Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 5

「先輩、先輩――」

「マスター、マスター」

 

 地下牢。みんな一緒くたに入れられている。

 僕たちの装備品は何一つ取られてはいない。けれど、逃げ出せない理由が二つある。

 

 一つは、マスターが捕らえられているということ。僕たちなら一緒にいれられてさえいれば逃げ出すことは容易だった。

 けれど、マスターが別に隔離されてしまった。僕らが動いた瞬間にマスターが死ぬかもしれない。そうなれば終わる。

 

 二つ目は、マスターからの魔力供給がほぼ断たれている。現界するのに必要最低限度だけ残してあとは何もない。牢屋から出るための力すらない。

 この状態でハイドに変わっても状況は変わらない。

 

 今やるべきことは、マシュと清姫の二人を落ち着かせることだけだろう。

 マスターと離されてからずっとあの調子だ。

 

「ミセス・ブーディカ、マシュの方を任せていいかな?」

「うん、ジキル博士今からいこうと思っていたところ」

「キヨヒメは、僕がどうにかするよ」

 

 ブーディカ君にマシュを任せて僕は清姫を追いつかせるために近づいていく。

 

「キヨヒメ?」

「ああ、どうしてくれましょう。マスターになにかあれば、全部焼くしか」

「うんそれは良い考えかもしれないけれど今は落ち着いてくれないかな。壁に向かってぶつぶつ言っているのはさすがにちょっと危ないと思うよ」

「…………ジキル様、ではどうしろと」

「今は待とう」

 

 あのキャスター。ミセス・ブラヴァツキーの魔術のおかげで僕らは力が出せないが手段がないわけじゃない。

 

「リョーギ、どうかな?」

「ああ、問題ないぜ」

 

 彼女の魔眼だ。その力は魔術によるものじゃないし魔力を消費するものでもない。ただの体質だ。だから自在に使うことができる。

 この状態でも普段通りに使用は可能。力が落ちていたとしても、死を視る感度は変わらない。死さえ見ればあとは術式を殺すことも、この牢屋のカギを殺すことだってできる。

 

「でも、今逃げたところでカルナがいる。オダ、君なら押さえられるかな?」

「どうじゃろうな。やれんことはないが、あれじゃ機械化歩兵が邪魔じゃ」

 

 彼女は相手の神秘が強いほど有利になる。けれど、それは逆に神秘が薄ければ力を十全に発揮できないことを示している。

 機械化歩兵は神秘がない。彼女の火縄銃もそのままの威力しか発揮できない。

 

「そこはサンタさんに任せようと思うんだけど」

「良いだろう。雑魚を薙ぎ払えば良いのだろう」

「うん、でも殺すのはやめてくれよ。こちらの戦力が減れば全てが終わりだからね」

「安心しろ、峰打ちにしておく」

 

 ビームに峰打ちがあるかはともかくとして彼女なら大丈夫だろう。

 

「そんなことより早く出るために協力してください」

「ちょっ、フローレンス、銃じゃだめだ――」

 

 止める前にナイチンゲール女史が銃を撃っていた。牢獄内を跳弾してく。誰にも当たらなかったのが幸いした。

 

「うむ、銃声のおかげで迅速に見つけることができた」

「サーヴァント!?」

「反応なんてなかったぞ!?」

「サーヴァントの反応があるとあのインドの大英雄に嗅ぎつけられるおそれがあるのでな」

 

 褐色のサーヴァントがそういう。

 

「ある男から借り受けた宝具のおかげだ。……少し待て、その牢から出してやる」

「いったい、あなたは」

「……そうだな。名を明かさねば、信用もされまい。だが、我が真名は名乗るものでもなし。それに知る者もいないだろう。故に、こう呼んでくれた方がいいだろう。ジェロニモ。我が名はジェロニモだ」

 

 ジェロニモ!

 アパッチの精霊使いか。

 同じ大地に住むからこそ相いれない。彼はミスタ・エジソンの味方ではない。

 

「そら、牢を解放した。これで魔力供給も復活するだろう」

「ありがとう。だが、脱出するにはマスターを助けないと」

「さて、わしの出番じゃな、派手に暴れてくるから、マスターを頼んだぞひょろ眼鏡」

「機械化歩兵は任せてもらおう」

「頼んだよ」

 

 盛大に笑みを浮かべた。

 正面へと堂々と打って出て、

 

「いざ、―――三界神仏灰燼と帰せ! 我が名は第六天魔王波旬、織田信長なり!」

 

 彼女の姿が変わる。裸にマント。そして、世界が彼女の世界へと飲み込まれた――。

 後世で民衆が彼女に対して抱き積み重ねた畏敬の念と恐怖により大焦熱地獄。

 神仏の化身はこの中では存在すら許されない。

 

「さあ、太陽神の子ならばどれほどじゃろうなぁ」

「――――」

「さて、カルナ。わしいつもならふざけるところなんじゃが、マスターがかかっておる。少々まじめに行かせてもらうぞ」

 

 第六天魔王と大英雄の対決が始まる。

 

「わらわらと集まったな行くぞ。峰打ちだ。エクスカリバー・モルガン!!」

 

