちにどう対処するべきか、だ」

「ケルトの戦士はたぶん倒しても意味がないと思う」

「ほう、それはどういうことかなマスター殿」

「えっと、ロマン?」

「はいはい、こういうのは僕の役割だからね。しっかりとやらせてもらうよ。

 フィン・マックールと交戦した際、彼らはこんなことを言っていたんだ」

 

 ――連中は女王を母体とする無限の怪物。ここで数千失ったからといって困るものでもない。

 

 それはつまり、ケルトの戦士たちは無限に増殖する兵士たちということだ。

 今更だけど、ノッブたちを西軍に置いてきて正解だったんじゃないかと思えてきた。無限に増殖する敵に大量生産で戦うとか愚の骨頂というか絶対に負ける。

 まじめにやっていればいいけど。

 

「だから、普通にやっても意味がない。――だから、方策は一つしかない。きっと君は反対するだろうけどね」

「少数精鋭による暗殺でしょ」

「そう。サーヴァントたちで、一気に王と女王を討ち取る。それが最適解と言える」

 

 まっとうに消耗戦をしていればいずれはこちらが負ける。敵が無限に増殖するのであればボスを狙うのが常套手段。それ以外に方法はない。

 だから、これから行うことは決まっている。

 

「暗殺の成功率をあげるために各地に散っているサーヴァントたちを集結させる。オレたちだけでやれると考えたらだめだろうからね」

 

 ラーマーヤナの主人公たるラーマがこの状態になるということはそれだけ手強いということだ。クー・フーリン相手に油断は禁物だ。 

 彼が以前言っていた彼の逸話。ゲイボルグの力。それを十全に発揮しているというのであれば。難敵なんてものじゃない。強敵なんて言葉も甘い。

 

 勝つことが不可能とすら思っていた方が良い。

 

「だから、各地に散ったサーヴァントを集めてケルトの戦士とエジソンに対抗しながら、王と女王を暗殺する」

 

 ――取り戻すんだ。クー・フーリンを必ず。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「うはっはははは、最高じゃのう!!」

 

 魔王の三段撃ちがケルト戦士の突撃を粉砕する。

 

「まさに鴨うちじゃ。鴨撃ち。楽しいのう!」

 

 わしにとって、ケルトの戦士は結構な神秘を内包している。そうでなくとも機械化歩兵を並べての統制射撃によって突撃だけのケルト戦士を粉砕することはたやすい。

 

「いいのうこれほしいのう」

 

 これがあれば天下統一なんて楽だったじゃろうなとか思いながら、戦場を俯瞰する。任された一つの戦場。東西アメリカを縦断する戦域を各地に散ったサーヴァントたちが支えている。

 

「問題は、敵側じゃのう」

 

 敵は無限増殖する。こちらも大量生産で対抗してはいるし、新たに加入したサーヴァントたちによって、戦線の維持はできるようになってきた。

 

「さて、敵にやられるまえに野良サーヴァント捕まえてこれるといいんじゃがのぅ」

 

 ブーディカとダビデが戦車を使って探しに行っている。敵に倒される前にサーヴァントを確保する。それによって戦力を広げつつ、戦線を押し返す。

 

「普通なら講和の方向を模索しておる頃合いなんじゃが、相手はそういうの頓着せんしのう」

 

 まさに脳筋。戦争という形態をとってはいるが、その実、実態は戦争とは別物だ。戦争とは互いに被害を抑制しつつ、互いに妥協点を探す行為を示すが、この戦いは違う。

 完全にどちらかが滅ぶまで止まらない。

 

「さて、そろそろ頃合いじゃな。撤退じゃ撤退。サンタの出番じゃぞ」

「聖夜に沈め――!」

 

 漆黒の爆光が戦場を縦断し更地に変える。いい感じに死体を積み上げて生垣を作ってからそこで詰まらせたところを一気に刈り取る。

 うまいこと言ったが敵サーヴァントがいなければこんなものだろう。サーヴァントがいる差というのはやはり大きなものだ。

 

「さて、一つ歩を進めるとするかのう。そこのサル」

「サルじゃありませんよ!?」

 

 副官としてつけられた男。名前を忘れたのでサルと呼ぶことにした――に伝令を頼む。

 

「良いから伝令行ってこい」

「通信機使えばいいじゃないですか!?」

「大統王と直接電話とか嫌じゃわ」

 

 声大きいし、ライオンだし。是非もないよネ!