 なんかそれっぽくビームで峰打ちするサンタ。

 

「いったいどうやってるんだろうねぇ」

「うん、さすが」

 

 それに続くのはダビデとブーディカ。

 

 僕らは、その間にジェロニモが借り受けている宝具の力を利用して気配を消しながらマスターが捕らえられている部屋へと急ぐ。

 

「こっちですわ」

 

 キヨヒメが匂いでマスターの居場所がわかるらしいからそれに従っていくと。

 

「みんな!?」

 

 マスターがそこにいた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「騒ぎが起きたと思ったら、マシュたちが助けに来てくれた。

「さあ、行くぞ。カルナを彼女が抑えている間に」

「ノッブとサンタさん、ブーディカさんにダビデは?」

「彼らは足止めと陽動だ。大丈夫、間違っても戦力がほしいエジソンたちは彼らを殺すなんてことはしないだろう」

 

 ジキル博士が答える。

 

「でも――」

「マスター、よく聞いてこれは勝つための手段だ。現状、戦力がどこも足りない。なら、軍団の扱いに長けた四人をこちらに残し、僕らは僕らで動く。ジェロニモ、ああ、彼のことだ、に聞いたけど、各地にサーヴァントが召喚されている。だが、戦力差がありすぎて各個撃破されているのが現状。

 なら、僕らはそちらを確保する。軍隊を指揮したことがある二人がこちらに残れば時間も稼げるはずだ」

 

 それは確かにそうだった。

 

「……もし、殺されたら」

「マスター、彼らとはカルデアで会える。それも、全てを救えたらの話だけれどね」

「…………わかった」

 

 ならば行くしかない。

 行くしか、ない――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「やってくれたな」

「なんじゃ、殺さんのか? わしなら敵は全員首とって、身体は玉薬じゃぞ」

「いつの時代の話をしている」

 

 さて、わしらは無事につかまっておるわけなんじゃが。ほんとうチートじゃなカルナ。なんじゃあれ、攻撃の一発一発が宝具並みとか意味不明なんじゃが。

 わしの固有結界の中でなんであんな平然としてるんじゃ。かなりつらいじゃろ。

 

 しかもあれじゃろ。ど根性とか気合いとかそういうレベルの話じゃろ。チートじゃチート。

 

「で、これからどうするんじゃ。ほれ、はよう縄ほどくとよいんじゃ。わしらが協力してやると言っておるんじゃぞ」

「うわー、さすが織田信長。面の皮厚すぎでしょ」

「是非もないよネ! ま、おぬしらに負けられちゃ困るんじゃ。ここは人間万里のどんづまり。ここが堕ちれば最後、世界は終わる。わしのマスターはそういうの好まんのでな。こっちの軍に協力してやるって言っておるんじゃ。なに、二十万も兵があれば十分よ。尾張の織田信長の力見せてやろうぞ」

 

 ほれ、だからはよう縄ほどかんか。魔術かかってて全然動けないんじゃ。

 ブーディカとかあれじゃぞ。くっ殺せ状態じゃぞ。うむ、良いではないか。

 まあ、それはそれとして、ダビデはまあ、相変わらずじゃし、ここはわしの出番じゃろ。

 

「ほうれ、はようほどかんか。今ならわしらが協力すると言っておるんじゃぞ」

「どうするミスタ・エジソン」

「戦力はほしい。彼女ほどの将なら申し分ないが」

「裏切られたらたまらないわよね」

「わし、裏切らんぞ。わし裏切られる方が得意じゃからな!」

 

 なんじゃ、なんでそんな微妙な顔してるんじゃ。

 なんで、味方のおぬしらまでそんな顔しとるんじゃ。

 

「のう、サンタ、どう思う」

「知らん。それよりトナカイは無事に逃げたんだろうな」

「うん、それだけは大丈夫と思うよ」

「そうそうノッブがきっちりカルナ抑えてたし」

「わしじゃからな!」

 

 ともかくじゃ。

 この西軍を、マスターが来るまでにまともにする。まあ、これをどうにかするには本格的に頭を挿げ替える必要がありそうなんじゃが、それやると面倒じゃしのう。

 今は危機感でどうにかなっておるが、これ崩壊が時間の問題っぽいしの。大量生産じゃ、ケルトにゃ勝てぬ。

 

 だって、あれだけの大軍を動かすにはそれだけ飯がいるっていうのにあいつらそれ気にしてなさすぎじゃしな。

 必要ないのか知らぬが、こちらはそれに比べて機械化歩兵だろうと動くには飯が必要じゃ。数に限りもある。

 ズルすぎじゃわ。特に飯いらんとか。大軍の維持らくすぎじゃろ。

 

「ま、それでもマスターの為にやるとするのじゃ」

「謀反だけは起こされるなよ」

「なぁに、頭があの獅子じゃ。問題あるまい」

 

 何より、敵はケルト。野蛮人。命知らずのそれならやりようなんぞ幾らでもあるわ。

 問題はサーヴァントじゃが。今のところ、見たのはフィンとかいう男とディルムッドとかいう奴じゃったな。主従じゃ。

 見たところ、なかなかに厄介そうな将じゃったが。

 

 やっぱり、何よりズルいんは敵が沸いて出るところじゃ。

 なんじゃそりゃ、兵は畑からとれるとかズルいわ。そんなんできたらわし簡単に天下取るぞ。うん。犠牲にできる歩が多いってことじゃからのう。

 いくらでも替えの利く兵士とかもうそりゃ最強じゃわ。こっちにぶつけるだけぶつけて消耗させてから刈り取るとか余裕じゃからな。

 

「まあ、何よりもまずは戦況の把握じゃな」

「いや、まだ何も言ってないのになんでさも当然のように軍議に加わろうとしてるのかしら」

「任せよ、わしがおるんじゃ、負けるはずがなかろう。おまけにビーム出せるサンタもおるし。あとは勝利の女神と全裸じゃ。マップ兵器はカルナとかいうチートがおる。負けはせんじゃろ」

 

 ま、負けはしないだけで勝てるかどうかはマスター次第なんじゃがな。

 

「協力してくれるっていうから外したけど本当に、こいつで大丈夫かしら」

「天下取る一歩手前まで行ったんじゃ。光秀がおらんならわし無敵じゃぞ」

「つまり光秀がいたらだめと」

「是非もないよネ!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「――」

「おはようございます。先輩」

「おはようございますますたぁ」

「うん、おはようマシュ、清姫」

 

 折衷案で二人の膝を使うというなんだか幸せすぎる枕を堪能したおかげで何とか三時間睡眠で元気だ。最高だ。

 

「しかし、ここは?」

 

 戦車で移動しながら寝たらよくわからない村にいる。

 それにこたえるのはジェロニモだった。

 

「西部の小さな村だ。ケルトの猛攻のせいで住人は避難している。ここにいるのは我らの同胞だけだ」

「ジェロニモ! ジェロニモか」

「ああ、味方を連れて来た」

「おお! ならこれで彼も?」

「彼?」

「ああ、実は三騎目のサーヴァントをここで匿っている。君たちを連れて来たのは彼の治療をしてほしいのだ」

 

 治療? つまり大けがしているって――。

 

「行きます!

 

 ちょ、話聞く前にナイチンゲール婦長が吹っ飛んでく勢いで走っていった!?

 

「…………」

 

 そして連れてこられた患者を診てオレたちは絶句する。

 

「心臓が半ば抉られてる……」

 

 そんなありえない状態で生きているというのが信じられない。これが英霊なのか。いや、並みの英霊じゃないだろう。

 

「まあ……頑丈なのが、取り柄……だからな……」

「――こんな傷は初めてです。ですが、見捨てることはしません。安心しなさい、少年。地獄にとお置いても引き摺りだして見せます」

「くく……それは、安心できそうだ……! あ、イタタタタタ、き、貴様もうちょっと手加減できんのか!? 余は心臓をつぶされているのだぞ!」

 

 ――心臓を砕かれているのに生きている方が驚きだよ。

 

 なにそれサーヴァントってそんなものだっけって思うほどだ。

 

「すみません……先輩。さすがに、心臓をつぶされても、生きている保証は、わたしには。で、ですが、先輩が望むのなら、頑張ります!」

「ますたぁ、わたくしも、わたくしも頑張ります!」

「あ、いや、うん、そこまで頑張らなくていい。というか、そんな状態にならないでお願いだから」

 

 そんな状態になったらオレが死ぬ。物理的じゃなくて精神的に。

 

「って、ちょっと待った――!?」

 

 しまったよそ見している間に治療が始まっていたけれど、ナイチンゲールさんがおもむろに心臓を切断しようとしてた!

 

「待て待て待て! 切断せずに、心臓の修復のみに注力してもらいたい! 余はここで戦う術を失うわけにはいかんのだ!」

「何を言います。生きること以上の喜びなど存在しません!」

 

 ああ、うん、婦長、それはわかっているんだ。けれど、

 

「婦長、オレからも頼む。戦えるサーヴァントは一騎でもほしい。だから……」

「――――いいえ。それでも、この大地に根を下ろした一個の生命体として、どうなろうと生き続ける義務があるのです!」

「それにしてもこの彼は誰なんだろうね」

「余、余か?!」

 

 ドクターの言葉に、これ幸いとばかりに少年が飛びつく。

 

「余はラーマ! コサラの偉大なる王である! あだ、あだだだだ」

「悔しい悔しい悔しい! 追いかける死の速度は鈍くできても、止めることはできないの……!?」

「いったい、だれと戦えばこんな深手を?」

「仕方あるまい……何しろ相手は……クー・フーリン。アイルランド最強の英雄だ」

「クー・フーリン……?」

 

 ラーマ。彼が口にした名前は、いないと思っていた仲間の名前だった――。

 




さあ、寝取られ展開がやってきた――。

とりあえずサーヴァントの数が原作より多い大所帯なので、軍勢を指揮できそうな連中はエジソンのところに残って軍団指揮やったり、マップ兵器となってケルト軍を抑えるために戦います。


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