 

「じゃあ、私がしますよ。はぁ」

「おうサル頑張れサル! よう働けばわしの草履を温めさせてやるぞ」

「いやですよ!?」

「なんじゃ。尾張じゃとだいぶ評判じゃったんじゃがな」

 

 わしの草履の争奪戦とかしておったのう家臣ども。謀反の理由がどうして草履を渡してくれなかったんですかとかあったし。

 ま、わしの草履だからネ! プレミアムついておるに決まっておるわ。ああ、一番大変だったのはバレンタインデーじゃな。

 

「っと、イカンさっさと帰らんとな」

 

 何とか拮抗状態を作り出せてはいるが、いつまで続くやら。

 十中八九、マスターたちは王と女王の暗殺に動くじゃろう。それに使える戦力をうまく残しつつ。敵にやられそうなサーヴァンを確保する。

 

「さて、マスター。時間はあまりなさそうじゃぞ」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「歩きながらで済まないが、改めて現状を説明しておく。私が確認したサーヴァントは二人だ」

 

 どちらもアーチャークラス。名うてのサーヴァントでゲリラ戦に特化している。よほどの強敵と運悪く巡り合わない限り、敗北することはまずありえないとはジェロニモの談。

 しかし、相変わらず数という面で圧倒的に不利だった。

 

「被害を抑制する程度の効果にしかならないか」

 

 ケルトの戦士たちは縦横無尽にこの大陸を荒らしている。わかりやすいほど蛮族的に。

 一つの組織として動いていない。それだけが救いだ。もし組織的に有機的に多方面に一斉に、数で圧力をかけられればひとたまりもない。

 

「それでどうやって目的を達成するつもりなのでしょう先輩」

「昔クー・フーリンにルーンを習っているときに聞いたことがある。ケルトの戦士っていうのはとにかく頭がおかしいんだって」

「頭が?」

「ごめん、要約しすぎた」

 

 つまり、きわめて荒々しく猛々しい。それでいて戦闘能力が高すぎる。何があろうとも目的は達成する。どんなやり方でも。

 

「それにアメリカ軍は」

「ああ、民間人を強制的に工場へ移住させ、機械化歩兵の大量生産のために働かせているらしい」

「…………」

 

 独裁者か。それでもケルトに殺されるよりはましなんだろう。

 

「む。待て、敵――」

「ナイチンゲールさんが、突っ込んでった!?」

「病の根源たる存在、ここで粛清します!」

 

 ラーマを抱えたままナイチンゲールが敵に突っ込んでいっていた。

 

「なんで、誰も止めないの!?」

「オレに言うな。止められる訳ないだろ」

「ごめん、マスター。止めようとしたんだけど……」

「すみません。ますたぁ。期待に応えられませんでした。それもこれも、ケルト兵のせいです。はい、燃やします」

「ああ、うん。よろしく。マシュもお願い」

「はい、行きます!」

 

 全員でかかれば殲滅は楽だった。サーヴァントがいないならこんなものだろう。

 

「殲滅ですね。衛生的でよろしい」

 

 これを衛生的とか言いたくないけど。死体が腐敗して腐らなければいいけど……。そっちの方がいろいろと大変そうなんだけどどうなんだろうか。

 

「清姫一応燃やしておいて」

「はい、マスター!」

 

 さて、次だ。

 

「ナイチンゲールさん」

「はい、なんですか」

「包囲殲滅したかったんだけど、単独で飛び出されると困るんだけど」

「そして、余を背負ったまま戦おうとするな……余は患者なのだろう」

「患者を治療することが私の最優先事項であり、それ以下の事象に関してはすべて管轄外です」

 

 ああ、逆に清々しい。これだけ清々しいともう何言っても駄目な気がする。

 

「おい、頼むぞマスター……」

「マシュ?」

「すみません、マスター。信念が強すぎて妥協できないという狂化もあるのだと思い知りました……」

 

 マシュでも無理なものはオレにできるはずもなし。だから、オレはこう言おう。

 

「ラーマ。待て、しかして希望せよ」

 

 うん、オレにはこういうことしかできない。

 しかし、生前からこれなんだろうか彼女は。考えると恐ろしい。

 

「この先の街にアーチャーが二人いる。先の斥候を考えると、襲撃を受けている確率が高い」

「彼の言う通りだね。どうやら街が包囲されているらしい」

「式、清姫、先に行って」

「はいはい」

「はぁい、マスター!」

「あの、先輩……?」

「なにマシュ?」

 

 ――いや、なんだか嫌な予感が……。

 

 辺りを見渡す。

 ナイチンゲールがいない? ついでに背負われたラーマも?

 

「は、走れぇええ――!!」

 

 やっぱり話を聞かない人だ――。




確かフェルグスの叔父貴に二騎か三騎くらい野良サーヴァントがやられてましたよね。
何人か助けようと思うのですが、出してほしいサーヴァントとかいますかね。

五章までのキャラでこの状態のアメリカに派遣されてもおかしくないサーヴァントなら誰でもいいんだけど、誰かいたかな。
エミヤさんは来てもおかしくない気がするな。さて、どうしたものか。
クー・フーリンとの因縁的に出したい気分だが。
あとは、どうしようかなぁ。

大幅にぐだ男の心が削れるのは五章のクー・フーリンバトルとマシュ。
それまでちびちびちびちび削っていきますか。

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